第94話 絆
「オールラウンドターゲットっていいスキルだなあ」
「フェアリーから教わりました」アン
「油断するなよー!」
「はい!」
7階8階と同じ作戦を繰り返しゴブリンの魔法使いやホブゴブリン、ゴブリンロードを討伐しながら9階層に進んだ
「ここはホブゴブリンとゴブリンロードが大量にいます!開幕はファニーの大魔法とオリビアの連射と弓も2人でありったけ撃ってください。数を減らしてからサラとアンの出番です」
俺やフェアリーの魔法からしたら威力は劣る物のファニーはインフェルノを放ち、アリアナとピーシスは連射弓を大量に放ち、オリビアも頑張って速攻を仕掛けた
ホブゴブリンに比べるとゴブリンロードの皮膚は分厚く致命傷にはならなかったが、不意をつかれた9階層のゴブリン達は大きく分断され、奇襲攻撃は成功した
サラとアンはすかさずオールラウンドターゲットで意識とヘイトを集め、ゴブリンロードによる攻撃を盾で受け始めた
「いまです!アスコット達前衛は斬りこんで更に群れを分断しながら、一体一体確実に討伐してください」フェアリー
「弓と魔法はピンポイントに剣士の邪魔にならないように周辺から討伐してください」フェアリー
アリアナの弓は威力も命中率も申し分なかった、元冒険者だったのもあり完全に舞台度胸が座っていた、なれないファニー、オリビア、ピーシスを挑発するかのように、次から次へと矢を放ち、確実に頭を撃ち抜いていた
助太刀に入りたい衝動をなんども堪えながら、奥様パーティの戦闘を見守った、危険とまでは行かないが、ここまで来るとやはり経験不足は否めない、半分はじれったくて半分は心配で、走り出しそうに何度もなったが、その度にエンジェルに腕を引かれた
アスコットもアリアナ同様に水を得た魚のようにのびのびと剣技を振るった、スラッシュやダブルスラッシュ、一刀両断等剣術スキルにも磨きがかかっていて、神速移動を繰り返しながら、アンとサラに集中しているゴブリンロード達を屠っていった
そして雑魚どもを殲滅し階層主のひときわ大きな身体をしたゴブリンロードと対峙した
「あれが階層主です!落ち着いていつも通りの連携スタイルで楽に倒せます!」フェアリー
3m超えのゴブリンロードが子分をやられて、怒り狂って大斧を振っている、盾プラスプロテクションでその一発一発が重く強い攻撃を受け止めている
アリアナの弓がミーティアの風を纏い、見えない速度でロードへ向けて射撃された、左目に命中した矢は致命傷に間違いなかったが、ロードは最後の力を振り絞って、さらに強い攻撃を繰り返してきた
イザベラは右足をレオットは左足を切断し、真正面からアスコットが一刀両断した
奥様パーティの勝利である
「少し休憩しようか、みんな良く戦えている」
お茶を配りながらヴィーナスが言った
「みんなの戦いを見ながら梳李はずーっと涙を浮かべてましたよ」
「ちょ、それはさ…頑張ってる姿を見てると熱くなったというか、込み上げて来る物があってさ」
「はははっ!可愛いねえ梳李」エンジェル
「何度も飛び込もうとするから何回も腕を掴んだよ」エンジェル
「みなさん戦闘中にレベルアップもしていますし、この調子で行けばキングの討伐も問題ないですよ、おそらく取り巻きは傍使いとメスゴブリン達なので、それらは中遠距離から瞬殺できます。メインはキングのみです」フェアリー
「むしろ問題は11階層から20階最深層まで魔物の気配がない事の方が気になります。キングまでを奥様パーティで討伐し、それから先は梳李とエンジェルに任せた方が良さそうです」フェアリー
「わかったそれでいこう」
10階層に到着したパーティはさっさと魔法と弓の攻撃で取り巻きを排除した、VSゴブリンキング
サラとアンも良く凌いでいるが巨体から素早く振り下ろされ薙ぎ払ってくる大剣の攻撃はフェアリーのプロテクションにも傷を付けた
アンは明らかに緊張している、キングは手薄なアンに狙いを絞ってきた、それに対して中遠距離からの攻撃がキングを確実に弱体化し、剣士3人の連携による剣の舞いが、キングのHPを削っていった
最後はアスコットとキングの一騎討ちとなった
咆哮を上げ威嚇しながらも弱気になっているキングは無差別に大剣を振り回している、振り下ろされる大剣を愛剣でいなし地面に叩き落とす、大剣を足場にしてアスコットが飛ぶ…次の瞬間キングの頭と胴体は切り離された
アスコットの新スキルトリプルスラッシュによる力強い急所攻撃だった
パチパチパチ!パチパチパチ!全員の拍手が全員を包んだ
「お疲れ様!」梳李
「みんなよくやったね」ヘッカ
「楽勝だよー!」エンジェル
「危なげないダンジョン攻略でしたよ」ヴィーナス
「今日は記念すべき奥様パーティの勝利の初陣だったな!おめでとう!みんなは名実ともにガーディアンズだ!」
緊張感から解放されたみんなは、へなへなと座り込みうっすらと涙を浮かべていた、次の瞬間俺に襲いかかってきた、戦国武将が小姓を戦場に連れていったのは、生死の境に直面した時に動物の本能がそういう意識を昂らせるのだろうと想像していたが、女の子も例外ではなかった
死の淵から生還した安堵感からか、魔物を切り刻んでここまで来た興奮からか、原因ははっきりとわからなかったが、俺に向けられた本能にあらがう術も理由もなく、ただただその感情を受け入れた、そこにはいやらしい欲望があるわけではなく、動物の持つ生に対する本能なのだろうか、とても美しく思えて愛おしかった
代わる代わる何度も求めてくるみんなを全身で受け止める事が喜びであり使命と感じた
「梳李ごめんね、理由はわからないけど無性にこうしたくなっちゃって」アスコット
「いいじゃないか夫婦なんだし、それほどの緊張感で死の淵をさまよったという事だろ」
「欲しい」アリアナ
「こういう時に言葉は要らないからみんなが好きなようにしたらいいさ、なんでも言ってくれたらその通りにするから、わがままに思うままにおいで」
奥様方を戦闘にかりだす事は本音を言えば躊躇していたのだが、夫婦であり同志になれた気がした。時には見つめあって向かいあって愛情を確認し、時には同じ方向を向いて目標に向かって共に歩んで行く、とても深く強い絆が生まれた気がした
第95話に続く




