笑う天使たち 17
突如聞こえた大天使様の声。みな驚き、固唾をのんで黙りこみます。
静かな部屋の中、大天使様は言葉を続けました。
「この地を治める領主よ、そなたの聡明さを我が前でしめすのだ。さすれば私はそなたとクッカの結婚を祝福し、未来永劫の繁栄を約束しよう。しかし――」
いったん区切りが入ったことで、空気がピリリと引き締まります。その短い時間は、聞いている者たち全員が、祝福が無条件にあたえられるのではないと覚悟をするのに十分でした。
「――もしこの場において知の頂点に立てぬのならば、それは先ほどの話が嘘であるという意味になる。つまりはヘルメースほども聡明だという評判を、否定しなかったそなたの落ち度になるのだ。ゆえにしかと力をしめせ。決して油断をせぬように。よいか?」
大天使様の問いへ、領主は「もちろんですとも」と言うほかありません。とはいえ彼もその程度で震えあがる立場ではありませんでした。
なにしろ、ここにいるのはほとんどが彼に従う者ばかり。唯一クッカだけが障害になりえますが、人生の経験であれば自分のほうが断然多く、彼女の知性など問題にならないと彼は確信していたのです。
領主の問いに「大変結構。見届けさせてもらおう」という声が返ってくると、たいまつとろうそくは背すじをのばして、部屋は明るくなりました。すかさずクッカは椅子の下からかばんを出して、中身を取り出しはじめます。
先ほど暗くなった時、こっそり出しておいたネコヘビ以外を。
「さあみな様、知恵比べをするなら、それはつまり勝負をするという意味です。ゆえにルールが必要になりますね。それは心がおどり楽しめる、素敵な内容でなくてはなりません」
彼女はネコヘビをドレスの内側へ隠しながら、紙と布を両手に持ち、みなをゲームへいざないます。
「そこで『品物当てゲーム』などいかがでしょうか。参加するかたはひとつだけ物を決め、それをこちらの紙に記入します。紙は裏返しに机へ置かれ、大天使様以外誰も見られません。その上で、ペアを作ってそれがなにか当てあいをします」
彼女は布と紙を高くかかげ、みなへ見えるようにしました。
「品物は必ず身に着けること。けれど必要なら、懐に隠してもポケットに忍ばせても、こちらの布の下へ入れても構いません。ペアになったかた同士は形や重さ、色なんかをひとつずつ質問できることとします。それが終わったら、相手の品物を当てるのです。同時に当てた場合は、隠すものを変えて再戦します」
「なるほど、なるほど。質問を1回ずつした後、聞くのは同時に行うのですね。もう少しくわしくうかがっても?」
口を挟んだのは高級な服を着た商人。ちょっと複雑なルールだったので、彼はクッカにルールを確認します。商人という職業柄、こういった契約の中身を細かく確認する癖があったのです。
ゲームの内容は次のとおりでした。
ひとつ、参加者はひとつだけ自分の身につけられるおおきさの物品を決める。必ず自分で持ち歩かなければならず、どこかに、たとえば机の下なんかに隠すことはできない。そして秘密の品の名前を紙に書き、裏返して長机へならべておかなければならない。
ふたつ、参加者はペアを作って勝負をする。おたがいに相手が秘密にしているものについて色や形やおおきさなんかを交代で質問し、質問された者は嘘をついてはいけない。ただし、質問は「はい」か「いいえ」で答えられるものを。「その色はなに色ですか?」なんてあいまいに聞いたら、回答者は「明るい色ですよ」とあいまいに答えられてしまうから。
みっつ、勝った者は勝った者同士でペアを作り、ふたたび勝負をする。そうやって勝ち上がり、最後のひとりになったら、その者が勝者となる。
すべての段階で嘘が禁止されていることくらい、その場の全員が理解していました。この勝負は大天使様に見守られているからです。そこで嘘をつくことは、神への冒涜と受け止められかねません。
