第59話 世界外環連絡路
ロドリゲスとズーダンを結ぶ連絡路は、山道ながら馬車が通行できるように整備するらしく、治安維持のパトロール隊も配属する予定になった。火山のマグマや魔物の見える窓は、連絡路の完成を待たずに、登山家を中心に噂が広まり、ロドリゲスとズーダンには登山ブームが訪れているらしい。手応えを感じた両国は連絡路の開通工事を大急ぎで取り組んでいる。傾斜のある山道を登る乗り合い馬車が必要な為、軽量化した乗り物をリクエストされ、ヘカテー王国でも新たにミーティアの素材をパネル加工し、組み立て式の馬車の開発に取り組んでいる
セントラル大会議室
「議長!ロドリゲスとズーダンの間に作った連絡路のように、他国も繋ぐ事は出来ないでしょうか?」ルシフェル
「途中の切り立った断崖絶壁のエリアを、どう開拓するかにかかっているだろうけどな」
「魔人国家ギガントとしても、魔石を輸出する時にも、技術者を派遣する時にも、連絡路があればかなりの時間短縮ができます。検討して頂けませんか?」ルシフェル
「わしからもお願いします。今やドワーフが作る鉄製品にまで、魔法付与された特別品が多く買い求められています。その需要に伴って、ギガントからのクラフトへの人と物の流れは、セントラル経由では効率が悪すぎるのです」ホーガン
「エルフの国としても穀物で潤った国力を更に高める為、他国との交易を強化したいと考えています。いままで連絡路を作らなかったのは、500年前の世界大戦が理由で、連絡路を作ることで、隣国より侵略される可能性があったからですが、すでにそういった懸念は無いと考えています」バッシュ
「そうだなあ…確かに俺が居た世界では高速道路というものがあり、首都圏に出なくても周辺地域をつなぐ道路があったな。このままセントラルに集中させると、入場の時の検問で大きな渋滞を招く事になる。考える必要はあるな、視察団を作って全員で知恵を出し合おうか」
視察団は各国とも国王を代表に形成され、移動の都合があったので、人数は最小限にした。それでもエルフ国とロドリゲスを結ぶセントラルの迂回路まで入れると、全長1万kmの連絡路である。切り立った岩肌は1000m以上ある。山脈もある。沼地もあれば、大森林もあった
ただ共通して言える事は、この星の自然環境はとても美しく、魔物の生息エリアもサバンナのような猛獣の住むエリアも、人の都合で無秩序に開拓してはならないと言う事である
数日に渡る視察はひとまず終わり、自然を破壊せず、生態系も壊さず、さらに安全第一に通行できる連絡路と考えた時に、結論を出せる者もなく、セントラル議会の下で開発チームが組織された。6カ国から生物学者や開発技術者を集め、自然環境維持と連絡路の開発という、真っ向から矛盾する問題に対して、連日専門家達が意見をぶつけ合っていた
俺達もさらに細かな情報を収集する為に連日各地へ赴いていた
ギガント~クラフト間の岩場
ここはグランドキャニオンのように2000mを超える岩肌に囲まれていて谷間には大森林が広がり大きな川が流れている場所もある
ワイバーンが多く生息し連絡路を作るには、開拓以外にどう魔物と共存するかと言う事が最大の懸案事項となった
ダンジョンでは魔物を資源の調達材料にして、遠慮なく討伐しているのだが、自然にリポップしてくるダンジョンと違い、自然の中に生息する魔物は不用意に討伐すると絶滅の可能性があるからだ
「まさか魔物を討伐する事に、配慮する日が来るとは思わなかったが、その理屈で言うとヘカテー王国は大規模な自然破壊だったんじゃないのか?」
「私はこう見えて女神だからな…あれだけ広範囲に穴を開ける程の行為だったが、大森林内の生態系は変わってないんだよ。それに深淵の大森林は時おり間引きしないと、魔物が異常に増殖してしまうのだ。街の発展が早かった事や、梳李が異世界人と言えども、異常な魔力を持つことにもつながっているのだけれど、深淵の大森林は魔力だまりになっていて、星のエネルギー源のようなものなのだ」ヘカテー
「だけどさあ…間引きすると残った魔物はどんどん強くなるんじゃないのか?果物など農作物も間引きする事で良く育つじゃないか」
「だから深淵の大森林の魔物は大きく強いのだよ。それに大自然の神秘でさ、魔物の間でも自然に間引きを繰り返しながら、より強く生命力の高い個体が残って来たのが今の大森林なんだよ」ヘカテー
