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余命三年王子。婚約破棄したら、元婚約者が男を連れて来た。

作者: 夢咲 咲子
掲載日:2026/06/28

 ――それは決別の宣言であり、死刑宣告だった。



「ホーキンス嬢、君との婚約を白紙に戻させてもらう」


 花々が咲き乱れ、小鳥が囀る、うららかな春の昼下がり。穏やかなお茶の時間(ティータイム)にそぐわない台詞が、男の口から飛び出した。冷徹な言葉を突き付けられた少女は、目を見開き絶句する。思わず足元をふらつかせるが、ここに少女のための席は用意されていない。椅子も紅茶も茶菓子も、男とその隣の女の二人分だけだ。


 愛する婚約者と、その婚約者との仲を噂されている女。

 滅多なことでは動じない少女も、そんな光景を見せ付けられては流石に狼狽えた。


「……なに、言ってるの?」

「いちいち説明しなければ分からないのか? 君に愛想が尽きたんだ。今の私には、彼女以外目に入らない」


 男は女の腰を抱き寄せ、その艶やかな髪に口付けを落とした。そして、涙を浮かべる少女を一瞥すると、眉間に深い皺を刻む。


「はあ……いつまでそこにいる気だ? 話は以上だ。去れ」

「わたしの話はまだ、」

「なんだ? 金でも無心する気か? いいだろう。慰謝料でもなんでも、君の好きな額を請求すればいい」

「お金なんていらない! ねえ、ちゃんと説明してよ!」


「ははっ。いつも偉そうにすましている君も、そういう顔ができるんだな」


 必死の叫びに返される嘲笑。少女の瞳から、堪えていたものが静かに零れ落ちた。


「どうしてそんな……」

「君は平民で、私は王子なのだから、これからはそのような言葉遣いは控えるように。――これから、など存在しないが」


 男は使用人を呼びつけ、少女を帰らせるように命じる。少女は掴まれた腕を振りほどき、その場を走り去って行った。



 庭園が静寂に包まれる。

 男の胸に頭を預けていた女は、そっと顔を上げた。そしてそこに、一生忘れることのできないような悲痛な表情を見る。


「あの……大丈夫ですか?」

「問題ない。ご苦労だったな」


 先程とは打って変わって他人行儀な態度で、女の腰から手を引く男。

 男は少女が去った方向を見つめ――突如、息を詰まらせた。胸を押さえ、体を折り曲げ呻きを上げる。


「殿下!」

 使用人達が慌てて駆け寄る。女も咄嗟に手を伸ばすが、男はそれを振り払った。


「……いい。君は、報酬を受け取って、帰ってくれ」


 青白い顔で、息も絶え絶えな男。少女の前では必死に取り繕っていたのだろう。

 女は痛ましそうに眉を寄せ、一礼してその場を去った。入れ替わるように使用人達が男を抱え上げる。


「……アリサ」

 血の味が滲む口で、男は愛する少女の名を呼んだ。



 ――齢十八のその男は、アストリア王国、第三王子ルイス。

 十五歳で王位継承権を返上し、王国騎士団へ入団。次期団長候補と目されるほどの俊英だ。

 彼が継承権を返上した理由は、城に出入りする商人の娘アリサ・ホーキンスとの婚約のため。王位を継ぐ資格を捨てることが、国王から出された彼女との婚約の条件だったのである。


