11、愛情の反対語は悲しみでも怒りでもなくて、無関心なんだよね
1、浴衣を羽織ったサヤ、玄関前のタタキに立っている。
2、ドアノブのアップ・鍵は締まっている。
2A、ガチャと解錠される、鍵。
3、ドアを開けて現れる石橋
4、サヤ「遅かったのね。さぁー入って」
5、サヤの首を左手で掴んで壁ドンする石橋
6、石橋「どうして逃げた?」
サヤ「鬼ごっこ・・したの・・よ。今の・・今まで・・私のことで・・頭ん中・・いっぱいだった・・でしょう」
石橋「ああ」
サヤ「はな・・して。でなきゃ・・ほんとに捨てる・・わよ」
7、口付けする石橋(左手の力は緩めない)
8、抱き上げる石橋・石橋の腰に両足を絡めるサヤ
9、石橋の耳元でサヤ「温泉なの、一緒に入ろう」と囁く。
10、風呂場
湯船で絡み合っている二人
11、石橋「捨てないでくれ」
サヤ「…わかってる」
12サヤ「ねえ…、もうダメ」
石橋 「まだだ」
時間経過
13、湯船に浸かっている二人
サヤ、石橋の足の間にいる。
サヤ「明日の朝くらいかと思ってた」
石橋「金は?」
サヤ「隠した」
14、石橋「どこに?」
サヤ「銀行に。1週間ぐらいでカード届くって、暗証番号はあなたへの宿題」
石橋「俺なら簡単に突き止められるぞ」
15、振り返って、石橋の顔を見ているサヤ「そうかな?ここへ来れたのも時計に仕込んであった追跡装置のおかげでしょ。そろそろ上がろう、お腹空いた」
16、懐石料理を部屋で食べている二人
17、寝ている石橋(二つ並んだ布団)
その寝顔を見ているサヤ
サヤ「やっぱり、逃げきれなかったか・・」
18、サヤ「いつか…、殺してやる」と囁く。
・時間経過・よく朝
19、高速を走る車
助手席の石橋「智人は我慢強い方か?」
運転しているサヤ「な、訳ないでしょう。我慢できたらデキ婚なんかになんないよ」
20、石橋「明快な答えだな」
サヤ「どうしょうと思ってるの?」
21、石橋「解放してやった方が恩を売れる」
サヤ「どこにいるか知ってるんでしょ、ナビ入れ直して」
時間経過
22、警察から出てくる智人、弁護士、サヤ
弁護士「お手間をおかけしました」
サヤ「いえ、本当のことをお話しただけですから」
23サヤ「心配してたよ、奥さん、あそこで待ってる」
朋子を見つける智人
智人「・・迎えに・・」
25、車のそばで待っている朋子
26、朋子へと駆け出る智人
27、車の前・朋子と智人
智人「ごめん。心配かけて」
28、歩いているサヤ、奥に抱き合う智人と朋子、そして弁護士
29、サヤのモノローグ“私のことなんか・・2人にしてみたら所詮は他人よね。もっと感謝されるかと思ってたんだけど・・・まっ、いいか、お金もらったし“
時間経過
30、友永の家のチャイムを鳴らすサヤ・花籠を抱えている。
31、出てくる嫁・晴れやかな顔つき・だが喪服
32、サヤ「あの、これおばあちゃんに」
嫁「・・まだ・・返してもらえてなくて」
サヤ「解剖されてるんですかね?」
嫁「死因を・・調べるらしいです」
サヤ「・・切り刻まれてるんだ、かわいそうに。私も警察に呼ばれて」
32A、サヤ「・・お話ししたい事があるんですけど・・」
33、リビング
サヤのそばに立っている嫁
嫁「散らかってて…、すみません。お茶でも」
きちんと几帳面に掃除も片付けも行き届いた、モデルルームのようなリビング
サヤ「できれば紅茶を」
時間経過
34、紅茶に口をつけているサヤ
サヤ「アッシュグレーなんて久しぶりです」
35、嫁「あの、話って・・」
伏目がちなサヤ「食中毒って報道されてますけど・・実は、ネズミが媒介するバイ菌に感染して・・おばあちゃん、亡くなったんです」
