第8話 激突!先発隊VSアリゲーター大軍勢
深淵の大森林を出ようとした所で、アリゲーターの大群を発見した。楽しみにしていた大草原にはバリケードがはられ、弓隊が配置されている。投石機や槍発射台もあり、こちらに攻撃をする準備が出来ていた
少し離れて様子を見ている雷風と梳李だったが…魔物側はサイクロプスを指揮官に、アリゲーターの大群が北上を始めてしまった。大群の中にはアイアンやメタルと言った上位種も混ざっており軍隊の苦戦が予想された。肉食のアリゲーターにすればウロウロ動き回る軍人が全て餌に見えるのだろう
「カーン!カーン!カーン!」
「敵襲!敵襲!」
地べたを這いずるアリゲーターだが、体長は10mを超える。軍隊からは分厚い地面が、波を打って近づいて来るように見えたのだろう。魔物襲撃の合図が鳴り響いた
「あれ…軍隊らしき人達で勝てるのか?」
「多分…難しいと思いますよ」
「大体…あの人達はなに?」
「恐らく…セントラルから来た軍隊ですね」
「何しに来てんの?」
「とても言いにくいのですが…梳李様が落下して来た姿が、隕石に見えたのではないでしょうか!」
「え!?俺の責任?」
「この世界の文明では星降り…流れ星は不吉の象徴とされています。そんな世界に空から炎が降ってきたら…」
「もしかしたら…世界の終わりが来た!とか、平和な時間が終わりを告げる!とか、大騒ぎしてるかもしれませんよ」
「どうしたら良いと思う?変に出ていって、厄介事に巻き込まれたくないし…かといって、放置する訳にもいかないし…」
「私は梳李様の心のままにすれば、良いと思いますよ」
「我は…どこまでも主の指示に従います」
「結局、俺に決めろって事ね…雷風…やつらには、雷撃は効くのか?」
「小さめの個体は絶命、大きい個体は麻痺、アイアンやメタルは無傷かと…」
「大多数の足止めが可能なら、危なくなってから動いても間に合うな。俺に、アイアンやメタルは斬れるのかな?」
「他愛も無い事だと思いますよ」
「それなら、ギリギリまで軍隊側がどうするのか様子をみて…撤退しないで激突するようなら、負傷者が出る前に、俺達も参戦して助けようか…」
「始まったら…この戦場は雷風に任せるよ。自由に走って飛んで、駆け回ってくれたら…俺は背中で狂喜乱舞するよ」
「おまかせください…主!」
そんなに移動速度が早いわけではないが軍隊との距離を確実に詰めるアリゲーターの大群
「撃てー!」「撃てー!」
「弓も投石も槍も効いてないな」
「アリゲーターと言えども、大森林を生き抜いてきた魔物です。あの程度で傷が付くとは思えませぬ」
「軍隊が撤退していくけど…撤退指示が遅いな…押し込まれそうじゃん」
撤退する兵をアリゲーターが追いかける。そのアリゲーターから部隊を守るように一人の戦士が立ちはだかった
「なんだ!殿か!」
「まずいな…雷風…少し距離をつめて、あの人が、危なくなったら走れ!」
あっという間に囲まれた!
「主!行きます!」
落雷でアリゲーターの足を奪い、命を奪い、次から次に両断する!殿の戦士の元に雷風が飛ぶ!
