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第9話 アスコット・アンダーソン


寝る前に雷風と駆けようか…


「雷風!行くか!」


一通り騒ぎは落ち着き、作戦本部でも、今日の結果を受け、セントラルに報告に戻る事で落ち着いていた


「雷風!夜空が綺麗だな…月も星も明るく照らしてくれる」


「はい!主!私は大空の下で大地を駆けたかったのです!夢が叶ったようです!」


「夢か…始まったばかりだぞ」


ブン!ブン!ブン!


「誰か…こんな時間に剣を振っているのか」


「そのようです。おそらくはアスコットなる娘かと…」


「やぁ!アスコット様は鍛錬ですか?」


「これは、梳李殿!寝る前に剣を振らないと落ち着きません」


「アスコット様は生真面目な性格なのですね。剣を振る姿勢も、夕方の話も、真面目な人格がにじみ出ていますよ」


「梳李殿…アスコットとお呼びください。様と言われては、話がしにくいです」


「そっか…それじゃアスコット!今日は素振り禁止だ!乗れ!」


「良いのですか!」


「特別に乗せてやる!」


「手綱はないのですか?」


「そんなもんは無い!」


「では、どうやって思う方に進むのですか」


「俺が右と思えば右に行く。飛んで欲しいと思えば空を駆ける!」


「雷風!大ジャンプだー!」


「あの…梳李殿」


「どうした?」


「前に座ってもよろしいですか」


「いいぞ…どうしたんだ」


「いつか殿方の前に座って、抱かれて見たかったのです」


「スキル誘惑を覚えました」


「スキル魅了を覚えました」


「スキル人でなしを覚えました」


「憧れていたなら、もっと俺じゃない人の方が、いいと思うけど」


「梳李殿が大剣を、木の葉のように振り回す姿が目に焼き付いて離れないのです。あのように美しい剣技を、今まで見た事がありません。そんな方の腕で、この美しい馬の背で、この美しい星空の下で…アスコットの一生の思い出とさせていただきます」


「聞いていいか?嫌なら話さなくてもいいけど…」


「なんでしょうか?」


「アスコットは美しく若いのに、なぜ剣で身を立てようとしてるんだい?」


「面白い話じゃありませんが聞いて頂けますか?」


「聞くよ」


「私の家は人の国で、代々騎士の家系なのです。1番上に兄がいて次に私、あと下に弟が2人います」


「私は優しい兄上が大好きで、いつも兄上の真似ばかりしていました」


「兄上は元々病弱だったのですが…剣術学校に入学する10歳を迎える年に、病気が酷くなったのです」


「期待していた兄上が、跡を取るのは困難と判断した父上は、兄上の顔も見ないようになり、食事も部屋で取らせるようになりました」


「弟達は自分にチャンスが回ってきたと、兄上を虐げ、一生懸命父上に手柄をアピールするようになりました」


「騎士の心構えについて厳しく育てられた私は、父上や弟達の振る舞いが、とても卑しく思えて距離ができていきました」


「女の私が家督を継ぐ事はないのですが…せめて剣技では弟達の上をいき、兄上の居場所を作ろうと努力してきたのです」


「それに私は強くなければ、親の七光りで出世した。といわれます」


「よくありそうな話だけど…この美しい大空の下に腐った人も生活してるんだな」


「お聞き苦しい話を失礼しました」


「いや…かまわない…あとなアスコットは強いと思うぞ!」


「弟達に引けは取りませんが…私などまだまだです」


「他の隊員を逃がす為に、殿をかって出たじゃないか…アスコットの剣技が、どの程度かわからないけど…勝てないとわかっている相手に、立ち向かう事は…誰にでも出来る事じゃないよ」


「無我夢中だっただけです」


「無我夢中で逃げた人も居たじゃないか…アスコットよりも強そうなのが一人、最前線の隊を指揮していた者が…」


「世の中は平和です。英雄も求められていなければ、勇者も必要ありません。誇り高き精神は多分どこかに行ってしまったのです」


「アスコットがそういうなら、そうなのだろうな」


「梳李殿に抱かれて見る月はとても美しいと感じます」


2人でしばらく空を眺めた。平和な事に間違いは無いのだろうけど…水面下では色んな欲望も陰謀も、渦巻いていそうだな。と思う梳李だった


「冷えてきたな帰るか…後ろに乗るか?」


「そうですね…さすがに野営地に、このままで入っては、何を言われるかわかりませんね」


「ところでセントラルで、身分証を発行するのはどうするんだい?」


「それは…冒険者組合か、商業組合に登録する形になりますね。過去に犯罪歴がなければ問題ないですよ」


「冒険者組合か!それだな!セントラルにダンジョンはあるのかい?」


「もともとセントラルはダンジョンの為にできた共同国家と言われています。500年前に大陸中央にダンジョンが出現しました。今でもダンジョンそのものが成長しているそうですが…地上100階地下100階とも言われているダンジョンは、鉱石や魔石、植物や水脈…あらゆる資源を生み出しています。出現した500年前は各国が自らの領土と主張した事により、戦争が起こったそうなのですが、各国が共に衰退していった為に、条約が結ばれ共同国家が誕生したと歴史にはあります」


「そんなに大きなダンジョンがあるのか…楽しみだな」


「梳李殿は冒険者だったのでしょうか」


「わからないけど…違うんじゃないかな。ふつふつと好奇心が湧いてくるような…この気持ちは、過去に冒険者だったのなら、持てないと思うな。記憶が無いからわからないけど…本能ってそんなもんじゃないかな」


「記憶が無くて、不安はないのですか?」


「ないよ…もともと自由気ままに生きてたんでしょ」


「梳李殿と話をしていると、大変な事でも些細な事のように聞こえますね」


「この雷風の扱いはどうなるかな…魔物だよ」


「冒険者組合に従魔として登録すれば街の出入りも大丈夫ですよ。ただ…共同国家と言っても、ひとつ、という訳ではないので、窓口も各国別になっていますし…手続きは私もいきますね」


「申し訳ないね。お言葉に甘えます。何かで埋め合わせしますね」


「とんでもないですよ。命を救われ、生まれてはじめての美しい夜空を見せて頂きました。私の方がお返しです」


「今日はありがとう。明日は朝には出発の準備をしておきますね」


平和で美しい世界…色々微妙な話だったな


「さて…寝るかな。雷風は中で寝るか?」


「外だと落ち着かないだろ?」


「主!そうさせてもらいます。人が通る度に、まじまじと見られる事にまだ慣れません」


「雷風にも苦手はあるんだな」


「ところで梳李様…いい雰囲気でしたね」


「委員長が冷やかしに出てくるとは思ったけど…そんなんじゃないよ。アリゲーターが襲撃した時、あの場面で臆すること無く殿をかってでた。その勇気に礼を尽くしただけだよ」


「だけど…彼女の方は目がハートになってましたよ」


「というか…スキル人でなしってなんだよ」


「人でなしです」


「答えになってねぇよー」


「予想ですが…あの子の気持ちを受け入れても、受け入れなくても、泣かす事になるのではないですか?女の子を泣かす男の子は人でなしです!」


「どんな効果があるんだよ!」


「発動させると、相手の信頼が薄くなります。思わない相手に告白されそうな時、などは有効ですね」


「いやなスキルだな…それよりセントラルの話を聞いてどう思った?」


「魔物以外にも脅威はありそうですね」


「そうだよなー」


人と接する事で、踏み出した新たな一歩…この夜空のように美しい時間が少しでも長く続いて欲しいと願う梳李だった



第10話に続く


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