第41話 エルフの国に来たよ
「ミーティア、マールは連れて帰らなくていいのか?」
「本人に聞いたら俺の家はここだから行かないって」
「お父さんに会うかもしれないから気を使ったかな」
「多分、そんな深い理由はないよ」
エルフの国のダンジョンに行くついでに、ミーティアの里帰りもするので、俺は少し緊張気味だ。結婚の挨拶に行くわけじゃないし、ましてやミーティアは初婚でもないから、俺が緊張する必要はないのだが、ご両親がミーティアを見た時に、幸せそうだと安心させてあげたいと思うと、一緒に居る俺は責任重大なのである
エルフの国はロドリゲスのように密集した建物や街があるわけではなく、小さい集落が無数にあり、いくつかの集落をまとめて、村長が世話役として存在している、フォレストという名の首都はある物の、王や皇帝が納めているわけでなく、村長から代表を選んで、議長としての族長が全体を取りまとめるシステムになっているらしい。首都フォレストは他国やセントラルからの物資、文化を集中させる為にある都市で、関係省庁はあるものの人と文化が交流する、観光地のような色が濃く、根本的な構造が人族とはちがうようだ。各集落や村にも特に名前もなく、北の村とか東の村とか方角や目立つ大木を目印に場所を特定するようだ
訪問予定のミーティアの実家は南の村にあり、ダンジョンは、ダンジョンの木の村にある、作業をする為、はじめにそこを目指していた
「エンジェル!背中に大きな箱を乗せてごめんな。3か所を回る事になりそうだが平気か?」
「大丈夫だよ。雷風もヴィーナスになって、人として存在するんだし、遠くに移動する時は私に乗ればいいじゃん」
「空を駆けるのも早いけど、飛ぶのはもっと早いなあ、エンジェルありがとうな」
「私にもたまには乗ってくださいね」
「ヴィーナスも駆けたくなったら、遠慮なく駆けていいからな。その時は乗せてもらうよ」
エンジェルに大きなステージを乗せ座席にしてある。乗り心地は抜群で空を飛びながら寝そべって、青い空と白い雲を眺めるのは最高である
「ミーティアは両親に会うのは何年ぶりだ?」
「11歳で嫁に行ったきりですから、13年ぶりかな」
「そんなに会ってないのか、途中で会いたくならなかったのか?」
「私は隣の集落が攻めて来た時に、攻撃をやめる条件に差し出すように言われて嫁いだので、結婚したというより生け贄になったという方が、わかりやすいんじゃないかな。そこで暮らしたのも初めのうちだけで、やさぐれた旦那が居ずらくなってセントラルに行ったので、向こうの方が長いくらいですよ。旦那が苦手にしていたボスがダンジョンで亡くなったのを聞き、とっととあっちは他の女の人と国に戻ったので、マールも大した思い出はないのでしょうけど、泣いている私の事が印象に残っているみたいだね」
「その割にはミーティアの店の噂を聞いた時は、旦那の跡を継いで頑張ってるって評判だったよ。アスコットに聞いた話だけど」
「それは私が若くてハエがうるさかったので、そういう風に自分で言ってたからですよ」
「なるほどな、今でもうるさいだろ」
「梳李の所に行くまでは、ちょくちょくあったけど、さすがに…ね!」
「守ってるのか、邪魔してるのかわからんな」
「梳李のそばにいるのは私の意思だから、ちゃんと守ってくれてるんですよ」
「それならいいか」
「梳李はそういう事に関しては、わざとヘタレにしてるけど、女心も理解してるんでしょ?アリアナから聞いてますよ。それならなぜ私が傍から離れないかは、黙っててもわかるでしょ」
「す、すみません」
「それはそれで可愛く見えていいのです」
「ん、んん…ところでさっき、隣の集落が攻めて来てって言ったけど、そんな事は良くあるのか?」
「最近の事はわからないけど、どこも同じですよ。通したいわがままを力で行使する輩はどこにでもいます。私も梳李に守られていなければ、元の旦那の一味から、なにかしらの妨害をうけたでしょうし、元の旦那に限らずライバル店や、機嫌を損ねたお客さんからでも、前の店ではいろんな人から妨害されましたよ」
「そうかもな、マールを抱えて、長い間ひとりで頑張ってたんだな。良く頑張ったね」
「元旦那はついでに潰しにいくか?ほっとくとミーティアにぶつけられない欲求が、故郷に行ったりしないのか?」
「状況次第だけど、そこまでバカじゃないと思ってますけど」
「そうだな、状況次第だな」
「お!あれか?見えてきたぞ」
ダンジョンの木に到着した。直径10mを超える大木にダンジョンの入口が大きく口を開けている
「梳李様、わざわざご足労ありがとうごさいます」
ジェイコブは先に来て待っていた。冒険者もちらほら入っていくが、セントラルに比べてみんな軽装備で、民族衣装を身にまとい手作りの武器で戦うようだ
「このダンジョンに強い魔物はいないのか?みんな普通の服で探索するんだな」
「ここではこのスタイルがスタンダードなので、探索自体は深くに潜らず、安全な所までしかいかないのですが、最近はイレギュラーによって怪我人があとを経ちません」
「それならまずは防具やポーションを組合の支部で販売すればいいじゃないか」
「それが冒険者もそこまで裕福ではなく、ダンジョン探索も狩猟の延長なのです」
「なるほどな国内にこういうダンジョンは何ヶ所もあるのか?」
「ダンジョン自体は4か所です」
「他の場所は大丈夫なのか?」
