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第31話 子爵家VS男爵家


少し落ち着くまで馬車の揺れに身を任せていた。前話に引き続き、俺の腕はまだ挟まっているが…抜くのは違う気がするし、嫌かと聞かれたら最高だし…とりあえず、アンダーソン家をどうするか?考えよう


「マシューと呼び捨てで良いですか?話をする時に敬称を付けると、話にくくてさ」


「命を助けて頂きましたし、国王陛下も呼び捨てになさるのに、なんの問題もありません」


「助かるよ。マシューに聞きたいんだけど、さっき落ち目の貴族には、良くあると言ったけど、領地の取り合いがあるという事か?」


「そう認識して頂いて問題ありません」


「隣接する貴族が、村や街を直接襲って、武力で屈服させるのか?」


「はい」


「そんな事はロドリゲス王家が許さんだろ?」


「当然犯罪行為なのですが、子爵家の時は、うちの領地を狙っている子爵家も同格なので、手出しはできません。ですが、この度男爵家に格下げになったので、子爵家が男爵家を庇護する為。という名目を付けられると、王家も介入でき無いのです。名目は、村の周辺で大掛かりな盗賊団が出ているとか、魔物が大量発生したから、合同で討伐隊を編成するとか、理由はいくらでも作れるのです」


「なるほどな、貴族社会の闇だな…アンダーソン領内に、狙われるほど豊かな領地があるのか?」


「はい、恐らく襲撃は、エドワーズ子爵家によるものだと思いますが、隣接した領地に大きな小麦農場があるのです。平坦に開けた場所で、人口は1000人程度ですが、取れ高の80%を王都に卸ている大農場があるのです」


「村長は誰がしているんだ?」


「私の妻はスカーレットと言いまして、旧姓をガルシアと言うのですが、その兄のオースティン・ガルシアが務めています」


「寝返り工作は出来ないから、武力行使という事か…」


「どうするんだ?領地からそんな村を奪われては、領地経営が困難になるだろ?」


「魔物に囲まれた時に、騎士1名を走らせて、周辺から軍を動員して、守備に当たるように命じましたが、数にしてせいぜい500、時間の問題と思います。諦めるしか無いかと…」


「ローガンが跡取りなんだろ?それで良いのか?」


「私には姉上のような剣の才能も、強敵に立ち向かう強い心もありません」


「その割には俺には無礼だったじゃないか」


「あの時はまだ現実を知らなかったのです。あの後、騎士団内で姉上や梳李様の話を、嫌という程聞かされました。如何に父上や私が、愚かだったかという事も認識しています」


「誤解の無いように言っとくが、男爵家に格下げがあったのは、ウィリアムの提案で俺達は何も言ってないぞ」


「はい、わかっております」


「だいたいの話はわかった。ガブリエルとアスコットはどうしたいんだ」


「私は父上が心を入れ替えて、私欲を捨て民の為に立ち、その上でオースティン村の為に戦うと仰るのなら、手助けせねばならないと思います。ですが村を取られると、収入が減るという程度の理由なら、応援する価値もありません。村にしてみれば、領主が変わるだけで、危険にさらされる訳ではないと思いますので」


「私もアスコットと同じ意見です。現に私は子供の頃から冷遇されて来ました。その事を恨む気持ちはありませんし、産んでくれた事への感謝はあります。ですが何を持って明君(めいくん)として、民に慕われるのかという事は、梳李と共に過ごした時間が、教えてくれました。冷たい言い方になりますが、どちらの領でも変わりがない気は致します」


ローガンから子爵家の攻撃と聞き、馬車に乗り込む前に、走り書きをウィリアムに送っていた。うまく気が付いてくれるか心配だったが返事が戻って来た。その後の対応も含んで全て任せると言う内容だった


「梳李様…私の引退で助けて頂けませんか。村長と、向かわせた500の兵士、反発した農民の命、決して少なくない命が奪われようとしています。引退して現アンダーソン領を梳李様にお渡しします。それで助力頂けないでしょうか?ローガンもそれで良いな…元々我々には先代までの様な才覚も人望も無かったのだ」


