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第30話 これからやるべき事


王都を出たあとは馬車に乗り換え、今日1日はのんびりと馬車で過ごす事にした。さすがに気疲れした事と、ガブリエルとアスコットとは、今後の事について、話をしなければならない事がたくさんあったからだ


「さすがに疲れたなあ」


「梳李は大活躍でしたよ。それよりもあんな数の金券を、良く用意出来ましたね。前日から準備したのですか?」


「俺の制作スキルは、素材さえあればいくらでも作れるんだよ。だから初めにひとつ作れば、次にそれを5000と指示するだけで完了する、今回は途中で追加したから、3回だよ制作スキルを使ったのは」


「紙は木からドロップするんだけど、大量にあったからちょうど良かったよ」


「だけど、最終日に王家の人達に配った記念品は、時間がかかってましたよね?」


「あれは同じような物を、ひとつひとつ細工を変えたりして、一点物を作ったからさ」


「あの状況で、そんなに手の込んだ事をしたのですか」


「贈り物だったからな」


「ほんとにお疲れ様でした」


「ほんとだよ。気疲れはやばいな、アスコットの膝を借りて安らぐよ。ガブリエル!妹の膝を少し借りるぞ。それとこのまま話しをするが許してね」


「アスコットの膝で良ければご自由にお使いください」


「ちょっと!兄上ー!」


「なんだ?嫌なのか?」


「い、いえ…嬉しいです。恥ずかしいですけど」


早急に取り掛かる必要のある仕事として、魔石を覗いた部分の、冷蔵庫を作る工房の建設と人員の確保、観光宿場街の建設、セントラル~観光宿場街までの、街道の整備と宿場街1箇所の建設、領地の経営の改善、それに加えておそらくオープンしたミーティアの店が、品切れになるほどの反響を呼んでいる事を、懸案事項にして話し合いを初めた


「ミーティア弓道専門店はエルフの国管轄、ルイーダの建設会社は獣人の国管轄にさせて、サメハダ商会とは切り離した方がいいかもな」


「一応、ロドリゲスからは、当初から話していた、第4王女と第5王子以外に、追加で王城の文官を6名手配してもらったけど、切り離さないとガブリエルが無理じゃないか?アスコットもセブンスターズもあるし」


「開発事業はルイーダ達を使えるのですか?これから業者を探すとなると難しい気がしますが」


「それは俺も気になったから、ウィリアムに獣人を使う許可は取った」


「ルイーダにもその仕事は入るだろうから、協力業者を集めて、大量に職人を派遣できる、準備はするように伝えてある」


「それなら管理者とコスト計算のできる人材が居れば大丈夫ですね」


「私は兄上と違って、剣技しか磨いて来なかったので、領地経営とか何もわからないですよ」


「そうだろうなあ…そこはお前達兄妹の仲の良さを信じている。領地は別でも一括管理すればいいんじゃないか?」


「それもそうですね、わざわざ別に考える必要はないですね」


「冷蔵庫の工房の従業員は、ロドリゲス王国全土から募集して、社宅や環境を含んだ、待遇面を充実させれば集めやすいかもな。近くに学校や病院も作ったりしてさ」


「梳李には、そういう構想がどこまで、出来ているのですか?」


「ん?ないよ、いつも思いつきだよ」


「ずーっと考えてるように、次から次へと策が出てくるから、不思議なのですが」


「うん!思いつき…その場でこうだったら便利だなーとか、想像して言ってるだけだよ。なんとなく予感がする、みたいな事はたまにあるけど」


「不思議な人です」


「ほんとに私もそう思う」


「人を魔物の様に、得体の知れない生き物みたく言うなよ」


「はははは!ある意味魔物です」


「やりたい事はまだまだたくさんあるぞ。ドワーフの仲間も作って、パーティに入れたら7人になるからギルドにして、対抗戦で1位を取ったり、もっと乗り心地が良くて車輪を運転手が操作出来るような馬車を作ったり、サメハダ商会では化粧品を売る予定もある」


