第106話 母さんへ
「早速申し訳ないんだけど地球に行くぞ!」
「楽しみにしてたんだよ」イザベラ
「梳李のお母さんはどんな人なんだろう」アン
「話せばまた違うけど、見る事しかできないから言っとくけど、くたびれた年配の女の人だよ」
「だけど梳李を育てたんだよね、きっと私達がみたら凄いオーラを身にまとっているよ」ファニー
「なんにしても、息子が先に逝くのは親不孝だからさ、仕事は危険だったからもしもの時の為に書いておいたように、手紙をこっそり置いてくるよ、この時間ならパートに出てるはずだから」
位牌の置いてあるタンスの1番上の引き出しにこっそりと手紙を置いた
「母さんへ 俺は仕事柄、危険な場所で作業する事も多いから、万が一の時の為に手紙を書いておくね。母さん…女手ひとつで大学まで行かせてくれてありがとう。いつか落ち着いたら母さんを旅行に連れていこうと思ってコツコツ貯金したお金が、銀行の定期積立になっているから、俺がもしもの時は生活費の足しにしてください。ごめんね、ほんとうにごめんね、これ以上の親不孝はないよね、だけど母さんの愛情に包まれて育った俺は、何ひとつ後悔もしていないと思うから、母さんがひとりでつらいこともたくさん経験しながら育ててくれた事をほんとうに感謝しています。こんな俺に育ててくれてありがとうね、母さんは少しでも元気に長生きしてくださいね 梳李より」
「置いてきたよ」
「大丈夫?梳李…」アスコット
「大丈夫だよ、ありがとう」
「悲しいです」オリビア
「もう終わった事だよ、ガイヤのおかげで感謝だけは伝える事ができたから、前を向いて歩かなきゃ」
「あれがお母様ですか」フェアリー
「あぶねえ、意外と早く帰って来たんだな」
「梳李のお母さんって感じの人ですね、ここから見ているだけで温かいです」ミーティア
「あ!手紙に気が付きましたよ」サラ
手紙を手に取った母さんは、すぐに読み終え背中を震わせて泣いていた、みんなももらい泣きしながら言葉を失っていた
母さんは元気そうだな、良かった
次の瞬間思い立ったように自分でも手紙を書いて、俺が置いた場所に同じように挟んで大きな声を出した
「あー!お母さん買い物に行かなきゃ!遠い方のスーパーに行くからしばらく戻って来れないなー!」
誰に言っているのかわからなかったが、そう言い残して出かけた
「あの手紙…見なくていいのですか」ヴィーナス
「やぱ見たいよね」
「見に行きましょう!」レオット
「読んで悲しくなったら私の胸を使ってください」アリアナ
「梳李へ お母さんは葬式が終わってみんなが居なくなった後、ひとしきり泣いたらお前がどこかに生きている気がしてたのよ、こんな手紙があるわけがないのに、どこかで生きていてお母さんを励ましてくれようとしたんだね、大丈夫!元気にしてるから…それに梳李はお母さんの中にずーっと生きています。今でも初めの角を曲がる時には駄々をこねて泣く梳李の姿を思い出すし、近くの居酒屋の前を通ったら、初任給が出たからってご馳走してくれた場面が目に浮かびます。定期積立はさっさと降ろしてやけ酒に全部使ったから安心してください。どこかで生きているのか、幽霊にでもなって会いに来てくれたのか、お母さんのように平凡な人間には想像もつかないけれど、梳李が居てくれたからお母さんも頑張れたのですよ、こちらこそありがとうね、もしもどこかで生きているのなら風邪をひかないようにね、お腹を出して寝たらダメだよ お母さんより」
「わあぁぁぁ!」ヘッカ
「梳李!ごめんね、転生させてあげる事しか出来なくて!わあぁぁぁ!」ヘッカ
「梳李!来てください!」アリアナ
「母さんは凄いな、全部お見通しみたいだ」
「俺が他の星でどんなに英雄のように言われたとしても、母さん以上の英雄は俺の中には居ないんだ。工場で働いていた母さんは、ちゃんと綺麗に洗ったからねって言いながら、申し訳なさそうに真っ黒になった手をいつもつないでくれたんだ、俺は真っ黒だけど温かい手が大好きでさ、俺がこの先もどんなに頑張ってもこの人には敵わないな」
溢れる涙が止まらなかった、みんなも一緒に泣いてくれていた、手紙に返事を書きたかったが、それはルールに反してしまう、握りしめた拳は手のひらにアザを作った
「もしも母さんがもっと歳を取って亡くなる時に、なにかしら地球に功績を残したら転生させてやってくれよ、ルール通りに記憶を消しても良いからさ、その時は俺も母さんとは認識できないし、母さんも俺を認識する事は出来ないだろうけど…またどこかできっと会えるだろう」
「ガイヤにもらったスキルがあるから、私は梳李の命令に逆らえないよ、記憶を残してお母さんのまま転生させろと、一言命じてくれたら私の力を使えるんだよ」ヘッカ
「それは違う気がするんだよ、どんな悲しみの中に居たとしても、どんなに叶えたい想いがあったとしても、それをしてしまえば俺は人で無くなってしまうよ、人で無い者が社会に居てはダメだ、良くも悪くも分はわきまえないとさ」
「だけど、その涙は止まります」フェアリー
「涙を止めるために全ての秩序を乱してまで、わがままを通す訳にはいかないさ」
「それならもう帰ろうよ、私にはもう耐えられません」ピーシス
「そうだな、一通り生まれ育った景色を最後に味わって帰ろうな」
「私達ももう少し親と会っておこうと思います」ミーティア
「そうだな、何があるかなんてわからないものな、もう少し時間を見つけて、みんなの実家にはなるべく行くようにしような」
「梳李を胸に抱いていると私もまた実家の離れに行きたくなりました」アリアナ
「うんうん、ぐすっ、行こうな」
「梳李ー!」エンジェル
「よし!お礼も伝えられたし、子供の頃に遊んだ公園や、手を繋いで買い物に行ったスーパーまでの道もしっかり堪能した、明日からはまた新しい日常がはじまるさ!帰ろう!俺達の家に!」
「はい!」一同
第107話に続く