 ルイスは彼女の傍にいられるなら、他には何もいらなかった。


 そんな彼の、幼少期からの長年の恋心は、一時の気の迷いなど起きようもない。

 ならば何故、ルイスはアリサとの婚約を破棄したのか。



 それは、彼の命がもう長くは無いからだ。



 ――悲劇の始まりは、遡ること数カ月前。

 ルイスが王国騎士団の一員として、魔物討伐の遠征に赴いていた時のこと。


 その戦いでルイスは味方を庇い、魔物から呪いを受けた。

 呪いの解呪法はいまだ解明されておらず、王国随一の魔術師は首を横に振り、名医は匙を投げた。そして、ルイスに余命三年を宣告した。


 もうアリサとの未来はない。

 だからルイスは、彼女が自分の呪いを知って悲しまないように、自分亡き後に孤独に泣かないように、嫌われるための芝居を打った。


 アリサの話を無視し、約束は全て破り、女を雇って侍らせた。人から真面目過ぎると称される彼の、考え付く限りのあらゆる方法で、最愛の婚約者を傷付けた。

 アリサではなく、ホーキンス嬢と呼び名を変えたのは、愛おしい響きのその名を口にすればボロが出ると思ったからだ。


 ここ暫く、ルイスはアリサの顔を直視することもできなかった。だが今日は、最後に一目だけでもと、彼女を見た。


 そして、その涙に心を抉られた。

 見なければよかったとは思わないが、これまでの全ての笑顔が否定されたようで、苦しかった。


「ルイス殿下、今、お医者様がいらっしゃいますからね」

 使用人がルイスの背をさすり、懸命に声を掛ける。ルイスは力無い笑みを返した。


「……必要ない」


 ――もう、私は生きる意味を失った。

 アリサのいない人生など、死に等しい。


 愛する婚約者に告げた別れの言葉。それは彼にとって、自身への死刑宣告に等しかった。




 *




 ルイスがアリサに別れを告げて一月。侍女が躊躇いがちに口にしたその言葉に、ルイスは耳を疑った。


「今、なんと?」

「……アリサ様が、国を出られました」


 各国を行き交うホーキンス家の商船。アリサは親に頼み込み、それに乗って国を出たという。それ程までに失恋が痛手だったのだろうと、人々は同情した。


 ルイスは以前、船着き場で目を煌めかせていたアリサを思い出す。


『いつか一緒に、海の向こうを見に行こうね』

 そう笑いかけて来た彼女。


 彼女は、一人で行ってしまったのだ。


 目の奥をつんと刺す痛み。手で顔を覆い俯くルイスに、一連の事情を知る侍女は胸を痛める。


「申し訳ございません! ルイス様に、お話しすべきことではありませんでした」

「いや、彼女のことで不要なことなどない。……少し、一人にしてくれないか」


 侍女は何か言いたげに口を開くが、かける言葉が見つからず、肩を落として静かに部屋を出て行った。

 

 ルイスは重い体をベッドに横たえ、カーテンの隙間から見え隠れしている空を仰ぐ。


(この空が羨ましいな。君がどこにいても、いつも傍で見守れるのだから)


 もう彼女に会うつもりは無かった。そもそも会う資格が無い。しかし、それでも会えない距離にいるという事実が胸を締め付ける。それは呪いよりも耐え難いものだった。




 *




「ルイス、ねえ、ルイス、起きて」

「……アリサ?」


 聞き慣れた声が、春風のように柔らかく耳を撫でる。ルイスはまどろみから目を覚ました。

 先程まで自室にいた筈が、そこは中庭。目の前のテーブルには、アリサが大好きな苺のタルト。そして隣には、菓子より甘い愛しい少女。


 ルイスは目を疑った。


 自分が傷付け、国を出て行ってしまった彼女が、何故ここにいるのか。


「ルイス、なんて顔してるの? 怖い夢でも見てた?」

「……ゆ、め?」


 ルイスはもう一つおかしな点に気付く。体が軽いのだ。全身に纏わり付いていた鉛のような倦怠感、呼吸の度に響いていた痛み。それらが跡形もなく消えている。それこそまるで夢のように。


 ルイスは手をぐっと握り、ぱっと開き、感覚を確かめる。アリサは不思議そうに首を傾げた。


(そうか……全部、夢だったのか)


