第19話 ロドリゲス王国
「青竜王様!私が麻痺をさせて足を止めます。最後のトドメはお願いします!」
「任せろー!雷風ー!」
あの日からバルと雷風はコンビで良くダンジョン探索をしている。倒した魔物も、もう1000体は超えているだろうか…階層が深く高くなるにつれ、魔物がだんだん強くなり、人型では防御が不安な事と拳闘士スタイルで戦うには、ワンパンキルできない事にジレンマを持ったバルは、戦闘形態を覚えて、身体全体を鱗で防御・強化できるようになった。その事で、探索速度は格段に上がり、俺とバルは異例の速さでCランクになった。現在の探索可能範囲は地下、地上共に20階層までだ
俺とアスコットもダンジョンにも行くが…悪魔憑きの一件が大詰めを迎え、ロドリゲス総帥から頻繁に呼び出されていた
今日はロドリゲス総帥との最後の面談である
「梳李殿、何度もご足労頂いて申し訳ない。悪魔憑きの件は、対策本部として調査と会議の結果、発生自体が完全なイレギュラーである為に、今後は各国で警戒を強めながら様子を見るという、結論に達し解散になりました。今日はそのご報告と、当初から梳李殿より申し出のあった、元オリバー商会の土地や建物の扱いについて、本国から決定通知が来ましたので、お伝えしたく来て頂きました」
「長い野営生活もいよいよ終われそうですかね。待っていたんですよー!」
アスコットも家に帰らず、野営地で寝る事が多くなっていた。子爵家のお嬢様にしては、とてもワイルドな娘さんである。特に面白いのは、ビッグラビットやミノタウロスがドロップする肉を、連日連夜バルと取り合っている。どんだけ肉好きやねん!
「アンダーソンも同席で良いですか、提示金額をお伝えして、国王陛下の要望など、繊細な話になるかもしれませんが」
「はい、自分は構いません。聞かせない事の方が、仲間としては違和感がありますので」
「アンダーソンは騎士団に居る時よりも、のびのび楽しそうにしているな」
「総帥、そんな事はないですよ」
「自分の居場所を見つけたのなら良かったじゃないか」
「えへへっ、ありがとうございます」
「早速ですが…出来れば国王陛下も、梳李殿と直接お会いしたいと申しているのですが、そういった事は、梳李殿が嫌がると思って、機会があれば必ずお連れする、という事にしています」
「助かるよ。王様にお目通りなんて、とんでもないですよ。国の為に何もしていないのに」
「それがこれからの話になるのですが。まず、我がロドリゲス王国は現15代国王ウィリアム・ロドリゲス国王陛下の政治手腕により、王都から辺境の農村に至るまで、国民は平和に暮らしています。それは良いのですが、このセントラルまでの街道の整備が整わず、明確な販路がない為、輸出にも弱く、経済的には決して裕福とは言えません」
「え?ちょっと…話の途中にいいですか?」
「どうぞ」
「もしかして…ロドリゲス総帥は王族だったのですか?」
「私は王位継承権第3位、アレクサンド・ロドリゲスですよ。第3王子ですね」
「第3王子ですね…じゃなくて!比較的フランクに接して来ましたが…な、なんか、申し訳ありませんでした…お、王子殿下」
「はははははっー!今更、気を使わなくて結構ですよ!今まで通りに接してください!」
「アスコットも、なんで教えてくれなかったんだよ!」
「黙ってた方が面白いと思って」
「お前なー!」
「まあいいじゃないですか、梳李殿」
「きょ、恐縮です」
「それで、元オリバー商会の土地と建物を試算した結果3億ゴールドとなりました。商会が店舗にしていた3階建ての建物と、並びで倉庫が2軒です。店舗の物件は2階が社宅になっていて、3階が住まいになっています」
「3億ゴールドですね、わかりました」
「あと国王陛下の要望がもうひとつあるのです。このオリバー商会の件を通して、私は梳李殿の事を、国王陛下に何度も話をしてきました。国王陛下も梳李殿には、とても興味を示されて、是非お会いしたいと言っているのですが…陛下の要望とは、梳李殿に王国の認定の商会として正式に経営手腕を発揮して頂き、本国への納税をお願いしたいのです」
「セントラルは物販に対して税金を納めるシステムになっていますので、王国の認定となれば、納税が二重になるように聞こえますが、本来、商会は本国に所属して、国の品物をセントラルに流通させるのが使命でもあるのです。それをオリバーは、貴族でありながら脱税の為に、セントラルにある小さい工房やギルドに借金をさせる事で、取り扱い品を安価に仕入れをしたり、オリバー自身の領地に、王国が認識していない農村を作り、そこの農作物をセントラルに持ち込んでいたのです。今回の悪魔憑き騒動が起因となり、オリバーの悪事も露呈したわけです。国王陛下は、梳李殿のその功績と将来性を期待されており、空席になった伯爵位と、その領地経営を梳李殿にお願いしたいと言っておられます。そしてそれらの事業を通して王国が今よりも豊かな国となるように尽力して頂きたいと願っています」
