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サヤ  作者: 國生さゆり
3/21

3、炊飯器を投げる父



1、二階の自室で、ベットの寝っ転がり富士子から借りた本を読んでいるサヤ

サヤ「ふ〜ん、粘菌は限られた大きさの体で、餌の吸収効率と細胞内情報の通信効率を高め、さらに複雑な餌の配置に対しても、粘菌は管ネットワークを巧みに作り上げるかぁー」



2、サヤ「なるほどね、富士子が興味持ちそう。今はどの粘菌が適しているか模索してる段階か・・・」



床下から「やめて!」と聞こえ、ドスっと音がする。



3、サヤ、「ご盛んなこと」と呟き、本に戻る「粘菌は湿った所を好み、細菌を食べて動き回り、性の違う粘菌が出合って接合したあと、核だけが分裂して巨大な変形体になる」



4、本から顔を上げたサヤ「性が違っても結合し合えるのか・・核が分裂して巨大化するなら、再生するプロセスと環境をそろえてやればいい、そう考えたのね、富士子」


石橋の声「おかーさん!!大丈夫ですか⁈、あなたもあなただ!炊飯器で殴るなんて!!いつか殺してしまいますよ!!」



5、サヤ、階段を降りてゆく



6、両手で頭を押さえ、のたうちまわっている母・典子、その姿を見ている父・太郎を台所の戸口に立って見ているサヤ、サヤのそばに立った石橋


石橋、サヤに視線を向け「俺の友達がフリーローンが組めるかもっていうから、紹介しようと思ってきたんだ」

サヤ「お父さん、壊れちゃうでしょう!殴るなら違う物にして!ほんと後先考えないんだから。もういいから準備しなさいよ、石橋さんと出かけるんでしょ!!」

太郎「ああ…」



7、サヤのそばを通り過ぎる太郎

サヤ「グズなんだから」と小さく吐き捨てる。



8石橋、母・典子のそばにしゃがみ込み

石橋「大丈夫ですか⁈頭触りますね、痛かったら言ってください」

サヤ冷蔵庫を開けながら「何を言ったの?なんべん殴られたら覚えんの?学習能力なさすぎ」



9、コカコーラを飲み始めるサヤ

典子「炊飯器を売りに行こうとしたんだよ!あのバカ!!」

サヤ「鍋があるんだからいいじゃない」

典子「違うよ!!私が売りに行こうとしたら、あいつに奪われたの!!」



10、サヤ「終わってるね、あんたたち。中途半端に喧嘩して、どうせ元には戻れないんだからさ。もっと頭使って、あの人からお金せびんなよ。ほんと親がバカだとこっちが苦労する」



11、父・太郎が上着を着て入ってくる。

太郎「電車代くれないか?」

サヤ「いやよ、この間4000円貸したでしょう。返したら貸したげる」

石橋「電車代とか俺が出しますし、お金借りたら返してもらえればいいですから」

サヤ「ローンって、いくらぐらい借りれるの?」

石橋「この家はもう抵当権が発生してるから、出稼ぎかな、200〜300くらいかな」



12、母・典子「えっ、えっーー!そんなに!!!ありがとうございます。石橋さん」



13、太郎「お前には一銭もやんないよ!」


14、母・典子「このやろーー」太郎につかみかかる

  


14A、太郎、典子を蹴り飛ばす。吹っ飛ぶ典子



15、典子「くそ、くそ、くそ」と呟きながら、シンクの下から焼酎パックを出す



16、酒をあおった典子

典子「何見てんのよ!!、さっさと金借りてこいよ!クズ!!」



17、石橋「行ってくる。粘菌の要点をまとめといて。ボスに提出して計画の変更が必要か検討するから」

サヤ、「わかった。研究がどこまで進んでるかも資料にしておく」



18、石橋「助かるよ」



19、玄関を出てゆく、石橋、太郎

見送っているサヤ



時間経過



20、道端・ご近所の友永がサヤに話しかける

友永「あ〜ら、サヤちゃん、元気だった。いきなり閉店しちゃって心配してたのよ」(身なりの良い初老)

