第42話 ミーティアの元旦那オリバー
「私の事わかるかなあ、随分かわってると思うけど」
「久しぶりだと実家に帰るのも、緊張するんだな」
「13年ぶりだからね、わからなくても普通だけど、わかってもらえないとショックでしょ?」
「そうだな隣の村に差し出された事もあるしな」
「それはねエルフ族にとっては、一族の維持がもっとも重要な事だから、それで普通なんだよ」
「そうなのか?エルフ文化って事か」
「だから昨日の商業組合のリビアさんも、セントラルに興味が無くても来てたと思うよ。それだけ商業組合としては梳李と縁を強くしたいんだよ。誇り高く潔癖な種族ではあるけれど、一族を長い間存続させるだけの、知恵はあるんだよね。嫌な言い方をすれば、ずる賢い所があるのよ」
「俺と言うよりもミーティア弓道専門店が認められたんじゃないの?」
「そこはそうでもあるけれど、そこには梳李がくっついていて、おまけの為にお菓子を買うようなもんだよ」
「お菓子とか、おまけとか、よく知ってるね」
「最近みんな一緒にいるから、私とアリアナは寝る前に、ヘカテーから地球の事を教わってるのよ」
「教わるのは良いけど、お菓子とおまけって、なんの授業なんだよ」
「ふふふっ!」
「それはフェアリーか?ヘカテーか?」
「もちろん私だ!」
「おまけなんてすっかり忘れてたけど、確かにおまけをつけるのはいいかもな、帰ったらガブリエルに言って、果物を1箱仕入れしてくれたら小麦も付けるとかやってみようか」
ミーティアの実家の前に来た、やはり緊張しているらしく、俺の手を取って強く握った
「ただいまー!」
「はいどちら様ですかな?」
ミーティアの父親が出てきた、もう50にはなるだろうが長寿なせいもあって、見た目はとても若く、人族で例えるとまだ30代半ばに見える
「ミ、ミーティアか?」
「ただいま」
「セリーヌ!セリーヌ!」
父親というのはびっくりした出来事があると、奥さんを呼ぶのは地球でも異世界でも、共通なのだろうか、よく見た光景が目の前にあった
「ホセどうしたの?そんなに慌てて」
「ミーティアじゃ!ミーティアが来たぞ!ミーティアが帰ってきたんじゃ!」
「そら娘なのだから帰って来る事もあるわよ。ミーティア久しぶりだね、大きく綺麗になって…会いたかったよ」
「お母さんただいま」
「そちらの方が梳李様かしら?わざわざお越し頂きありがとうございます」
「こんにちは、ケズリ・ヘカテーです。突然お邪魔してすみません」
「噂は予々(かねがね)お聞きしています。ミーティアのお店が有名になったのも、全て梳李様のおかげだと」
「僕がした事はほんの少し背中を押しただけで、ミーティアさんの努力が報われたのですよ」
「こんな所で立ち話もなんですから、お入りください」
「セリーヌ!ミーティアじゃ!ミーティアだぞ!」
「ホセはなに?ずーっと固まってたの?馬鹿な事をしてないで入ってもらいますよ」
「結構頑張ったんだけどな」
ヘカテー臭のするお父さんだった
「ミーティアはまだ子供だったのに、色々あって苦労もさせて、あなた一人に村の事を背負わせてごめんね」
「終わった事だし、今は幸せだから大丈夫だよ」
「そうみたいね、ミーティアの弓矢の店が凄いって聞いた時は、同じ名前の人が居るんだなぁって思ってたけど、よく聞いたらあなただったから、元気で良かったと思ってたのよ」
涙を流しながら、たんたんと話す姿がとても印象的だった
「わしがもっと強い村長なら守ってやれたのに、すまんかったな」
「お父さんはまだ村長なの?」
「もう引退して農園の世話役になった」父
「梳李様、娘の面倒をみていただき、ほんとにありがとうございます」父
「ミーティアもいい人に見染められて良かったね」母
「ちょっと!お母さん!違うよ。私が梳李にくっついてるだけ!」
「違うのかい?だってあんたとても好きそうじゃないの」母
「それはそうだけど、将来の約束とかあるわけじゃないの!恥ずかしい事言わないで」
さっきフリーズしてたお父さんといい、お母さんのこの話題も、ぶっこんでんのか?真面目なのかわからないんだよな。両親共にヘカテー臭がするんだよな
「梳李!囲まれています!」ヴィーナス
「何人だ?」
「200くらいかと」
「そういえば数日前にオリバーが来て、ミーティアは帰ってこないのか聞いていたな」父
「オリバーってのが元の旦那か?」
「そうです」ミーティア
「梳李様、危険な事はなさらないでください。ホセが行って話をしますから」母
「大丈夫ですよお母さん、たった200で来るとは命知らずにも程があります」
「入口の前に集まって来ましたね」ヴィーナス
「フェアリーはミーティアとご両親の守りを頼む、エンジェルとヴィーナスは行こうか」
