第33話 ダンジョンブレイク
「なんか?緊張するなあ」
「ふふふふふっ!先に両親とメイドさんに声を掛けて来ますので、待っててくださいね」
門をくぐり中に入ると、芝生は綺麗に手入れされていて、建物に沿って花壇もあり、綺麗な彩りを添えていた。雷風を自由にして、玄関ホールに上がる階段の前で待っているが、落ち着かない事この上ない
「お待たせしました。どうぞ」
広い玄関ホールには美術品が飾られ、全体的に歴史を感じる造りだった。そこに家族全員が集合し、整列して出迎えてくれていた
「こんばんは!お邪魔します。ケズリ・ヘカテーと申します。突然の訪問にも関わらず、快く受け入れてくださり、ありがとうございます」
「大賢者様の来訪に感激の極みであります。まさか娘が大賢者様とご縁があったとは、父親として誇らしく思います。スコット家当主アイザック・スコットと申します。長旅でお疲れでしょう。遠慮なくお入りください」
「お世話になります!」
「いま、食事の用意をしている所です。家族も同席させてよろしいでしょうか?」
「もちろん、かまいません。近くにお住いの、ご親戚やご友人の方が望むなら、私は来て頂いてかまいませんよ。大した話も芸もありませんので退屈かもしれませんが」
「お気遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えて、希望する者はお邪魔させて頂きます。あと近頃ダンジョンが騒がしく、私は警備の確認をする為に途中で、中座させて頂くかも知れませんがお許しください」
「なんの問題もありません。夜遅くまでパトロールご苦労さまです。それと、そんなに丁重に扱われると、落ち着かないので、もう少し砕けてもらっても良いですか?」
「はっはっはっ!娘に聞いた通り、気さくな方なのですね」
門番が走り込んで来た
「スコット様大変です!大規模なダンジョンブレイクが発生しました!もう街にも入り込んでいます」
「すぐ行く!お前達は避難の誘導を!大賢者様すみません。少し出ます!」
「アリアナ!なにがあった?」
「付近のダンジョンから魔物が溢れ出たのです。進軍が早く街に進入したと」
「俺も出る!アリアナは雷風に乗って、上空から群れのボスを狙え、街の中は俺が掃討する!」
「雷風!気配をボスクラスに集中させて、アリアナを空から誘導してくれ!」
梳李は走った、ついさっきまで平穏な街だったのに、魔物に進入されている。冒険者が必死で盾になっているが、討ち漏らした魔物があちらこちらで暴れている。通りを進み、逃げ遅れた住民を助けあげ魔物を斬っていく。屋根に飛び乗り、魔物の咆哮を聞き魔法を放つ。住民の悲鳴のする所へ駆けつけ、抱えあげて魔物を斬る。西から東へ、北から南へ住民を抱えては大剣を振るい、安全な場所に運んでからまた斬った。全速力で駆け抜ける。屋根の上を走り、隅々まで確認する、万が一がないように、迅速に慎重に魔物を探す。見つけては両断し、避難に遅れた住民が居れば、避難所に連れて行った。魔物自体は大した数では無いが、襲われているのは、戦う術をもたない一般住民だ。この中から被害者を出すわけにはいかない。30体ほど斬って掃討し終わった頃、最後に1体残っていたオークロードに、子供達が襲われている
「俺は強いんだ!お前なんかに負けない」
ガクガク震えながら、友達を守ろうとしているのは、さっきのガキ大将だ。救出スキルを使いテレポートを使い、攻撃される直前でオークロードを討伐した
