第68話 ちゃんと成長しているなあ
セントラル大会議室
「今日は俺から提案があるのだが各国国王も首脳陣も大丈夫かな」
「スタンバイは出来ている」
「各組合長も全員揃っているな」
「着席していますよ」フェアリー
「いまセントラルで開催される大会はギルド対抗戦と警備隊対抗戦が各々年に2回で計4回だけど、これを別の大会で増やそうと思うのだけどどうだろうか。各国で地区予選を行って世界大会本戦をセントラルで開催する予定で」
「例えばなにをするのだ?」ライオネル
「なんでも良いと思うんだよ。大工の技術を競う大会でもいいだろうし、芸術作品の大会でもいいだろう、俺が考えているのはメイド、執事、庭師、修繕大工といった屋敷をささえる裏方の世界大会も良いなと思っている」
「相変わらず面白いのお」ウィリアム
「そこでだ、セントラル議会に専門のチームを作って企画立案をしたいんだよ。決定は議会にかけて採決を取れば良いと思うのだが、各国から自由な発想と遊び心を持った、よりすぐりの人材を出して欲しいんだ」
「そういう事ならやってみたいですな、ドワーフも活躍できるように鍛冶師の大会も希望するがの」ホーガン
「エルフの国も全面協力します。歌や楽器の演奏の大会を希望しますが」バッシュ
「そういう様々な大会をする事で、技術力や生産力の向上につながると思うし、何よりも新たな人材発掘の土台になるのでは無いかと思っている。それにいま現在ではなんの意味もないような事でも、将来的にはどんな能力が重宝するのかわからないから、大食い自慢でも良いだろうし力自慢でも良いだろう。早馬に乗るのが上手い者を集めるのも良いと思う。自由な発想で様々な分野の世界一を決める事で新しい事が見えてくるような気がするんだ」
「ヘカテー王国からは誰がつくのだ」ルシフェル
「まだ本人の確認を取っていないがフェアリーとヘカテーが適任だと思っている」
そうした話し合いの結果、まずは専門チームを作ろうという事になった。フェアリーを推した事には理由があって、大会議室のとなりには大きく立派になった神殿とヘカテーの工房があるのだが、そこに新たに作った新商品の開発室の室長を任せる予定があったからだ。開発チームにフェアリーの存在は必要不可欠で、持つ知識や知能面においてもフェアリーが適任である思ったのだ。ついでに遊び心に関してはヘカテーの右に出るものはいないしな
「フェアリーはどうだ?」
「私はそれが梳李の役に立つのなら一生懸命に務めますよ」
「未開拓地に行く時も頼む時はあると思うけど、ヘカテーも神殿にも顔を出した方が良いだろうし、しばらくはその体制でやってみてよ」
「わかりました。報告は王城で寝る前でいいですね」
「それでお願い、はじめにして欲しい開発なのだけど、魔石を改造して音を録音して、軽く魔力を流すことで再生できるようなそういうものが作れないか考えて欲しいんだ。地球ではプレイヤーと言ったのだけど、音の録音と再生ができて音楽が生活に広く密着すると、とても心が豊かになると思うんだ」
「いいですね、ヘカテーからも地球の知識を教わりながら様々開発してみますね」
「よろしく頼む」
フェアリーを開発室の準備に残して、久しぶりにセントラルで過ごす時間だったので、セブンスターズの様子を見にダンジョンに来た
「ヴィーナスに乗っても良いか?」
「懐かしいですね」
「エンジェルもおいで」
「ほんとに懐かしい」
「セブンスターズはどの辺にいるのかな」
「多分すぐに気配を見つけられると思いますよ。まだそんなに深くには潜って無いと思うので」
「低層にはいませんね。20層のボスの気配もないので先に進んでいるのでしょうか」
「それなら俺達も先に行こうか。未開拓地に行く前に、ダンジョン攻略を進めた方が良いかなあ…エンジェルはどう思う?」
「どうかなあ…私の知識でもダンジョン内部の事や未開拓地の事は詳しくはわからないんだよね。フェアリーに聞いた方が早いかも」
「私はデイビスの街で共にダンジョンブレイクに遭遇しているので、ダンジョン攻略を進めるのも良い事に思えますよ」
「そうなんだよなー、久しぶりにダンジョン中層に来て、俺もそれを感じたんだよな」
「もうすぐ合流しそうですね。この先にトロルキングに囲まれている14人のパーティがいます」
「危機か?」
「そこまででは無いですが…苦戦はしているようですね」
「居ました!あそこです」
体長350cmくらいのトロルキングの群れ30体、支援魔法で強化した矢も1本2本では致命傷を与えられず、サラとエルはしっかりと攻撃を集めて踏ん張っているが、アスコット達前衛が決定打を与えられずにいた。トロルキングの皮膚は分厚く攻撃魔法も表面に傷を付けるだけのようだ
「プロテクション!」
「助太刀するかー?」
「梳李!プロテクションありがとう!もう少し戦ってみるよ。少しの間観戦していて!」
「了解ー!」
「エンジェルはやっぱりうずうずするか?」
「じれったいのよね」
「はははっ!わかるけどさ、とりあえず見ていようよ。ヘルプが来たらプロテクションを分厚くするから、思いっきりブレス吐いて良いからさ」
「それならもう少し我慢する」
「ヴィーナスは人型になって白竜の杖を持とうか」
「どの程度の強さか、群れから離れているのを倒してくるよ」
