第46話 オーディション第2部
「へっかちゃんだよ!」·····
「へっかちゃんだよ!」·····
「へっかちゃんだよ!」
「ぎゃはははははは!」
「おーと!めげずにたんたんと繰り返される女神の祝福がわりのギャグにたまらず爆笑です!観覧席は座席を大きく揺らしながら笑いの坩堝と化したー!」
「私もはははははっ!笑って実況になりません!ふふふ!あえて言いましょう!女神様ナイスです!」
さっきの女神の慈愛よりも大きな範囲の雨が降り注ぐ、笑いを堪えたり、爆笑しながらだったりするが、さすがに女神様である。参加者全員が両手を組んで、ステージのヘカテーに向きを統一した
「警備の者たち!雨が避ける者を捕らえよ!その者達はなにかしらの裏社会と繋がっている者達だ!」
10名程度だったが、一網打尽にした。めげずに繰り返す事で爆笑を取った事も、つかみを終えたその流れで大規模な慈愛を降らせた事も、今日は残念ではなくかなりいけている。なによりも本人がドヤ顔だ、女神の本気という事なのだろうか
「私はこの星の守護神!女神ヘカテーだ、星を管理しながら退屈な毎日を送っていたが、梳李という面白い存在に出会い、触れ合う事で人の温もりを知って離れられなくなり、ついには女神でありながら妻になってしまったのだ!一応妻だから、梳李はなにもしてくれないけど…寝てる梳李には色々…」
「女神様可愛いー!」「あとで握手してー!」「女神様好きー!」
少女のようにもじもじした姿に、ほぼ全女性参加者の心を掴んだようだ
「ん、んん…とにかくここにいる者からすれば異質な存在なのかもしれない、だけどケズリファミリーには温かい者があつまり、梳李を中心に優しい世界を作ろうと努力している。いつも自分達の事は後回しにし、全員が文句を言う事もなく一丸となって、全力で世界に尽くしてくれている。梳李は確かに強い、戦闘力はずば抜けていて、魔法やスキルもたくさん所持しているが、梳李の強さについてきたわけではなく、誰よりも優しく誰よりも温かい所に魅かれた者が集まっている。横にいる2人もまた、セントラルやみなさんの本国に危機が訪れれば、梳李と共に行動し、必要があれば猛威を奮う事だろう。今日はセブンスターズのオーディションではあるが、そういうファミリーの事も踏まえた上で、今のギルドは面白くないから、セブンスターズに試しに行ってみようとか、セブンスターズの方が、今よりも楽に暮らせるんじゃないかとか、自分の弱さを棚に上げて、環境のせいにするような半端な決意の者は、今のうちに自分から辞退してほしい。自らの努力を怠らず、不器用であっても地道に鍛錬を重ねて、成長する意欲のある者や、種族の分け隔てなく誰にでも思いやりを持てる者がセブンスターズには相応しい…今は強くなくてもいい!そういう者だけが誇りを胸に、勇気を出してオーディションを受けてもらいたい!簡単だけど挨拶にする、審査委員長のへっかちゃんでした」
「おおおおおーー!」
「ヘカテー様可愛いー!」
歓声が爆発した
「お疲れ様でした」
なんだか俺も熱いものが込み上げてきて言葉にならなくなったから、ヘカテーを強く抱きしめた
「女神様!審査委員長様!開会の挨拶ありがとうございました。先程の挨拶を聞き、自分から棄権した者が出ましたので、残ったのは50名程度になりましたが、女神の言葉に素直に従った結果なのでしょう。予定通り元気に進めて参りたいと思います。オーディション参加者は番号での掌握になりますので、ステージに上がる前に番号札を服に取り付けて、質問とアピールタイムに入るようにお願いします」
1番から順番にはじまり様々なアピールポイントを披露する者もいた、面白い質問をする者もいた。ダンジョン探索に対して真剣な者もいれば、どちらかと言うとファミリー志願者も数人混じっていた。ミーティア人気もあってエルフが多く来ていた、次いで魔法使いの募集が多かった事とセペトの抜けた穴を初めから希望していた、魔人が多く見受けられた
一際目立ったのはさっきアンとサラが話をしていたドドだった
「3番のドドです。盾として仲間に加えて頂きたい。特技は申し訳ないが酒を飲み続ける事しかできぬ。募集した理由はアンとサラが楽しそうに2人で歩く姿を見かけたからじゃ、弟子のように接した2人がとても幸せそうだった。梳李殿に憧れ、梳李殿から色んな事を学んだ結果なのだろうと勝手に思っている。自分で言うのはなんだが、経験も役割を果たす事も、戦闘面については自信がある。梳李殿はあとは何をお望みか?」
「特に難しい事ではありません。ですが持ち合わせない者には1番難しい事なのかもしれません。表面的な言葉や態度ではなく、その人の心の奥底にある熱い情熱や思いやり、仲間を思う優しさ。そういう事を俺は重要にしています。仲間が伸び悩んだ時、甘やかす訳でもなく、厳しく叱るわけでもなく、そっと寄り添える人。仲間が自分の身内の事や他の友人の事で悩んだ時、自分に起こった出来事と変わらぬ知恵をしぼり出せる人。そんな当たり前のようで当たり前には出来ない事を求めています」
「わかりました。アンとサラが飛び込んで行った事が良くわかりました。今日は梳李殿に触れる機会を作って頂きありがとうございました」