 呪いも、余命宣告も、アリサとの別れも。

 全てが、ただの夢だったのだ。


 それを理解した瞬間、ルイスはテーブルに突っ伏した。かつてないほどの幸福感が瞳を熱く溶かす。鼻をすするルイスに、アリサは「えっ」と驚きの声を上げた。


「ねえちょっと、どうしたの!?」

「はは……別に、何でもない」

「嘘! ルイスって昔から嘘が下手なんだから。ねえ、話して?」

「……君の言う通り、少し怖い夢を見ただけだ」

「どんな夢だったの?」

「口に出すのも悍ましい。もう二度と思い出したくもない」


「そっか。じゃあ怖い夢を見ないように、今度お昼寝する時は、こうやって手を繋いでてあげるね」


 ぎゅっと繋がれる手。アリサのもう一方の手は、ルイスの髪を優しく撫でる。自分より三つ年下のアリサを、ルイスはたまに年上のように感じることがあった。顔を上げ、甘えるように彼女にすり寄る。


「昼寝の時だけか?」

「……もう」


 顔を赤らめるアリサ。その反応があまりに可愛らしく、ルイスは彼女を思いきり抱き締めた。



 ――冷たい。

 ぞっとする冷たさに、ルイスはハッと目を覚ます。服の下は汗でびっしょりと濡れていた。


 “夢”。


 重い体と部屋に染みついた薬のニオイが、ルイスを絶望に叩き落とす。アリサのいない、苦しみに喘ぎ死を待つだけの日々が、彼の現実なのだ。


 カーテンの隙間の空は、もう夜に閉ざされている。


「……くそっ」

 ルイスはベッドシーツを握り締めた。アリサに別れを告げる時には抑えられた涙が、とめどなく溢れる。体に残る幸福の名残が染みるように痛い。


 どうしてこれが現実なんだ。

 何故真面目に生きてきて、このような仕打ちを受けなければならないんだ。

 あの時、仲間を庇いさえしなければ――そんなことまで考えてしまう。


 呪いさえ受けなければ、今の夢が現実だったのだ。


 あの柔らかい頬に触れられた。あの薄桃色の唇に口付けできた。あの胸に顔を埋め、花とも果実ともつかない彼女の香りを、存分に吸い込むことができた。……実際には手を繋ぐどまりだったにも関わらず、その生々しい妄想は彼を惑わせる。


(……はは。こんな時でも、か)


 奥から突き上げる熱。愛というにはあまりに身勝手で乱暴なそれは、ただの欲だ。

 反射的に手が動く。筋肉が削げ、痩せ細ってしまった腕。もう彼女を守ることなどできないその手ができるのは、妄想で彼女を汚し、自らを慰めるのみ。


 情けなさに、涙を零した。




 *




 アリサが国を出て一年。呪いは確実にルイスの命を蝕んでいた。

 最早一人で歩くことさえ困難になった彼は、自室でアリサとの思い出に浸って日々を過ごしている。何度か命を断つことも考えたが、その度に現れるアリサの幻がそれを許さなかった。


 部屋の扉がノックされる。妙に急いた音に、ルイスは短く返事をした。扉が開き、息を切らせた侍女が入って来る。


「あ、あの、ルイス様」

「どうした?」

「アリサ様が、お戻りになられました」

「……アリサが?」


 その名は、暗く濁っていたルイスの瞳に光を灯す。ルイスはベッドから体を起こし、矢継ぎ早に尋ねた。


「彼女は元気か? 怪我はしていないか? 今はどうしているんだ?」

「は、はい、お変わりはないそうです。ええと、それで……」

「なんだ、はっきり言え。アリサのことは全て話せと言っているだろう」

「……アリサ様は、異国の男性と一緒にいたそうです。とても親密な様子だったらしく……」


 ルイスの世界は再び色を失った。

 

 失恋の傷を癒すのは、新たな恋。アリサが自分との別れを乗り越え、幸せを見つけるのはルイスの願いだった。そしてそれには、彼女がいつか愛する人と結ばれることも含まれていた。