「梳李様!ほんとにおやめ下さい。オリバーは乱暴者です」父
「オリバーって名前には嫌な思い出もありまして、それにミーティアに害をなそうとする者がいれば、それが数万人に及んだとしても、俺は人の心を捨てて殲滅します。血液さえ残らないほどに。一瞬で終わります、少しお待ちください」
元旦那ときいて昂るのを感じた。あとから聞いた話だが、その昂りは全身から魔力を放出させ、ヴィーナスやエンジェルでさえも震える程だったと言う。それほどミーティアとマールの事を、大切に思っているらしい
「なんだ、お前達は…たった200で俺に勝てると思っているのか…」
「全員!整列!私がこの者どもを束ねているオリバーと申します!ミーティア様の元の亭主です!この度はミーティア様共々お越しになられたと伺い全員で謝罪に参りました!ミーティア様には過去に酷い事をして、大変に申し訳ありませんでした!」
「え!」
「どうか我が村を滅ぼすのだけはご勘弁ください!この200名の命で納めてください!土地も枯れていて貧しく、差し出せる物が他にありません!どうか!どうか!」
「えーっと、えーっと」
「梳李これはミーティアの意趣返しに来たと、勘違いしてるみたいだね」エンジェル
「はい、間違いないでしょう」ヴィーナス
200人がきっちり整列して土下座する姿は、まあまあ壮観だった
「ミーティア!元の旦那さんが謝りに来てるよー!」
「オリバー久しぶりね。梳李は私の家に遊びに来ただけで、なにもされてないのに村を滅ぼたりしないわよ」
「だけど話によれば5000人の軍隊を一瞬で消し飛ばしたとか、SSランクの魔物まで混ざった数万のダンジョンブレイクを、阿修羅の如く戦って、たったひとりで殲滅したとか、敵になった者は1人として生きていないと聞いていたから」
「ははははは!所々残念な情報が混ざってるわ」
「確かに仲間に向けられる害意に対しては、鬼も震えて隠れるほどに怖いけど、誰よりも温かく誰よりも優しい人。意味もなく土地を奪ったり、殺戮したりしません」
「そうなのか、ここに来た全員は覚悟して来たんだよ」
「ははははは!笑ったら悪いけど可笑しい!」
「オリバーは土地が枯れてるといったか?ミーティアどうする?助けるか?」
「この様子なら助けてあげても良いと思う」
「ちょうど13年前もそうでした、私の南西の村は大不作でどうしようもなくて、食料を確保しようとここに攻め込んで、可愛いミーティアに一目惚れしてしまって、食料と一緒に差し出せと…申し訳ありませんでした!」
「だけど心を開いてもらえた事はなく、そうこうしているうちに、他の女に乗り換えまして…申し訳ありませんでした!」
「いや俺に謝る事じゃないし、ミーティアも今は幸せにしてるから、終わった事など気にもしてないだろ」
「はい、隣同士の村ですから仲良くしたら良いと思ってますよ。私はセントラルから離れる気もありませんし」
「枯れた土地もなんとかするけど、それなら村と村の間に水のある開けた土地はないか?」
「それならお互いの取り決めで手を付けていない土地がちょうどあります」
「そこがいいな、オリバーそこに村長を連れてこい。これから開墾して収穫する。ミーティアのお父さんと村長も来てください。俺達も行きます」
「ミーティアもフェアリーもおいで、ヴィーナスにもエンジェルにもいつも乗せてもらうから数kmの場所なら俺が4人を運ぶよ」
両肩と両腕に二人づつのせて森の中を走った。4人はきゃーきゃー楽しそうに騒いでいた
集合した場所は水田をつくるには格好の場所だったので、フェアリーとヴィーナスと俺の魔力と総出で、稲を育て収穫できるまでにした。食糧不足という緊急事態だからヘカテーも許してくれた。それを見ていたエルフ族は神の奇跡と膝まづいた。来年からは自分達で作って、食べる分を確保したら、残りをサメハダ商会で買い取る事で販路も確保し、2つの村は手を結んだ。ついでにオリバーの村の枯れた土地にも恵を与えてきた
ミーティアは実家に泊まるようにして、俺達は久しぶりに大地をベットに休んだ。みんな姿は変わったが、懐かしい時間が流れた。ミーティアはのんびり両親と話したあと、寝る時には俺の上に乗っかったが、不思議なのはミーティアの両親や親族も、いつの間にか並んで寝ていた
「ミーティア、この親族一同で外で並んで寝るのは、エルフ族のおもてなしか?」
「まさか…水田を作ってくれて、お米で収入も食料も確保してくれたから、その感謝とそれと…」
「それと?」
「なんでもないよ」
「なんだよ、気になるじゃないか」
「梳李と同じ事をしてみたいだけ」
「なんじゃそら!」
親族一同ヘカテー臭かい!
第43話に続く




