第63話 デイビスの住民
デイビスの街に着いたら、あっという間に来訪の噂は広まり、すぐに人だかりができた。冒険者組合支部に行き、最近のダンジョンの状況の聞き込みと、オリビアの探索許可を取った
歓迎してくれる街の人と挨拶や握手をして、かなりの時間を共に過ごしたのだが、ずーっと着いてくる
「今日は一段と歓迎ムードだけど、アリアナは理由を知ってる?」
「領主も来てるそうですし、連れて行かれる前になるべく接しようとしているのかもね。私とオリビアが妻になったから、若い女の子も多いね」
「それを期待されてもなあ、アリアナの事は俺も一目惚れのような感じだったし、アリアナが信頼するオリビアの事も無条件で信頼していたしな。転生してからずーっと共に過ごした、ヴィーナスやエンジェル、フェアリー同様にアリアナとオリビアは俺にとって特別な存在なのだから、奥さんになって欲しいと思ったけど…さすがにこれ以上は必要ないだろ、というかお願いされて奥さんにする物でもないだろ」
「どうしたの?そんな風に言ってくれるのは珍しいですね」
「俺も素直になろうと決めたんだよ。愛されているから共に時間を過ごしているわけじゃなくて、俺が大好きなんだよ。ちゃんとわかりやすくしようと思ってさ」
「そんな風に言われたら私もオリビアもしがみついて離れられなくなりますよ」
「いいじゃないか、腕にでもしがみついていたら」
「ね…そしたら夜空の下でまた言ってくれる?月が綺麗ですねって」
「それさあ、意味を知られるととても恥ずかしいのだけど…わかった何度でも言うよ」
「私にもいいですか」
「もちろん!今日は天気も良いから夜は月がよく見えるだろうな。オリビアも抱きあって月を眺めような」
「や、やばいです!やばいです梳李!」
「はははははっ!夫婦なんだからいいじゃないか」
「何を求めてもかわされる事に慣れていたので、そんな風に優しく言われると、なにか飛び出して来そうです」
「なにか?ってなんだよ!」
アリアナとオリビアを両脇にかかえ、他に美女3人を引き連れて、全員が奥さんなのだから滑稽に見えるんじゃないかと心配したのだが、案外自然に見えたようだ。その状態で歩いていても、小さい子供を抱っこして欲しいとか、握手して欲しいとか、次から次に住民が駆けつけてくれ、そのうちに一緒にいる5人に対しても、俺を支える仲間という尊敬の眼差しが注がれていた
「ダンジョンに行きたいんだけど、特に問題はなさそうだから諦めようか…これだけ歓迎されたら、無視は出来ないよな」
「低層なら着いてくる人も引き連れて入ればいいんじゃないですか?観光にする予定ならむしろ好都合ではないでしょうか。私がちゃんと全員を守ります」フェアリー
「それもそうか、低層ならティーポットの火炎でも倒せるだろうし、アリアナの弓もるし、ヴィーナスもエンジェルも居るしな」
「みなさん聞いてください!今日は妻のアリアナとオリビアの実家に遊びに来ました!完全にプライベートですが、ダンジョンの様子を見たくて向かっています!せっかく街のみなさんも一緒に歩いてくれるなら、冒険者じゃない方々も共に行きましょう!強力なバリアでお守りしますので危険はありません!もちろん強制はしませんがこのまま予定を進めても良いでしょうか!」
「おおおおおおおー!」
「一度ダンジョンがどんな所か行きたかったんです!」
「僕たちも一度いきたかったんだ!」
「我々冒険者も一般人を守ります!」
歓声になり冒険者以外の住民は好奇心に胸を踊らせていた。ダンジョンへ向け歩みを進めるとダンジョンの手前には大きな公園が出来ていた。美しく整備され花壇や噴水もある、中央公園よりも遥かに大きく立派な公園になっていた
「ここは大賢者様記念公園ですー!」
誰かが声をあげた
「ダンジョンブレイクから街を救った大賢者様の足跡を残す為に、街のシンボルになっています」
「アリアナは知ってたの?」
「もちろん!発案は我が家です」
「な、なるほどねー」
その記念公園で一度整列して注意事項を伝えた。初めは魔物の生態を見学する為にプロテクション越しに順番に通過して後ろに下がる事、戦闘が始まればどんな理由があっても前に出ない事を徹底した
注意事項を守らなくても、実際は俺達が居るので危険はないのだが、多少の危機感は持っていてもらわないと、何が起こるかわからないのもまたダンジョンだからである
「確認する必要も無いと思うけど、フェアリーのプロテクションは360°で頼むな」
