第28話 王家と叙爵式と大賢者勲章
「雷風!こうして久しぶりに2人で見る、夜空や地上の景色は最高だなあ」
「はい!主!王都はまだまだ先です!まだまだ馳せますよ!」
「明日の夕方に到着すれば良いから、適当な場所を見つけたら、一度降りて仮眠と休憩をしような」
雷風はその名の通り、太く力強い足を落雷の如く空に突き刺し、風を超える速さで駆けている。雷風の装備を改造して背に立てるようにした。これならワイバーンの大群と遭遇しても戦えそうだ
ロドリゲス王国王城大門前
「梳李殿ー!到着されましたか!」
「アレクサンド王子殿下、わざわざお待ち頂いたのですか、ありがとうございます」
「国王陛下がまだかまだかとうるさくて、迎えとして待機させられていたのですよ」
「雷風を自由にさせる事が出来て、知らない人に干渉されない場所はありますか?」
「はい!用意してあります。王族のみが立ち入る事のできる庭園です」
「細やかな心遣い本当にありがとう」
「どうぞこちらへ、国王陛下も首を長くしてお待ちしております」
王城迎賓室。国の技術の全精力を傾けたような装飾品の数々が並んでいる。さすが15代続く王城の迎賓室だ。作法を知らないが、とりあえず膝をついてみた
「国王陛下!お初にお目にかかります。ケズリ・ヘカテーと申します」
「梳李様!頭をお上げください。梳李様は、我ら王族の下にはおりませぬ。そのようにされては困ります」
「作法を知らなくて。ぽりぽり」
「お会いしたかったです。私が現国王ウィリアム・ロドリゲスです。こちらにおりますのが、此度の事業を担当させております、第1王子サミュエル、第2王子アンドリュー、第1王女サマンサでございます」
3人は俺に膝をつき順番に挨拶した。王族が俺に膝をつくことに戸惑いがあったが対応の仕方がわからない
「すみません、落ち着かないので頭を上げてもらっていいですか?」
「これは失礼いたしました。大賢者様が仰るならそのように」
大賢者様ってなんだ?????
「梳李様が戸惑うのも無理はありませんな、実は我が王家に、古くから伝わる伝承がありまして、その中に、国が痩せ混乱を招きそうになった時に、大賢者様に助力して頂き国難を乗り越えた、とあるのです。その大賢者様は常人では計り知れない様な自由な発想を持ち、時代の変革をもたらしたと…まさに、ロドリゲス王国は痩せ衰え、王都は未だかつて無い、混乱の様相を呈していました。梳李様の開発事業の提案によって、ひとまず国難を免れる事が出来ました」
「私には、なんの事だか良くわかりませんが…歓迎して頂いているのなら、良かったです」
「ほっほっほっほっ!その伝承では、大賢者様は庭で遊ぶ様に国難を救い、決して偉ぶる事は無く、時の王族と長い間親しくしてくれた。ともありました。まさにそのようなお方でありますな」
「えーっと、友人としてお付き合い頂けるという事で良いのでしょうか?」
「友人などと、こちらから提案できる事ではありません。敢えて言うなら、我らが王族を配下として、末永く助力を願いたいと、お願いをしているのであります」
「あ、あの…ロドリゲス王国が大賢者様にそのようにして来た事は理解しました。ですが私は一介の冒険者であります。突然大賢者様と申されましても、自分にそのような資格があるとも思えません。ですのでこうしませんか…私はロドリゲス王国の事も国王陛下の事も、縁ある第3王子殿下の事も、とても大切に思っています。許されるのなら、非公式な場では友人という事ではダメでしょうか?」
「梳李様がそのように希望されるなら、我がロドリゲス王家になんの異論もありません」
「ご理解頂き助かりました。あとそれと友好の証に、儀式をひとつ…第1王子殿下…手のひらを開いて右手を私に出してください。触っても大丈夫ですか?」
「はい!大賢者様、問題ありません」
「私の右手もこうして重ねます。相手に親愛の情や仲の良い友情を表す、握手という風習です。他のみなさんも良いですか?」
「スキル握手を覚えました」
順番に握手した。第1王女は少し照れて、アレクサンドは力がこもっていた。最後の国王は目に涙を浮かべていた
「あと、梳李様や梳李殿もお辞めください。梳李と呼んでください」
「では梳李…私から最後に一言だけ、伝承には大賢者様は握手という儀式をもって、友情を示されたとあったのです。伝承の書は時の国王にのみ閲覧が許されています。いまだけは奇跡に震える事を許してください」
と言って、ウィリアムは感極まっていた
「王子、王女も梳李って言わないとだめだよ。アレクサンドもな!」
「御意!」
「まてまてまてまて!言っている意味はわかってくれてますかー!?」
「えへへ、つい」
「ウィリアムは少し落ち着いたかい?この部屋に誰も入れないようにできますか?」
「扉の前は衛兵で固めています。窓もありません、大丈夫ですよ」
「それならば、もうひとつ友情の証に、これから私の全てをお見せします。お付き合い願えますか?」
「是非、拝見させてもらいます」
アイテムボックスから転移門を出し、初めに女神ヘカテーの神殿に来た。アイテムボックス、転移門、神殿、女神降臨、その全てに5人とも顎をはずしそうに、口を開けていたが、時間もなかったので構わずに案内を続けた。ついでにお供えをして雷風の翼のお礼をいうと「催促とか言っていたな、そんな不届き者の梳李には…神の力を思い知れ!ゴッドブロー!」と満面のドヤ顔で言ってきた。どうしてもDVDで見たシーンをやりたいのね…チョイスが残念女神なのところが、やけに説得力があったけど、原作の関係者に怒られたら一緒に謝ってもらおう
