第13話 共同国家セントラル
「ここがセントラルかーーー!」
「おぉーー!色んな人が歩いてるなー」
「梳李さん!田舎から出てきた人みたいになってますよ」
「田舎から、はじめてセントラルに来た人。である事に間違いはないぞ!」
「セントラルは…共同国家と言う事だが…なにが?どう?共同国家なんだ?」
「ダンジョン探索に5カ国がそれぞれの冒険者を派遣する事で資源を平等に分配しています。国家に代表はおらず有事の際は、その都度、対策本部が設置されます。臨時ではありますが…それが議会のような物ですね」
「国の組合施設、道路、治安、消防、病院、等、国民が受ける必要のあるサービスは、流通する全ての物品に税金をかける事で、まかなわれています」
「ということは、国民と言うよりは、セントラルの住民と言う感じか…みんな人族は人の国、獣人族は獣の国…って感じで、国としてはそちらを認識してるんだよな」
「そうですね。治安維持に関しても、人の国では騎士団、エルフの国では戦士団など、呼び方も違いますし、税金から警備にあてがわれる予算も、それぞれ各国で分配しています。登用人数は各国同じに決められていて、検挙後の取り調べも、必ず5カ国で行う事で、不正は出来ないようになっています」
「なるほどなー。ちなみにアスコットは人の国の国民で、セントラルに出張に来ている。という感じなのか?」
「国籍を重きにおいた言い方をすると、そのようになりますが…私は実家もセントラルで、生まれもセントラルです。人の国の事は、学んだ知識があるだけで、実際に暮らした事はないのですよ。5カ国共に私のように、生まれも育ちもセントラルという人が5割は締めています」
「そこまで、5カ国間に取り決めがあって、不公平がないように法整備がされていると、共同国家といっても、他種族間に大きな交流があるわけじゃないんだな。ちょっと残念だな」
「ですが…戦争も終わり400年以上経っていますし、セントラルは平和の象徴として、共同国家の役目を果たしていますよ」
「ああ、セントラルで生まれ育ったアスコットには、そのように見えるだろうけど…俺が思い描いていた共同国家というのは、エルフと獣人が結婚したり、人と魔人が友達で、一緒に会社を経営したり、そういう心の垣根がない国を想像してたんだよ」
「そういった理想を掲げる教育者や聖職者はいますよ。ですが現実は、国民自体が他種族に対し、偏見や差別意識があるので、実現する事はなかったですね」
「まあ…これから…という事か…」
「冒険者組合に行こう!」
道行く国民達は種族に関わらず、雷風の美しさには目を奪われていた。種族によって文化の違いはあったとしても、美しいと思う気持ちも、嬉しいと思う気持ちも、悲しいと思う気持ちも、辛いと思う気持ちも…かわりはないだろうと、俺は少し切ない気持ちになった
「こちらが冒険者組合になります。左側の窓口が人族の窓口です」
「こんにちは、身分証もなにもないんですけど、登録大丈夫ですか?」
「はい!そちらのアンダーソン様からお話は伺っております。先に従魔を見せて頂いていいですか」
「はい…入口に待たせてあります」
「大丈夫か?雷風!」
「無理です。やっぱりなれません」
「もしもイタズラしてくるヤツがいても、麻痺くらいにするんだぞ。なるべく早く戻る」
「あれはユニコーンですか?随分大きい魔物ですね」
「はい、それでお願いします」
「いえ、正式な魔物の種別を登録しないといけないのですが…」
「あぁ…それならユニコーンゴッドといいますよ」
「極上位種ですか?」
「そうですけど。どの道誰かが鑑定とかするのですよね。嘘をついても仕方ありません。鑑定するなら早くしてください」
「はい。担当の者を行かせます」
「あと冒険者登録はこちらに記入をお願いします。パーティやギルドは、どうなさるご予定ですか?」
「しばらくソロでと考えてますけど」
「いえ!パーティは2人です!」
「えっ!お前なにを言ってんの?」
「梳李さんに私を加えた、2人パーティです」
「パーティ名はいかがなさいますか?」
「セブンスターズでお願いします」
「おいおい…なんか怪しい名前だなあ」
「あるおとぎ話では、この世が、暗闇に覆われて光を失いかけた時、星のように輝く7人の冒険者が現れて、世界を救うのです!セブンスターズです!」
胸を張って満面のドヤ顔だけど!
「やぱ…めちゃくちゃ怪しいじゃねぇか!しかも2人でセブンてさあ。アスコット…大丈夫か?騎士団はどうするの」
「梳李さんと冒険者になると決めて、辞めて来ました!」
「いや…勝手に決めるなよ!」
「梳李さんのある所にアスコットありです」
「色々と突っ込みどころ満載だけど…とりあえず登録を済ますか」
「手続きは完了です。鑑定結果も問題なく出ています。今後、ギルドに加入される予定はありますか?斡旋もしますよ」
「いや…それはいいです。のんびり自由に冒険者生活したいのです」
「雷風、お待たせ。何も無かったか?」
「何もありませんが、2人を遠くで見ている人間がいます。敵意は感じませんが」
「それなら放置でいいじゃん。ここは人が多いから、一度城門の外に出るか…アスコットも乗せるからな」
「問題ありません」
「雷風、私の事も今日からよろしくね」
「あ、は、はい」
とんだサプライズに、一度話をしようと城門の外に来た
「雷風、しばらく好きにしてていいよ」
「アスコット!お前どういうつもりだよ」
「騎士団には限界を感じていましたし、部下に裏切られた事も、良いキッカケになりまして」
「家はどうすんだよ」
「全て問題ありません」
「まったく…」
やっと冒険者登録を済ませてダンジョン探索をはじめようと思ったら、アスコットが乱入した。足手まといは良いにしても、本人の危険は回避してあげなければ…
頭を抱えて、何回も何回もため息が止まらない梳李だった
第14話へ続く




