第43話 エルフの国の大改革
今日は朝から米の収穫に来ていた。なぜか並んで寝ていたミーティアの親族一同も含んで、南の村からも南西の村からもたくさんの人が集まって、総出で収穫をして、少しでも早くお米を味わおうとお祭り騒ぎになっていた
非力なお年寄りや子供に、千歯こきととうみの使い方を説明し、脱穀の仕方を教えて稲から米を作った
米の炊き方を教えて、炊きたてのごはんで、おにぎりを作り、エルフの国にもある、豆腐と玉ねぎの味噌汁も全員が食べられるように作った
「みなさんお昼ですよー。収穫したお米を食べてみてください」
「ミーティア達もヴィーナス達も食べていいよ」
お昼ご飯をみんなで取りながら、南の村の人も南西の村の人も、仲良く笑いあっているのを見たら、豊富な実りがあると争いは減るんだろうと感じた。オリバー一派も大活躍している
「梳李様ごはんとは美味しい食べ物でございますな。米はいつ苗を植えてどれくらいで収穫するのですか?」
「春に植えて秋に刈り取ります。88日で収穫期を迎えると考えられています」
「フェアリー、この国に四季はあるのか?」
「一応ありますよ。田植えのシーズンはまもなくですよ。ちょうど良かったですね」
「これは全国に広めてもよろしいかな」
「もちろんどうぞ、全国の収穫の中から販売に回すものは商業組合で買い上げてもらって、そのあと値崩れを起こさないように、サメハダ商会で全て買い上げてから、世界に流通させます。お米は間違いなく、エルフの国を豊かにしてくれると確信しています」
「娘の事でもお世話になり、今度は実りまで頂き本当にありがとうございます」
「話はあとです。ゆっくり召し上がってください」
そんな話をしているとフォレストから族長のバッシュと商業組合のドーピーと冒険者組合のジェイコブが揃って登場した
「はじめまして梳李様、族長を務めておりますバッシュでございます。ご挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした。この度は冒険者組合と商業組合に多大なご協力を頂き、またこのように水田と稲作という、穀物を作る技術まで提供して頂き、心から感謝申し上げます」
「ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。ケズリ・ヘカテーです。堅苦しい挨拶は抜きにして、どうぞ族長もお召し上がりください」
「ドーピーもジェイコブもとりあえず食べて」
おにぎりを美味しそうに食べるみんなの姿を見て、ヘカテー王国には海があるから塩田をつくって、塩を流通させようと考えていた
「お兄ちゃん!このおにぎりって言うのどうやって握るの?お母さんが来れなかったから、持って帰って食べさせたいの」
「手を出して、ごはんが手につかないように、水で濡らして塩を手につける。それだけだ、あとは好きな形に軽く手で、握れば完成だよ」
「梳李私も作りたいから水と塩をつけて」
ヴィーナスとフェアリーとミーティアも来た。エンジェルは食べるのみである。とにかくみんなが幸せそうな笑顔の花を咲かせていた
「梳李様よろしいですか?先程南の村のホセに聞いたのですが、この穀物をエルフの国の特産品にして、全国の集落に広めて良いのですか?」
「はい全国で作って、国民の消費する分を除き商業組合で買取りするようにしていただけば、サメハダ商会で全部買取って、全世界に流通させるつもりですよ」
「元々梳李様の技術なのに、なぜエルフの国に提供頂いたのですか?」
「自給自足も多いため、不作の年は集落同士で小競り合いがあると聞きました。争いを無くすにも、まずは豊かな国土を作らなければなりません。流通にも強い新たな穀物を持ち、国が豊かになれば、自然と争いは無くなるでしょうし、全国的に不作の年があったとしても、輸入に頼る事もできるようになります。私はなにかを独占して、自分が使いきれないような財を築く事よりも、今ここにいるみなさんのように、笑顔の花が大輪になる事の方が重要なのです」
「感服いたしました。エルフの国としても期待に応えられるように、富国に務めてまいります。そこで梳李様に提案なのですが、ミーティア様の一族にラストネームをつけてあげて貰えませんか?そして梳李様はエルフの国の名誉族長として、お名前を我が国にも連ねて頂く訳には行かないでしょうか?」
