第18話 バランスは取れているのか…
結局、ガブリエルの家に泊めてもらい、朝になってからルーカス村を出発した俺達は、セントラルに戻ってきたのが、昼を回っていた。全員でダンジョンにもぐるには、少し中途半端な時間だった為、街の中が苦手な雷風と、人の身体になれる必要のあるバルを、ダンジョンに向かわせた
俺とアスコットはFランクのクエストで集める薬草が、アイテムボックスにあったので、冒険者組合に提出する事にした
「これで梳李さん、バルバロッソさん、共にEランク昇格です」
「梳李、これからどうしますか?買い物とか…買い物とか…買い物とか…」
「めちゃ買い物、押しだなあ。プレゼントは決めてあるから、あとのお楽しみだよ」
「気になってる事もあるから、少し街をぶらぶらしても良いかな」
「お任せします!」
「この前、バルと登録に来た時に、気がついたんだけど…この街はアクセサリー屋さんが多い通りとか、武器屋が多い通りとか、食堂やレストランが多い通りとか、だいたいの商店が同じ通りに軒を並べてるよね」
「そのように作ってありますよ」
「アクセサリー屋さんの通りを通ってる時はエルフ族が多かったし、武器屋の通りではドワーフが目立った気がするし、種族毎に得意な職種があるのかなあって思ってさ、一度アスコットに教えてもらおうと思ってたんだよね」
「そういう事ですね、お任せください。お礼は首飾りを所望します」
「必死にアピールするなー!首飾りが求婚のアイテムと聞けば、余計にあげられないからな」
「なんでですかー!」
「それ…聞く意味あるか?」
「梳李…冷たいです…ぐす」
「全然冷たくないし!それに、プレゼントは剣にしようと思って用意してあるんだよ。これから、良い武器が必要になるし、使う物の方がいいじゃないか」
「わかりました。気を取り直して、それでは、武器屋、防具屋、アイテムショップの通りから説明しますね」
「この通りの8割はドワーフ族が入っています。残りの2割がギルドの直営店か、他種族のお店になっていますね。ドワーフ族は力が強く、槌を打ち続けても疲れないようで、鍛冶師として、剣や鎧を作る職人が一番多いです。ドワーフの作る鉄製品は他種族にも評判がいいですね。戦い方は大槌か盾を使うのが、スタンダードです」
「派手好きの冒険者はドワーフの店で、剣や鎧を買って、エルフの店で装飾を頼むというのも、ギルド幹部などに多く見られます」
「良い武具に派手な装飾っていう、1つのステータスシンボルなのか」
「あくまで好みですけどね。エルフ族は手先が器用な人が多く、木の加工や金属の彫刻など、細かい細工がとくいなので、その点では圧倒的に人気です。ですのでエルフ族は装飾品店、雑貨店を経営する人が多く、一部の人が武具やアイテムを手がけています。得意な戦術は弓と、投げる事もできる槍を使う人が多いですね。特徴的なのは、罠を仕掛けるのが、とても上手く、ゴブリンのように、集落で生活していて、群れを成して襲って来る魔物には、一番強いですね」
「罠にはめた後に、矢と槍で一網打尽にします」
「エルフ族はそんな感じか…わかりやすいな」
「食堂やレストランの通りは平均的にどの種族も入っていますが、奥に魔人族が経営する店が多いエリアがあります。魔人族が夜に生活するのが得意な事もあって、特別な夜のお店が多いです。5種族のなかでは際立って魔法が得意なので、幻惑魔法を使いこなす魔人も、ちょくちょくいる為、女性が接待する高級酒場やマッサージ店、あとはご想像通りの店が多く、癒しを求める冒険者には人気です。その他、占いも得意で、魔人の占い師は、他の種族からも人気があります。当然戦闘スタイルも魔法が主流で、素早く強烈な攻撃魔法を放ちます。近接戦闘は少し苦手で、魔人族のギルドは30階層に出現する、魔法攻撃に耐性の強いゴーレムに手を焼いている。と言う噂は良く耳にします」
「それぞれ、得手不得手があるんだな」
「はい、歴史で学んだ知識ですが、ダンジョンを巡り戦争になった時に、各国が衰退していった理由が、そういう特性にあると考えられています」
「なるほど…5カ国で取り決めした、厳しいルールの中で、強引な秩序が保たれているのは、単に種族間の偏見や差別だけにある訳じゃなくて、お互いを守る事にも繋がっている…という事か」
「そうです。最後に獣人族ですが、5種族の中では身体能力が一番高く、力仕事が得意な事と、高所や細い足場を渡る様な時に、バランス感覚も抜群な為、土木工事現場や建設工事現場で働く職人が一番多いですね。戦闘スタイルは拳闘士が7割、大剣使いが3割、といった所でしょうか。集団戦がとても得意で、大人数で挑む階層ボスの討伐を、メインとする獣人ギルドは多いです」
