第92話 愛妻ファニー
「そういえばヘカテーのダンジョンはどうなっているのかな」
「狩猟部隊が探索チームを作っていますよ」フェアリー
「状況を確認するか…小さいダンジョンなら踏破しちゃってもいいし」
「それならオススメは探索チームが入っているダンジョンよりも、大森林にもうひとつあるダンジョンを踏破するのはどうでしょうか、多分地下20階くらいしかないと思いますが奥様方も戦えますし、ダンジョンコアを採取出来るかもしれませんよ」フェアリー
「ダンジョンコアってなんだ?」
「ダンジョンを作っている源ですね」フェアリー
「それを採取したらダンジョンはどうなるの?」
「無くなりますが、大森林の中にある小さいダンジョンですから、無くなっても生態系に影響はありませんし、コアを採取出来ればダンジョンの謎を解明出来るかもしれません」フェアリー
「それは良いかもしれないな、ダンジョンブレイクとかなるべく勘弁して欲しいもんな、いまならあの程度のダンジョンブレイクはポセも入れた4人で暴れたらあっさり終わりそうだけど、あの時はギリギリだったから軽いトラウマがあるんだよな」
「ふふふっ、珍しいですね」フェアリー
「いざとなれば勇気を振り絞って、どんな強敵にも挑むけど、ないに越したことはないからさ、あの時はほんとにギリギリで、終わった後にアリアナに抱かれたらガタガタ震えたもんな」
「私はとても嬉しかったですよ」アリアナ
「なんだよ聞いてたのかよ」
「馬車を操縦している時に私を知ってくれていた事に始まって、数日過ごした時間でこの人が居なくては生きていけないと思うほどに惹かれましたからね」アリアナ
「まあ俺もあの時すでにアリアナが好きだったけどな」
「はい!月が綺麗ですねって言ってくれました」アリアナ
「やっぱり大きいのがいいの!」アスコット
「いや!そこじゃねぇよ!」
「ふふっ、冗談だよ」アスコット
「それを思うとレオットとファニーとピーシスとはそういう思い出はないんだな」
「私にもありません」イザベラ
「そうなのか?俺には凄まじい勢いで押しかけて来られた明確な思い出があるけど、朝から玄関で大剣がー!とか騒いでたし」
「はははっ!そんな事がありましたね、私が梳李とまだ寝ていたいって言ったからそのまま出ちゃって」アリアナ
「私もイザベラは強烈な印象が残ってますね」オリビア
「それなら遠くに行く事は出来ないかもしれないし、多くの時間は作れないけど、ヴィーナスに乗って1人づつ夜空をのんびり散歩しながら、ゆっくり話でもしようか、みんなと話をするのがとても楽しいんだよね」
「やっと念願がかなって、梳李に抱かれてヴィーナスに乗れるのですか」サラ
「そうだな、次の機会がまだだったね」
「あの…その時は月を眺めて…キ、キスをおねだりしても良いですか…ヴィーナスに悪いですか」アン
「お姉ちゃんは何を質問してるの」サラ
「だって梳李に抱きしめられてとろけるアスコットを見た時に憧れちゃったんだもん」アン
「私に乗ったまま、もっと凄い事をしても全然平気ですよ。あえて言うと、私は主を背中に感じるだけで幸せですから、主を乗せて馳せる事が何よりのご馳走なのです、ずーっとそうでしたからね」ヴィーナス
「それでみんなで寝ていた時も気がついたらヴィーナスは梳李にくっついて寝てたんだね」アン
「私はユニコーンの性質上、危機意識が強く、外敵から身を守るようにできているので、梳李と触れていないと安心して眠れないのです」ヴィーナス
「それでいまでも気がついたらヴィーナスが寝ているんだね」アリアナ
「出かけた時も必ずくっついているしね」オリビア
「潔癖な私が唯一心を許したのが梳李なのです、少しだけ大目に見てください」ヴィーナス
「それは仕方ない事だね」ヘッカ
「話をすると言っても内容がある話はできないだろうけど、そんな思い出で良かったら奥様会議で順番を決めてね」
「それでは第3回奥様会議を開催する!」ヘッカ
「いきなりやな!俺はまた自室にいるからな」
今日の会議は比較的あっさりと終わったらしく、今日から夜空の散歩を始めると言ってファニーが入ってきた
