第21話 新たな仲間
家に到着して、買った着替えを持たせて2人を風呂に入れた。ちょうど年頃になったマールは一緒に入るのを嫌がったが、ミーティアさんに連れられしぶしぶ入った。その間にエルフの食事がわからないけど…考えつく料理を片っ端から作って大きなテーブルを埋めつくした。酒も飲むのかわからないが、ありったけの種類を揃えた
「バル!お待たせ…まだ食べたらダメだよ。それは大事なお客さん用だから…風呂から出てくるのを待ってくれな」
「はい…それくらいの事は、私でもわかるのですが…この匂いにヨダレが…」
「初めて会った青竜王は随分と威圧的だったが…今の方がいいぞ」
「梳李のおかげで温もりを知ったからな。最強種の誇りやプライドよりも大事な物があるね」
そういって笑ったバルはどこからどう見ても普通の女の子に見えた
「お兄ちゃん!お風呂、気持ちいいねー」
「そうか?気持ちよかったか?新しい服も良く似合ってるじゃないか」
「あんなにたくさんのお湯を貯めるなんて、僕一生分の贅沢をしたよ」
「はははっ!一生分か」
「梳李様、ありがとうございました。ゆっくりマールとも話が出来ましたし、お風呂と言うのはとても癒されますね」
「いつもはどうするのですか?」
「桶に水を貯めて、布で身体を拭くのです」
「なるほど、それよりどうぞ!食事をお召し上がりください。好きなだけ食べてくださいね。飲み物も酒でもジュースでも全部味わってください」
「バル!取り分けてあげて、飲み物も注いであげて…しっかりもてなすんだぞ」
「この前お店に来た人は居ないのですか?」
「アスコットは自分の兄を迎えに行っています。ここをパーティの拠点兼用でサメハダ商会という、人族のロドリゲス王国認可の商会にするのですけど…その兄に任せようと思っています」
「仕事の注文を引き受けた時にも思いましたが、梳李様は何から何まで規格外なのですね」
「そんな事はありませんよ。多分…普通の人よりもほんの1mm運が良かっただけですよ」
「旦那が出て行って、初めて実感しましたけど、そのほんの1mmが人生を左右しているのでしょうね」
「そうなのかもしれません。ですが僕も若く、今の話に対する答えは持っていません。そんな事よりどうぞどうぞ!遠慮なさらず!バルも食べて良いけど2人をよく見て、空いていたら勧めるんだぞ!」
「お兄ちゃん!全部食べてもいいの?俺!一生分の贅沢をしてる気分だよ!」
「マールの一生分はどんどん出てくるんだな」
みんなで笑った。その後、食事を口に運んだ2人は涙を浮かべ、見つめ合う視線には、数々の苦労や悲しみに溢れていたが…いまばかりは幸せな笑顔を見せてくれていた
「追加もすぐに用意できるので、気に入ったやつがあれば遠慮なく言ってください。エルフ族の好みがわからなくて」
「お兄ちゃん!俺はぶどうのジュースと、このじゃがいものやつ!」
「こーら!そんな無理な事を言ったらダメでしょ!」
「良いんですよ。何をするのも中途半端はいけません。もてなす方も、もてなされる方も遠慮があっては、仲良くなれませんよ」
「それなら私はワインと!このお肉を!」
「母ちゃんだって言ってるじゃないか!」
「はははははははっ!」全員
「マール…美味しいかい?ごめんね、お母さんに力があって、強かったら、毎日好きなだけ食べさせてあげられるのに」
「母ちゃん!なに言ってるんだよ!俺は母ちゃんがいるだけで幸せなんだよ。心配しなくても俺が強くなるから大丈夫だよ」
ある親子は絆を確認していた
「ただいまー!遅くなりましたー!」
「おお!アスコット!早かったな」
「兄上が雷風の速さに慣れてくれてたら、もっと早かったですけど」
「お前…無茶言うなよ。俺はこの前まで大半の時間をベッドで過ごしていたんだ。あんなに顔がよじれる程のスピードに耐えろと言う方が無理だ」
「ガブリエルも元気そうだね。いらっしゃい」
「梳李殿、ご無沙汰しています」