「頑張ったな、あとは全部まかせろ!」
居住地や商業地、街の中の掃討が終わり、冒険者の援軍に行く。冒険者と魔物の群れが街の入り口で入り乱れている。混戦では俺の大剣は使えない
「ライジングライトニング!」
魔物の群れを一斉に足止めする
「冒険者さん!全員さがって!あとは俺がやります!危険だから下がってください!」
軽く街に踏み入った先発隊の雑魚軍を、跳躍と神速で両断していく、まだ数は多くない。隙間から飛び込んで来る魔物も、1体の漏れもなく斬り刻む。神速とテレポートと跳躍を併用した最速移動。冒険者も素早く協力して下がってくれている。2本の大剣を思う存分振り回し、魔物を一気に粉砕する。通用門付近まで押し返した。ドラゴンブレスで魔物の進軍を焼き払い、進路を確保する
「ここまで食い止めたらあとは進入させない!俺が表のヤツらも殲滅します!冒険者さんは街のパトロールを頼みます!」
雷風とアリアナの援護射撃を受けながら、立ち止まる事なく、右手に青竜王、左手に赤竜王を持ち閃撃を放つ!進軍中の魔物が何体居るのか見えないが、視界を埋め尽くす数はいる。更に速く、更に強く、更に大きく大剣を振る!ジャイアントオーガやサイクロプスの姿まである。
「斬撃最大拡大!二刀流なぎ払い閃撃!」
両腕両刀の最大範囲からのクロス動作のなぎ払い。青い光と赤い光が、交差しながら魔物の一陣を斬って伏せる!もう一閃!また一閃!斬っても斬っても、魔物の行進は続く、飛び上がり宙を舞う、大地を駆ける!もう一閃!何度斬撃を放っても、何度閃撃を放っても、何度スキルを連続発動しても、一向に数が減らない。ダンジョンブレイク、瘴気に当てられた魔物の暴走か、普段の同一個体より明らかに強く硬い、ここで食い止めなければ、ここで踏ん張らなくては…どんどん速度をあげ高速の剣撃を見舞う。長い時間、スキルを使用し、大剣を振り回し、無我夢中で走り回った。やっと後ろの景色がぼんやりと見えてきた。あと少し、あと少し歯を食いしばれ!残りが大きな個体と、手負いの魔物になるまで!進軍を止めるまで!撃ち漏らしはないか?届かない範囲からの進軍はないか…大丈夫だ問題ない!空からはアリアナと雷風が完璧にサポートをしてくれている。残りはまだ数千体いる、手負いの魔物が多くなってきた、動く影を見つけては、跳躍し木の葉舞いを連続発動する。跳ねては斬り、斬っては走る、繰り返す、何度も何度も、まだキングゴーレムがいる、巨大なケルベロスがいる、巨大なキマイラもいる。時折、先行する雷風の雷撃とアリアナの矢が道を指してくれる。まだいる、まだ走る、まだ斬る、まだ舞う、二刀流狂喜乱舞。大森林から出てからは、ここまで全力を超える戦いはなかった。体力は?大丈夫だ、魔力は?大丈夫だ、自分を確認しながら斬撃をダンジョンへ向かって押し込んで行く!空高く宙を舞い高高度からの落下速度を乗せてキングゴーレムを一刀両断する。二刀流高速連撃!キマイラの頭の周りを、旋回するように回転しながらまとめて首をはねる。ケルベロスに乗り、振り落とされそうになりながらも狂喜乱舞する。何万回青竜王を振っただろうか、何万回赤竜王を振っただろうか、限界も近い…もう少し、あと少し…よし!街からの距離が離れ、動けなくなった魔物だけが残っている。これなら撃てる!
「滅せよ!ドラゴンブレス改殲滅!」
夜空を真っ赤に染めながら、方々に火花を散らし巨大な火の玉が落下する。着地した瞬間に、大地を盾として大炎が周囲に走る!
