第48話 北の大雪原
北の大雪原を進むと、吹雪が激しくなりプロテクションをはると、視界が無くなるほどに荒れ狂う空を飛んでいた。エンジェルの視界を確保しようと俺はファイアボールを撃ち、中から積もる雪を除雪しながら進んだが、それも限界にきていた
「こんな猛吹雪の中で黒竜王は暮らしているのか?」
「この吹雪もなにかしらの影響かもしれないな」ヘカテー
「さすがにこの中を飛ぶのはエンジェルに負担が大きいな。1度地上に降りようか」
「大丈夫か?エンジェル」
「黒竜王様が心配なのだけど、ぼちぼち限界だった。止めてくれてありがとう」
「大地を進むなら私にお乗りください。私なら雪に足を取られることもありません」
「少しでも先に進もうか、ヴィーナスも無理せずに行けるところまで頼むよ。エンジェルはゆっくり休め」
「ここまでよく頑張ったな。凍えていたのか…前に乗るんだ、温めながら進む」
「こんなに劣悪な環境になっているとは」ヘカテー
「女神の慈愛を発動しても、どうにもならないのか?」
「もう少し気がつくのが早ければ大丈夫だったと思うが、原因を絶たないとここまで荒れていては為す術がない」
ドラゴンブレスを打ち上げて見たが、猛吹雪の前に直ぐに鎮火した。俺の身体には影響は無いものの魔法ですらキャンセルする程の劣悪な自然環境に、黒竜王に訪れている危機を感じずにはいられなかった
「あとどれくらいあるんだ?」
「それも結界の中に居るようなこの環境下では、位置も予測できないんだ」
「ゴルゴーンのやつめ!」
「まだそうだと決まった訳じゃないし、異変に気がつくのが遅れた事は悔しいだろうけど、ヘカテーの責任じゃないよ、これがゴルゴーンの仕業だとしたら、たまたま敵の策略が上回っていただけだ。悪魔憑きを討伐した事が原因かもしれないし、ゴルゴーンがそれだけ執念深いという事だろう」
「ゴルゴーンはギガースという巨人を眷属に従えているのだが、そやつらまで介入されているとすると、黒竜王が…」
「落ち着けよ、想像で心配しても仕方ないよ。それよりも基本的には生態系には関与しないヘカテーが黒竜王をそこまで心配するのは何故なんだ?」
「黒、赤、青の三竜は私を守護する者であるからだ。今はエンジェルが進化した事で、最強は変わってしまったが、黒竜王はエンシェントドラゴンと言って最古の竜にして、創世の時から仕える守護神なのだ。万が一そこを抜かれると、ギガースの大軍が攻め込んでくる可能性も出てくる。そうなれば長い時間をかけて発達してきた文明もひとたまりも無い」
「そのギガースという巨人は、俺でも勝てない相手なのか?」
「わからない…満月の夜なら私がフレイムヘイズという、創造神から与えられている神の力が仕えるから、その力でギガース達を弱める事が出来るのだけど、相手の支配区域が完成していて、その中で戦うことになったら、私にも予測ができない」
「敵は倒すのみだよ。俺達が倒せなければ、今の文明は終わりを告げる…星はまた時間をかけて、敵を廃除する事で浄化され生まれ変わっていく、それだけじゃないか」
「梳李は怖くないのか?」
「怖くないわけじゃないけど、今の俺は1度死んでヘカテーに生命を与えてもらった身だからな。ヘカテーが守ってきた世界を、悪意を持って攻めてくる者があるなら、生命を出し惜しみする気はないよ」
「もしも梳李に何かあれば、悲しい思い出と後悔に支配された未来永劫を生きる事になる。女神が涙にくれる日々を過ごす未来なんて許さないからな」
「別に生命を粗末にするつもりも、差し出すつもりもないよ。俺にも守りたい者や守りたい物がたくさんある」
エンジェルとヘカテーはそっと抱きついてきて、ゆっくりだが力強くしがみつくように力を込めていた。背中に伝わるヘカテーの小刻みな震えは、かなりやばい状況になっている事を示し、エンジェルのそれは、小さい子供が怖い夢を見た時に、隣にいる親にしがみつくような、そんな安堵と落ち着きを取り戻そうとする子供のそれだった
「なんとかなるって」
「だといいんだけどね」
「俺には心強い仲間がついてる」
「女神の私よりも能天気なんだな」
「いつか話した事があると思うけど、神様は俺にとっては凄い人という存在でしかない。ヘカテーが女神で人知を超えた力を持つ事はわかっているけど…俺は目の前にいるヘカテーという女性を守りたいと思っているし、そういう風に思えなければ、異性に対する愛情は生まれないよ」
「女神という存在自体に思いをよせるなら、それは信仰心のような物で、女神から与えられた慈悲や恩恵に対する感謝でしかない。自分の事でもそういう感情は詳しくはわからないけど、俺が人を愛すると言う事は、多分与える事にあるのだと思う」
「とにかく俺は、この世界に危害を加える者が現れた時に、それと戦い廃除するだけだ。ゴルゴーンがちょっかいを出してくる事も、悪に手を染める輩も、敵であることは変わらないし、ましてやそれをヘカテーの責任にするつもりもない、俺は俺のやるべき事をやるだけだよ」
「梳李はそうなのだろうな、私は常に都合のいい存在として扱われ、民に与える事のみが女神の使命のようになっていた。守護はいるにしてもそれも役割のようなもので、誰かに守られる日が来るとは夢にも思っていなかった」
「まあ細かい事はいいじゃないか、とにかく今は黒竜王だ!それと少し休憩しよう。ヴィーナスもこの環境の中を歩き続けるのは無理がある」
「梳李、大丈夫ですよ。これくらい私がなんとでもいたします」
「黒竜王の住処に着いた瞬間に戦闘が始まる可能性もある。少しでも休んでおこうよ。地球にある技術で、雪を固めたかまくらって物を作るから、そこでみんなで休もう、それなら風は凌げるし、火を起こして身体を温める事もできる、そこでみんなでくっついて、少し休んでからまた進もう」
「ありがとうございます、了解しました」
それから上手くなったディフォメイションを使って、土台の上に真ん丸なかまくらを作った。溶けた氷の水はけや、酸素不足にならないように通気も考えた立派なかまくらができた
3人とも疲れていたようですぐに眠りについた。このあと待ち受けている困難が、なんなのかはわからないが、自分にいつ何が起こっても後悔しないように3人の寝顔を眺めていた
第49話に続く




