第75話 想いの数々
一泊する宿場街へ到着した、街道はよく整備されていた。馬車の揺れも少なく休憩場所に困る事もなかった。国王の滞在にセキュリティを心配したのだが、好景気に沸く世界は平和で、国王が生命を狙われるような事は無いと笑っていた。各国から参加した演者の面々も、王様を近くに感じられる良い機会となった
「みなさん!お疲れ様でした!食事は広間に用意してあります!風呂で湯浴びをしてから着席してください。私と各国王様は前方にいますので、歓談を希望される方は順番にどうぞ」
デイビスでも行ったような悩み相談がはじまった。普段は見ることのない王様達の対応は、とても新鮮に感じた。4人が揃ってじっくりと話を聞いた上で、治安に対する事や地方都市の問題点を聞き、改善策を話し合っていた。共通している事は街道の問題、農園に使用する水の問題、衛生面や排水の問題が多く寄せられていた
「ヘカテー王国の排水や水路は良く考えて作られていたが、あれは梳李が設計したのか?」ルシフェル
「そうだよ。大きな川を2本繋ぐように国内に引き込んだんだよ。排水は街の地下に水路を建設する事で、衛生面も万全にしてある」
「建築家達を見学に行かせても良いか?国が潤っている間に王都だけではなく、地方都市の整備もした方が良さそうだ」ライオネル
「族長のシモンズに話をしておくから、いつでも歓迎するよ」
「ただ地方都市に大掛かりな開発を施しても、人口は減少方向にあるから難しい所ではあるんだな」ルシフェル
「近くに大きな工場を作って作業員が住むようにするとか、開発と同時に国家事業を立ち上げればいいんじゃないか?」
「確かに王都に集中している今の工房の数々は、手狭になり生産力が落ちている。ブラックスミスの街が都市としては発展しているが、アルフ工房のおかげではあるな」ホーガン
「この旅の間に少し相談に乗ってくれるか」ライオネル
「構わないよ」
「あとな!これがわしの娘じゃ獣人族の中でも獣王種じゃぞ!可愛がってやってくれ」ライオネル
「は、はじめまして、梳李です」
「梳李様、私は何度も遠目にお見受けしておりましたが、こうしてお会いするのは初めてですね。第1王女のレオットと申します、歳は25才です梳李様は年上の女はお嫌いでしょうか?」
「妻はみんな年上なのでそんな事はないですが」
「では獣人の女はお嫌いですか?」
「好きも嫌いも判断材料もいままでありませんでしたので、その質問にはお答えする術を持っていません」
「やはり誠実なお方なのですね、普通の殿方なら、この場は適当に受け答えされるでしょうけど、まっすぐに本音を語る姿がとても美しいです」
「梳李よ!レオットを嫁にする事を考えてやってくれんか!」
「いきなり嫁と言われてもなあ、俺は11人いる妻を全て均等に愛しているし、共有する時間に多少の差はあるけれど、誰1人として区別した事はない。結局はレオットさんの事を好きになれるかどうか?大切に思えるかどうかが問題で、獣人だからとか年上だからとか言う事が理由ではないよ」
「梳李様の大切な者や愛する者の定義はなんなのでしょうか?」
「それは簡単な質問だね、その者が傷付けば、自分が傷付く事よりも痛く、その者が悲しくなれば、俺も悲しい、笑顔であれば幸せだと思える。そんな当たり前の事ですよ」
「馬車の中では時折奥様を抱っこしてらしたとお聞きしましたが、それが理由なのですか?」
「それは疲れた私を癒すために妻が甘えてくれただけですよ。私が頼んた事です、愛おしいと想い触れ合う事が最大の癒しなだけですよ」
「レオット様はじめまして、妻のフェアリーと申します。梳李が私達を大切にしてくれるように、私達も誰ひとりもれる事なく梳李を大切に思っています。レオット様は王族ですから恋愛感情を持つ事など許されないのかもしれませんが、私達庶民は梳李を含めて恋愛感情からしか始まらないのですよ」