「あれ?ミーティアさんじゃないですか?わざわざ武器を届けに来てくれたんですか?」
「いえ、それは…」
「その話はあと!あと!せっかく戻ってきたんだから、アスコットもガブリエルも飯だ!飯!落ち着いてからみんなで話せば良い!」
「あれ、こちらはミーティアさんのお子さんですか?可愛いお子さんですねぇ!」
頭を撫でようとするアスコットを静止した
「やめろ!アスコット!マールを子供扱いするな!そいつはお母さんを守る為に1人の男としてそこに居る」
「も、申し訳ありません!」
「謝る事でも無いけどな、だけどセブンスターズの仲間になるかもしれない、子供扱いはダメだ。それにエルフ族は人との接触を嫌うのでは無いのか?」
「大丈夫だよお兄ちゃん!エルフ族は疎ましく思う相手に触られる事を嫌がるだけで、好意を持つ相手や仲間は平気だよ」
「あら!マール君は私を仲間と思ってくれるの?」
「お兄ちゃんの仲間はみんな俺の仲間だからな!」
それからみんなで自己紹介をしながら食卓を囲んだ。貴族の持つ処世術なのだろうか、ミーティアさんにもマールにも違和感なく溶け込んでいる。雷風は風呂に入ったまま出てこない
「落ち着いた所で聞いて欲しい、俺はガブリエルをサメハダ商会の代表者、ミーティアさんを武具部門の責任者、マールをセブンスターズの一員にしようと思う。意見を聞きたい」
「私は梳李について行くだけだよ」
「私も梳李が言う事に従うよ」
「私が代表など…良いのでしょうか?」
「エルフ族の私達を仲間にすれば、梳李様にご迷惑がかかるのではないでしょうか?」
「俺は兄ちゃんに買ってくれと頼んだんだ、なんでもする」
「俺は本音を聞きたい、俺が言えば従う以外の選択肢が無いのかもしれない。だけど俺は経済力であっても、戦闘力であっても…力を行使する事で得る仲間などなんの価値もないと思っている。何びとも心が自由であるべきだ」
「そういう事なら、心から共にありたいと思っています」
細な思いの違いはあるのだろうが、みんな頷いている
「それならば案内する…俺の事もみんなに教える必要があるだろう。それぞれに思う事もあるだろうが…まずは落ち着いて最後まで見て欲しい」
雷風を風呂に残し、俺達5人は転移門を使いヘカテーの神殿に来た
神殿の大きさと美しいさにもれなく心を奪われているが…女神ヘカテーが姿をみせた
「今日は共が多いな」
「ヘカテー様、仲間を連れてきました。勝手に申し訳ありません」
「心配するな梳李、キサマらのいる場所は、すでに我々が2000年前に通過した場所だ」
「だから…有名な格闘漫画の有名なセリフをわざわざぶっ込まなくても…」
「いや、少し癖になってな」
「まあ今日はいつもよりは、タイミングと内容も、少しレベルが高かったですが」
「バルバロッソ以外はみな初見の者どもであるな。梳李をよろしく頼んだぞ」
ヘカテーの好きなスイーツをお供えしたのが原因だろうか…何気に早く行かせたいようだ
みな神の出現に動揺しているが、落ち着けと言う命令に忠実に従っている
「バル!青竜王の姿になれ!そして全員を乗せて上空高く羽ばたいてくれ!」
青く光る姿を見せ俺達を乗せて羽ばたく
「ここは、ヘカテー族の国ヘカテー王国なんだよ。俺が国王だ。バルは青竜王、俺の従者だ。深淵の大森林の中にあり、一から俺が開発した場所なんだ」
それから街を案内したり、俺がヘカテーによって転生させてもらった事、恩恵によって人知を超える魔法やスキルを持つ事など、全て話をした。その後、サメハダ商会の展望、パーティの展望…全部思いにして話をした
「驚きよりも、納得しました」
みんながそうだった。みんな漏れなく仲間として共に生きたいと願ってくれた
「明日は、俺とアスコット、ガブリエルはアンダーソン家に話し合いに。ミーティアとマール、バルは引越し…それでいいな」
「はい!」全員の高揚した返事がコダマした
第22話に続く