それ以上の事はなにもせず、特にアピールもせず、どれくらい入隊したいのかも告げずに、礼だけを行ってステージを後にした
「5番のティファニーです!剣士志望です!初めにアスコット隊長!ご結婚おめでとうございます!」
「その話はいましなくても(汗)」
「私はアスコット隊長までは行かないですがスピードを持ち味にしています。所持スキルはスラッシュ、ダブルスラッシュで、その2つのスキルと、瞬足を駆使しながら戦う事が得意です。特技は料理でいつでもお嫁にいけます!」
「8番ボルドーです。バフ、デバフ等の支援系を得意にしています。攻撃魔法も初級なら大抵は撃てます。正直な話、セペトを羨ましく見ていました。前衛職が余りいない魔人のパーティでは身体強化のバフはほとんど使う場面がなく、デバフを必要とする魔物は上位種が多く、活躍する場面がほとんどありませんでした。特技は特にありませんが、やる気はありますし他人を裏切る事はありません」
「15番ザビエルです!獲物は大剣です!ガルーダ様に1度ダンジョンで助けてもらった事があり憧れていました。荷物運びでもやらせてもらいたいと志願してきました」
「17番ライチです、弓と罠を仕掛けるのが得意です。攻撃魔法も多少は使えるので、ミーティア様のミスリルの矢なら威力も出せると思います」
そういう具合に進んで行った。ヘカテーが挨拶で必要としている人員を、しっかり伝えてくれたので、その点に問題のありそうな者は見当たらなかった
エルフの魔法使いは回復を得意とする人が多く、攻撃魔法の魔法使いは、やはり魔人が多く来た、盾使いのドワーフも数人来ていたが、ドドを超える人はいそうになかった。剣士は募集に対して受ける人数が多く競争率が高かったが、獣人族も人族もともにガルーダとアスコットに馴染みのある人がほとんどだった
「43番トロンです。火の魔法なら上級まで使えます。特技とは言わないですがよく食べます。こんな身体をしていますが、飛んだり走ったりは俊敏にできます。よければ梳李様、私が逃げるので捕まえて貰えますでしょうか」
「いいよ」
「ではカウトダウンはスミスから行います。皆さんご一緒に!」
「5!4!3!2!1!スタート」
1歩で捕まえた
「おーっと!速い!速い!梳李様が一瞬で捕まえましたー!」
「はははははっ!」
会場をわかしている
「実況担当として誰にも聞こえないように、一言だけつぶやいておこう。大人気ない!」
「はははははっ!」
「あれー!いま、梳李様は下にいましたよね?なぜ捕まったんでしょうか?」
「なぜだろうな」
「失格ですか?」
「そんな規定はないから大丈夫だよ。審査員の持ち点は全員が平等に持っているから、点数次第だよ」
「自信があったんですけどねー」
「逃げられなかったのは残念だったな。だけどそれを気にする必要はないからな」
「ありがとうございましたー!」
無事に全員のオーディションは終わった
「これで以上になります。最後にケズリファミリーの梳李代表から終演の挨拶があります」
「みなさんたくさんのご応募と、たくさんのご観覧、ほんとうにありがとうございました。また組合からは役員として、準備段階から参加して頂いた方々、早朝より警備にあたってくれた方々、ほんとうにありがとうございました。また本日は5カ国とも本国から来賓の方にもお越し頂き、セブンスターズのオーディションがこのように盛大な催しとなり、世界各国から花を添えて頂いた事にも深く感謝申し上げます。司会の方からケズリファミリーの代表と紹介して頂きましたが、我がファミリーはひとりひとりの役割こそ違うものの、一人ももれる事なくファミリーを背負って立ち、私と寸分たがわぬ志しと責任を持って、日々の生活を送ってくれています。手前味噌な話ではありますが、苦楽を共にする仲間は私の自慢の宝物でもありますので、その点だけ紹介させてもらいす。さて選考については、審査員が持ち点を、それぞれの判断で投票する、加点方式になっている為、集計の都合上、発表は後日冒険者組合に貼り出す形にさせて頂きます。選考基準がかなり特殊な事もあり、選ばれなかったとしても、能力に関係がある訳ではありませんので、気にすることなくむしろ、セブンスターズは惜しい人材を逃したなと、ご自身を肯定していただけると幸いです。オーディションに参加された方々には、本日の日当を用意させて頂いておりますので、番号札と引き換えに忘れずに、必ずお持ち帰りください。また最後まで残ってくださった方々にも、記念品を用意しておりますので、出口でセブンスターズの隊長である、アスコットとガルーダからお受け取りください。本日は長時間お疲れ様でした。ほんとうにありがとうございました!」
長い長い1日が終わった。試験的に取り組んだオーディションだったが、手応えはあった。セブンスターズも7人×2チームになり、探索もより進めて行きそうだ
俺はへっかちゃんを時折思い出してまだ笑ってしまうので、今日は寝るまで吹き出しそうだ
ヘカテーもたまにはやるなあ ※あくまで個人的感想です
第47話に続く