でも逆に嘘さえつかなければよいと考えることもできます。
「おもしろいではないか。あまり人数が多いと終わらぬから、ここは8名で勝負としよう」
領主の提案で、合計8人の参加者がおのおの物を隠します。もちろん、他の参加者にわからないように。けれど参加者は領主に媚びを売りたい人ばかりでしたから、協力してクッカを追いつめることにしました。
「ではゲームを開始する!」
最初に領主と当たった夫人は、わざと手に持ったお皿に布をぴったりと巻きつけて、形がわかるようにしました。当然すぐに正解を当てられてしまい脱落しましたが、彼女の顔は満足げでした。
一方クッカの相手をすることになった青年男爵は、りんごを懐に入れ紙に書くと、手に持った布の下へ食事用のナイフをひそませます。これで相手の目をあざむいてやろう、そう思っていた青年の前へ、クッカが庭から戻ってきました。手に持つ布の下には、なにやら四角い横長の石のようなものが。
「これはレンガだな」、青年男爵は予想します。わざわざ庭に行ったのだから、そこにある塀の一部でも持ってきたのでしょう。彼はクッカとむかいあい、笑顔で質問をします。
「それは食べられないものですか?」
「はい、そうです、男爵」
予想が当たっていると思い、青年はしめしめとほくそ笑んで勝利を確信しました。「私からの質問もよろしいですか?」と聞かれた時に、したり顔で「どうぞ」と応じてしまったくらいには。でもその顔はクッカの問いかけにより、一瞬で青ざめてしまいます。「それは赤い果物ですか?」
「え⁉︎ え、いいえ、いや、ええと……。そうです」
どうしてわかったのか、なぜ知っているのか。自分がりんごを隠すところは、仲間の貴族たちによって巧妙に隠されていたはずです。そんなふうに動揺しても、答えを言う時間が先のばしになるわけではありません。
「れ、レンガですか?」
「いいえ、違います。男爵様の秘密の品は、りんごですか?」
「あ、当たりです……」
結果はクッカの勝利で終わります。周囲で見守っていた貴族たちも、驚嘆の声を上げました。
「どうしてわかったんですか、クッカさん。もしかしてのぞき見を?」
納得のいかなかった男爵が、いぶかしげな顔で聞きました。でもクッカはにこにこしながら答えます。
「いいえ、のぞき見のたぐいはしていません。お皿の上のりんごが、さっきよりひとつ減っていましたから、そうじゃないかと思って」
机の上にあるおおきなお皿、果物やパンやチーズで飾られたそれを彼女は指さしました。いかさまでも神様の加護でもなく、ただ単純に彼女はホールにあるいろいろなものを観察しておいたのです。長いながい、領主様へのあいさつの時間に。
こうしてひとつ勝った彼女は「お花を摘みに」と席を立ち庭へ出ると、人目のないところへ隠れます。そして布をひらりと取り払うと、下からおおきなレンガを丸呑みしたネコヘビが出てきて、口の中に入った物をゆっくり吐き出しました。
「ありがとう、とてもうまくいったわ。でも消化できないものを呑みこんで大変だったでしょう? ごめんね、次はりんごにするから」
ネコヘビは「へっちゃらさ!」なんて顔をして、ぺろりと舌を出し応えます。そして大口を開けると、りんごをぺろりと一飲みにしました。お腹がぷっくり赤い果物の形にふくらんで、布をかぶせればあら不思議。さっきまでレンガに見えたものが、こんどは丸いなにかに見えます。
ホールに戻ったクッカの次のお相手は、神経質そうな女男爵。『輝く両手』なんて異名を持つ、名うての剣士でした。名前のとおり、指も首も手首も、全身を貴金属で彩って、腰には宝石の埋めこまれた短剣を二振りも差しています。こけた頬の上、刃物のような切れ長の目がクッカを切りつけるように睨みつけました。
さっそくゲームははじまって、彼女は「お前の隠しているものは食べ物かい?」と先制攻撃を入れました。