「ライカゼ!走れ!飛べー!」
「はい!」
兵士を救出した後も…梳李と雷風は走った!その姿は、新しいおもちゃを手に入れた子供ように、純粋な光で目を輝かせ、くるくると回る輝く大剣も、疾走し続ける輝く雷風も、戦場中を魅了し、夢を見ているような気持ちにさせた。魔物側は300を超える大軍勢だったが…梳李と雷風によってあっという間に200が壊滅、アリゲーターの撤退が始まった
「追わなくて良いな…それに刺激しなければ出てこないだろ…雷風!楽しかったな」
「主!広い草原とは気分が良いものですね」
「まったく…梳李様も雷風も不謹慎ですよ!」
殿を務めた軍人さんは、突然の出来事に尻もちをついて、放心状態になっている
「あの…大丈夫ですか?」
作戦本部のある本陣も、梳李と雷風が駆け回った姿にどよめいている
「ちょっと!大丈夫ですか!」
「は!あなたが助けてくださったのですね。ありがとうございます」
女の子だったのか…人族…勇敢だな
「大丈夫ですね。それでは私はこれで」
「お待ちください!あなたがいなければ私の命はなかったでしょう。それに部隊も全滅していました。せめてお礼をさせてください」
「お礼とか…必要ないですよ。目の前に危険を背負ってる人が居た。助けたかったから頑張った…ただそれだけです」
「私は今回の調査団の隊長を務めます。アスコット・アンダーソンと申します。申し訳ないのですが…お話も伺いたいのです」
「私はケズリ・サメハダと申します。何かの調査団と仰るなら…できる協力はしましょうか」
アスコットに案内され少し後方にある作戦本部に来た。撤退したばかりで、まだ興奮が冷めない兵士達は、梳李と雷風に拍手を送り、方々で感謝や称賛の声がした
作戦本部の前に雷風を待たせ…兵士には、触ると怒るから雷撃をくらう場合もあると注意してなかに入った
「改めまして、隊長のアスコット・アンダーソンです。この度は助太刀本当にありがとうございました」
「いえ、ほんとにお気になさらず」
「梳李殿、教えて欲しいのですが梳李殿はどこから現れたのですか」
「大森林の入口です」
「そんな所に住んでおられたのですか」
「旅の途中だったと思うのですが…気がついたら、この大草原にいて、食料を求めて森に入っていたのです」
「しかし、この森は、凶悪な魔物の住処となっていて、どんな種族であれ、立ち入る事も難しいとされている所です」
「それは、よくわかりませんが…食べないと生きていけませんし…必死だったんですよ」
「隕石についてはご存知ですか?」
「この大草原を通っている時に、見た記憶はあります。ですが、その後で名前以外の事はなにもわからなくなって…」
「そうなのですね。我々は隕石落下という天災に直面し、セントラルから調査団として派遣された軍隊なのです」
「スキル偽装を習得しました」
「スキル説得力を習得しました」
「私もその隕石を見たあと、どこに行くことも出来なくて、この辺りをさまよっていましたが…特になにも無かったですよ」
「そうですか…それなら良いのですが…セントラルでは対策本部が設置され、この厄災をどう対処しようかと、連日5カ国共同会合が行われていまして…」
「それ以上の事は私にはわかりません。申し訳ないです」
「調査団としての質問はここまでです。あとは、個人的な梳李殿に対する好奇心で質問してもよろしいですか…」
「聞かれても私もわからない事があるので、それを前提として質問して頂けるのなら、答えられる事は答えますよ」
「見た事も無いような華麗な剣術、光り輝く美しい大剣、猛スピードで疾走する馬…全てが不思議なのです」
「剣術の善し悪しはわかりません。ほんとに…ただ…助けたいと思って無我夢中でした」
「ユニコーンは…目を覚ました時に、私を守るようにそばに居てくれたのです。大剣はユニコーンから譲り受けました」
「そうなのですか…嘘を言っているようには思えませんが…我らの常識では、考えられない事だらけでして…」
「そうですか…アンダーソン様のご期待に添える答えも持たず、申し訳ないです」
「スキル超偽装を習得しました」
「スキル超説得力を習得しました」
「私の事はアスコットとお呼びください」
「梳李殿はこれからどうなされるのですか」
「記憶をなくしてから、初めて人に会いました。どこに向かえば街があるのか…なにもわからないまま1ヶ月近く過ごしていたのです。アスコット様に方角を教わって、街を目指しましょうかね」
「身分証はお持ちなのですか」
「なにもないのですが…ここに居てもなにも始まらないので」
「それなら…セントラルまで私は報告に行かねばなりません。身分証の発行や街での暮らしをサポートさせては頂けませんか」
「アスコット様のような美女に、サポートさせるなんて事はできません。街に入れるようにだけ、取り計らってくれたら充分です」
「最後にもう1つだけ質問なのですが…今日攻めてきたアリゲーターはまた北上すると思いますか?」
「勝手な見解ですけど、森には食料や住処という、魔物が生息するのに適した環境があります。たまたま皆さんの事を食料だと思っただけで、こちらになにもなければ、草原に出てくる理由が無いと思いますよ」
「なるほど…とても参考になる意見、ありがとうございました」
「セントラルへは、明日出発します。梳李様にテントをひとつ空けますので、どうぞお使いください」
「ありがとうございます」
たまたまの偶然だが軍隊の少し偉い人と知り合いになれた。ここは、流れに身を任せてセントラルに行ってみようと、胸をはずませる梳李だった
第9話に続く