「とりあえず他の場所は盛り土をしたり、入口を小さくするように手配したのですがここだけは策がなくて」
「この樹を痛めないようにしなきゃな。フェアリーいいか?」
「ここにおりますよ」
「樹を傷付けないように鉄格子で囲うのはどうだろう」
「それしかなさそうですね。私と梳李で材料を作って、エンジェルとヴィーナスにスパークで溶接して貰いましょう」
「ジェイコブさん、形は任せてもらっていいですか?」
「はいお任せします」
「材料を運ぶのに何人か手を貸して貰えませんか」
ジェイコブとミーティアはエルフの国の言葉で協力者を集めた。まったくわからない言葉じゃないが、強い方言のようなものだろうか。ミーティアを見たエルフ達はミーティアの事を、南の村の姫といっていた。ただミーティアとミーティアの矢は、こんな田舎でも噂にはなっていて、祝福ムードが漂っていた。予定通り作業を進めている間に、何人も怪我をした冒険者が薬草が欲しいと出てきたので、治療もしながら鉄格子を作った。このダンジョンは集落からとても近く、ダンジョンブレイクが起これば一溜りもない為、鉄格子が強く揺れたらラッパがなる警報器を取り付けた
作成にあたっては、俺の持つイメージをフェアリーに読み取ってもらったのだが、抱き合って一体化する必要があり、冒険者は冷やかしの歓声をあげて、ミーティアは少し不機嫌だった
「これで大丈夫でしょ」
「はい!これなら大きな魔物は出て来れません。最後につけたのはなんですか?」
「エンジェル!軽く鉄格子を殴ってみてくれ」
ラッパが辺りに鳴り響く
「ここは集落に近いから、万が一魔物が出てきた時に合図が鳴るようにしたんですよ」
「これはいいですね、もう1ヶ所集落に近い所があるのですが、もうひとつ頂けませんか」
「いいですよ。それに試験的に作って見たけど良さそうなので、帰ったら他国でも使えるように、組合に渡しておきますよ。振動で鳴るので冒険者には徹底してくださいね」
「それなら他の所に着ける時は、出入口に木で作ったゲートを置けばよいでしょうか」
「はい、それが一番良いと思いますよ」
「梳李やあれはいいなあ」
「ヘカテーか?」
「いつも突然でてくるな」
「狙った獲物は逃がさない、神出鬼没の大泥棒とは私の事よ!てへっ」
「あらあら、この人とうとう大泥棒になっちゃったよ。相変わらず好きだね」
「さっきフェアリーと抱き合ったから、なんか私もキュンとしてな。無性にぶっこみたくなったんだよ」
「それだけで出てきたの?」
「いや、あの警報とやらが優秀だと思ってな」
「フェアリーが居ると大抵の事は出来そうだな、地球では電気を通して装置を作動させるけど、ここでは魔力があるから、魔石に原理を書き込むと、それだけで事が足りる。あんまり進んだ文明の力を持ち込む気はないけど、これくらいなら良いでしょ」
「そうだないつも民に優しいお前は、私の自慢だぞ」
「それよりヘカテー、話をするのにそんなにくっつかなとダメか?」
「気にしなくていい。居心地がいいんだ」
冒険者組合にポーションや防具を提供して、ジェイコブと冒険者達に別れをつげて、首都フォレストを目指した
「ミーティアの家は明日の朝でいいか?フォレストには宿やお店もあるんだろ?」
「大丈夫だよ。フォレストは一応は街になってるから、なんでもあるよ」
「5人で狭くないベットもあるかなあ」
「なくても5人でしょ!ふふっ」
首都フォレストの夜はロドリゲスに比べると早く終わる店が多かった、人族に対する差別はなさそうだったが、宿を取るにも買い物をするにもとにかく目立った。商業組合は既にミーティア弓道専門店の事は認識していて、サメハダ商会も知っていた為、俺とミーティアは大歓迎され、組合長以下幹部達の接待がはじまった。豪華な食事ではなかったが、美味しい果実酒と歌を披露してくれ、エルフ社会の文化に触れる事が出来た。今後はミーティア弓道専門店に専属の担当者をセントラルにおいてくれるらしく、セントラルに憧れのあるリビアと言う女の子が担当となった。普段はやる事がないので店員として無給で良いから使って欲しいと申し出があったので、住まいや食事はこちらから提供する事で合意した
「ミーティア!まだ起きてるか?」
「起きてるよ」
「少しこっちにおいで…大歓迎だったな」
「うん私はセントラルも長かったし、11で里を離れたから、あんまり故郷に思い入れはなかったけど来て良かったよ」
「俺が育った星には、故郷に錦を飾るって言葉があって、国を出て出世した人が故郷に帰るとか、故郷に認知されないと出世した甲斐がないって言うんだよ。ミーティアの努力が実を結んだ結果だけど、俺も嬉しかったよ」
「ありがとうね、愛してるよ梳李」
「今日も月が綺麗ですね」
「ふふっ、ありがとう、ちなみに私はその言葉の意味を知ってるよ。この前ヘカテーから聞いたから」
「え!」
「アリアナが突然言われたんだけど、意味があるのかなあっていっててさ」
「え!」
「私はその表現が嬉しいよ。愛してるっていわれるよりもいっぱい満たされる」
明日は実家かあ、どうも緊張するんだよな。だけど今のミーティアを見たらご両親も喜んでくれるかな
とりあえず首都フォレストでエルフ社会を満喫した梳李は、4人の美女に囲まれて爆発寸前のなにかを抱えて眠るのだった
爆発寸前のなにかってなんやねん!
第42話に続く




