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第66話 イザベラ


こん!こん!


「おはようございます!」


こん!こん!


「おはようございます!イザベラでございます!」


「アリアナー!友達が来てるぞー」


「ん…梳李おはよう、……」


「早いなあ、もう少し寝ていたいのに」


「俺が出ようか?」


「それだと寝ている意味がないよ」


「ああ、そういう事か、それなら食堂で待っていてもらうように言ってくるよ」


服を着ていないのを忘れて伝えに行った


「梳李!服…」


「ぎえぇぇーー!!!」


「遅かったか…」


「あ!すまんすまん。隠したぞ」


「だ、大剣が…大剣が目の前に…」


「イザベラ…食堂で少し待っていてくれ。あとな大剣は言い過ぎだぞ、せいぜい護身用の短剣だ」


「ふふふっ!梳李ったら、朝からちゅっちゅしちゃおっと」


「さっきも起きるなりしてたじゃないか」


「いやだ?」


「ん?嬉しいけど」


「ふふふっ、幸せだね」


「しちゃう?」


「しよ♡」


しばらくイザベラを食堂に置き去りにした。だってみんな順番に目を覚ますんだもん。それにレベル限界突破の俺は終わらないんだもん


なにが「だもん」だよ!舐めてんのか!どこからともなく声がした


「イザベラ!ごめんな、待たせたな」


「大剣がぁぁぁぁぁ」


「大丈夫か?イザベラ?」


「失礼しました。短剣でしたね」


「もうその話はスルーでいいか?」


「それより朝食を作って参りました」


「イザベラ…この所々黒い物体はなんだ?」


「朝食にございます」


「慣れないことを一生懸命にやりましたってアピールは、姿勢として一応買うけど…どうせ作るなら100回作り直しても最高の物をだせ。頑張った事を褒めて貰えるのは学生までだと現実を知る事だ。その心が嬉しくない訳じゃない。だけどその姿は俺の妻にはふさわしくない」


「も、申し訳ありません!」


「その謝罪も必要ない。俺は俺の好みを話している訳ではない。一般論を話しているのだ。アリアナやオリビアと比べて、わがままに甘えて育った事が明らかにわかる、それでは俺の足手まといになる事は目に見えている」


厨房にいって俺が朝食を用意した、最高の食材をストレージからだして、最高に美味いサンドイッチと最高に美味いスープをだした。メイドさんや父さんと料理長にも振る舞った


「どうだ?」


「めちゃくちゃ美味しいです!お腹が膨れなければ良いのにと心底思ってしまいます!」イザベラ


「俺が手に入れた料理人というスキルは、はじめて野営をした時にアスコット達に、美味しい物を食べさせたいと深く思う気持ちが取得させたものだ」


「その違いがわかるか?」


「わたくし!イザベラは一度実家に帰らせて頂きます!」


「それは好きにしてくれ。戻って来なくても俺は構わないぞ」


「わかりました!」


甘えたイザベラを追い返して、俺達は訪れる訪問客の相手に追われた


「だけど梳李ってちょくちょくわかりにくい優しさを見せるよね。もう少しまっすぐに言ってあげたらイザベラも素直に努力できるのに」アリアナ


「それだと意味がないだろ?たかが料理かもしれないが、その程度の事を理解できないなら、この先には乗り越えられない困難が待ち受けている。イザベラの人生だからチヤホヤされて貴族の正妻に収まることもいいじゃないか」


「私はあの子の性格を知っているから、火に油を注いだと思うけど…完璧にやってのけたらどうするの?」アリアナ


「んとね…完璧じゃなくても、もう一度挑んで来たら嫁になる権利は与えようと思う。結果はどうでもいいんだよ。美味しい物が食べたいと思うなら、はじめから自分で作るしさ。求めている物はそういう事じゃないんだ」


「そっか…やっぱり梳李は優しいね。ねぇ…夜はいちゃいちゃしようね」


「いいけど…あんなになるまでしたら壊れないか?」


「大丈夫だよ。それにすでに壊れてる…その事ばかりを考えちゃう」


「そっか…愛してるよ。いちゃいちゃしような」


「もう一度言って…」


「愛してるよ」


「私の方が1000倍愛してるけどね」


「それなら言葉じゃなくて、俺がどれだけアリアナの事が好きか、わかってもらえるまで甘く優しく抱きしめるね」


「ふふふっ!えっちー」


「アリアナがだろ?」


「ふふふっ!そうだね」


夫婦の愛情の形はそれぞれなのだろうけど、正解か不正解かは別にして、俺達は幸せな時間を共に過ごしていた


誰にでも優しくなれた。じいさんの酒癖が悪いとか、ばあさんが家事をちゃんとしないとか、大半はどうでもいいような悩みだった。それでも聞いてあげることで、何かを自分でみつけて、明日の1歩を踏み出そうとする、人の強さを感心しながら見ていた