りんごは食べ物だったから、本当は「はい、そうです」と言いたいところ。けれどクッカは嘘をつけません。だから「いいえ、違います」と正直に答える他ありませんでした。
次は自分が質問をする番なので口を開きます。「女男爵様、あなたが隠したものはかがやくものですか?」
「⁉︎……質問の意味がわからないねぇ。でも、ああそうさ。そういったものだ」
女男爵は自分の隠した物と同じ特徴を質問されて、おおいに焦りました。でもそれを悟られまいと、なめるようにクッカを見ます。
「さて、じゃあ答えを当てようか。お前が隠しているものは、そうだね……」
さっき持っていたのは四角い物だったのに、今は丸い物。クッカが住む池のほとりには、さまざまな変わった生物や妖精が住んでいるはず。そんな分析をしながらしばらく考えた彼女は、妖精なら不思議な力で形を変えることも可能だろうと結論づけました。
「わかったよ! お前が隠しているのは妖精だね。しかもりんごかなにかに姿を変えた」
自信たっぷりに言った彼女でしたが、クッカが「いいえ、違います」なんて言うものだから、恥をかかされたと思って顔を真っ赤にし怒ります。
「なんだい! 人のことをばかにするのかい! それじゃあ、私のを当ててみなよ!」
「はい、女男爵様。あなたが隠しているのは赤い宝石、ガーネットの指輪ですね?」
「ええっ⁉︎ なんでわかったのさ⁉︎」
神経質そうだった切れ長の目が、真珠のように丸く見開きました。
「両手の指に10個、短剣にそれぞれ1個ずつ。全部で12個の宝石が12か月それぞれの誕生石だったから。右手の小指――ガーネットがおさまるはずの1月のところだけ、宝石のない指輪なのはおかしいと思いました」
「ほおぉ……よく観察していたねぇ」とつぶやいた女男爵の顔は、いつの間にかムーンストーンのようなやさしい色を取り戻しています。鋭い観察眼や正々堂々としたふるまいに感服したのもありましたし、こだわって選んで身に着けた宝石たちの意味を理解してくれたのが嬉しかったのもありました。
「いいだろうクッカ、私はお前を気に入ったよ。ここにいるみんながお前の負けを望んでいるけれど、私はお前の側に立ってやろう。もし敵が嘘をついたのなら、大天使様の手をわずらわすこともなく、私の両手の剣はそれぞれ相手の両手首を切り落とすだろうさ」
ごきげんに笑う女男爵はクッカの横に立ち、次の対戦相手である領主へ視線をむけました。謀反ともいえるほど恐れ知らずな行動でしたが、まるでダイアモンドのように高貴で堂々とした立ち振る舞いへ、みんなが心を打たれます。おかげでその場の空気がガラッと変わり、クッカを応援する声も聞こえてくるようになりました。
みんな手に食べ物や飲み物を持って、決勝の舞台を囲みます。ある人は銀の長酒杯にワインをなみなみ入れて、ある人は同じ酒杯と焼いた鳥のもも肉を両手に持って、ある人はそこに酒瓶までかかえて。最初に質問した商人は空になったサラダボウルへかけ金を集めようとしていましたが、さすがにとがめられて、かわりにそこへエールを注ぎ両手で持って観戦しています。
領主はそんな光景に眉をひそめながらも、怒りに身をまかせるのは見苦しいと思って平静をよそおいました。
「うむ、よかろう。無礼はのちほど高いツケとして払ってもらう。しかし今は勝負を決めてしまおうか」
いよいよ最後の戦いです。しかしまわりの目には、クッカが少々不利に映りました。なぜなら女男爵が言った「クッカの住んでいるところにいる生物か妖精」の予想は正しそうだったから。形の変わるものなんて、なんらかの不思議な生き物に違いがないのです。そして魔界には、いろいろなものを飲みこんで消化できる猫のような蛇がいることもみんな知っていました。
「食べ物を食べて成長したら、尻尾がはみ出てしまうのではないか? クッカよ」
