3、炊飯器を投げる父
1、二階の自室で、ベットの寝っ転がり富士子から借りた本を読んでいるサヤ
サヤ「ふ〜ん、粘菌は限られた大きさの体で、餌の吸収効率と細胞内情報の通信効率を高め、さらに複雑な餌の配置に対しても、粘菌は管ネットワークを巧みに作り上げるかぁー」
2、サヤ「なるほどね、富士子が興味持ちそう。今はどの粘菌が適しているか模索してる段階か・・・」
床下から「やめて!」と聞こえ、ドスっと音がする。
3、サヤ、「ご盛んなこと」と呟き、本に戻る「粘菌は湿った所を好み、細菌を食べて動き回り、性の違う粘菌が出合って接合したあと、核だけが分裂して巨大な変形体になる」
4、本から顔を上げたサヤ「性が違っても結合し合えるのか・・核が分裂して巨大化するなら、再生するプロセスと環境をそろえてやればいい、そう考えたのね、富士子」
石橋の声「おかーさん!!大丈夫ですか⁈、あなたもあなただ!炊飯器で殴るなんて!!いつか殺してしまいますよ!!」
5、サヤ、階段を降りてゆく
6、両手で頭を押さえ、のたうちまわっている母・典子、その姿を見ている父・太郎を台所の戸口に立って見ているサヤ、サヤのそばに立った石橋
石橋、サヤに視線を向け「俺の友達がフリーローンが組めるかもっていうから、紹介しようと思ってきたんだ」
サヤ「お父さん、壊れちゃうでしょう!殴るなら違う物にして!ほんと後先考えないんだから。もういいから準備しなさいよ、石橋さんと出かけるんでしょ!!」
太郎「ああ…」
7、サヤのそばを通り過ぎる太郎
サヤ「グズなんだから」と小さく吐き捨てる。
8石橋、母・典子のそばにしゃがみ込み
石橋「大丈夫ですか⁈頭触りますね、痛かったら言ってください」
サヤ冷蔵庫を開けながら「何を言ったの?なんべん殴られたら覚えんの?学習能力なさすぎ」
9、コカコーラを飲み始めるサヤ
典子「炊飯器を売りに行こうとしたんだよ!あのバカ!!」
サヤ「鍋があるんだからいいじゃない」
典子「違うよ!!私が売りに行こうとしたら、あいつに奪われたの!!」
10、サヤ「終わってるね、あんたたち。中途半端に喧嘩して、どうせ元には戻れないんだからさ。もっと頭使って、あの人からお金せびんなよ。ほんと親がバカだとこっちが苦労する」
11、父・太郎が上着を着て入ってくる。
太郎「電車代くれないか?」
サヤ「いやよ、この間4000円貸したでしょう。返したら貸したげる」
石橋「電車代とか俺が出しますし、お金借りたら返してもらえればいいですから」
サヤ「ローンって、いくらぐらい借りれるの?」
石橋「この家はもう抵当権が発生してるから、出稼ぎかな、200〜300くらいかな」
12、母・典子「えっ、えっーー!そんなに!!!ありがとうございます。石橋さん」
13、太郎「お前には一銭もやんないよ!」
14、母・典子「このやろーー」太郎につかみかかる
14A、太郎、典子を蹴り飛ばす。吹っ飛ぶ典子
15、典子「くそ、くそ、くそ」と呟きながら、シンクの下から焼酎パックを出す
16、酒をあおった典子
典子「何見てんのよ!!、さっさと金借りてこいよ!クズ!!」
17、石橋「行ってくる。粘菌の要点をまとめといて。ボスに提出して計画の変更が必要か検討するから」
サヤ、「わかった。研究がどこまで進んでるかも資料にしておく」
18、石橋「助かるよ」
19、玄関を出てゆく、石橋、太郎
見送っているサヤ
時間経過
20、道端・ご近所の友永がサヤに話しかける
友永「あ〜ら、サヤちゃん、元気だった。いきなり閉店しちゃって心配してたのよ」(身なりの良い初老)
サヤ「ご心配おかけしました。母の腎不全が、、、」
21涙ぐむサヤ
サヤ「余命宣告されて・・」
友永「まぁー、可哀想に」
22、サヤの背中をさする友永
友永の肩を借りて大泣きするサヤ
23、友永「ごめんなさいね、私が余計なこと言ったから」
サヤ「とんでもありません。泣いたらスッキリしました。普段着じゃないから、どこかへお出かけだったんですよね」
友永「銀座でね、お友達とお買い物してお食事するの」
24、サヤ「行ってらっしゃい」
友永「ありがとう、サヤちゃん」
25、ふと右手を上げるサヤ、その手には高級財布が握られている
「お人好しは、財布を無くしても自分のせいにする」
26、百貨店でブランドバックを買い物しているサヤ
27、クレジットカードで支払うサヤ、
暗証番号を押す、サヤ
28、サヤの回想・両親が営んでいた喫茶店
