第70話 海人族
フェアリーは議会と開発室の往復が日常になった為、エンジェルとヴィーナスとの3人の行動が増えていた。海人族の集落を発見するべく海岸線を北上していた
「あそこになにか見えるな」
「あれが目的地でしょうね。人の気配を感じます」ヴィーナス
200~300人の集落だろうか、海岸線には貧弱な家が立ち並んでいる
「こんにちはー!こんにちはー!誰かいませんかー!敵ではありません!代表の方と少しお話させて頂けませんか?」
「なんだ旅の者か?われらはお前に施しを与える事はできんし、泊めてやる事もできぬ、早々に立ち去るが良い!」
「族長!報告です!本日は時化により漁が不漁に終わりました、海神様の供物がまったくありませんがどういたしましょうか?」
「なんだと!それでは海神様の怒りにふれるし、われらの役目も果たせぬ、なんとかならぬのか」
「あなたが族長さんですか?お困りなら私の力をお貸しましょうか?」
「いかにもわしが族長のシャチだが、お前達人間に何ができるというのだ」
「漁に出て魚を捕ってきてもいいですし、ポセイドンと話をして今日は許してもらうようにもできると思いますよ、どちらでも望みを叶えてあげましょう」
「海神様と話をするじゃと?海神様の怒りに触れると大変な事になるぞ。地響きがして地面が波を打つように揺れて、巨大な海神様が海の底から姿をあらわされるのじゃ。人の力で抗うことなどできぬ!ならば旅の者よ、おぬしがもしも漁ができるというのなら、その腕を貸してはもらえぬか、先程は突き放すような物言いをして申し訳なかったが、助けてくれるのなら感謝はちゃんと形にしよう。寝る所を用意して、食事も取れるようにする。なんなら海人族の娘も床につけよう」
「どれくらいの量が必要なんだ?」
「砂浜にならんでいる船の一隻がいっぱいになるくらいだ、それでも我らが食べる分を考えたら足りないが、とりあえず今日の所は海神様の供物は供える事ができる」
「海神様の機嫌を取るのも大変なんだな、ポセイドンが姿を現したらそれはそれで注意してみるが、とりあえず魚を捕まえてくるよ」
海岸線から沖に向かう岩場を見つけたのでそこに向かって船を押しながら海上を歩いた。やはりヘカテーの海にある新しい人口の岩場に比べて、長い年月をかけて出来上がっている天然の岩場には、はるかに大量の魚が生息していた。幸せそうに泳いでいる所申し訳ないが、これも食物連鎖でな…地引き網を入れる
「あなたは梳李様ではございませんか」
「ああアンピトリテか?海人族はお前達の眷族なのだろ?あんまりいじめてやるなよ」
「われら神は崇拝されなければ力が弱まって行きます。神と言えども海に生きると言う事はとても気力も体力も必要なのです」
「それで俺にまとわりついていたのか、魔力が欲しいのだな。今日ポセイドンはどうしている?」
「他に集落を作れる場所が無いか探しにいっております」
「それなら近くに来い、魔力をやるからとりあえず漁の邪魔はしないでくれ」
「あん♡満たされていきます…身体中が梳李様で溢れていきます♡」
「変な声を出すなー!読者が誤解するじゃないかー!軽く手を繋いだだけだろうが!」
「やはり素敵な匂いのする殿方だと思っていました。これでしばらくは元気に生活できそうです。梳李様ありがとうございました」
「供物は無くても魔力があれば大丈夫なんだな。また後で会うことになるだろうが、海人族は俺の保護下に置くつもりだ。お前達の要望は聞いてやるが反論を許すつもりはないぞ」
「わかりました。ポセイドンが戻ったら申し伝えます。それよりもまた逢瀬を楽しみにしております」
意味深な言葉で締めくくって去っていったが、まったく神様と言うやつは、わがままなやつばかりなのか、不死であるにもかかわらず、ひとつの役割を永遠に務めているせいか退屈なのだろうか、ヘカテーを見ているとそんな気はするよな
「その事で良いですか?」
「お!ヴィーナスか、思考まで読めるようになったのか?」
「そうですね、梳李が集中して頭に思い描いた考えなら、離れていても感じられるようになりました。多分フェアリーもセントラルにいても、梳李の考えや行動は掌握してると思いますよ」
「少し恥ずかしいけど、そんなにも守ってくれていると思うと嬉しいな。それでどうした」
「ヘカテーと良く話すのですが、確かに神は退屈なそうです。それに役割が決まっていて他の領域には立ち入れない為、気分転換ができないそうで、大抵の神は慢性のストレスを抱えているようです」
「ヘカテーが神は万能じゃないって、良く言うのはそれが原因か」
「そうなんだよ梳李ー!神は退屈なんだよ、たった数100年で梳李が居なくなると思うと今から悲しいんだよ」ヘカテー