「なるほど…わかりました、父上!私はケズリファミリーへ押しかけようと思います!」
「ふふふっ!梳李の意思は確認されないのですか?」
「私は恋愛感情という物が確かに良くわかっていませんが、梳李様を思うと胸のあたりが苦しくなります。少しでも傍に行って私を見てもらいたいと思います。王族である私は幼少の頃からあらゆる教育を受けています。何かしらお役に立てると自負しています」
「梳李!わしからも頼む!傍に置いた上で気に入らなければ追い返してくれて良い!1度チャンスを与えてやっては貰えぬか」
「梳李、それなら私が預かりましょうか。開発室と大会企画室へ連れて行きますよ」
「フェアリーがそういうならそうしようか」
「それならギガントからも1人使わすから受け入れてくれよ」
「国で一番の魔法の才能と器量を持っていて、尚且つ梳李を大好きな者を出す」
「ギガントの者は開発室にすでにいますね。休憩の度に梳李の話を聞いてきて、目をキラキラさせる可愛い女の子が、確かファニーと言いましたね」
「おお!そうだ!ファニーが居たな!ファニーは第3夫人の娘だから王族だしちょうどいい」
「なにがちょうどいいのかわからんが、ライオネルにもルシフェルにも釘をさしておくが、俺は妥協はしないぞ、流されて妻にしたのでは、本人にも他の妻にも申し訳ないからな」
「それでいい」ライオネル
「もちろんそのつもりだ」ルシフェル
「ではおふたりとも私がお預かりしますね」
「わかったフェアリーに任せるよ」
「サメハダに到着したら他の者にも伝えます」
そこにヘッカが現れた
「梳李ー!みんなサメハダに先に行って待っているけど、私は梳李が居ないと寂しいのだ」
「どうせ温泉に入って食事が終わったら退屈になったんだろ?そんな事にアルカーヌムを使うとは」
「た、退屈なわけじゃ、ないよ」
「なぜ汗をかく!」
「か、かいてないよ…それよりレオットと言ったかライオネルの娘よ!我が女神ヘカテーの名において許す!でも覚悟しておかないとついてはこれないよ。私達はみな梳李に甘えてベタベタしているが、梳李のこの星に対する献身的な激務を目の当たりにしている。ベットで疲れ果てて寝ている梳李を見て、誰もがもっと自分に才能があって、役に立てたらどんなに良いかと涙する。それは梳李の優しさや思いやりに対する妻としての覚悟と戦いなのだ。中途半端では務まらないよ」
「女神ヘカテー様!わかりました!今一度真剣に考えて決意した上で、フェアリー様と共に参ります」
「みんなそんな風に思ってくれているのか…俺もみんなに甘えてるよ。それに居てくれる事が俺の幸福でもあるから、才能があったらとか考えないでくれよ。俺もみんなを必要としているからさ」
「膝にいってもいい?」
「おいで…こうして抱えたらいいか」
「レオットに表現したからあんな風な言い方になっただけで、単純にみんな梳李が大好きなだけだよ、目の前で無防備に寝てくれたら嬉しいし、疲れてるのかなあと思うともっと役に立ちたいと思う。理屈じゃないよ」
「ありがとうな」
「我ら王もそうでなくてはならんな!梳李よ!わしも決意したぞ!ズーダンという国に献身的に奉仕する!」ライオネル
「わしもです、梳李が与えてくれた稲作地域に行き、不便はないか?道具は改良できないか?民の声を聞きに回ろう」バッシュ
「わしもじゃ!」ホーガン
「原初の魔王様!我も誓います」ルシフェル
大きな拍手が起こった、やり取りの一部始終を演者達は聞いていたようだ。ある者はファミリーを目指し、ある者は自分には無理だと諦めた。ただ、国を治める事の大変さや、自分達の生活が守られて成り立っている事は脳裏に刻まれたようだった
第76話に続く




