第26話 ケズリファミリー
「ただいま戻りましたー!」
リビングでくつろいで居ると、元気にアスコットが帰ってきた。セペトには先に2階の部屋を渡し、晩御飯はみんなで食べると伝えると、とても喜んでいたらしい
バルとガブリエルも帰ってきて、今日も新しい卸先を開拓したと喜んでいる
「バル!少しいいか?青竜王がいるって事は赤竜王もいるのか?」
「居るよ。存在としては私の姉になる」
「仲は良い?」
「普通かなぁ…頼み事をするなら姉上は貢ぎ物に弱いよ」
「食べ物?光り物?」
「何を頼みたいの?」
「生え変わる逆鱗を1枚、バルに貰って作った大剣と同じものを赤い色で作りたいんだ」
「それなら、甘い物の詰め合わせで良いかな。今、すごい物を持って行くと、次にもしも頼み事ができた時に、それを超えなければならないから、大変になるよ」
「それなら甘い物詰め合わせを、バルに預けるからもらって来てくれよ。久しぶりに会うだろうから、しばらくのんびりして来て良いし、会食用にバルの好きなお肉も付けるよ」
「わかったよ。暗いうちに向かうから、晩御飯が終わったら行ってくるよ。2週間くらい留守にするからね」
「あと姉上と話をするのは疲れるから、帰ってきた日は梳李の布団で寝かせて」
「わかったよ。苦労をかけるけど、よろしく頼むね」
みんなで食卓を囲んだ。バル、アスコット、ガブリエル、ミーティア、マール、セペト…みんな揃う事で気になって、久しぶりに雷風の干し草を持って下に降りた
「雷風!いつもこき使うのに、最近乗ってやれなくてごめんな。干し草持ってきたぞ」
「主!問題ありませんよ」
「雷風の部屋の寝心地はどうだい?」
「はい!とても快適に過ごしていますが、快適さは無くとも、野営地で主と青竜王様と、寄り添いあって寝ていた時が、心は満たされておりました」
「また、旅をする事もあるから、少し我慢を頼むな。とりあえず今日は寝る前に降りてくるよ。寝るまでゆっくり話でもしよう」
「主!楽しみにしています」
「寝てていいからな。夜にも来客があるから遅くなると思う。委員長もゆっくり話をしような」
「はい!」
仲間が増えて行くのはとても良い事だ、ガルーダ家族もルイーダ家族もファミリーに加わる。この先、もっと増えて行くのだろうけど、時折こうやって原点に戻る事が、とても大事だとしみじみ思った
食卓を囲んでみんなも盛り上がっていた。ミーティアは普段は真面目なのに、酔うと少し緩くなる。緩くなった姿は若干小悪魔である。アスコットは酒豪で飲んでも飲んでも変わらず、ガブリエルが一番弱いかな。このあと総帥と懇談があるので一口も飲んで居ない
「ミーティアは幸せそうだなあ、少し酔ったか?」
「ついこの間まで、マールと2人でどう生きて行けば良いのか、震える日々を送っていたのに、一等地に店舗を出してもらって、私の店にしか無い、凄い商品も与えてもらって、マールも毎日努力して、梳李に守られた幸せな日々が来るなんて想像も出来なかった!ありがとう!ちゅっ!」
「こら!やめなさい!」
「梳李!ありがとうな!母ちゃんは父ちゃんといる時も、こんなに幸せそうにする事は一度も無かったんだよ。甘えてる所も見た事が無いし、嫌じゃなかったら少しくらいの事は多めに見てあげてよ!」
「マールはしっかりして来たなあ。母ちゃんがこうしてたまに酔えるのもマールのおかげなんだぞ!母ちゃんを守れる強い男になって来たな、偉いぞ!」
「セペトも遠慮するなよ。静かだけど大丈夫か?」
「俺、実家でもこういう団らんて無かったから、少し感激してました」
「大袈裟なやつだなあ、結果どうなるかという事よりも、努力を忘れなければ、ずっとここに居られるさ」
「あ!あとなみんなに報告がある。ガルーダとルイーダの家族がファミリーに加わる。ルイーダはガブリエルの元でサメハダ商会の建設部門を任せる事になるから、ミーティアの隣にでも事務所を作ってやってくれ。ガルーダはアスコットとマール、セペトと共にダンジョン探索に参加して、セブンスターズの一員になる。住まいは寮を改造しようとも思ったのだが、まだ増えるだろうから…倉庫に2階を増築して家族4人くらいまで住める社宅を作れるだけ作ってくれ。それとここの風呂を男湯と女湯にわけて増築して、家族で来るものが気を使わないで使えるように頼む」