「突然割り込んでくるなあ、セントラルだろ?」
「さっきヴィーナスも言っていたでしょ。私はフェアリーと共に、梳李の思考も行動も掌握している。梳李に危機があれば、どこにいたってアルカーヌムを行使して助けに行く」
「フレイムヘイズ以外にも使えるアルカーヌムがあるのか」
「私は好都合にも海も大地も月も太陽も領域だからね。梳李がどこにいても影響下にあるから行けるんだよ」
「フレイムヘイズは満月の明かりを触媒とするから満月が必要だけど、支配領域を移動するくらいは容易い事なんだよ」
「そういう事を聞いているとヘッカも女神って感じがするなあ、それよりもサボっていないで、ちょくちょくマテリアルボディから離れて、神殿で参拝者に祝福を与えてやってくれよ」
「いま、ヘッカと呼んでくれたか?」
「ああ…ヘッカちゃんが気に入って居るんだろ!」
「おお!来るよ!来る!来ちゃう!」
「なにがだよ」
「女神のわたしは進化しないが梳李の名付けによって専用のマテリアルボディが来る!」
静かに時が流れた…
「ど、どうかな…梳李…こんな感じになったけど」
「おお!可愛いなあ!って…わざわざ見せに来たんかい!」
「だって梳李に褒めてもらいたくて」
「よしよし!とても可愛いし綺麗だよ。わざわざ来てくれてありがとうな」
「もう少しだけこのまま抱きしめていて」
「うんうん…んでヴィーナスはなぜ背中に張り付いた?」
「嫉妬してる訳じゃないのですが、他の奥様が可愛がってもらっていると、羨ましくなって、梳李の身体に空いている場所があると、くっつきたくなるのです」
「お前達はみんな可愛いよなあ、甘えられるのは好きだからちょーど良いんだけどな」
少し相手をしてシャチの所に船を引きずりながら戻った
「これだけあれば大丈夫か?」
「凄いですな…あなたは人族なのにそんなに漁ができるのですね」
「地引き網と言うのだが、これを魚がたくさんいる所に落とせば捕れるんだよ。大きいこの網を仕掛けて置いて、大勢で引き上げる漁もあるんだよ。今日はとりあえず多めに捕っておいたから、自分達の分も確保できるでしょ」
「ありがとう旅人よ!本日の宿と食事は約束通り用意させてもらいます」
「それは必要ないよ用事が終われば帰るから、それよりひとつ聞きたいのだけど、海人族は海岸でしか生存できないのか?」
「われらの与えられた仕事は漁をして魚を海神様に捧げる事です。生存はどこででも出来ますが、使命をはたせなくなります」
「それなら俺が海神と話をつけたら、海人族は俺の保護下に入る事も可能か?」
「民の意見をまとめる必要はありますが、ほんとに海神様を説得する事が出来るのなら、問題は無いと思います」
「族長はシャチと言ったか、心配するな梳李が全部解決してくれる。女神ヘカテー改めヘッカが保証する」
「あなたがこの星の女神様なのですか、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。ポセイドン様共々移り住んだばかりにございまして、言い訳をするようで失礼ですが、落ち着いたらどこかの神殿に報告に行かせてもらうつもりでした」
「それは気にしなくていいよ、ポセイドンの命令には逆らえないだろうしな、ポセイドンもポセイドンの眷族もどこの星に生存する事も許されている。挨拶に来ようと思っていた気持ちだけで充分だよ」
そこにポセイドンが海の水を盛り上げて登場した
「梳李よ!我を怒らせたようだな!アンピトリテと交わったそうではないか!あんな満足なアンピトリテを見たのは初めてじゃ!結婚して以来わしにもあんな顔を見せた事はない!」
「またヤキモチ妬いてんのかよ!魔力を供給するのに手を繋いだだけだろうが!」
「ええい!だまれ!この前はまさかの反撃に遅れを取ったが海上ではわしには勝てまい。そこにいる者を守りたくば、こちらに来てわしの領域で戦え!」
「わかったわかった…自分の眷族まで巻き込むつもりかよ、みんなは少し下がっていてくれ、ちょっと相手してくるよ」
「油断したらダメだよ、確かにこの前は砂浜に打ち上げられて、ただのおっさんになっていたけど、ポセイドンは神の中でも最強の一角、ましてや相手の支配領域だからね、信じてるけど本気でかからないとダメだよ」
「ヘッカがそう言ってくれるのなら本気で行く!エンジェルとヴィーナスは後方支援を頼む」
嫉妬に狂った海の神ポセイドン、梳李に勝負を挑んで来たがアンピトリテも含んだ者は全て梳李の味方をしている。引っ込みがつかなくなったポセイドン、やり場のない怒りを梳李はどう鎮めるのだろうか!
第71話に続く