「スキル二刀流なぎ払い閃撃を覚えました」
「スキル二刀流狂喜乱舞を覚えました」
「スキル二刀流高速連撃を覚えました」
「新魔法ドラゴンブレス改殲滅を覚えました」
「ふう…雷風!気配はどうだ?」
「全滅した模様です。魔物の気配はしません」
「迎えに来てくれ!ダンジョンに入るぞ」
「梳李!お疲れ様でした」
「ありがとう、雷風とは何度も連携しながら戦ったから慣れていたが、アリアナのサポートも会話しながら連携してるように、とても自然に矢が道を指してくれ、道を開いてくれた。とても暴れやすかったよ」
「上空から梳李を見ていると、次に何をするのか話しかけてくれているように、自然に狙いを決める事ができたんです。それに空から見えた剣技が美しすぎて…魔物を斬る度に青や赤の閃光が走り、不謹慎ですが酔うほどに見惚れてしまいました」
「何とかなったけど…ギリギリだった…」
「少しだけどうぞ」
「やっぱ!このクッションは最高だなあ!って何を言わせる!」
「でも震えてるよ......」
「終わったんだな......」
「大丈夫だ!ありがとう。仕上げにダンジョンのパトロールに行こうか。サイクロプスやケルベロス、キマイラはどこから来たんだろうな」
「このダンジョンは深いのかな?」
「最下層にたどり着いた者は居ません。限りなく広がっているとも言われています」
「普通の冒険者に倒せるレベルの魔物じゃないよな」
「はい、サイクロプス、キングゴーレム、ケルベロス、キマイラは組合の資料でしか見た事がなかったです。実際に見るとあんなに大きいのですね」
「そうだな、深淵の大森林なみだったな。ダンジョンは、小さいと聞いていたが、入口の通路は、あの大きさの魔物が通るんだな」
「雷風、気配感知しながら数層進んでくれるか?」
「特に異変を感じませんが、もう少し精度をあげて、範囲を広げて奥に進みます」
「瘴気も確認してくれるか」
「街に戻ったら、冒険者組合やアリアナのお父さん達と話して、入口を狭くさせて貰おうな、最低限一般住民の安全は確保しなきゃな」
「梳李が提案したら、街の役員も組合も喜ぶと思いますよ」
「主!特に問題になるような気配はないですね。瘴気溜りも特に感じません」
「ここから出てきた事に違いないよな。一応ダンジョンの外も空から確認しようか」
「かしこまりました!」
「あとついでに魔石やドロップアイテムを拾うから、俺が走り回った場所は、少し低空飛行で頼むな」
「いっぱい落ちてんなー!そんなに魔物が居たのか?」
「はい、雷風と上空に上がった時は、街までの草原を覆い尽くすようにいたので、1万くらい居たと思いますよ」
「ははは!時間もかかるわけだなあ。久しぶりだったな雷風、あれだけ長時間走り回ったのは」
「そうですね!私も大森林を思い出していました!周辺はやはり痕跡はありませんね」
「それなら戻ろう」
街の中央広場に来た。大歓声である、雷風の上から1度歓声を制止した
「怪我人はいませんか!先に手当をさせて下さい!」
死者0重傷者1軽傷者15…重傷者はダンジョンブレイクの発見者。かなり深い傷を負っている、神官職の冒険者が回復しようと必死だが、焼け石に水だ
「自分に見させてください」
「頑張ってください、あなたの報告が遅ければ街は壊滅していました。もう少し頑張ってください」
エリクサーを飲ませ、ボディサーチをする
「梳李様!毒ももらっています。キュアヒールとエクストラヒールをかけてください。最後にリプロダクションを」
「委員長助かる!ありがとう!」
「キュアヒール、エクストラヒール、リプロダクション!」
傷口がゆっくりふさがっていき、顔色が少しづつ良くなってきた
「回復魔法キュアヒールを覚えました」
「回復魔法エクストラヒールを覚えました」
「なんとか間に合いましたね。これで大丈夫です。静かな所に寝かせてあげてください」
なんとか助かった。残りの軽傷者もヒールとポーションで治療した
「雷風に乗って挨拶するか。みなさんお疲れ様でした!高い所からすみません。みなさんの顔が良く見えるようにここから失礼します」
街じゅうの人から歓喜の声がこだました。歓声が葉っぱを揺らし、地響きがするほどに。その大歓声がダンジョンブレイクと言う災害の恐怖を物語っていた
「冒険者のみなさんも街を守って頂きありがとうございました。私の勝手な判断で申し訳ないのですが、本日の英雄を紹介します。ここに居るみなさん全員が英雄ですが…特にという意味ですからね」