「ガルーダがセブンスターズに加わるんですか!それは心強いですね」
「子供を救出に行った時には、既に警備隊を辞めていたそうだ」
「社宅の準備と事務所はガブリエルに任せるからしばらく内勤してくれたら良いよ。護衛のバルもしばらく留守にするから」
「わかりました!ところで総帥はもうすぐ起こしになりますかね」
「ぼちぼち悪徳金融の掃除が終わって来る頃だろ」
「こんばんはー!こんばんはー!」
「いらっしゃいませ!どちら様でしょうか?」
「アレクサンド・ロドリゲスと申します!梳李殿はいらっしゃいますか?」
「リビングに通してください!みんなは食べ終わった人から自分の部屋に行くように」
「はーい!」「はーい!」「はーい!」
「アスコットとガブリエルは頼む」
1階の店舗の裏側が大きな食堂とリビング、風呂などの水周りになっている。2階の寮も30部屋あるし、3階も3人で分割して使うにはひとつひとつが広すぎるのだが、便利に出来ていてとても良い買い物だった
「ロドリゲス総帥、お疲れ様でした。食事はどうされますか?庶民と同席で良ければ、ご用意しますけど」
「腹は減りましたー!ずーっと悪徳金融と追いかけっこしましたからな!がっはっは!」
「それではこちらへ」
アスコットが素早く料理人にロドリゲス総帥の好みを伝えに行った
「梳李殿!庶民と同席などと言わないでください!私は梳李殿のファミリーは王族と同じと認識しています!」
「ありがとうございます。世辞にしても嬉しい言葉です」
「アレクサンド・ロドリゲス王子殿下、お初にお目にかかります。ガブリエル・サメハダでございます。アンダーソン家から独立しサメハダという家名を梳李殿より頂きました」
「アスコット・アンダーソンの兄上ですか?お初にお目にかかります。アスコットもサメハダを名乗っているのですかな?」
「はい!総帥!ご報告が遅れました。今はアスコット・サメハダと名乗っております」
「総帥!酒は飲みますか?どれがいいですか?」
空いたテーブルに色とりどりの酒を並べた
「おぉー!梳李殿!これは全部酒ですかな」
「そうですよ。どれがお口に合うかわからなかったもので、種類で満足して頂きたいと思い」
「いやいや、梳李殿!もてなさねばならないのはロドリゲス王家の方です。それをこんなに…身に余る光栄です」
「やめてくださいよ。なんか…かゆいです」
「ははははは!それでは本題に入ってよろしいですかな?」
みんな興味津々で、テーブルやリビングの邪魔にならない所から離れなかった
「誰に聞かせても問題ありません。どうぞ」
「ひとつお聞きしたいのは、ガブリエル殿とアスコット殿がサメハダを名乗るという事は正式に梳李殿の家系という事ですか?」
「いえ、これは誰にも話していませんでしたが、私はケズリ・ヘカテーと名乗ります。女神ヘカテーの縁とだけ今は認識してください」
「わかりました。ガブリエル殿とアスコット殿と梳李殿が別なら国王陛下より賜った内容で問題ないのですよ。それでは順番に、ご報告致します。まず梳李殿からの事業資金の提供により、既に王都~セントラル間の街道整備事業は立ち上がりました。財務局にて試算した結果、提供頂いた50億ゴールドのうち5億を余剰資金に回す事もできるようです」
「この国家プロジェクトは、第1王子と第2王子、第1王女の3人を旗頭にして、王都にて国民への発表も終わりました。王都は連日お祭り騒ぎになっています。国王陛下も大変喜ばれ、自身の目が黒いうちは梳李殿を名誉王族として常に賓客として扱いたいと申しておりました」
「国王陛下いわく、叙爵をお断りになるという事は、今はあかせない立場にあるのだろうと、こっそり申しておりました。女神ヘカテーの縁と聞き、なんとなくですが理解しました。話せる時が来るのを待ちます」