「自分が期待に添えるかどうかの自信もないですし、すぐには協力できない理由もあります。領地経営と叙爵の話は少し置かせてもらって、王国の認定で商会をする事はお約束します。ただ、私は冒険者を続けたいので、商会の代表は別の者になる可能性が高いです。その者の事も商会の事も、全て責任は私が持ちますが、代理人が代表を務める事は、ご了承いただきたいのです。その代わりに、王都~セントラル間の街道の整備と、街道途中の盗賊が出やすい僻地に宿場町を建設する。それらの事業資金をサメハダ商会から50億ゴールド提供させて頂きます。それにより王国の輸出を強化して、景気回復に繋げてください。それを国王陛下の要望に対する答えとさせて下さい」
「街道の整備と宿場町の建設は、国王陛下が即位されてからの悲願でありました。その予算を梳李殿が提供してくれるなら、国王陛下も諸手を挙げて喜ばれると思います」
「時が来ればロドリゲス総帥と共に、国王陛下に会談をお願いし、納得の行くように必ずご説明しますので、それまでは領地経営と叙爵については、保留でお願いします」
「わかりました。旧オリバー領にも街道に面した区間がありますので、王国に一任する事はご了承ください」
「まだ私の領地ではありませんし、仮にサメハダ領となっていたとしても、ご協力は惜しみませんよ」
「梳李殿のご提案…心より感謝申し上げます。早速本国に戻り、その旨を国王陛下に伝え、必ず梳李殿の意にそうようにして来ます」
それから気が遠くなるような量のゴールドをアイテムボックスから取り出し、本国に持って帰ってもらった。念願のセブンスターズの本拠地と商会が手に入ったのである
「アスコット!とりあえずセブンスターズの本拠地に行ってみようか」
「良いですねー!」
それから購入した物件に行き、どのように使うか、どのように改造するか、色々と考えていた。場所は冒険者組合にも近く、大小の商会や様々な商店が軒を連ねる一等地にあり、大規模ギルドでも手を出せないような立地だった
「アスコット…ところでお兄さんの体調はどうだ?」
「あれから手紙が来まして、元気になったら退屈すぎて、仕事をしたいからセントラルに行って良いか?と言っていました」
「来ればいいじゃないか…」
「それがその兄上の事と併せて、私が騎士団を辞めて、梳李といる事に対して、父上から話があると言われています。話のついでに伝えて、大変申し訳無いのですが…連れて来いと言われています」
「俺をか?」
「はい…申し訳ありません」
「いつだ?」
「なるべく早く来いと」
「お兄さんは元気になったら仕事をしたいと言うだろうと思っていたから、このサメハダ商会を任せたら良いと、思っていたのだが…」
「兄上は既に勘当状態にありますし、兄上も手紙に、梳李の事を書いていました。梳李が任せると言えば、喜んで引き受けると思いますよ。それに兄上は子供の頃から病弱だった為に、独学ですが経済や算術を、かなり学んでおりますので、お役に立てると思います」
「アスコットはどうなんだ?アンダーソン当主と話はするが…家に未練はないのか?当主の話は、子爵家になんの目的で近付いているんだ。というような話だろ?弟も執拗に偵察していたしな。その内容なら、すぐに決裂すると思うけど良いのか?」
「私は兄上と一緒に家を出て、アンダーソン家と無関係になっても、一向に構いません」
「うちの娘を連れ回して、どう責任を取るつもりだ!って事は無いよな?」
「そんな話をする父上なら今でも尊敬していたかもしれませんが…まず間違いなく先に仰られた内容でしょう」
「わかった、それなら早めに行こう。くだらない話はとっとと終わらせて、気持ち良く新たな出発だな」
「兄上にも私にもなんなりと言ってください。騎士団を辞めた時から、どうなろうともついて行くと、腹は決まっております」
ともかく本拠地はできた。ヘカテー王国の品をメインに扱い、工房に珍しい品があれば、ロドリゲス王国産にするのも良いだろう。広がった可能性に胸を踊らせる梳李だった
ほとんど使ってなかったような、新しい本拠地に、バルと雷風も喜んでいる
とりあえず1階に広いお風呂を作って、戦闘形態のバルと雷風と3人で久しぶりの風呂に入った。3人?2頭と1人?何でもいいか…とにかく最高だなー!
第20話に続く




