第67話 新事業と温泉旅館
つかの間の休日もあっという間に過ぎていき、俺達はスコット家を後にしようとしていた。新たに出来た家族にも別れを告げ、また遊びに来たいと深く思いをはせていた
アリアナの見送りも、オリビアの見送りも今度はいつ会えるかわからない為、長い時間名残惜しそうにやり取りは続いた。エンジェルが竜になり飛び立つ準備が整った
「梳李様ー!梳李様ー!」
どこの街娘かと思うようなよれよれの服に身を包んだイザベラが走っている
「どうしたその格好は!」
「綺麗な身なりも装飾品も全て父上に与えられたものです。昨日1日働いて買えた服がこれしかなかったのです。父上に頂いたものは全て返してきました、この身ひとつで他には何もありませんが、私は梳李様についていきます!」
「こりないやつだなあ、来い!」
「はい!」
ジョナサン・デイビスも見送りに来ていた。可愛い娘の小さい頃を思い出しているのか、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた
「梳李様、ふつつかな娘ですがよろしくお願いいたします」
「領主様!またお会いしましょう!そのうち遊びに行きます!イザベラの事はお任せください!」
ゆっくりと羽ばたくエンジェルをずーっと手を振りながら見送る姿は、家族愛で溢れていた
「家族っていいな。アリアナもオリビアも俺と居るとなかなか戻って来れないから申し訳ないな」
「それは梳李じゃない人と結婚しても普通の事です」アリアナ
「庶民と一緒になったとしても、家事に追われ子育てに時間を取られ、旦那の世話をして…女が実家に帰れることはなかなかありません」オリビア
「そういわれるとそうか」
「そうですよ、それに私達はとても幸せです」アリアナ
「私も会話に入れて下さい」イザベラ
「イザベラはなにが得意なんだ?」
「全て中途半端で際立った得意な事はありませんが、剣術も算術も歴史や経済の知識も一通り習っております」
「それならガブリエルの補佐をしながらイザベラってブランドを作るか」
「それはサメハダ商会の主力として働くと言う事ですか?」
「どうした?いやか?」
「いやではありません、ただ責任が重大だと思い」
「その行動力があればなんでもできるさ」
そして前々から開発していた乳液やシャンプーとリンス、ボディソープと下着のメーカーをイザベラという名前で作る事にした。フェアリーにイメージを伝え、大いに冷やかされつつ、可愛い下着を数百点作成した
「明日からそれらの商品をイザベラが管理しながら販売しようか、下着は全てが見本で新しくイザベラもデザインすればいいし、サイズをはかってオーダーメイドにすればいいからな」
「こんな商品まで開発していたのですか、梳李様はどれだけの知識をお持ちなのですか」
「前の世界で得た知識で俺が考えた事ではないよ。所詮は俺も大した人間ではないさ。だからこそファミリーで身を寄せあって生きている」
「というか…みんなは何をしているのかな」
「この下着というのは良いなあ、とても可愛いし梳李に見てもらいたくなる」ヘカテー
「だからといってここで選んで着けなくてもいいと思うのだけど」
「帰ったらアスコットやサラとアンに自慢したいんですよ」ヴィーナス
「また私だけよけものじゃん」エンジェル
「すまんエンジェルは飛んでいてくれ。サメハダの街に着いたら好きな物をあげるから」
「梳李はどんなのがお好みなのですか?」フェアリー
「さてそれはどうだろう。それよりもみんな可愛いな、裸でいるよりも興奮しそうだ」
「この色と形で私に合う物を出してください」アリアナ
「そ、そうだね、さすがにアリアナサイズはなかったね」
「シャンプーとリンスやボディソープはサメハダの街で温泉を作るからそこで使ってみよう。イザベラは匂いの研究をしような」
「わかりました、生産はどこでするのですか?」
「ヘカテー王国でする、すでに工房はあるから新しい商品開発はイザベラに任せるよ」
「ヘカテー王国というのが噂に聞く梳李様の国ですか」
「女神ヘカテーの国だからな、あと梳李でいいぞ。もうイザベラも家族だからな。イザベラというブランドが1ヶ月もすればジョナサンの耳にも届くだろう。親孝行だと思って頑張れよ」
「心得ました!」
久しぶりに空からロドリゲス王国を眺めたら街道も随分と出来上がっていた。サメハダ商会の工事範囲も順調に進んでいてガブリエルは観光宿場街の管理をしていた
「ガブリエル!紹介しておくよ、新しく妻になったイザベラだ、前に話した化粧品やシャンプーとリンス、ボディソープと下着のブランドを任せるつもりだ、サメハダ商会の補佐もさせるからよろしく頼む」
「ガブリエル・サメハダです。よろしくお願いします」
「ヘカテーとなりましたイザベラです。こちらこそよろしくお願いします」
「温泉の予定地に案内してくれ、来たついでに源泉を掘るよ。浴槽まで作って行くから、仕上げはルイーダ達で頼むよ」
「その予定にしています。こちらにお願いします」
おびただしい数の職人が働いていた。温泉は比較的浅い場所で掘り当てた。フェアリーに地中のサーチと成分解析を頼んだが、柔らかな魔力や天然のミネラルが豊富で、そのまま浸かっても体力や内臓疾患の回復に役立つそうだ。完成後に利用者が裸で入るのをためらった時の為に、浴衣も作ってガブリエルに渡しておいた。サラマンダーが落とした石がサウナにちょうど良さそうなので、温泉内の設計図をフェアリーに作ってもらい。それもガブリエルに渡しておいた。大きな浴槽とサウナ、水風呂とハーブ風呂を用意した。大宴会場もあって大食堂や演芸ステージも作っておいた。旅館も兼ねていて客室も500室ある大温泉になった
「日が落ちたら入ってみようか」
「梳李はお風呂が好きですね」フェアリー
「気持ちいいからな、癒されて疲れも取れるし、みんなはそうでもないのか?」
「私は好きですよ」アリアナ
「温泉がわからないので楽しみです」イザベラ
その夜は温泉を堪能してサメハダの街を離れた。イザベラをヘカテーに案内して今後の商品開発の為にシモンズと顔合わせした
ホームの俺の家と王城の行き来の仕方を教えて王城のメイドさんに城内も案内してもらった。オリビアも行きたいと申し出たので共に行かせた
エンジェルとヴィーナス、フェアリーは疲れたと言って早めにベットに入った
「このベランダでのんびりするのははじめてだな、王城から眺める街並みや大森林の景色はいいもんだな」
「私は梳李と2人の時間を夢のように思いますよ」アリアナ
「ところでアリアナはいつも表に出さなくて悪いな、序列があるわけではないけど、イザベラに頼んだ事は、順番から言えばアリアナなのにな」
「そんな事は気にしなくて良いですよ、いつも考えがあってしてる事だと思ってますし」
「考えというか…そうだな気持ちを伝えておくと、はじめに子供を作って欲しくてな」
「嬉しい」
ヘカテー城から眺める月もとても綺麗だった
第68話に続く