サヤ「ご心配おかけしました。母の腎不全が、、、」



21涙ぐむサヤ

サヤ「余命宣告されて・・」

友永「まぁー、可哀想に」



22、サヤの背中をさする友永

友永の肩を借りて大泣きするサヤ




23、友永「ごめんなさいね、私が余計なこと言ったから」

サヤ「とんでもありません。泣いたらスッキリしました。普段着じゃないから、どこかへお出かけだったんですよね」

友永「銀座でね、お友達とお買い物してお食事するの」



24、サヤ「行ってらっしゃい」

友永「ありがとう、サヤちゃん」



25、ふと右手を上げるサヤ、その手には高級財布が握られている

「お人好しは、財布を無くしても自分のせいにする」



26、百貨店でブランドバックを買い物しているサヤ



27、クレジットカードで支払うサヤ、

暗証番号を押す、サヤ



28、サヤの回想・両親が営んでいた喫茶店

サヤが差し出した機械にカードを差して、暗証番号を押す友永

顔を背けつつのサヤ「友永さん、暗証番号、生年月日とかにしてないですよね?不用心だから変えた方がいいってテレビで言ってましたよ」

友永「忘れちゃうのよね。それにズーつとこの番号だから混乱すると、ねぇー」




29、買い物するサヤ


30、買い物するサヤ


31、買い物するサヤ


時間経過


32、質屋に入ってゆくサヤ


33、定員「あっ、いらっしゃい、サヤちゃん。これはこれは、またまた、すごいね」

サヤ「お店の周年だったの、ママより頂いちゃって立場なかったわ」



34、定員「今回は375万です」

  サヤ「ありがとうございます」

  定員「いつも梱包ほどかず、そのまま持ってきてくれるし、紙袋にも傷ひとつないからグレード最高評価。こちらこそ助かってます」



35、街並みを歩くサヤ

サヤのモノローグ“これでしばらく大丈夫。喫茶店は閉店したけど、家だけは取られないようにしなきゃ、私がみすぼらしく見られる“



36、ふと見たショーウインドウに、ルビーをモチーフにした胸飾りを見つける



37、サヤ「綺麗ーーー」



38、店内

胸飾りがサヤの胸元にある

定員「よくお似合いです。ルビーの石言葉は情熱、愛、勝利です」

サヤ「勝利⁈」

定員「はい、古代インドではルビーを身につけた戦士は無敵になると、ラトラナジュ宝石の王者と称されました」



サヤのモノローグ「勝利を掴んでやる。これをお守りにする」



39、サヤ「頂くわ。このまま着けて帰る」



時間経過


40、友永が所在なげにあるいてくる。

店の前で待っていたサヤ「友永さん、どうしたの⁈」

友永「財布をね、無くしたのよ…」

サヤ「えっ!交番に行きましょう、きっとありますよ!」




41、友永「ありがとう!ありがとう!!サヤちゃん」

サヤ「お供します。行きましょう」

友永「サヤちゃんがいてくれてよかった」



42、交番近く

サヤ「ここで待ってますね、お財布ってセンシティブだから」

友永「そうね、わかったわ」



43、慌ただしく交番から出てくる友永

サヤ「ありました⁈」

友永「ゴールドのクレジットカードが一枚無くなってて!お巡りさんのお話だと、お金も、証明書もみんなあるから、これはプロの仕業だって。そう言えば商店街で外国の方に道を聞かれたのよ。きっとその時よ」



44、歩く二人

サヤ「クレジットカードの使用停止してくださいね、カスタマーセンターに掛ければすぐにやってくれますから」

友永「サヤちゃんに頼めないかしら。孫のフリして電話してくれない?息子に言えば叱られるし、お嫁さんは私が老いるの待ってんの。施設に入れたいのよ。家を出す口実にされてしまう」

サヤ「この世は本当にどうかしてますね」



45、スタバー

横並びで座る友永とサヤ

サヤ「ええ、ですから、孫の幸子です。はい。利用停止をして頂くのと、カードの再発行をお願いしたいと祖母は言ってます。わかりました。変わってくださいって」

友永「はい、私です。生年月日は0000年00月00です住所は0000000

暗証番号は0000です。あっ、孫の携帯です、ええ、03ー0000−0000が登録番号です」



46、サヤ、ストローでグランデサイズを飲みながら、カラス越しの人並みを見ている

サヤのモノローグ“弱者が強者にやられるのは当たり前の話だ。そんな話は50000とある。そうやってこの世は回ってる“



47、友永家の前

サヤ「じゃ、ここで失礼します」

友永「どうも、あり」



48、ガチャと玄関ドアが開く



49嫁が出てくる

嫁「お義母さん、あっーも、心配しましたよ。携帯忘れてお出かけになるから」



50、サヤ「こんにちわ、私が一緒でしたから大丈夫です」

嫁「ああ、サヤさん。すみません、お手間をおかけしませんでしたか⁈」

サヤ「いえ、そんな事はなかったです。では、失礼します」



51、手前に歩くサヤ、後ろに玄関に入る二人

嫁「今はお財布よりも携帯が大切な時代なんですよ。お義母さん」

友永「いつも言われているのに、ごめんなさい」



52、立ち止まって、振り返り2人を見ていたサヤ

友永家の玄関ドアが閉まる。

サヤのモノローグ

“邪魔なのに心配を口にする“

“人はあるがままを口にしない。それが自分を守れるすでだと知っている“

“この世界はうわべを繕う、障害物競争だ”



53、踵を返して歩き出したサヤ



54、サヤのアップ

サヤのモノローグ“大丈夫。私の得意分野だ“



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