「化粧品ですか?」


「今のご婦人方が使っている。肌に付けているあれは少し毒素があるんだよ。だからパタパタ塗らなくても、肌自体を若く保つ商品をさ」


「そんな事が可能なのですか?」


「それは前世の知識で可能なんだ。他には観光宿場街の劇場や音楽ホールには、他の種族にも出演依頼をしたいと思っているし、温泉街は身も心も癒されるような凄い物にしたいし」


「温泉街と聞いた時に具体的な事がわからなくて大きなお風呂を作るのかなぁくらいに思ってたのですが」


「湧き水はわかるだろ?地中には地層があって隙間に水があるものなんだよ。それを地中深くから汲み上げれば、疲労回復効果や内蔵にも効くような水があるんだ。俺の土魔法で地中の深くまで穴を開けて、魔道具で汲み上げる。それを広い場所にお湯にして貯めるんだよ」


「これは観光宿場街の目玉になる」


「確かになるでしょうね」


「そんな風に、色んな所から色んな人が集まってきて、みんなが明日からまた頑張ろうとか、年に1回の自分へのご褒美は、サメハダ領の観光だねとか。そんな幸せな笑顔に溢れる街が作れたら、作る俺達も楽しいじゃないか」


「確かに夢はありますけど」


「やるべき事に振り回されずに、冷静にひとつひとつ取り組んで行けば、全部やれるさ」


「我々兄妹にもできるのでしょうか」


「いつか話をしたけど、しようと思う心があれば必ずできる!」


「領地経営も潤沢な資金を作れれば、領主など名前だけあれば良いんだよ」


「ロドリゲス王国の他の領地を、よく見てみろよ、少ない収入で貧困している人達がたくさん居る。それに気が付かない領主は、さらに自分の贅沢や見栄、私兵の確保の為に税を取る。悪循環が大きな病巣になって、さらに民は苦しむ」


「収入源をしっかり持っていて、余力で辺境の農村の取れ高なんかも、流通の力で確保できるようになれば、収入があがって、税収も勝手に増えるだろ、なによりも税を払った後でも領民は楽な生活が出来る。そうなれば領内の人口も増えるし、子供も育てやすいからたくさん子供も出来るだろ?自然に繁栄していくもんだよ」


「確かに元実家である、アンダーソン領はそんな悪循環をしている領地でした」


「民の心を知らないからだな」


「梳李!頭撫でてもいい?」


「いいけど…と言うか好きだけど」


「ここにはたくさんの愛情や優しさが詰まっているんだね」


「それで王都でもあのように振る舞われたんですね。私達に教えようと…梳李を見て、言葉を聞いた聴衆は、みるみる顔が高揚して、幸せに溢れていました」


「それは少し買い被りかな、俺は人に物を教えられる程、立派な人間じゃないよ。人に対して礼を尽くす事や便宜上指示を出す事はあったとしても、誰の下でもなく、誰の上でもない。役割が違うだけで万人が平等であるべきだと思ってるよ」


「上下が無くても…あえて偉いか?偉くないかの話をすれば、他人でも幸せにしようと努力できる人は偉いし、自分の事しか考えない人は偉くないだろ。人から搾取するやつは最悪だ。俺の理屈で言えば、民から奪うと言う点においては、領主も盗賊も変わらないんだよ」