領主はいじわるな牽制を入れます。それにクッカは少しだけ体をピクリとさせ、「いいえ領主様。そうとはかぎりませんよ?」と強がりにも聞こえる言葉を口にしました。
にやりと口の端を上げる領主は、自分が書いた物をわざわざ焼いたにわとりの中にねじこんでから、テーブルクロスで覆っています。
「でははじめようかクッカ。まずは質問だな?」
「はい、領主様、なんなりと」
「お前が紙に書いたのは、その中になにかを隠せるもの、そうだろう?」
「はい、そうです」
目の前の少女が目をそらしながら答えたので、領主は暴君のような顔で勝ち誇り胸をはりました。勝利を確信したのだから無理もないでしょう。だから自信たっぷりに言います。「それでは、そちらの質問もうかがおうか」
「はい。領主様が紙に書かれたものは、焼いたにわとりの腹にねじこめるくらいには硬く、細長いものですか? たとえば――」
クッカは目を閉じて言葉を区切ります。少しだけ勇気が必要で、神様に「どうか見守りください」とお祈りする時間が必要だったから。
少しの時間の後、ぱちりと開いた両目が、サファイアのようにきれいな青色を輝かせて領主を見ます。
「――お酒を注ぐ、コップのような」
「⁉︎ う、うむ。そのとおりだ」
動揺を隠せず、領主は目を泳がせました。そう、彼が隠したのはまさに銀の長酒杯だったのです。しかし「こちらも相手が布の下に隠すものはわかっているのだ」と思い出し、引き分けであればまだチャンスがあると自分へ言い聞かせました。
さて、これでおたがいが質問を終え、いよいよ回答を口にする段です。
領主が黙りこんでしまったので、まずはクッカが先に口を開きました。
「領主様、あなたが紙に書いたのは、銀製の長酒杯ですね?」
「……そ、そうだ。いやしかし、なぜわかったのだ」
「だって食器は人数分きっかり用意されていたはずなのに、商人様がサラダボウルでお酒を飲んでいたから」
「なんと……」
領主はくやしそうにして、商人へ怒りの目をぶつけました。対する商人はバツが悪そうにしていましたが、どうやらクッカに味方することに決め、目をそらして素知らぬ顔をします。
「だが私が当てれば引き分けだ。ゲームはまだ続きがある」
「はい、そのとおりです。では回答をうかがっても?」
「よいだろう。クッカよ、お前が書いたものはネコヘビだな? いろいろなものを口の中に入れ、形をあざむける蛇なのだろう?」
全員の目線がクッカへ集中しました。けれど結果が引き分けであろうことはみんなわかっています。中には「次はどんな物を隠すのか」と思っている人もいたほどでした。
唯一、当のクッカをのぞいては。
「いいえ、違います」
聖歌隊の合唱のようにそろった、息をのむ音。
そして沈黙。
まるで夜のお墓にでもいるかのように、たいまつとろうそくだけが姿勢よく炎をたたえています。
そこには「そんなの嘘だろう」と思っている人もいました。「なにが起きているんだ」と事態を把握できていない人や、大天使様の「嘘をつくな」という声が聞こえてくるのではないかと思っている人さえいました。けれどクッカが罰される気配なんてありません。
沈黙を破ったのは、他ならぬ大天使様の声でした。
「神の御名において勝負が決着したことを、大天使たる私が宣言する。クッカよ、見事であった。君は勝ち、私と神へ知性を証明したのだ」
短い賛辞でしたが、クッカは花のように笑い喜びます。「ありがとうございます、大天使様、神様。我が祈りは永遠に、あなた様たちのためにあります」
お礼の言葉が終わると、大天使様は領主へも声をかけました。
「領主よ、残念に思う。お前は嘘吐きであり、私は失望をおぼえている」
「待ってください、大天使様! これはなにかの間違いなのです! 彼女は恐れ多くも大天使様をだまし、偽りの勝利を手に入れたのです!」