 ――それがただの綺麗ごとだったと、ルイスは思い知らされる。


「……何故だ」


 何故自分は彼女の傍にいられないのに、他の男がいられるというのか。

 あの花のような笑顔と甘い声が、もう別の誰かのものだと言うのか。


 守り続けてきた聖域を、誰かが土足で踏み荒らしたかもしれない。

 それを思うと、ルイスは煮え滾るような嫉妬――殺意に呑まれる。


 できれば彼女には、ずっと失恋を引きずっていて欲しかった。そんな最悪な願いこそが、ルイスの本心。

 ルイスは浅ましい自身に嫌気が差した。呪いを受けてからというもの、ルイスは自身を嫌いになるばかりである。


「それは、本当なのか。見間違いということは……」

「多くの者が見たそうです。腕を組み、寄り添うように歩いていたと」


 肩を震わせるルイス。


 侍女は彼の反応に、唇を噛みしめた。アリサがいなくなってから随分経つというのに、今もまだアリサに心を奪われたままのルイス。彼に密かに思いを寄せている侍女は、どうにかしてルイスを解放したかった。


 だから敢えて失恋を突き付けたのだ。彼の想いを断ち切り、残りの僅かな人生だけでも、寄り添うことを許されるために。


 侍女はベッドに歩み寄り、ルイスの背に恐る恐る手を伸ばした。その時、また扉がノックされる。


「ルイス様、お客様がお見えです」


 返事ができないルイス。侍女が、今は無理だと断る。しかし――


「お見えになっているのは、アリサ・ホーキンス様です。それと、お連れの方が一名」


 それを聞いたルイスの頭に、真っ先に浮かんだ二文字。それは彼女には似つかわしくないものだった。


(アリサ……私に報復に来たのか?)


 かつて彼女の目の前で、他の女との仲を見せつけたルイス。アリサは同じことをやり返しに来たのかもしれないと思った。

 彼の知るアリサはそのようなことをする少女ではなかったが、荒んだ心では何も信じられない。


「アリサはどこにいる?」

「今は玄関ホールに。いかがいたしましょうか?」


 使用人が言い終える前に、ルイスの足は床に付いていた。


「杖を用意してくれ。それから、身なりを整えてくれないか」

 少しでも病人に見えないように。みじめな負け犬にならないように。ルイスはなけなしの矜持で自らを虚飾する。


 侍女は悲しい溜息を吐いた。



 ――息を切らせ、ようやくホールに辿り着いたルイスが目にしたのは、仲睦まじそうに寄り添う男女の後ろ姿。


 椅子に腰かけているというのに、片時も離れたくないと言わんばかりに腕を組んでいる二人。その光景に、ルイスの胸に鋭い痛みが走る。この場に来てしまったことへの後悔が込み上げ、足が竦んだ。


 駄目だ、見ていられない。

 ルイスが引き返そうとしたその時、気配に気付いたアリサが飛び上がるように立ち上がった。


「……ルイス!」


 一年ぶりのアリサは、ルイスの記憶の中の彼女より、逞しく活力に満ちていた。肌は小麦色に焼け、髪は赤茶けて乾燥している。彼女とは対照的に、痩せ細り青白くなったルイス。そんな彼にアリサは目を見開き、瞳を揺らした。


「……何をしに来た?」

 あの日の嘘の延長線上。ルイスは冷たい男の顔で彼女を突き放そうとする。しかしそれは上手くいかず、震えた声はかろうじて言葉になっていた程度だった。


 アリサの隣の男も立ち上がろうとする。男にまたぴったりと寄り添うアリサに、ルイスの胸に火が散った。


「ルイス。あなたにこの人を紹介したいの」

「ああ、そうか。おめでとう」


 心にもない祝福。もう、それ以上をアリサの口から聞くことは堪えられなかった。自分も同じことをしたというのに、都合のいい話である。アリサは「えっと……ありがとう?」と訳が分からない様子で首を傾げた。


 アリサの隣の男が一歩前に出る。

 見慣れない異国の装束、纏う異質な空気。深くフードを被り顔は分からないが、体の輪郭を拾わないローブの上からでも、華奢であることが見て取れた。


(ひ弱そうな男だ。以前の私なら、腕一本で伸せただろうな)

 ルイスは射殺さんばかりに男を睨んだ。


「顔を隠したままとは、随分な挨拶だな」

「ああ、大変失礼いたしました」

 返ってきたのは、酷くしゃがれた声だった。男は被っていたフードを下ろす。露わになった姿に、ルイスは目を丸くした。


 流れ落ちる細い白髪、落ちくぼんだ瞳、木の幹のような深い皺。アリサが連れて来たその男は、アリサの祖父どころか、曾祖父ほどの老人だった。予想外のことにルイスは面食らう。