「はい、私に異論はありません」


「助けに行くにしても道案内は誰がやる?ローガンは場所はわかるのか?」


「それくらいはさせてください!」


「良いんだな、空を駆けるから強敵に立ち向かうよりも怖いかもしれないぞ」


「仰ってる意味が良くわかりませんが」


「すぐにわかる、万が一に備えてアスコットは護衛に残れ!アリアナは着いて来い!」


「承知しました!梳李様!」


「雷風!飛ばすぞ!ローガンは振り落とされないように、俺の背中にしっかり捕まって、方角を大声で叫べ!アリアナは俺が抱くが我慢してくれ」


ローガンも根性を見せていた、必死で捕まる身体から恐怖に震えているのはわかった。それでも最後に後悔の無いように、弱い自分と戦っているのだろう。アリアナはとてもうっとりしているのだが…気がついてないフリをして、俺の狩猟用のクラッシュアーマーの弓と数本の新製品の矢を渡した。俺も最初は引けなかった弓をあっさり引いたので、多分、弓術の優秀なスキルを持っているのだろう。マールの先生も頼むとよさそうだな


「委員長!木の大剣ってあるかな」


「無いので特別に2本作ります」


「いつそんな便利な機能が着いたの?」


「称号が管理者を所有する者から管理者を支配する者に変わりました。梳李様は私を強引に支配なされたのです。グスッ」


「もしもし?そんな冗談言ってる場合じゃないんだけど!」


「ふふっ!」


「支配するのは本意じゃないけど、便利な機能は使わせてください。青竜王の大剣と赤竜王の大剣に合わせて2本」


「完成しています!」


オースティン村上空に到着した。エドワーズ子爵軍5000に対して、アンダーソン男爵軍はひいき目に見て300、後列にクワやカマを手に持った農民兵200といった所だ。村長は勇敢に先頭にひとり立ち、オースティン子爵軍の降伏勧告を聞いている最中だった