「梳李がはじめて来た日に言っていたように、種族が違う夫婦は存在しませんし、共同経営するような、仲の良い種族同士もいませんが…それぞれの得意分野を活かして、持ちつ持たれつと言う社会構造にはなっています」
「なるほどな!案内ありがとう」
「とても簡単な説明でしたが…」
「一人一人を見ればどの種族も色んな人がいるだろうけど…一般的な雰囲気がわかれば充分だよ。そしたらエルフの武器屋に行こう」
「エルフの武器屋が良いんですか?」
「アスコットに渡す剣は持ってるから、調整と鞘と装飾を頼みたいんだよ。今の剣に思い入れがあるなら、魔物を相手に使い潰せば良いからさ」
「いえ、大事に使います。調整と鞘と装飾なら、ここのエルフの武器屋が一番評判良いですね。私が利用した事はありませんが、街では良く噂になっています。聞いた話では、元の店主は他に女の人を作って、国に帰ってしまったらしいですけど、残った奥さんが、跡を継いで頑張っているらしいですよ」
「こんにちはー!」
「はい!いらっしゃいませ」
「この剣なんですけど、加工出来ますか?」
「少しお預かりして、鑑定からさせて頂きますね。これは…クラッシュアーマーの剣ですか?Sランクですね。こんな高価な剣をうちにお預け頂いてよろしいのですか?」
「はい、装飾が特に上手いと、評判を聞いて伺いました」
「ありがとうございます。Sランク武器に負けない仕事をさせて頂きます」
「お願いしたい加工なのですが…豪華に魔石を埋め込んだ、鞘を作って欲しい事と、持ち手を滑りにくく加工した上で、剣先を早く振り抜けるように、持ち手の下に装飾をしたウエイトを付けて欲しいんです。その他の彫刻などは全てお任せしますので、バランスよく仕上げて頂けると助かります」
「とても、嬉しいご注文なのですが…その内容ですと、剣が高級すぎて、それに見合う材料がありません」
「材料は何が必要か、教えて頂けばお渡ししますよ。多分、手持ちはあると思うので」
「鞘に埋め込む魔石と金とオリハルコン、鞘に加工するのにトレント材が必要です」
「全部ありますね…これで足りますか?」
「これだけあれば充分です。ところであなたはどんなに凄い冒険者なのですか?剣もですが、こんなに凄い素材に、色んな色の魔石…どれも入手困難な物ばかりです」
「凄くないですよ。旅をしている時に深淵の大森林に迷い込んだ事があったのですが、運良く生きて出る事ができました…その時に拾い集めた物ばかりです。冒険者としては、さっきEランクになったばかりですよ」
「にわかには信じ難い話ですが…全力で仕事はさせて頂きます。費用は前金でよろしいですか?」
「どうぞ。おっしゃってください」
「彫刻するのに、硬い金属を加工するので、加工用のノミが200~300本必要になると思います。トレント材を加工するのも、ノコの刃がすぐに使えなくなるので、何枚も必要になります。そういった消耗品と工賃を加えて、350万ゴールドでどうでしょうか?」
「問題ないですよ。これをお受け取りください。それに早くできあがる方が助かりますので、余分に道具が必要になったら、使ってください。後からでも、追加料金はお支払いします。いい仕事をしてくれた方が嬉しいので、負担の無いようにお願いしますね」
「全身全霊で職人の誇りにかけて、最高の仕事をするとお約束します。1週間後に、取りに来てください」
「わかりました。よろしくお願いします」
エルフの武具屋をあとにした
「梳李!ありがとう!あんな高価な剣に装飾と改造…良かったの?」
「いいに決まってるじゃん。それに評判通りいい仕事をしそうな、職人さんだったね」
「ほんとにありがとうね、とても嬉しいよ」
「くっつくなよ!俺は彼氏でも婚約者でもねー!」
「今だけいいでしょ?バル達と合流したら離れるから…」
「そんな事で、満足するなら良いけどさ。弟に見られて、実家に呼ばれたりしないか?」
「いいもん、呼ばれても」
「俺は良くねぇんだよ!」
アスコットは喜んでるから良いかなあと思いつつ、弟の偵察には気がついていた。俺が気にする事ではないけど…大丈夫なのかな
しばらく街を歩いたあと、ダンジョンの近くでバルと雷風と合流した。バルと雷風とは主従関係にあるせいか、倒した魔物の魔石もドロップアイテムも、アイテムボックスのストレージに綺麗に整理されて入ってきた
「バル!お前…おケツが半分出てるぞ!」
「主!青竜王様は囲まれると、しっぽで薙ぎ払う癖が抜けなくて、斬りかかってくる魔物に、何度も背中を向けたのです。傷を負う事はなかったのですが…服が…」
「バル…おケツを出したまま、何事も無いような顔で歩くのはやめなさい!買いに行くぞ!アスコット!選んでやってくれ!」
相変わらず締まらないセブンスターズだった
第19話に続く




