第72話 神殿建設と新商品
「ヘッカに相談があるんだがいいか?」
「どうしたの?改まって」
「ポセイドンとアンピトリテの神殿をどうする?ゼウスのも造った方がいいのかな?」
「そうだなあ…今の神殿に像だけ建立してはどうだい」
「ヘッカがそれで良いならそれも考えるけど…俺がヘッカならそれは嫌だからさ」
「なんで?」
「ヘッカの神殿はヘッカの為に造ったものだからさ、例えが少し違うけど、俺はポセイドンみたいなヤキモチは妬かないけど…ヘッカの事もフェアリーの事も他のみんなの事も俺が独占したいもの、他人に立ち入られたくない領域というか…参拝者が利用してくれるのは良いけど、触れられたくない場所というかさ」
「確かにそういわれたらすっごい嫌かもー」
「海の近くが良いとかあるのかな、直接本人に聞いてみようか」
「そうだねその方が早いね」
「ポセとアンピは少しいいかい?」
「どうされましたかな」
「ポセとアンピの神殿を造ろうと思うんだけど…海が見える所が良いとか、陸地でも水場があれば良いとか希望を聞きたくてさ、あと長兄ゼウスの神殿は造るべきか、造らないべきかというのを教えて欲しいんだよ」
「ゼウスの神殿はセントラルとヘカテー王国に、立派な物を建造されるのが良いと思いますが、我らは従者として修行中の身でありますれば、神殿など分不相応にごさいます」
「ポセもアンピも心して聞いて欲しいけど、たまたまポセが短気でアンピが妃だから、いまは従者という仮の住まいで暮らしているが、本来は海神ポセイドンと海の女王アンピトリテなんだからさ、俺は人格部分をたまたま従者にしているだけで、神様を従者にしている訳では無い。ヘッカとの関係も、遊び相手として俺が伴侶になっているだけで、星の女神ヘカテーとしては、俺のような人間では、図り知ることはできない大きな役割があると思っている。またポセイドンとアンピトリテも同じでな、従者としての存在と、神様として宇宙にある全ての水場をを守る役割を果たす使命は、同じであって同じではないと思っているんだよ」
「いわんとする事は雰囲気でわかりました。そのように考えてる頂けるのですね、兄上が行動原理と思考回路とおっしゃった事が理解できた気がします。そういう事ならヘッカや兄上と同じ場所で少し控え目な物を、アンピと一緒にして造って頂けば、我らの力もみなぎって来ると思います」
「神様の序列で言うとヘッカより上なんだよな、ヘッカ的にはどうなんだい?」
「私は王国の神殿とセントラルの神殿があれば、数百年後に梳李に寿命が来たとしても、思い出を抱いて生きる事ができるし、この星では女神ヘカテーは唯一神のように崇拝されているから、気にしなくていいと思うよ。創造神ゼウスは宇宙共通の最高神だから、一番立派に造って、私の神殿と同じくらいのやつをポセイドンとアンピトリテに造ってあげたらいいんじゃないかな」
「それなら創造神ゼウスが真ん中で、右に女神ヘカテー、左にポセイドンとアンピトリテでいいか?神殿三棟だけど一棟に見えるような最高傑作を設計するよ。神殿広場には噴水を造って、そこからポセイドン達の神殿に人工の川を流すよ」
「神殿内部の壁には神々の役割や、どのように生まれたか等の生い立ちも紹介して、その土地の絵や系統図も飾ろう。そうする事で後世の民衆にまで崇拝する理由を教え、学問として学ぶ事もできるようにしておこう」
「そんなに後々の事まで手を打ってくれたら、また強い絆ができて何かが進化するかもしれないね、それなら梳李の像も造るべきじゃないのかな」ヘッカ
「そうですよ、梳李の像も後世に残すべきです」アンピ
「それはおこがましいよ。みんなは神様だから信仰心を力にするけど、俺は人だから神様に守られて感謝する立場だからさ、どんなに星に貢献するような業績があったとしても、どんなにヘッカやポセと親しくしていたとしても、勘違いをしないようにしなきゃ。そういうのは俺が亡くなった後で、ファミリーに残った者たちが考える事だよ」
そして神殿建設は始まった。ゼウスの像や文献的な物はフェアリーに知識があった。ヘッカもポセもアンピもとても完成が待ち遠しいようだ
「こんどはわしから相談があるのだけど、わしは宇宙全土の水場につながっているのだけど、問題が発生してわしとアンピで解決が困難な時は、梳李に助太刀してもらいたいのじゃが」
「他の星に行くって事か?」
「まあ…そうそう起こることではないけど、もしもの場合にな」
「俺は神々が定めたルールがわからないから、個人的に良いとか悪いとか言う立場じゃないのかもしれないけれど、ポセやアンピに頼まれたら、嫌とは言わないしセブンスターズとして全力でそれを排除しに行くよ」
「そう言ってもらえたら助かる、こんどゼウスに会ったら時空を超える許可をもらえるか確認しておくから、万が一の時は頼みます」