「はい!理解していますよ」
大型の魔物が出て来れないように作った細い岩場を抜けダンジョンに入った。初めにゴブリン達を見つけて遠くから眺めた。フェアリーはプロテクションを張りながら、ゴブリンについての生態や特徴を解説していた
集団で襲ってくる狡猾さや、特に女性は連れ去られて手篭めにされる事など、さすがに世界の英智といった感じだった
ダンジョン一層に関わらず小さいトロルがゴブリンを従えていた。冒険者に確認するとセントラルのダンジョンとは違い、上位種が群れを従えるのではなく、魔物の種類に関わらず少し強い魔物がボスになるようだ
「アリアナはあの指揮官のトロルをやろうか…ゴブリンが我を忘れて襲いかかってくるから、それをオリビアのティーポットで撃退しようか!オリビアの冒険者デビューだ!」
「やれますかね」
「いつも紅茶を入れる時に、蒸らした茶葉を確認するように、ポットの蓋を上げれば強烈な火炎が放射する!やってみろ」
「はい!」
相変わらずアリアナの弓の精度は目を見張る物がある。1射で脳天を撃ち抜くと、周辺にいたゴブリンがこちらに向かって、斧を構えて走ってきた。一瞬ひるんだかに見えたオリビア
「おーりゃーぁぁぁ!」
火炎をMAXまで噴射して襲いかかるゴブリンを燃やし尽くした。味をしめたのか、快感を覚えたのかわからないが、オリビアは走る
「おーりゃーぁぁぁ!」
こちらに気がついてないゴブリンまでを殲滅し、満面のドヤ顔で戻って来た
「オリビア…別にいいんだけどさあ、ゴブリンに襲いかかる時の掛け声と姿が親父くさい」
「( 」´0`)」Oh nooo」
「別にいいんだよ。そういうオリビアも大好きなんだけどさ」
「次は優雅にお茶を注ぐように討伐してみます」
まだやるんかい!
「そ、そうか…ならもう少し進んで見ようか」
次はホブが率いる少し大きな身体のゴブリンの群れがいた。ホブゴブリンについてフェアリーは解説しながら見学させていた
「アリアナ!これはどうなんだ?やぱホブからやるのが定石か?」
「ホブゴブリンに率いられたゴブリン達は統率がとれているので、近くにいる個体から、なるべく気づかれないように倒した方がいいですね。ホブからやると一度散ってから隙を突くようにかかって来ます」
「たかがゴブリンだけど、今は一般人もいらっしゃるから、安全に正確にやるか」
「そうですね」
「では私が…1番手前にいるやつを…」
オリビアは静かに近付き無言でチョップをいれてゴブリンを気絶させた
「おぉ!オリビアにも技あるじゃん!」
「いえ、これは子供の時にアリアナと鍛えたチョップです。森や草原で遊んでいる時にこうやって倒そうと練習していたのです」
「はははっ!特に異変もないし今日はここまでにしようか…残りの50体程度は俺がやるから見学者にも伝えてくれ」
フェアリーは空気を読んで、早々とこれから梳李がちょっとしたデモンストレーションをするので見学しましょうと促した
なるべくゆっくりと言われた俺はわざわざ一体づつ、殴って一体、蹴って一体、大剣で一体、ファイアボールで一体、ウィンドカッターで一体、サンダーアローで一体、ロックバレットで一体、ウォーターカッターで一体…途中でめんどくさくなって、テレポートと神速で最後の40体程度を瞬殺した
「みなさまにお見せする為にゆっくり討伐していましたが、最後は焦れったくなったようですね。最後に見せた移動する姿も見えないような瞬間移動と、青と赤の光が走る様が梳李の半分くらいの力です」
「おおぉぉー!」
フェアリーってほんとにガイドがお上手
「特に異常もないので戻りましょうか」
参加者はとても喜んでくれていた。ダンジョンブレイクの時に俺を見ている冒険者は、当時の戦いをさらに凄いものだったと自慢した
アリアナとオリビアの家に行くからと解散を促すと、もっと見学したかったと、感謝と共に失意の表情を浮かべた
メイド服に身を包みティーポットで戦ったオリビアは人気を集め、子供達に囲まれていた
「みなさんと共に過ごす時間は俺にとってもとても楽しい時間でした!数日滞在しますから、スコット家に来てくれたら居るようにします!」
名残惜しそうな顔を見ていると思わず口から述べていた
「あれ?しばらく独占していいの?」アリアナ
「あんなに寂しそうな顔をされたらさあ」
その横で子供に囲まれるオリビアは見た事もないようなドヤ顔をしていた
第64話に続く




