笑う夢魔劇場 2
「イーダと!」
「シニッカの」
「「夢魔劇場へようこそ!」」
「はじめまして! 魔女のイーダです!」
「はじめまして。魔王シニッカよ」
「私たちは魔界の住人、『蛇の湖王国』にある『ヴィヘリャ・コカーリ』という組織の一員です。突然の登場にびっくりしているかもしれないけど、私たちの住む世界を知ってもらいたいと思ってここにいます!」
「この夢魔劇場では、みなさまに『惑星フォーサス』の魅力をお伝えしようと思うわ」
「私、イーダが聞き役、シニッカが話し役となって進めていく所存だよ!」
「これからよろしく」
「じゃあさっそくひとつめの話題から。シニッカ、私たちの世界『フォーサス』の概要説明をお願いします!」
「承知しました。フォーサスは星の名前であり、世界の名前でもある。剣と魔法の世界で、地球とほぼ同じ直径に同じ重量を持つ惑星ね。私たちが産まれ、生き、そして死ぬ場所よ。地球と違って大陸は惑星にひとつなの」
「え? それって大丈夫? 海流とかって、大陸がないと極端な寒暖差とか生んだりするよね?」
「もちろん大丈夫じゃない地方もあるわ。たとえば大陸南東部では巨大台風が発生するから、人がほとんど住んでいない。逆に海から遠すぎて雨が降らず、広大な砂漠になっているところも。もしかしたら大陸の反対側の海上では、荒れ狂う嵐が一年中続いているのかもね」
「うわぁ、大変だ。さらに質問を重ねちゃうけどさ、気温とかは問題ないの? なんか大陸がひとつだと二酸化炭素濃度とかにも影響があるって聞いたことがあるけど」
「ええ、もちろん大丈夫じゃない。でもフォーサスはかなり無理やりな方法でその辺を解決――人類にとって都合のよい環境にしているわ」
「それってどんな?」
「魔法よ。『世界律』っていってね、この世には世界全体へ影響をおよぼす極大魔術がいくつも働いているのだけれど、その最たるものが『青い惑星』と名のついたものなの。詳細は省くけど、この世の魔術は『人に都合よくふるまう』性質がある。だから星全体を魔法で覆ってしまい、気候やら海流やらが人類を死滅させないようコントロールしているの」
「……ちょっと絶句しちゃうよ。それがなかったらこの星の生命は存在すらできなかったのかもね」
「そうでしょうね。ともあれ、それが私たちの住んでいる世界の輪郭よ。地上におけるね。地面から離れて空へ目をむければ、この世にも月や太陽がある。これも地球とまったく同じなの」
「星座はどうなの?」
「見える星座もまったく一緒。ただし北半球に大陸が集中しているから、南の星座の中には見えないものも多いけれど」
「なるほど。なんとなくの輪郭がわかったところで、ふたたび星の上、大気圏の中へ戻ろうか。そこにある国とか人々とか、いわゆる文明や文化の話を聞きたいな」
「文明のレベルは『サラダボウル』そのものね。地球でいうところの中世から近代、場合によっては現代のものが入り混じっているわ。そのおかげもあって、地球におけるヨーロッパの中世に比べれば、ずいぶんと暮らしやすいといえるでしょう。衛生環境においてはとくにね」
「ほんと、助けられてるよ。で、またまた突っこんで質問しちゃうけど、食糧事情とか大丈夫なの? たしか3億人弱くらいの人類が生活しているよね? 大陸ひとつで3億、しかも居住不可能な場所も多いんだから、食べ物がなくなりそう」
「ハーバー・ボッシュ法がないのに、どうして食糧生産がまかなえるの? という質問ね。それこそ魔法の力だわ。地球と違って、植物も魔素から栄養を摂取できるの。そういう進化をとげた、というよりもそうデザインされた、といったほうが正しいかしら。麦も地球の中世とか近世とかと違って、品種改良済みのやつがあるし。なんにしても、絶対無敵の世界律『青い惑星』によって私たちは生かされているわ」
「それがなくなっちゃったら?」
「異常気象と食料不足によって急激な人口減少が発生し、瞬く間に世界が滅びるわ。そもそも人間種以外の人類って魔力がないと生きていけない者も多いから、即死する人々も多いでしょうね」
「怖っ! しゃれにならないよ! ま、まあ、気を取り直して話を続けようか。文明はなんとなく『魔法万歳』って感じってわかったけど、文化はどんななの?」
「文化としては欧州のそれを持つ国が大半で、一部北アメリカや中東のものも含まれる。一方で、アジア、アフリカ、オセアニア、南アメリカや中央アメリカのものはほとんどないの。思いつくところだと死体労働者くらいかしら」
「文明はサラダボウルだけど、文化はそうでもないってこと?」
「欧州がサラダボウルではないのなら」
「たしかにヨーロッパっていっても広いし、国も多いもんね。いろいろな文化があるか」
「とはいえ、私としてはもっと多様な文化の入り混じる世界が好き。ケツァールコアトルや虹蛇、ナーガや龍、ヤマタノオロチに出会えないことを残念に思ってる」
「また蛇の話してる。まあいいけど。じゃあ次は、地球にはない巨大なランドマーク、『世界樹』についても聞いておこうかな。魔界からもその巨樹の姿が半透明で見えよね。あれってどうなっているの?」
「遠いから半透明に見えるだけで、近づくとそこにないのがわかるわ。あれは魔力が織りなす永年蜃気楼なの」
「蜃気楼か……あれ? 蜃気楼って、離れたところの実際にあるものが光の屈折で近くに見える、みたいな現象だよね?」
「ええ、そのとおり。世界樹の上には天界があるし、そこへ行くこともできるわ。黄金の毛皮の猪に乗ってね。ただし天界はフォーサスと別の場所。フォーサスの上に物理的にあるわけじゃなくて、そこにぶら下がる世界なの。魔法のフィルターを通して地上から観測可能というだけ」
「ややこしいな……。なんでそんなしくみに」
「そうデザインされたからよ。この地を訪れる、勇者を感動させるためにね」
「で、その大切な世界樹に一番近い国が、魔王の治める『カールメヤルヴィ』か。……勇者に嫌われるわけだよ」
「いいじゃない。勇者は魔王を倒し、その支配から世界を解放するんだから。私たち魔界の住人は、下卑た笑いを浮かべながら迎え撃ってあげればいいのよ」
「……一緒にしないで欲しいよ」
「手遅れよ」
「む……。じゃ、今回はここまで。次回はちょうどいいから、勇者についてのお話をしようか!」
「いいわね。小道具に彼らの首でもならべておく?」
「やだよ! 人の死体を小道具に使うのなんてワラキア公くらいだよ!」
「ちょうどよく、小竜は欧州の文化」
「だめだからね! それじゃあ、またお会いしましょう。バイバイ!」
「Moi moi」