「どの世においても、勝者を蔑む言葉は、これ以上になく見苦しい。領主よ、お前は罰を受けろ。お前が持つすべてのものはこの勝者たる少女のものとなる。お前が持つすべての名誉は破り捨てられ燃やされる。お前は地中深くに埋もれ、胸から大麦を生やしこと切れよ」
死んで大地の養分となれ、そんな言葉へ領主は泣き叫び抵抗します。しかしすぐにその声はちいさくなっていき、やがて消えてしまいました。床に彼の着ていた豪華な服と、それにつつまれた大麦の穂を残して。
その光景を、まわりの人は動揺しながらも受け止めます。女男爵のように心から祝福する人もいましたし、こびへつらっていた人も、ごまをする新しい相手が目の前にいることを理解していました。
こうしてクッカは戦いに勝利し、死んだ男に代わって領主となります。多くの財産と土地を手に入れ、大天使様の加護を受けた彼女は、しかしあまり変わりませんでした。質素な生活を好み、武力は好まず、財産にもそれほどこだわりがありません。でも税金が安いおかげで人がたくさん集まって、領地は豊かになりました。
「幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」で終わるこの物語ですが、ただひとつだけクッカには悪い癖がついてしまいました。それは賭けごとが好きになったこと。ダイスカップのルーンである「ᛈ」を魔術として使えるようになったから、彼女は賭けで負け知らず。でも彼女の賢いところは、「ここぞという時」までそれを隠していたこと。
お話を聞いてくれたみんなはおぼえているかしら? 彼女はドレスや馬車を手に入れる際、結局お金を使わなかったことを。この時持っていた12枚の銀貨を元手に、彼女は少しずつ自分の「賭博用財産」をかせいでいくの。領地の財産には一切手をつけなかったから、彼女を助けてくれる女男爵も商人も、なにも文句を言わなかったわ。でも負け知らずの彼女は、最終的にとんでもない額のお金を手に入れて、それでたくさんの領土を買った。彼女が『国を買った賭博王』なんて呼ばれる理由のこの物語は、そうね、またの機会にしましょうか。
魔界が一番活気にあふれていた時代、『ダイスカップの時代』を作り上げた第16代魔王クッカ=マーリアの、若かりし頃の物語はもうすぐおしまい。ここまで聞いてくれてありがとう。話をしている私も楽しかったわ。
……ええ、わかっている。
みんな「まだわからないことがある」って言いたいんでしょう? つまりクッカがあの夜、どこになにを隠していたのか。
ではそれを最後に、私の小話は本当にお終いとしましょう。
領主が消えた次の日、度胸と腕っぷしでその場をおさめてくれた女男爵と一緒に、クッカはお屋敷のホールにいました。すっかり仲良しになったふたりは、笑顔で朝食をともにしています。そして昨晩の話を思い出しながら、女男爵はクッカの顔を見て聞きました。「で、新領主様。昨晩、なにを紙に書いて隠していたんだい?」
「知りたい?」なんていたずらな顔をするクッカへ、女男爵は両手を挙げて降参のポーズをします。
「私は『スカートの中に隠していた』と思っている。そこなら領主であっても、めくることなんかできないからさ。つまりあの布の下にいたネコヘビは、真実から目を背けさせるためのおとりだったんだ。けれど、なにを隠していたか、私にはどうしてもわからない。おかげで昨日は寝不足さね」
「昨日は味方してくれてありがとう。今日はゆっくり休んで」
「おやおや、はぐらかそうとするなんて。感謝の言葉もありがたいけれど、本当に欲しいのは質問の答えさ。ほら、もったいぶらずに教えておくれよ」
ムシャリ、と昨晩の残り物の鶏肉を、不満げな顔でおいしそうにほおばる女男爵。ずいぶん器用な表情だなぁと思いながら、クッカはパンとチーズをモグモグ食べて種明かしをしました。
「実はね、別に隠してなんかなかったの」
「え? じゃあいったい、なにを書いたんだ」
「『布』って書いたのよ」