サヤが差し出した機械にカードを差して、暗証番号を押す友永
顔を背けつつのサヤ「友永さん、暗証番号、生年月日とかにしてないですよね?不用心だから変えた方がいいってテレビで言ってましたよ」
友永「忘れちゃうのよね。それにズーつとこの番号だから混乱すると、ねぇー」
29、買い物するサヤ
30、買い物するサヤ
31、買い物するサヤ
時間経過
32、質屋に入ってゆくサヤ
33、定員「あっ、いらっしゃい、サヤちゃん。これはこれは、またまた、すごいね」
サヤ「お店の周年だったの、ママより頂いちゃって立場なかったわ」
34、定員「今回は375万です」
サヤ「ありがとうございます」
定員「いつも梱包ほどかず、そのまま持ってきてくれるし、紙袋にも傷ひとつないからグレード最高評価。こちらこそ助かってます」
35、街並みを歩くサヤ
サヤのモノローグ“これでしばらく大丈夫。喫茶店は閉店したけど、家だけは取られないようにしなきゃ、私がみすぼらしく見られる“
36、ふと見たショーウインドウに、ルビーをモチーフにした胸飾りを見つける
37、サヤ「綺麗ーーー」
38、店内
胸飾りがサヤの胸元にある
定員「よくお似合いです。ルビーの石言葉は情熱、愛、勝利です」
サヤ「勝利⁈」
定員「はい、古代インドではルビーを身につけた戦士は無敵になると、ラトラナジュ宝石の王者と称されました」
サヤのモノローグ「勝利を掴んでやる。これをお守りにする」
39、サヤ「頂くわ。このまま着けて帰る」
時間経過
40、友永が所在なげにあるいてくる。
店の前で待っていたサヤ「友永さん、どうしたの⁈」
友永「財布をね、無くしたのよ…」
サヤ「えっ!交番に行きましょう、きっとありますよ!」
41、友永「ありがとう!ありがとう!!サヤちゃん」
サヤ「お供します。行きましょう」
友永「サヤちゃんがいてくれてよかった」
42、交番近く
サヤ「ここで待ってますね、お財布ってセンシティブだから」
友永「そうね、わかったわ」
43、慌ただしく交番から出てくる友永
サヤ「ありました⁈」
友永「ゴールドのクレジットカードが一枚無くなってて!お巡りさんのお話だと、お金も、証明書もみんなあるから、これはプロの仕業だって。そう言えば商店街で外国の方に道を聞かれたのよ。きっとその時よ」
44、歩く二人
サヤ「クレジットカードの使用停止してくださいね、カスタマーセンターに掛ければすぐにやってくれますから」
友永「サヤちゃんに頼めないかしら。孫のフリして電話してくれない?息子に言えば叱られるし、お嫁さんは私が老いるの待ってんの。施設に入れたいのよ。家を出す口実にされてしまう」
サヤ「この世は本当にどうかしてますね」
45、スタバー
横並びで座る友永とサヤ
サヤ「ええ、ですから、孫の幸子です。はい。利用停止をして頂くのと、カードの再発行をお願いしたいと祖母は言ってます。わかりました。変わってくださいって」
友永「はい、私です。生年月日は0000年00月00です住所は0000000
暗証番号は0000です。あっ、孫の携帯です、ええ、03ー0000−0000が登録番号です」
46、サヤ、ストローでグランデサイズを飲みながら、カラス越しの人並みを見ている
サヤのモノローグ“弱者が強者にやられるのは当たり前の話だ。そんな話は50000とある。そうやってこの世は回ってる“
47、友永家の前
サヤ「じゃ、ここで失礼します」
友永「どうも、あり」
48、ガチャと玄関ドアが開く
49嫁が出てくる
嫁「お義母さん、あっーも、心配しましたよ。携帯忘れてお出かけになるから」
50、サヤ「こんにちわ、私が一緒でしたから大丈夫です」
嫁「ああ、サヤさん。すみません、お手間をおかけしませんでしたか⁈」
サヤ「いえ、そんな事はなかったです。では、失礼します」
51、手前に歩くサヤ、後ろに玄関に入る二人
嫁「今はお財布よりも携帯が大切な時代なんですよ。お義母さん」
友永「いつも言われているのに、ごめんなさい」
52、立ち止まって、振り返り2人を見ていたサヤ
友永家の玄関ドアが閉まる。
サヤのモノローグ
“邪魔なのに心配を口にする“
“人はあるがままを口にしない。それが自分を守れるすでだと知っている“
“この世界はうわべを繕う、障害物競争だ”
53、踵を返して歩き出したサヤ
54、サヤのアップ
サヤのモノローグ“大丈夫。私の得意分野だ“