「なるほどな、例えばなんだけど…このワイバーンの群生地に何かしらの手を加えて連絡路を通した時に、今は大自然と共存しているワイバーンや森林の魔物や魔獣、動物達が都市に流れ込んで来る事は無いの?」
「大掛かりな破壊行為をしなければ、距離があるから問題ないと思うよ、それにギガントには元々はぐれワイバーンを調教した兵団があったと思うよ」ヘカテー
「それなら森林や川といった所は手を付けずに、岩肌の中腹に連絡路を作るのはどうだ?」
「岩石地帯は長い長い年月をかけて、大地が隆起し、川に侵蝕され、嵐や風にさらされてできた物だ。そこには生息している植物も生物もいないので、大自然が作り上げた彫刻という事を、そこなわないような自然な作りの連絡路なら問題ないだろ」ヘカテー
「あとはワイバーンから馬車をどうやって守るかと言う事か…逆にそれが出来たらこの大自然はお互いの国に用が無くても、乗り合い馬車に乗る価値の高い場所になるな」
「梳李が作った湖や滝にも匹敵する観光スポットになるだろうね」ヘカテー
「ギガント~ズーダンも似たような環境か…ギガントの北の方は寒いし、東西は広大な岩場に囲われていて、5カ国の中では1番不便だったろうな」
「そうなんだよ。セントラルダンジョンができる前からギガントは南に土地を求めていた。世界大戦のきっかけは、ギガントの領土拡大の為という見方も出来ただろうな」ヘカテー
「その辺は一度ルシフェルと話して見るけど、首都ギガントはわざわざ最北に位置しているし、防衛の必要が無くなった現在では、南下して新たな首都や魔王城を作るのもひとつの策に思えるけどな」
「魔王の考えなど私は知らない」ヘカテー
「ギガントは女神を崇拝しないから嫌いなのか?」
「そんな狭い了見で神様は務まらないよ!そうじゃなくて、いままでも何度かあったゴルゴーンの越権行為の中で、より危険が大きかった時は、必ず魔人族の魔力が贄にされて来た為に、いい思い出がないんだよ。今は私も生存しているし、梳李に付けた悪魔センサーってスキルもあるから心配してないけどな」ヘカテー
「そういう歴史があるのか…それなら漆黒の時の事もあるし…尚更南下して欲しいな」
「私としてもギガントが広く公に開かれて行く事は、願いのひとつでもあるよ」ヘカテー
開発チームに参加して俺の意見も述べていった。岩肌の中腹に路を作る事や、ワイバーンから馬車を守る為に、乗り合い馬車には添乗員を乗せて、防衛魔法を行使する事などを意見した。エルフの国とクラフト間は比較的なだらかな山脈が広がっていて、自然を破壊しなくても旧山道もあった。美しい湖もありハイキングコースのような大自然との触れ合いを楽しめる連絡路をあっさり考える事ができた
外環連絡路の一番の大仕事であるヘカテー王国との連絡に関しては一任してもらい、広く長く続く岩の上に連絡路を作り馬車の行き来と、そこまで登る手段を別にした。その事で大きな自然破壊もなく、外環連絡路につなぐ事ができた。少し残念なのはその区間にも絶景ポイントの数々はあるのだが…自慢の滝も湖も上から見る事しかできず、距離もある為に肉眼でみても、とても小さく見えるだけなのだ
「それはしかたないよ」ヘカテー
「別々の観光通路として考えるよ。それにロドリゲスとエルフの国にとっては、ヘカテー王国に来る時にはこの連絡路が便利だしな」
そうして外環連絡路は一応の決着点を見い出し、開発に着手した。難しい工事は相変わらず魔力を大量に吸われながらフェアリーに頼んだ。景観を含んだ技術力が圧倒的に俺よりも優れていて、はじめから魔力タンクの役目に徹していたからだ
下地ができたあと開発チームには各国から集めた支援魔術士にも参加してもらい、フェアリーによる講習が始まった。工事の段階で作業員をワイバーンから守る必要がある事と、馬車の運用が始まった時の添乗員にする為である。世界中から希望者は殺到し、本来魔法を苦手とするクラフトやズーダンからも応募があった
「この件はこれで落ち着いたかな」
「ねえねえ梳李!疲れたでしょ。今日は先に戻って私達3人で癒してあげようか?」
「最近魔力を莫大に消費したから、熟睡するのを狙ってないか?」
「そんな事ないよ。だけど私達は少しいちゃいちゃという事を体験したいんだよ。色んな街でじゃれあう男女を見ると、幸せそうに見えてさ」
「いちゃいちゃなあ…わかった!じゃれあうだけだし、すぐに寝ちゃうと思うけど帰るか!」
少しだけ…ほんの少しだけ足を踏み出した梳李だった
あんた30だったよね!
第60話に続く