遠巻きに居るトロルキングを見つけて肉弾戦を挑んだ。こちらは1人トロルキングは3体、樹齢50年はあろうかと言う巨木のハンマーを打ち付けてくる。シールド、ゴンと鈍い音を響かせる。この攻撃に耐えていると言う事は、サラもエルもかなり成長しているな。一体の足にローキックを入れる。バキッと乾いた音を立てて骨が砕ける。皮膚は強いようだが体重が重いせいで下半身は弱点のようだ。足が折れた一体は戦意を喪失して這いつくばって逃げようと背中をみせる。もう一体が更に巨木のハンマーを打ち下ろしてくる。左手でかるくいなすと強く地面を叩いた、ハイジャンプをして空中殺法で頭部を連蹴りする。さすがに頭は固いが、連蹴りで頭を揺らして意識を飛ばしてから、渾身の回し蹴り、首から頭が離れて絶命した。もう一体はすでに戦意を喪失して我先に逃げようとしたので、脇腹の肉を掴んでバックドロップを決めた、頭を地面に叩きつけられたトロルキングは頭が割れて絶命した。四つん這いで逃げているのは追い討ちして大剣で斬った
「エンジェルのブレスなら一瞬だな」
「私も格闘してきてもいい?楽しそうだった」
「3体までな、なるべく離れている所で」
「わかったー!」
「ヴィーナスはどうする?血は騒がないか?」
「私は梳李に触れている方が血が騒ぎますよ」
「そ、そうか、なら待機でいいな」
エンジェルも端の方で戦っていた、一応確認するように手からブレスを浴びせて一体を瞬殺、残る2体は回し蹴り一発で仕留めた
「頭を割ることはできたけど、梳李みたいに首を飛ばす事はできなかったよ。どうしてるの?」
「仕留められるならどっちでも良いと思うけど…エンジェルの蹴りは打撃を与えるように頭蓋にダメージを集中させてるんだけど、さっき俺がやったのは打撃を与えるイメージじゃなくて蹴りを振り抜く感じなんだよ」
「もう一体行ってきていい?」
「ふふっ!いいよ」
「エンジェルは相変わらずだな」
「そうですね、でもそれがいいですね」
一体目は失敗して頭蓋を割った、もう一度技を確認するように、となりにいたトロルキングの首を飛ばした
「できたー!」
俺とヴィーナスは拍手で迎えた
「見た目に派手なだけなんだけど、群れでいる魔物なら、周囲の個体が戦意を喪失してくれるから、戦闘が楽になるんだよね」
「もう私もコツを掴んだから、今度から群れの最前線はこの方法でやる」
セブンスターズVSトロルキングを観戦していた
「あれだなあ、普通の冒険者の戦闘だと、このクラスの魔物は大剣では打撃のようになって切断できないし、普通の軽い剣では骨までは断ち切れないんだな」
「前衛4人とも頑張っているけど、決定打にはかけるな」
「だいたい大剣で閃光を生むなんて芸当は梳李にしかできないよ。本来重さで斬るものだから」エンジェル
「そうですね、だから身長が高く頭を狙いにくい魔物に対しては、戦いにくくなりますね」ヴィーナス
「あとは経験値を積んでレベルで押し切るしかないわけか」
「そうなりますね。それにしてもしぶとく頑張っているな。少し減らすか」
「もう少し待ってあげても良いのでは無いですか?みんな梳李に頑張ってる姿を見せたいのでしょう」ヴィーナス
「そうだよ!私が一緒に低層で戦っていた時はこんなに連携は取れてなかったよ」エンジェル
「それならもう少し様子を見ようか…甘えるなっていつも言うのに、こういう場面を見てるとハラハラドキドキしてさあ、早く終わらせたくなるんだよね」
「はははっ!梳李が思うよりもみんな強くなってるよ」エンジェル
「そうなのだろうけどさあ」
なんとかこうにかセブンスターズの2パーティでトロルキングを倒した。群れは逃走したが追い討ちをかける余裕はなかった、一応の勝利を納めたセブンスターズは駆け寄って来た
「お疲れ様ー!みんな強くなったなあ」
「撤退を考えてる時に梳李が見えたからみんなで頑張っちゃったよ」アスコット
「梳李に安心して貰いたかったのですよ」ガルーダ
「見ている俺は気が気じゃなかったよ。自分で戦うより1000倍疲れた。斬り込もうとしたらヴィーナス達に止められたんだよね」
「こういう事には過保護ですからね」サラ
「みんなの成長はちゃんと見たよ、俺はトロルキングを倒しに行きたい自分と戦ったよ」
「気になった所はありましたか?」
「連携もとれていたし、パーティとしては仕上がって来てるんじゃないか?あとは経験値を積んで各々が強くなったら、ギルド対抗戦もいい線行くだろ」
「原初の魔王様受賞おめでとうございます。我ら魔人族はその意味からも魔王様に忠誠を誓います」
「そうかボルドー以外はあれから初めて会うのか…ファミリーなのに距離があってすまんな」
「とんでもないです。ご活躍の噂を聞かない日はありません。我らは原初の魔王様のお傍にいられるだけで幸せです」
「まあルシフェルに乗せられた感じもあるし、お前達は魔人と言えども、称号よりも梳李として接してくれたら良いからな。ひざまずいて魔王様と言われるとこそばゆいんだよ。そういう気持ちは胸にしまって自分自身の誓いにして欲しいな」
「わかりました」
「みんなも疲れただろ!息を整えて安全に戻れ、帰り道は俺達が掃除しておく!」
ヴィーナスとエンジェルと久しぶりに連携しながらことごとく葬った。今はストレスはないけど、やぱ人が戦うのを見ていると、血が騒ぐよねー!
第69話に続く