「オースティン村の民とアンダーソン軍は領内までさがれ!村長もだ!早くさがれ!」


「雷風!壁を作る!」


「は!直ちに!」雷風は素早く降りた


「ディフォメイション!何とか間に合ったな」


高さ10m巾2m長さ300mの壁を作り出した


「雷風!壁の上に」


「アリアナは上に着いたら、指揮官らしきやつを探してくれ。みんな俺から離れるなよ、攻撃が来たらガードする!」


「俺は梳李だ!お前達は誰に断って、他人の領地を攻めている!」


突如出現した壁に、兵士の士気はすでに下がっているが、また攻めて来ないように、完全にエドワーズ軍を弱体化しなければならない


「聞いているのか!俺は梳李だ!どうしてもやりたいなら俺が相手になるぞ!」


「撃てー!」


「弓と魔法か!プロテクション!みんな防御の中に入れ!」


ありったけの弓と、魔法士団からの攻撃魔法が、嵐のように飛んでくる!のだが…弱い、威力はなく、防ぐにもあくびが出そうだ


「梳李様!指揮官の場所がわかりました」


「大声で叫んでたね。どうした?ローガンは怖いのか?これが戦場だぞ」


「こ、怖いです」


「雷風、こいつを乗せて村に降りてから、また上に来てくれ。ローガンは村長や私兵に状況を説明して来い」


「アリアナは大丈夫か?」


「問題ありません!私には梳李様が、信頼して連れて来てくれた、栄誉も誇りもあります!」


5000の軍を前に、臆する事なく、冷静に弓を構えている


「アリアナはとても良いなあ。とりあえず、指揮官の肩に一発打ち込もうか、鎧なんて楽に貫通するからさ」


「はい!わかりました!」


「主!戻りました」


「ぐわぁー!」


「命中しましたが…貫通しましたよ」


「しまった、やり過ぎたか」


「あとどうする?俺が5000人を相手に、大剣を持って走り回るのが見たいか?極大魔法で恐怖に震えさせるのがいいか?アリアナと雷風は、どっちがみたい?」


「主の手を煩わせる程の敵ではありません。よろしければここは私に」


「んじゃ、雷風で行くか…ライジングライトニングは控えめにね」


「あと演出をひとつ、アリアナ弓を空に向けて放つ姿に」


「これでよろしいですか?」


「ドラゴンブレス!撃て」


防御壁から大きな火の玉が炎の帯を垂らし上空高く舞い上がる。火の粉を散らし、まさに世紀末の様相だ。5000の兵士は皆へなへなと座り込む


「雷風、どうぞ」


上空を雲が覆い数千本の電撃が敵兵士に直撃する。あっさり終わるなー


「武器を捨て、鎧を脱ぎなさーい!皆さんは戦に敗れました!早く脱がないともう1発!今度はもっとでかいのを撃ちますよー!」


「ひぃぃー!!!お許しください!」


「これから拘束します。レストエイント」


「雷風、肩を撃ち抜いた指揮官の元に、アリアナも来い」


「はい」


5000人拘束して武器や杖、弓も鎧も全部回収しよう。「コレクト、コレクト」


「委員長、凄いねコレクト、とても規模が大きくなった。初めは1ヶ所2ヶ所でひぃひぃ言ってたのに」


「もちろん梳李様も成長しておられます」


指揮官をヒールで治し、話を聞くと領主はまだ王都にいるらしい。予想通りエドワーズ子爵家だった、急ぎウィリアムに手紙を出し拘束するように伝えた


「とりあえず壁を元に戻して」


「指揮官さん、こんな弱い軍で良く俺にかかってきたね」


「まさか本物の大賢者様がこんな所に来るとは思ってなかったので」


「壁が現れたら、なんとなくわかるでしょ」


「なにもせずに撤退をする勇気もありませんでした」


「お前達のやろうとした事は、完全に人殺しだぞ!圧倒的な武力差で、罪の無い者から搾取しようとした。領主の命令ではすまさんぞ」


「申し訳ありません!」


「梳李様!ありがとうございました!村長のオースティンです!」


「間に合って良かったよ。しかし村長は皆に慕われているんだな、軍隊でもないのに、200名もの農民が戦おうとしてたじゃないか。信頼され勇敢であることは凄い事だ、だけど今後は同じような事があれば、降参しなきゃダメだよ。俺が来なければ500名以上の命が奪われていた」


「はい。無我夢中で戦わねばと思い、奮い立ったのですが、冷静に考えたら蛮勇によって、全村民を危険に晒しました」


「王都でエドワーズ子爵は逮捕されたし、内戦を取り締まる、良いきっかけにはなったかもしれないけど、時には結束力や使命感が人を殺す事を、俺達は心に留めておかないとな」


「ありがとうございます!」


「私兵団のみなさんもお疲れ様!ローガンの挨拶を聞いたら帰っていいよ」


「死地とも言える戦場に、周辺からこんなに集まって頂きありがとうございました。父マシュー・アンダーソンに代わり、心から感謝申し上げます。今日集まって頂いた兵士の皆様には後日特別手当が出るようにしますので、本当に申し訳ありませんでした!」


「いい挨拶だったな、自分が戦場に立って恐怖を味わえば、簡単に戦いの指示なんて出せないだろ。兵士にも帰りを待つ家族がいるのだからな」


「はい、よくわかりました」


「ところで敵のあいつらはどうする?もう武器も鎧も取り上げたから何も出来ないけど…エドワーズ領までの道のりに魔物は出ないよな?」


「魔物は出ませんし、こんな数の兵士を捕虜にする事はできません、そもそも収容する場所がありません。武器が無いなら帰して良いかと」


「わかった」


「それでは指揮官君、起立!」


「は、はいー!」


「他のみなさんも全員起立!エドワーズ子爵は王都で逮捕した。君らの領地がどうなるかわからないが、君たちは領主の命令で進軍したが、攻撃はしなかった事にしておく!よって君達は解放します。回れ右!前へー!進めー!」


ぞろぞろと帰って行った。その後、村長にいざと言う時の為に、取り上げた武器を渡そうかと言うと、もう戦わないので要らないと言った


「村のみなさんもお疲れ様でした」


「ありがとうございました!」


「俺達は行くけど、今日はみんなでこれでも食べてください。ローガン達が襲われた時に倒した、オークの肉200kg!宴会でもして、みなさんが生き残れた事に感謝を」


「おおー!これは良いですね!梳李様、また村に遊びに来てください」


「また会おう!」


帰る俺達を全村民が手を振って見送ってくれていた


「さて帰ろうか!雷風!元の場所よりは、だいぶ進んでるだろうから…なんとなく探してくれるか、ゆっくりでいいから」


「アリアナありがとうな」


「こちらこそありがとうございました。隣で戦えた事は、私の生涯の思い出とします」


「そんな良いもんでもないだろ」


戻ったら野営の準備がはじまっていた。アスコットは倒したオークの肉を期待して、火を起こしていたが、村にあげて来たと言ったら、戦況も聞かずに代わりになる肉を所望した


「ちょ!まてよー!」



第32話に続く



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