第97話 フェアリーとヴィーナス
「梳李!解析が完了しました!ゴルゴーンの居場所も突き止めました!」フェアリー
「ご苦労さま!俺なりに思う所はたくさんあるんだけど、ゼウスとの約束があるからさ、解析結果はゼウスに伝えてくれないか」
「良いのですか?私は管理者権限を剥奪されたとしても梳李の気持ちを優先しますけど」フェアリー
「その気持ちだけで良いよ、そんな事をして権限がなくなるだけなら良いけど、存在が無くなったら俺は生きていけないからな」
「どうしましょう?」フェアリー
「なにを?」
「私はシステムなので感情は無いはずなのですけど、梳李の事が愛おしいのです」フェアリー
「良かったじゃないか、それだけマテリアルボディだけじゃなくて、中身も人格が出来てきたって事なのだろうから」
「良いのですか?」フェアリー
「俺はとても良いと思っているけど、それを判断するのはヘッカなんじゃないか?」
「管理者が感情を持つ事など前代未聞だね、だけど私も梳李に恋をした、責める事はできないよ」ヘッカ
「それなら梳李の全てを私は掌握しています。お好きなように私を使っては頂けませんか?梳李が獣のようになっても、自分をさらけ出す様を私にだけは見せていて欲しいのです」フェアリー
「また難しい注文だな、少なくともフェアリーにはわがままを言って、なんでもさせていると思うのだけど」
「確かに難しい注文も役目も与えてくれますけど、それはフェアリーにではなくていつも管理者に対する仕事です、そうではなくて女の子として無茶苦茶にされたいのです」フェアリー
「はははっ!なにがどうなってそういう感情に至ったのか不思議な所だけど、デートでもしようか」
「ダンジョンで奥様方のリクエストに全て応えている姿を見ていたので、私は逆の立場になりたいと思ってしまって」フェアリー
「その話は恥ずかしいからやめようか、10人分覚えるのは大変だったんだよ、万が一間違えたらとてもおぞましい時間が訪れそうな気がしてさ」
「ふふふっ!間違いないですね」フェアリー
「私の事は自由にしてください!」フェアリー
「私も従者だから梳李の好きなようにしたら良いんだよ。しっぽを掴んで振り回されるのは少し嫌だけど…」エンジェル
「ちょっと待て!確かに好奇心で言えば色々あるかもしれないけど、俺はみんなが満たされる事で満足するんだよ、元々自分の欲求の為にみんなと接する事はできないんだ」
「それなら…デートしてくれるなら1番したい事を私にしてください」フェアリー
「わかった!覚悟しろよ!」
「はい♡」フェアリー
「昨日も行ったけど、夜になったら桜の下にヴィーナスと3人で行こう」
「私も良いのですか?」ヴィーナス
「委員長と雷風が居なくては始まらないんだよ」
神殿通路の満開の桜並木をヴィーナスに乗ってフェアリーを抱きながら歩いていた
「外でするのが良いのですか?」フェアリー
「なんでもそっちに持って行くなよ!」
「ヴィーナス!あそこが1番いいな、今日の月と桜のバランスが」
「かしこまりました!主!」ヴィーナス
「フェアリーはそこに座ってくれないか?クッションを敷くからさ、足を折って正座して欲しいんだ」
「こうですか?」フェアリー
「そうだ!ここが良いんだ!膝枕って言うんだけど、安らぐんだよ。ヴィーナスもその姿のまま隣に来てくれないか」
「はい♡」ヴィーナス
「妻はみんな俺よりも先に死んでしまう、俺の最後は歳をとったヴィーナスとフェアリーがずーっと一緒にいる事になるだろ。その時の俺は頭も白くなって、戦う事もできなくて、自分で歩く事もままならないかもしれない、最期はフェアリーに膝枕をされて、寿命間近のヴィーナスと並んで息を引き取りたいと思うんだよ。それが何百年先にあるだろう俺が1番やりたい事だよ」
「私も一緒に死にます」フェアリー
「フェアリーに寿命なんてないじゃないか」
「それでも嫌です、梳李が居なくなった時間など耐えられるはずがありません」フェアリー
「そうなんだよな、昨日母親の話をしてたじゃん、久しぶりにゆっくり考えたらさ、残る方はつらいよな」
「私には無理です、梳李が居ない時を過ごす事なんて」フェアリー
「最期の時が終わったらゼウスに言って俺の記憶は消して貰うからさ、それまでは一緒にいてくれよ」
「記憶を消されたらつらくはないかもしれませんが、楽しい思い出もなくなってしまいます」フェアリー
「それでいいじゃないか、泣いている顔は想像したくないよ」
「それならばどちらかその時に選択させてください。つらいことから解放される道を選ぶか、楽しい思い出を抱いて生きるか、最後まで悩ませてください」フェアリー
「フェアリーの好きにしたら良いけど、膝枕は忘れないように頼むな」
「そうしていると梳李は安らぐのですか?」フェアリー
「ああ…とても穏やかな気持ちになるぞ、毎日の激務や命がけの戦闘が全部リセットされるようだ」
「私も梳李の重さを感じる事でとても穏やかな気持ちになるのですけど」フェアリー
「もうひとつリクエストすると頭を撫でてくれないか」
「梳李の黒髪は綺麗ですね」フェアリー
「フェアリーの黒髪も綺麗だぞ、この世界では珍しいけど俺の好みになっちゃったからな」
「膝枕をしながら頭を撫でるのは良いですね、私はとても好きになりました」フェアリー
「寝る時にフェアリーに抱かれる事もとても好きだよ。甘えてるんだよ多分、好きな女の子と母親は絶対違うし、母親に欲望を向ける事はないのだけど、甘えるという点においてだけは、イコールのような感情もあるのさ」
「そういえば寝る時も子供のように胸に顔を埋めて来る時がありますね」フェアリー
「甘えてるんだよ、いやか?」
「いえいえ、嬉しいと思った事しかないですよ」フェアリー
「主!今度私にも甘えてみてください」ヴィーナス
「いつもヴィーナスが甘える方だからな」
「フェアリーがいうように甘えられる事も穏やかな気持ちになるのなら、私も味わってみたいです」ヴィーナス
「んじゃ、フェアリーとヴィーナスが交代してみようか」
「主!私もこれ大好きです、背中に主を乗せて思う場所に運ぶ時のような一体感があります」ヴィーナス
「2人ともいつもそんなに俺を想いながら守ってくれているんだな」
「ありがとうフェアリー」
「ありがとうヴィーナス」
「月が綺麗ですね」フェアリー
「ほんとに良い夜ですね」ヴィーナス
第98話に続く