「それはミーティアの家の事はミーティアに聞かないとなんとも、あと私が名を連ねるのなら、名誉副族長で良いので他の3人も共にお願いしたいですね」
「フェアリー!他の2人とこっちに来てくれ」
「お呼びですか?梳李」
「紹介します。この者がフェアリー・ヘカテーです。次がヴィーナス・ヘカテーです。最後にエンジェル・ヘカテーです」
「この御三方は梳李様の奥様方でございましたか?」
「奥様というより、一族の者です」
「そこは奥様でいいんじゃないですか?」フェアリー
「そうだぞ梳李!遠慮なく私も嫁にしろ」ヘカテー
「あんた女神でしょうが」
「細かい事を気にしなくていいじゃないか」
「いや俺よりあんたが気にしろよ!相変わらず突っ込み所満載女神だな」
「梳李!ラストネームの事は慎んでお受けするそうです。お父さんが言ってます」
「そもそもエルフにラストネームとかあるのか?」
「長い歴史の中で救国の英雄にのみ名乗る事を許されています。族長の私だけの判断ではなく、村長一同異論のない決定です」
「それなら、ライスと言うラストネームでどうでしょう。私の知識の中にある言葉で、米と言う意味です」
「ねぇ梳李、私もヘカテーにして!何があっても離れないから、さっきの紹介の仕方が羨まし過ぎて、息をするのを忘れそうです!」
「わかったわかった、アリアナもアスコットも望めば与えるぞ」
「もちろん梳李が正妻だとか、側室だとか、区別するのが嫌いで、みんなに平等なのは理解していますよ」
「それならバッシュさんこうしましょう」
そして、名誉族長にケズリ・ライス・ヘカテー、名誉副族長にフェアリー・ライス・ヘカテー、ヴィーナス・ライス・ヘカテー、エンジェル・ライス・ヘカテー、ミーティア・ライス・ヘカテーと5人がエルフの国に名を連ねる事にした。ミーティアの実家はホセ・ライス、セリーヌ・ライス以下親族全員が救国の英雄となった。後日水田は瞬く間に全国に拡がり、次の田植えの時期を心待ちにしている
「ありがとうございます。よろしければ今日はフォレストに来ていただいて、ささやかなお祝いをさせていただきたいのですが」
「まだオーディションは間に合うんだっけ?」
「オーディションは明後日なので、明日帰れば間に合いますよ」
「それならお邪魔します」
既に俺達の専用馬車が迎えに来ていた。5時間くらいかかるらしいが、たまにはのんびりもいいかな
「ヘカテーから順番に、俺の膝の上に横から座ってくれないか…みんなに比べると、とても短い時間で俺の生命は朽ちるかもしれないけど、生きている限り、区別なく平等にみんなを愛すると約束する。キスさせて欲しい」
「これがしてもらうキスの味かあ、良いなあ梳李」
「してもらうってどういう意味だ」
「い、いや、気にする事じゃないよ」
「ふふっ!梳李が寝てる時にみんなでしてるのですよ」
「そうだったのか?全然気が付かなかったよ。殺意がない気配は寝てると気が付かないんだな」
「ミーティアは実家まで巻き込んじゃったな」
「問題ないですよ。それにヘカテーと付けてくれてありがとう。もう少しここに座ってていい?」
「いいよ好きなだけ居たら」
「それはダメだろ!不公平だよ梳李!そもそも女神の私をさておいて」
「時間を決めて順番でいいけど、それだとフェアリーとヘカテーは、2回づつになるから不公平じゃん」
エンジェルも今日はとても甘えていた。ヴィーナスにしてもエンジェルにしても、とても強力な魔物なのに、それだけ従者になると寄せてくれるのだろうか
フォレストに着いた俺たちは、広場で歓迎の出迎えを受けた。人族の時とは全然違うが、潔癖なエルフ族も握手をして欲しいとならんだ、戸惑う人も多かったが、あちらこちらから葉笛の音が流れて、静かな森の中にいるような、夢のような時間だった
「ねぇ梳李!種族を超えた世界初の夫婦になったね」
「そうだな」
「子供ってつくれるのかな」
「どうなんだろうね。わかっている事は、昨日の俺よりも、今の俺の方が幸せだって事だけだな」
「梳李!なんか…臭わない?」
まてまてまてまて、そこは微笑んでキスでもすればいいんじゃねぇのかよ(汗)
「ふふっ!私も」
第44話に続く