「ファニーはお腹すいてないか?外も暗くなったし行こうか」
「はい♡」
「今日も月も星々も綺麗だな、ヴィーナスはご苦労さま、思い切り馳せたいところだと思うけどのんびり頼むよ」
「はい!主!」ヴィーナス
「はははっ!こういう時は主と言う方がしっくりくるか?」
「はい!」ヴィーナス
「あ、あの…原初の魔王様…」
「そんなにかしこまらないで梳李で良いし、緊張する事はないぞ」
「梳李は私をどのように思っておられますか?」
「不安だったか?その質問をさせてごめんな、大好きだぞ」
「不安と言うよりも、梳李は誰にでも優しいから、私を大切にしてくれるのが優しさなのか愛情なのかがわからなくて…どちらにしても幸せなのですけど、愛されたいと思う気持ちが日に日に強くなってしまって」
「ありがとうな、こんな俺の事をそんなに思ってくれて、嬉しいぞ」
「そうだ!せっかくだから酒でも飲むか」
「はい!頂きます!」
「良いな!月を見ながら酒を酌み交わす、最高に贅沢な時間だ、腕の中には最愛の妻がいて、俺にとってもとてもかけがえのない時間だ」
「そんなに甘くささやかれたら溶けてしまいますよ」
「いいじゃないか、ファニーが幸せならそれで」
「私は梳李を幸せにしたいのです」
「ファニーが得意な事はなんなんだ?料理とか魔法とかなんでもいいぞ」
「私が魔王陛下の第三夫人の娘だと言う事はご存知ですよね」
「聞いているよ、前の開発室に来ていたことも」
「第三夫人に育てられた私は夜伽の時に殿方を喜ばせる技を叩き込まれました、それ以外には特に何もありません、それなのに梳李は私を大切に扱って、そういう時もとても甘い時間に包まれてしまって私が夢中になってしまうので、なにもできないのです」
「別にいいじゃないか、生きていたら何が正解で何が不正解かなんてわからないのだし、ファニーはファニーであればいいさ、第三夫人のお母さんはファニーが困らないように、そういう事を教えて王族でいられるようにしたのだろうけど、本音を言えば自由に生きて欲しいと願っていると思うよ」
「私にはなんの利用価値もないのですが、それで良いのでしょうか」
「利用価値か…王族らしい質問だな、俺がファニーにそばにいて欲しいと思っている。という答えではダメか?ファニーが居なくなると俺は悲しいよ」
「ですが私はなにをしてあげる事もできません!」
「いま俺の腕に抱かれて俺を幸せにしてくれているじゃないか」
「そんな事は他の者でもできます!」
「悲しいな…そんな事はないぞ、俺は確かに妻が14人いるけれど、誰かと誰かを比べた事は一度もないよ、誰もが唯一無二の存在なんだ。確かにファニーが言うように、ミーティアを腕に抱いても幸せだよ、だけどそれはミーティアが与えてくれる幸福感で、いま俺が感じている物とは違うんだよ。ファニーはファニーにしか与えられない物を俺の心にくれているよ」
「そういう優しさに甘えたままで良いのか不安になります」
「私を見てください!」
そう言って肌を晒したファニーは綺麗だった、愛情が何かを欲している心に嘘はなく、とても純粋な想いが流れ込んできた、順当な流れで言うとおっぱじまる所だったのだろうが…
「そっかそっかー、ファニーは月と私とどっちが綺麗か聞いているんだな?そうだなあ、ちょっとだけファニーの方が綺麗かな」
「もー!わかってるくせにずるいですよー!」
「今日から夜寝る時は一人づつになったのか?ファニーの順番だったもんな」
「そうです、2日に1回ひとりで2日に1回全員になりました。夜の散歩も2日に1回です」
「それなら寝る時にゆっくり愛し合えばいいじゃないか、もっと自分に自信を持って」
「そうだなあ例えたら、もしもルシフェルがファニーを返せと言ってきたら、ギガントにひとりで戦争をしかけて、国を滅ぼしてでも絶対に返さないよ」
「梳李!大好きです!」
「ヴィーナスが夜中に入ってくるのは大目に見てやってくれな」
「はい!それは他の全妻の共同認識として可決されました」
「良かったなヴィーナス」
「はい!主!」
どうでもええねん!という声がどこかから聞こえた
第93話に続く