笑いがこぼれる
「雷風、ガキ大将の所に」
手をだして引っぱりあげた
「この少年は、この小さな身体で、自身の友人を守る為に、街に進入した巨大なオークロードと対峙して、震えながらも1歩も引くこと無く、勇敢に立ち向かいました。自らを危険に晒しながらも戦った、偉大な英雄に私との友情の証をプレゼントしたいと思います」
もう一度大歓声が湧き上がる
委員長が作ったブローチを少年の胸元に付けた。少年は誇らしげな顔をしたあと、怖かったと泣き出した
「これが冒険者だ!これが英雄だ!怖くないから戦えるんじゃない!守りたいものがあるから奮い立つんだ!この小さな英雄に拍手をお願いします」
その後は、広場に降りたら観衆に囲まれ、しばらくは人混みに揉まれた。犠牲者を出さずにすんで良かった。結局ブローチをたくさん渡し、冒険者には武器をプレゼントし、アリアナが入口を改造する許可を取って、迎えに来るまで住民の歓迎は続いた。広場を役人に任せて、入口を改造する為ダンジョンに来た。改造は一瞬で終わったが、少し人に酔ったので、大の字に寝そべって夜空を眺めた
「主!隣で足を折っていいですか?」
「もちろんさ!雷風もお疲れ様!」
「私は反対側に!」
「アリアナはほんとによく気が付くなあ、改造の話を進めてくれた所とか、感心したよ」
「梳李は私の主様ですから」
「ありがとうな」
「もう私は梳李以外の男性を男性と思えなくなりました。妻にして欲しいとは言いませんが、それなりに責任は取ってくださいね」
「俺は誰とも結婚しないから、アリアナが望むなら、いつまでも隣にいることは出来るよ。アリアナもアスコットもミーティアもみんな魅力的だから、べったりくっついてこられると、理性をたもつのが大変なんだけどな。実際今日は野営じゃなくて、街へ行こうと言ったのも、2人で野営すると理性が崩壊しそうだったからなんだよ。みんなが想ってくれる事は嬉しいし、見返りを求めてないのはわかっている。俺もみんなが大好きだし、できれば離れたくないと思っているけど…俺自身が色んな意味で自分に自信がなかったり、自分の事が信用できなかったりするから…いま以上に近い間柄になったら、いまなら目の前にある、大切で幸せな時間が、消えてなくなりそうな気がして怖いんだよね」
「とても大切に想われている事は理解しています。満足もしています。何も語らなくとも、そのままの梳李を愛し続けます」
「月が綺麗ですね」
意味がわかるわけがないのだが一応伝えよう
「そうですねー」
しばらく休んでアリアナの家に戻ると、夜更けにかかわらず、握手会の列が出来ていた。中央広場であぶれた人や、起きてきた重傷だった人など、人数はそんなにいなかったから、軽く言葉を交わしながら握手をした。神様にでも会ったかの様に喜んでくれるお年寄りや、大剣の使い方を聞いてくる冒険者など色んな人がいた。重傷者はアサシンだったので、エクストラレッドコボルトの短剣とやらをプレゼントした。Sランク装備だが、今にも危ない状況になりながら、報告に来てくれたのだから、特別扱いでいいよな
解散した後でスコット家に招かれて、遅くなった食事をみんなで食べた、近所の親族や友人でテーブルには座れない人もいた。色んな質問に答えた。女性陣の大半は異性の好みや服の趣味、好きな食べ物などだった。小さい女の子が、街の中で俺に助けられたらしく、お姫様抱っこされたから、お嫁になるにはどうしたらいいか、そんな可愛い質問もあった。おじさん達は息子を弟子にとか、娘を嫁にとかお決まりの処世術を披露してくれた。アリアナから大森林の話が出て、大森林で討伐した魔物との戦闘の話になった、紙芝居でも見るように聞き入っていた。アースドラゴンがとにかく大きくて、甲羅が硬いから土魔法でひっくり返した話、キングリザードが膝まで浸かる沼地でも素早く動ける話、雷風に乗った時の話、スキルや魔法を取得した時の話、どの話もとても喜んでくれた。歓談は長く続いたが、夜も更けたので、記念品を全員に渡して解散した。
アイザックさんには、明日は早朝に出る旨を伝えて、客室に案内してもらい寝ころんだ。さすがに連日の大量の魔力消費に、熟睡した。朝方になって、人の気配に目を覚ますと半裸のアリアナがしがみついていた
さっきの話はなんだったんだよーー!!
第34話に続く