「アリサ、彼は一体、」

「あ……久しぶりに名前、呼んでくれたね」


 微笑むアリサ。呆然とするルイス。


「こちらは、東の国の伝説の呪術師様。頼み込んで付いて来てもらったの。ねえ、おじいちゃん」

「王子殿下、お目にかかれて光栄でございます」


 老人はぎこちない動きでルイスに頭を下げた。顔を上げたその目の焦点は、ルイスに合わない。ルイスはその男が目が見えないのだと悟った。同時にアリサが寄り添っている意味も理解する。


「わたくしが来たからには、もう恐れることはございませんよ」

「一体何の話を……」


 アリサに導かれ、老人がルイスの前までやって来る。そしておもむろに手を翳し、異国の言葉を唱えた。瞬間、ルイスは体の奥から何かが吸い上げられ、奪われる感覚に襲われる。


 奪われたもの。それは、全身を蝕んでいた痛みの一部だった。


「な、なんだ、今何をした?」

「おじいちゃん、どうなの? ルイスは大丈夫なの?」

「随分と厄介な呪いだね。でも安心おし。まだ間に合うよ」


 老人がくしゃっと笑う。アリサは「はあ」と息を吐き、その場に崩れ落ちそうになった。


「間に合うとは、何の話だ。まさか……」

「あなた様のお命です。完全な解呪には三日はかかりますし、それなりの苦しみも伴います。ですが、ここまで耐えて来られたあなた様なら、乗り越えられるでしょう」


「……呪いを解く、だと? とんだ詐欺師め。一体何が目的だ? 金か?」

「ルイス、違うの、おじいちゃんは本当に」

「うるさい! 今更、誰がそんな話を信じるものか!」


 ルイスはそう吐き捨て、一歩、二歩と後退る。彼は長く絶望の中にいたことで、期待することに臆病になっていた。希望を抱いた後、突き落とされるのが恐ろしかった。


 アリサは老人に声を掛けてから、ずっと我慢していたというように、飛びつく勢いでルイスに駆け寄る。


「信じられなくても、無理ないよね。ルイス、ずっと一人にしてごめん。遅くなって、ごめんね。あなたの呪いを解ける人を探すのに、時間がかかっちゃったの」

「まさか……君が国を出た理由は、それか? いつから私の状況に気付いていた? 何故……何故だ。私はあんなにも君を傷付けたのに、何故、」


「だって、ルイスは昔から嘘が下手だから」


 アリサの笑みが咲く。大輪の花が、大粒の滴で濡れる。


「ルイス、ただいま」

「……これも、夢か?」


 その反応からルイスの苦しみを察したアリサは、辛そうに目を細める。そして堪らず、彼の骨ばった胸元に顔を埋めた。


「夢じゃないよ。夢じゃない」


 だってすごく大変だったんだから! と、アリサは旅の過酷さを早口で語り出した。


 嵐に見舞われたこと。海賊に襲われたこと。密林で蛇に噛まれたこと。

 現実味の無いそれをぼんやりと聞くルイス。彼女の武勇伝が終わる頃、ようやくその背に腕を回すことができた。


 今度はちゃんと、温かい。


「ねえ、信じて。おじいちゃんなら絶対、呪いを解いてくれるから。ルイス……わたしのために生きて」


 縋るような懇願。再び涙に溺れそうになるその目元に、ルイスは唇を寄せた。驚くアリサと目を合わせ、ルイスはゆっくりと頷く。


 彼女が願うなら。彼女のためならなんだって出来る。

 もう、やすやすと死ねる理由はどこにも無かった。



「アリサ。次の旅は、私も連れて行ってくれるか?」

お付き合いくださり有難うございました。


真面目な男性が、愛ゆえに様子がおかしくなる話がお好きな方へ。

【パーティー最弱の男装ヒーラーは勇者の愛により追放される。】もおすすめです。

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