時空を超えるの意味をよくわかってなかったのだが、のちに過去に遡ったり、未来に移動して神々の争いにセブンスターズが巻き込まれる事になろうとは、この時の梳李は夢にも思っていなかった
「梳李、開発室に来れますか」
フェアリーに呼び出され開発室に来ていた。魔石プレイヤーの試作品が完成したからである
「相変わらず仕事が早いな」
「優秀なスタッフをヘカテーから揃えていますし、魔人族も海人族も魔力の扱いがとても上手く、私が魔法式を上手く構築できたら改良や量産の方法は彼らの方が長けていますね。この調子でいけば、大抵の物は作れそうですよ」
「ルシフェルも魔道具に関しては身を乗り出して協力するって言ってたもんな。他に給料や生活の身の回りで困ってる事もないな」
「やはり利益とか国のメリットの前に、時代の変革期にあって、どのような功績を種族が残して行くかと言う事が、どの国にとっても重要な事のようですよ。働いている者もその辺の事は誇りに思っているようで、不平不満をいう者は1人もいません。上手い流れを作ったものですね」
「俺はそんなに計算高くないよ。各国に対して純粋に、平等と調和を優先して来ただけさ」
「それが良いのですよ、欲の無い者には勝てませんからね。それはそうとズーダンとクラフトからは国家勲章の相談がありましたよ。内密に相談したいと私に問い合わせがありましたが、そのような物を作ろうと作るまいと、与えられようと与えられまいと、梳李の態度が変わる事はない、とだけ伝えて起きました」
「うんうんそれでいいよ、大賢者勲章でも原初の魔王でも名誉族長でも、英雄みたいに言われる事は疲れるんだよね」
「それは私からひとつ梳李に言っておきますよ。民衆は肩書きに賞賛の声を贈るわけではないですよ。肩書きがほんの少しの風にはなるだろうけど、所詮は梳李がいままでして来た事に対する結果でしかありません。民衆が見ているのは、そこに至るプロセスなのだから、堂々としていればよいのですよ」
「こそばゆいんだよな」
「ふふふっ、梳李だね」
「ところで試作機いいじゃん、とても良い!」
「満足してくれたなら、ここの工房で生産に入りたいと思いますがよろしいですか?」
「そうだね生産しながら改良を重ねて、なるべく簡単に生産出来るように簡素化した上で、新商品として発表して、同時に技術も各国に公表するようにしようか」
「なぜいつも公表して世界中に技術を提供するのですか?ヘカテー王国としてもサメハダ商会としても、独占してる時間が長い方が大きな利益を産むじゃないですか」
「独占すると普及に時間がかかって高額になる為に、特権階級のステータスシンボルとしての時間が長くなるじゃん、それよりも一気に大量に普及させる事で、どこの家庭でも使えるような安価になる。加えて広く技術を公表する事により、専門的な新商品が完成したり各国の独自のアイデアが盛り込まれて、俺達には作れない商品に変化していく可能性がある。例えば冷蔵庫にオプションで取り付ければ台所仕事が楽しくなる!とかさ、俺は暮らしが楽に豊かになる事を望んでいるんだよ。ヘカテー王国とサメハダ商会はその為にあるから、独占して利益をあげるのは本末転倒だな、あとは単純に独占する事がずるく思えるだけだよ。地球では技術を独占する事で企業は庶民から搾取していた。俺はそれをくだらないと思っていた。それだけさ」
「わかっていましたが、簡単な事ではないですよね、尊敬しています」
「なんだよあらたまって」
「旦那様は素敵な人だと再確認しただけですよ」
「フェアリーも俺の知識の中にある商品をいつでも開発していいからね。もう伝えなくても全部わかるでしょ」
「はい!この魔石プレイヤーの開発で私も少し自信がつきました。知識を変化させる術を得たというか…以前から梳李の脳内の知識は読めておりましたが、代用する方法を理解したと言うのが適切な表現ですかね」
「信頼しているから、がんがん便利な商品を開発してよ」
「次はバッシュに話をしてエルフ族の精霊術に長けた者に協力要請をしています。精霊が宿る木材を作る事ができたら、映像が普及するかもしれませんよ」
「凄いなあ、娯楽の少ないこの星には画期的な商品だな、高額になりそうなら俺のストレージから使いたいだけ使って良いし、それは各家庭への普及を目指す前に、街の公園や公共の場所に配置して、街頭テレビのように始めても良いかもな」
なんとも夢のある話だった、日本でも戦後の高度成長期には、こんな風に魔法の電気製品が溢れていったのかもしれないな
すすけた顔にランニングシャツ姿の半ズボンの男の子、坊主頭が良く似合っていて、作業着の父親は世界一怖いが優しく微笑みかけてくれ、もんぺ姿の母親は泣いて帰ると抱きしめてくれる。いい時代だったんだろうな
第73話に続く