36、嫁「えええっ!!本当ですか!!」
37、嫁に視線を向けてコクリと頷くサヤ
サヤ「不潔だったんですよ、あのファミレス。感染源は消毒スプレーだそうです。警察の人が言ってました」
38、嫁「心臓が弱かったから・・・てっきり」
サヤ「元気でしたよ。ほんとに調子良さそうでした。笑ってたんです。外でご飯食べるの久しぶりだって」
39、嫁「そんなこと・・週に3回は外食してましたよ、一人で」
サヤ「知ってます。辻褄が合わないことたまに言ってましたもんね、でも指摘するとムキになるから、私も話を合わせてました」
40、嫁「消毒液が腐ることって・・あるんですか・・?」
サヤ「容器に入ってるから見た目は消毒液でも・・中身はただの水だったかも。・・経費を削減してたらしいですよ、あの会社。・・私、娘婿さんとお友達で経営難だってこぼしてました」
41、サヤ「水は無機物なので基本的に腐ることはありませんが、空気中の細菌や浮遊物に反応して、水の中の栄養素が腐ってしまうこともあります」
嫁「嘘でしょう!!」
サヤ「うちが喫茶店だったから、私、衛生面の勉強したんです」
42、サヤ「解剖所見、紙で貰っといた方がいいですよ」
嫁「母のですか?」
サヤ「他に誰がいます?」
嫁「・・実は・・急に倒れたって聞いて・・患っていた心臓だと思いました・・正直、食中毒と聞いてホッとしました」
42A、嫁「営業停止になったでしょう・・心臓発作だったら賠償問題になるんじゃないかって・・主人と心配してたんです」
43、サヤ「いなくなってホッとしたでしょう?」
嫁「えっ」(小さく)
サヤ「認知おかしかったですもんね。持ち家だし、旦那さん大手だし、介護施設の費用は補助金無しの全額負担になりますもんね」
44、サヤ「示談金もらえますよ」
嫁「・・・です・・かね」
45、立ち上がったサヤ「美味しいお紅茶をありがとうございました」(絵の手前にサヤが持ってきた花籠の一部)
46、立ちあがろうとする嫁
サヤ「あっ、見送りなんてしないでください。お通夜にまた来ます」
場所がえ、住宅街
47、歩きながら電話しているサヤ
サヤ「うん、相談したいことがあるの。それはさ」
48、サヤの声「無関心でいたいんだよ。今回のことはショックだったと思うよ。ご実家のことも重なってるし」
智人「・・そうだけど、何も聞かないんだよ、俺にはさ。弁護士とばっか話してる」
サヤの声「私にも“子供の父親を犯罪者にしたくないって“そればっかり言ってた」
50、サヤ「家いても気が滅入るでしょう、ホテルに避難したら。そのうちテレビ局の人たちも智人のこと追っかけ回すようになるよ、きっと」
智人の声「テレビ⁈」
サヤ「八つ裂きにされるよ」
51、サヤの声「あの人たち、ハイエナだから」
智人「べ、弁護士になんとかしてもらうよ」
サヤの声「あの人が依頼を受けたのは朋子さんのご実家からで、
会社守るためだったら、簡単に智人のことなんて切り捨てるよ」
52智人「・・えっ」
サヤの声「よく考えて、智人。弁護士さんからしたら、朋子さんのご実家って太客なんだよ」
53、サヤ「私にも友永さんは、店内で食事する前だったって強調して欲しいって、智人のことは何も指示しなかったのによ」
54、智人「なんだよそれ!」
サヤの声「智人、自分のことは自分で守らないと」
55、サヤ「ホテル決まったら連絡して。一流ホテルじゃなきやダメだよ。それなりのとこだと居所売られちゃうよ」
56、電話を切ったサヤ
サヤ・モノローグ“智人、愛情の反対語は悲しみでも怒りでもなくて、無関心なんだよね“