ヘカテー王国を案内していると、族長も挨拶に駆けつけた、ヘカテー族の存在も説明して、工房や農園、畜産エリアにも案内した。それらの商品が、セントラルにあるサメハダ商会の、主力にある事も理解をしてもらった。移動しながら、転生者である事や、バルが青竜王である事など詳しく説明をした。ウィリアムは工房で作らせている冷蔵庫と矢に、とても関心を示した。冷蔵庫は魔石を配給する事で、王国から世界へ販売する構想を説明し、その代わりに、ミーティアの矢は、王国での販売を許可するが、弓道専門店を経由して、小売業とする事も同意してもらった
一通りの案内が終わり、ロドリゲスもヘカテーも相互の発展に協力しあう形も見えてきた。最後に海に連れてきた
「ここが海と言います。この星の今ある文明では認識されていない場所です。ここの開発は、まだこれからですが、そのうち暖かい季節には、たくさんの観光客で賑わう、そんな場所にするつもりです」
「世界は広いですね」
「こんなに美しい場所があるのですね」
「壮観な景色ですね。海と言うのですか?」
「水には塩分が含まれていて、湖とは違う生態系があるのですよ。この広い海の中には、魚という食べる事ができる生物も泳いでいますし、そろらく未知の魔物もいるでしょう。ですが、この広い海に写る月を眺めていると、この星が平和で温かい世界であって欲しいと、願う気持ちが溢れて来ませんか?」
「私はそうでした。雷風に初めて乗れた日もここにいました」
みんな言葉を失っていた。だけど、景色を眺める各々の顔つきはとても輝いていた。しばらく静かに過ごした後、迎賓室に戻った
「全ては友人である証として案内しましたので、他言無用でお願いしますね」
「もちろんです。一つだけ質問があるのですが良いですか、あれは地図で言えばどこにあるのですか?」
「国は深淵の大森林の真ん中付近にあり、海は深淵の大森林を南に抜けた場所になります」
「深淵の大森林を開拓したとは…良く生きておられましたね」
「その話になると、みなさんに謝らなければなりません。女神ヘカテーが私を転生させる時に、この星に到着した瞬間にレベルが最大限になるように、深淵大森林に落としたのです。その時についでに倒した魔物が数万いたおかげで、生きていられました。数ヶ月前に世界中を騒がせた、隕石騒動があったと思うのですが、隕石は私だったのです。お騒がせしました」
全員が爆笑した
「あー可笑しいですねぇ、久しぶりにこんなに笑いました。ところで梳李、明日は叙爵式の最後を飾って頂きますよ。参加する服は用意してあります。先着したアスコット殿より預かって採寸しました」
「わかりました。あと、ウィリアムにお土産があります。慣れるまで手首に違和感があるかもしれませんが、魔道具です。はめて貰えますか?アレクサンド、ウィリアムの肩の辺りを殴ってくれ」
アレクサンドの拳はシールドによって弾かれた
「そのブレスは、自動で身体を守る様に作ってあります。強力な攻撃を防ぐ事は出来ませんが、万が一の時のアサシンやスナイパーの攻撃からは身を守れます。ロドリゲス王国の為にお身体を大切にしてください」
その後、のんびり会食をした。アレクサンドは酒を所望したあと、ブレスと武器が欲しいと駄々をこねた
「お前、ほんとに王族か?」
「わしもセントラルを命がけで守っている!父上にだけずるいではないか!」
「子供か!わかったわかった」
王子、王女にブレスと武器をわたしたら、今度はウィリアムが剣が欲しいと駄々をこねた。間違いなく親子だな
みんな喜んでるから良しとしよう
次の日ロドリゲス国王謁見の間、叙爵式
ファンファーレが鳴り響き、進行役からサメハダ家の紹介があり、2人を招く声が響いた。ガブリエルとアスコットが入場した。2人とも緊張が極限状態に達し、歩き方がかなり危なかったが、なんとか持ち直して膝をついた。国王より伯爵家、子爵家と発表があり、2人は宣誓の言葉を述べた。最後にアンダーソンの降格が発表になり、アンダーソンに近しい派閥の者は落胆し、関係のない貴族連中は、新たなリーダーの誕生に歓声を上げた
「最後に贈呈式を行います。ケズリ・ヘカテー様にロドリゲス王国より、大賢者勲章を送らせて頂きます」
歩みを進めると、俺が膝をつかないように、ウィリアムが玉座を離れて近づいて来た。そして肩を並べて、大賢者勲章の意義や意味を伝承を交えて説明した。最後に国王みずからが、俺に対して膝をついた事で、参加者全員が膝つきをして俺を見た。これはなんか言わないと終わらないんだよな
「私にどれだけの力があるのかわかりませんが、ロドリゲス王国の為、国民の笑顔の為に、できる事はなんでもします!みなさん友として仲良くしてください!」
全員立ち上がって笑いながら拍手を送ってくれた
その後の晩餐会では、マシューとローガンは派閥を失い孤立していた。対象的に、ガブリエルとアスコットは若き新星ともてはやされていた。ウィリアムと並べて席を設けられた俺の所は、挨拶に来る貴族の列が途切れる事はなかった
こういうの…苦手だなー
第29話に続く




