第15話 神の国ヘカテー
梳李は転移門を設置する為に、人が立ち入らないような山肌をさがしていた。こちらに設置した転移門に、異常が起これば戻れないからである。森を奥に進んだ所に行き止まりを見つけたが、途中ゴブリン数体に遭遇した為、転移門を設置したあと、ディフォメイションで山肌に、溶け込むように囲った
久しぶりの開拓地、バルバロッソに会うのも久しぶりだ。梳李は高揚していた
「約1ヶ月ぶりの開拓地かあ!」
「あっという間ですね。時間が経つのは」
「そうだよなー、大森林で魔物相手に鍛錬を続けて、人の生活を久しぶりに味わって、悪魔憑きも討伐して、冒険者にもなったもんな。そんな事よりも、もうこんなに街ができてるのか」
バルバロッソが上空で旋回しながら近づいて来て、人型になって着地した
「主!久しぶりです」
「開拓地の守護、ありがとう。開拓ももうこんなに進んだんだな」
「はい、主が旅立たれたあと、ヘカテー族にも族長ができ、各開発担当の責任者も任命され、細分化された各部門が、競い合って開発を進めた為に、想像を超える速さで発展しました」
「最後にしようと言っていた、主と私の城も完成間近ですよ」
「凄いなあ…神殿もあるんだな」
「主が作ったヘカテー様の像を囲うように作りました。はじめに取り組んだ建物ですね」
「王よ!おかえりなさいませ。ヘカテー族の族長になりましたシモンズと申します」
「名を持ったのか!」
「王に無断で大変申し訳ありません。神殿建設が終わった後、祈りを捧げておりましたら、ヘカテー様からの告知があり、全員が名を頂いたのであります」
「ヘカテー様が姿を見せてくれたのか?」
「まだまだ私どもでは、そのような奇跡には出会えませぬ、各人の心に話しかけてくださったのです。それをきっかけに、知能も身体能力も上がったようで、このように国を作る事ができました」
「そうか…バルバロッソ同様シモンズも頑張ってくれたんだな。ありがとう…バルバロッソに街は案内してもらうから…持ち場に戻っていいぞ」
「委員長はこうなってる事はわかってたの?」
「私も進んでるのは理解していましたが、まさかここまでとは、思いもよらない発展です」
「委員長の想像の上を行ってたか!いいな!とてもいい!バルバロッソ、案内を頼みたいが…ともかく神殿だな」
神殿に入るとヘカテー像が黄金に輝きヘカテー様が舞い降りた。美しい容姿に白い翼、死んだ時に1度あった姿そのものだった
「ヘカテー様ご無沙汰しておりました。この星に新たな生を受け、梳李は幸せに暮らしています」
「見ていたぞDVDを…じゃなくてたまにお前達の行動も」
「たまにって!小さいボケを入れて来る所もお変わりなく」
「まあ堅苦しい挨拶はなしだ、私もここならいつでも来れる。久しぶりに話でもしようじゃないか」
「はい…女神ヘカテーの心のままに」
「しかし梳李、お前は面白いやつだな。ヘカテー族なる私の眷族を作って、文明を起こすとは、青竜王までこき使い、ナビゲーターは委員長と名付けたか…はははははっ!実に面白い」
「それも聞いた事のあるセリフですが…どうしてもぶっこみますか?」
「いや、真似たのではない。事実じゃ」
「ヘカテー様に何点か?相談がありまして」
「遠慮なく話せばいいぞ…この神殿も気に入った、私を崇拝する種族も気に入った。お前を代理人にした事には満足している」
「まずはバルバロッソの事なのですが…今はこの神の国ヘカテーの守護者として、活躍してもらってますが…セントラルに連れていくのは可能でしょうか?」
「私が女神でも、青竜王の心までは変えられないぞ。本人が挑むのなら、守りは問題ないぞ。この神殿のおかげで守護は容易い。どんな外敵からもヘカテー族を守ると約束しよう」
「行きたい!行きたい!私は行きたいぞ!」
「ならば、問題ない。梳李と共に行けばいい。あとはなんだ?」
「セントラルに行き、街を、人を、見てきました。平和の象徴とはいえ、無理やり作った共同国家の為に、厳しいルールを決める事で、何とか保たれている秩序です。私は冒険者になって少しでも、差別や偏見の無いセントラルになるように努力したいのです」
「それは、願っても無い申し出だけど…苦労するぞ梳李」
「どこまで本気かと聞かれると、少し怪しいですが…青竜王を振りまわして投げ飛ばすくらいの強さは頂きました。理想なき力は虚しいですし、力なき理想も儚いものです」
「わかったぞ!好きにすればいい」
「あと、悪魔憑きとやらに出会ったのですが…」
「それはゴルゴーンの仕業じゃ、やつは嫉妬深くてな、少し因縁のある女なのだが…ちょくちょくちょっかいを出して来よる。混乱を招く程の力はないのだけど、人は美しい心も醜い心も、必ず併せ持っている物だから。隙間にうまく干渉してくる。それは逆に私が梳李に頼む必要があった、見つけたら討伐して欲しい」
「わかりました。最後にこのヘカテーから取れる、農産物や加工品をセントラルに持ち込んでもよろしいでしょうか?」
「なんの問題もないだろう。その点は管理者はどう思うのだ」
「もしかすると、神の国ヘカテーの存在が露呈するかもしれませんが、ヘカテー様がそれを了承なさるなら問題ないかと」
「なるほどな…まあ良いだろう。一応セントラルにもここの10分の1くらいの神殿はあるし…神としては認識されている。長い年月で信仰心は弱まっているけどな!弱まってるけどな!」
「怒ってるんかーい!なんにしても色々すっきりしたよ。また頑張ってくる。ちょくちょく来るから欲しい物があれば、食べ物でも飲み物でも委員長に伝えてくれたら、持ってくるから」
「梳李、無理するんじゃないぞ」
色々質疑応答をして神殿を出た。バルバロッソはやる気満々である。その後、族長に工房で作る製品に、エリクサーやポーションと言った回復薬を加える事と、それに必要な栽培も頼んで来た。
バルバロッソに案内してもらった街はとても整備されていて、セントラルと比べても遜色のない街になっていた。果樹園や畑も時期が来れば収穫が楽しみで、酪農も既に盛んに行われていた。俺は族長に追加で資材や食料を渡し、神の国ヘカテーを後にした
第16話に続く