列は続く…アリアナとオリビアにお祝いを持って来る人も沢山いた


ヘカテーも大忙しだった。俺に来る人と二分(にぶん)してくれて助かった


デイビスの住人を相手にしていたら王都にも久しぶりに行きたくなった。人と接するのがめんどくさいと思うのに、俺はとても人間が好きなようだ


スコット家の人も、メイドさん執事のお父さんもみんなが総出で来客の歓迎をした。庭にはたくさんのテーブルが置かれ、茶会が繰り広げられていた


「こういうイベントも素朴でいいもんだな」


「そうですね、みんな楽しそうにしていますね」ヴィーナス


「適当に休憩するんだよ」


休憩はテーブルにお邪魔した。確かにお父さんの入れるお茶は美味しかった。ほろ酔いで執事の心得を語るのもうなずける


夜まで来客は続き、やっと残り数人になった頃、やつが帰ってきた


「梳李様ー!戻って参りました!スコット様厨房をお借りします」


助っ人も数人連れていた。中央デイビスのレストランのシェフを連れて来たようだ


「ね…ムキになって助っ人まで連れて戻ってきたでしょ?」アリアナ


「なるほどな、やる事が貴族って感じだな」


「気にいらない?」アリアナ


「俺が合格だの不合格だの人を評価するのはおこがましい気がするから、そんなに嫁になりたいのなら、アリアナもオリビアも勧めてくれる相手だし連れて帰るけど…釘を刺しておく必要はあるかもな」


助っ人をフル活用した夕食はさすがに美味しかった。献立も一緒に考えたのか、シェフが考えたのかわからないが、この地方の郷土料理が中心になっていて、目でもしっかり楽しめた


「いかがですか?梳李様!」


「俺の嫁になりたいのなら、俺よりも先に他のみなさんの反応を確認しろ。あと助っ人はどこから連れてきた」


「子供の頃から行きつけのレストラン数軒から無理を頼んで連れてきました」


「そんなに俺達と仲間になりたいのなら、その心意気は評価するけど、助っ人のみなさんはイザベラの熱意にまけて、仕方なく応援に来たのだろうけど、それは領主である君の父親の力だとちゃんと認識するんだよ。アリアナもオリビアも今は里帰り中だから甘えているだけで、普段は会話もできない日が続くの中で、どんなに大変な仕事も愚痴ひとつこぼさずにやっている。うちのファミリーは支えあって、協力しあって仕事はしているが、各々がやるべき事に妥協はないし、協力する事と甘える事を錯覚している者もいない。明日もう一泊したらサメハダの工事中の街によって帰る予定だ、今日は助っ人のみなさんに良く感謝して、もう一度家に帰ってちゃんと考えた方がいいよ」


「わかりました、確かにおっしゃる通り私の力ではありませんでした。甘えてわがままに育ったとおっしゃった意味もようやく理解できました。出直して来ます」


「誤解しないでくださいね、俺のファミリーの話をしているだけで、イザベラさん自身の事を否定しているわけでは無いですからね。人にはそれぞれ育って来た環境によって相応しい道があると思いますよ。アスコットにも実はそう話をしていました。貴族社会で育ったアスコットには他の道があると思っていたからです」


肩を落とすイザベラをアイザック父上が連れて行った


「相変わらずシビアだなあ」エンジェル


「それが良い所です」フェアリー


「あくまで自分で結論を出すようにさせる事は優しさではあるけどな」ヘカテー


「私はオスだと思われていた事を思い出しました。なぜでしょうかね」ヴィーナス


「はははっ!あれはここの庭だったな」


どんなにレベルが高くても人を幸せに出来るわけではないからな。人は誰もが自分の力で幸せを掴む物だと思うから…


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。あの子はそんなにやわじゃないよ」アリアナ


「そうですよ、イザベラは根性なら誰にも負けませんよ」オリビア


「そっか」



第67話に続く


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