「なんかスッキリしたよ!梳李!」


「私もやるべき事が見えて来た気がします。突然伯爵と言われても、なにがなんだかわからなかったのです」


「2人なら大丈夫だよ。俺は悪意に心を染めた人間と仲間になる事はない。そういうスキルもあるしな、悪魔センサーってスキルのおかげで予備軍もわかるんだよ」


「それは…ズルですね」


「ああ…ズルだな」


「お前らなあ」


「主!」


「雷風、どうした?」


「数100m前方で馬車が1台、魔物の群れに襲われて居ます」


「行くぞ!雷風!ライトニングサンダーの射程距離に入ったら魔物の足を止めろ!後は俺がやる」


「先に行く、お前達は馬車で来い」


雷風が疾走する!数秒で追い付き雷撃を落とす。雷風に立った俺を近くまで運ぶ、木の葉舞い二刀流バージョンから、50体は居るであろうオークの群れに飛び込む、二刀流連撃!オークの横を通過するだけでオークの体は3分割にも4分割にも切り離されて行く。さらに走る、神速!雷風にも劣らない速力でオークを切りまくった


「スキル二刀流木の葉舞い、二刀流連撃を覚えました」


「スキル神速を覚えました」


「大丈夫ですか?」


命に別状は無いが少し怪我をしている。ヒールをかけて治療した


「あれ?マシュー・アンダーソンじゃないか…ローガンも…大丈夫か?従者は負傷者は居ないか?」


「は、はい…大丈夫です」


「なんでこんな所にオークが50体も出たんだ」


2人の乗った馬車が追いついて来た。よく見ると馬車の運転はメイドさんがしている


「あれ?君はメイド長のアリアナだったかな?王都に来てくれてたのか」


「私のお名前をご存知なのですか?」


「あたりまえじゃないか…働いてくれてるんだから…部屋の掃除や洗濯、いつもありがとうな。王都は楽しめたかい?」


「はい!空いた時間は観光させて頂きました」


「ガブリエルからお小遣いはもらってたのかい?」


「少し頂いてました。それに握手した時に金券も貰ったので、昨日全部使ってお土産や自分の服を買いました」


「そうか、握手する時に気が付かなくてごめんね」


「さすがに3秒ではわからないですよ。それより名前を存じてくれていた事に感激しました。これからもよろしくお願いします。私は算術もできますので、梳李様のお役に立てるのなら何なりとお申し付けください」


「それならミーティアの店の補佐を頼もうかな、弓の知識はある?」


「弓術も取得していますよ。成人になりたての頃、冒険者でした」


「それなら頼むかも知れない。セントラルは多分大変な事になっていると思う」


俺がメイド長と話しをしている間に、感動とは行かないが、親子の再会を果たしていた。父親の事も弟の事も、かつての従者の事も、水を与え、落ち着かせて様子を聞いていた


「大丈夫のようか?」


「はい、梳李の対応が早かったので、問題無さそうです」


「あの時は、とんだ御無礼をはたらいたのに、助けて頂きありがとうございました」


「アンダーソン家の馬車だと、知ってても助けたけど、誰が襲われていようと区別する事はないよ。お気になさらずに」


「梳李、それが弟に聞いたら、ライバルだった子爵家が、闇ギルドを使って襲撃して来たのでは無いかと…」


「すみません梳李様、落ち目の貴族には良くある事なのです」


「馬車は壊れてるんだな、護衛は何人だ」


「騎馬が2騎と馬車の運転手2名です」


「それならこっちの馬車を運転させてくれ。壊れた馬車は俺のアイテムボックスでアンダーソン家に運んでおくよ。あとメイド長は運転を任せて中に乗って」


「お言葉に甘えて良いのですか?」


「ガブリエルとアスコットは嫌か?」


「いえ、縁が切れたとは言え、見捨てて帰る事はできません」


「だよなあ、それなら良いじゃないか。ほら乗った乗った。ローガンもむくれて無いで早く乗れよ」


馬車の馬はこちらの馬車に連結し、壊れた馬車はアイテムボックスにしまった。ガブリエルとマシューとローガンを前に座らせ、俺を真ん中にアスコットとメイド長が座った。メイド長が大きな柔らかい物で俺の腕を挟んでいるけど…これは彼女の故郷の儀式なのだろうか


そんなわけないやろ!



第31話に続く



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