「そして叙爵の件は梳李殿に最終決定権を与えるとした上で国王陛下の案をお持ちしました。まず旧オリバー領とアンダーソン領のルーカス村一体を合併し、街道を境目に2分割する。その上で街道の北側、元オリバー領の領地をガブリエル・サメハダ領とし伯爵位、元アンダーソン領を含む街道より南側をアスコット・サメハダ領とし子爵位を与え、アンダーソン家は有能な人材を放出したペナルティとして男爵位に格下げ、それでどうだと言っております」
「凄い国王陛下ですね。私が提案しようと思っていた案と寸分たがいません」
「では、そういう事に致しましょう。2人の叙爵式は20日後です。国王陛下がお会いしたいと聞かないので梳李殿も来城をお願いします」
「2人の晴れ姿を見に行かないとな。おめでとう!」
「これは、本当の話なのですか」
2人は感動や感激や色んな感情が入り乱れて小刻みに震えている
「我は第3王子アレクサンド・ロドリゲスである!国王陛下の命により、名代として伝えに参った!」
「は!我らが身は国家の為、王家の為、国民の為に粉骨砕身精進してまいります!」
兄妹だな…息ぴったりだ
「そんなに緊張せずとも領地経営は王城からも応援が行く。第4王女とガブリエル殿は同級生だし、第5王子とアスコット殿は同級生らしいな。事務方として来てくれるから領地運営は任せても大丈夫だ。ましてや王族だから小汚い真似もしない」
「ご配慮痛み入ります」
「それなら2人には俺からもプレゼントを贈ろう!円滑な領地経営と本国に対する貢献の為に、街道を挟んだ南北に大リゾート宿場町を作ろうじゃないか…温泉街や劇場、各国の名物料理が食べられるレストラン、音楽会が出来るホールも作って…南北を繋ぐ大きな橋をかけて、橋の上は、月明かりと星に照らされた絶景ポイントにする。そんな観光名所と観光施設を作って、全国から人が集まる宿場町にしようじゃないか。そして施設利用に伴って少しの観光税をもらい、それを本国に納税するようにすれば、領地内の職も増えるし、領地経営も楽になる。何より納税によって多大な貢献ができるだろう。あと産業もあった方が強いから、南北共同で冷蔵庫の工場も作ろう。冷蔵庫も大ヒットするはずだから、王国産として世界各地に出回って行くだろう」
「そんなプランまでお持ちなのですね」
「いま、思いついたんだよ」
「いやあ梳李殿!今宵は愉快ですなあ」
ガブリエルをロドリゲス総帥の隣に座らせ飲めない酒で接待をさせた。ミーティアとアスコットは俺の両脇を固めてくっついた。マールは俺の膝に座った。バルは静かに旅に出た、セペトは決意に高揚し部屋に戻ろうとした
「セペト!待て、今日から自主訓練をする時に、この杖を使え!物にならなければクビとは言ったが、意地でも今の位置を守るんだろ?」
「必ずやセブンスターズに恥じない魔法使いになります」
「ならその杖を与える。クラッシュ・アーマーの魔法士団の杖だ。Sランク装備だ、その杖に負けない魔法使いになれよ」
「マールにもやろう。弓術スキルを、上げなければ引く事もできないが…クラッシュ・アーマーの弓だ。セントラルの弓使いではお前しか持ってない最高級弓だ」
マールは弓を持って膝から降りて自室に戻った。セペトも更に決意を固め自室に戻った。今日も色々あったけどいい日だったな
しばらく歓談したあと、ロドリゲス総帥も泊まる事になりガブリエルの自室に泊めた。俺とアスコット、ミーティアは雷風の所で寝た
「主!」
「起こしてしまったか?雷風!悪いな」
「いえ!隣よろしいですか?」
「いいぞ」
「梳李は雷風といつも話をするけど、心が通じあってるの?」
「それもあるけど…普通に話をしてるんだよ」
「委員長は元気か?」
「お待ちしてましたよ!」
「クラッシュアーマーの大剣はあったっけ?」
「歩兵団の中に装備している個体が居るので、ありますよ。ストレージの中にも」
「それなら、ガルーダにもそれだな」
「赤竜王からもらって来る鱗は俺の二刀流用にして二刀流連撃を覚えよう」
「たまにひとりで誰かに質問してるのは…誰と話してるの?」
「これは管理者だよ。俺の淡い青春時代の思い出に、委員長と名ずけたナビゲーターだよ」
結局、左側に雷風、右側にアスコット、上にミーティアと言う配置になった。雷風はすぐに寝たから、少しだけアスコットとミーティアと委員長とたわいのない話をして眠りについた
第27話に続く




