第22話 アンダーソン子爵家
前日…仲間として結束した俺達は、ひとつ屋根の下で眠りについた
俺は寝る必要もないのだが、食事と一緒で習慣とは恐ろしい物だ。それなりの時間が来れば眠たくなる。新たに出来た仲間に大きな達成感を感じ、眠っていた
ん?なんだ?とてもいい匂いと肌の触れる感覚がする…幸せだなあ、え!?まてまてまてまて!
「おい!お前達!なにをしている」
「何びとも心は自由なのですよね?」
「だからって、戦闘態勢を整えて布団を占領しにくるんじゃない!」
ミーティアとアスコット、バルバロッソまでが俺の布団に入って来て、ハーレムを演出しようとしていた
「そういうのは求めてないからーーー!」
理性がぶっ飛ぶのを何とか堪えて、丁重に解散してもらった。危ない危ない…
明日はアンダーソン家現当主、マシュー・アンダーソンとの対談だ…アスコットから聞いた話では、ろくなやつじゃないが…どうなる事か
ガブリエルとアスコットを連れアンダーソン家に来ている。由緒ある子爵家、応接室の装飾品も椅子やテーブルも見事な物だ
「梳李殿でしたかな?お会いする機会を作って頂き感謝します。現アンダーソン家の当主、マシュー・アンダーソンです」
「父上!このような平民ごときに礼を尽くす必要はありませぬ!」
バカな弟が非常識に噛み付いて来た、ガブリエルとアスコットをバカにされた気がして、我慢できなくなって蹴り飛ばした。壁に身体を打ち付け止まった。グホッ
「お前は誰だ!俺もガブリエルもアスコットも、お前が気安く話しかけられるほど安くないぞ」
「な、なにをする無礼者!であえ!」
私兵を呼んだ。準備していたのだろう
「狭い場所でちょこまか来られても、張り合いがない…全員庭に出ろ、そして一斉にかかってこい!」
ガブリエルとアスコットは応接に待たせ、窓から飛び降りた俺は、庭の中央に陣取った
「かかれー!殺せー!やってしまえー!」
威勢はいい…ここは圧倒的な戦闘力を見せつけようと大魔法を放つ!
「ドラゴンブレス改…流星バージョン!」
隕石のような無数の火の玉が、私兵団めがけて降り注ぐ…バカな弟は泡を吹きながら漏らしていた
「ぎゃー!」
私兵団、約200名の断末魔が轟く
「キャンセル!」
「安心しろ…ほんとに危害を加えたりしない」
腰を抜かす私兵団をそのままに、また窓から応接室にもどった
「もう話をする事もないでしょう。アンダーソン家の思惑は充分に理解しました。王国には報告した上で戦争とまいりましょう」
「ま、待ってください」
「なにを待つのですか?」
「息子のした事は詫びます。申し訳ありません!」
「息子のした事?そんな言い訳が通じると思っているのですか…毎日のように偵察し、話に来れば私兵をもって襲わせる。どこに話し合いの余地があると言うのですか?」
「いえ、アンダーソン家としては敵対するつもりはありません。本日も、梳李様がガブリエルとアスコットと親しくして頂いても、子爵家としては責任は無い、という事実の確認の為にだけ、ご足労頂いたのです」
「ほう…息子が勝手にやった事、アンダーソン家は敵対する意思がない。そういいましたか?それならこの責任をどう取るおつもりですか?無かった事には出来ませんよ」
「ローガンを連れて来い!」
さっきの弟を連れてきて私兵に両腕を固めさせ、膝まづかせた
「首を持って謝罪といたします」
振り上げた剣を弟の首すじに落とす
「父上ー!」
「プロテクション」
カン!と乾いた音を立てて剣を弾いた
「もういいです。とにかく、ガブリエルもアスコットもアンダーソン家には関係のない人間…そういう事でいいですね、その代わりに今後この2人が如何に出世したとしても、アンダーソン家の人間は、私的公的に関わらず接見を禁じます。よろしいですね!」
「それでかまいません。ガブリエルとアスコットの事も好きにしてください」
「くれぐれも申し上げますが、次は息子が勝手にやった事、私兵団が勝手にやった事、他家を使った攻撃も、言い訳は聞きませんよ。敵対行為と判断すれば即刻反撃に来ますのでご注意ください」
おバカな弟、ローガンの出現で気持ちよく絶縁した。ガブリエルもアスコットも晴れやかな顔をしている事は少しだけ不思議に思えた。しかし、弟に指示を出したのは明白なのに、いざとなれば首を斬るって…ほんとろくなもんじゃないな
「こうなるとは思っていたけど…良かったか?」
「私も兄上も心は決まっています!むしろ縁が切れて晴れやかな気持ちです!」
それからミーティアとマールの引越しを手伝いに行った。ガブリエルとアスコットの住まいは3階に、ミーティアとマールの部屋は2階の寮に別々に確保した
ヘカテー王国からも農産物や畜産物、生産物を大量に運搬し、倉庫のひとつはいっぱいになった。農産物、畜産物の保存スペースには冷蔵室も完備した。生産品の目玉である冷却魔法を魔石に蓄えた冷蔵庫を大型にしたものだ。この冷蔵庫はメイドインロドリゲスにしようと思っている、冷却魔法を蓄えた魔石だけ、こちらから1度王国に納入して、箱と取り付けをロドリゲス王国に任せて再購入しようと思っている
「ガブリエル、どうだ品揃えは…扱いたい品物があれば好きにして良いからな、当面の運転資金も渡しておく」
「そうですね、食器などの生活雑貨を追加したいですね」
「卸売と直販の両方でしっかり頼むな。あと1階の店舗にはミーティアの武具屋も入るから、広い間口を上手く使って販売スペースの確保を頼む」
「心得ました!」
「あと…アンダーソンという名を失ったからサメハダで良いか?叙爵も多分あるだろう」
「私がですか?」
「私が、だ!」
「そんな叙爵に値するような貢献はなにもしていませんが」
「それは心配ない。王都からセントラルまでの、運搬の為の街道整備事業資金をサメハダ商会として国王陛下に渡してある。間もなく国家プロジェクトが立ち上がるだろう。それに冷蔵庫は王国産にしようと思っている。これからもたくさん貢献する事になるさ」
「そんな大事業に投資したのですか?」
「昨日みせたヘカテー王国の開拓地が出来た時に大量のゴールドをドロップさせてな、使わないなら持ってないのと同じだからな。昨日も方針は説明したが、種族に関わらず積極的に投資もするんだぞ。例えば獣人の建設会社で、技術力はあるのに、仕事を取れない為に倒産しそうになっているとか…ドワーフの武器屋が鍛冶師としての腕は確かなのに性格に難があって売れてないとか、食堂でもレストランでも、まずは利益よりも技術が失われる事のないように優先的に投資の提案をして欲しい」
「わかりました。ご期待に添えるように、情報を常時仕入れるようにします」
「あと、ガブリエルは戦闘力が皆無だし、投資の情報収集は裏までちゃんと集めなきゃいけないから、ボディガードを兼任できる、情報収集部隊は早急に作った方がいいぞ。アスコットにも相談して最初の仕事にするんだ」
「わかりました」
ガブリエルとアスコットの王国デビューは叙爵式になるだろう。マシューやローガンの悔しそうな顔が目に浮かぶ。少し性格悪くなったかな…俺…
守る者が出来たんだよな!
第23話に続く




