第100話 ゼウスとヘラ
「梳李…この前はほんとうに申し訳なかったな、謝って済むとは思ってないが許して欲しい」ゼウス
「ゼウスは最高神なんだから、人間に頭を下げる必要はないよ、気にしないでくれよ」
「そうかもしれん、そうかもしれんがな、それでも下げたいと思ったのじゃ」ゼウス
「俺がテューポーンに涙を流した事も俺の意思なら、ゼウスが頭を下げる事もゼウスの意思だと言うのなら、それは自由にしてくれたらいいけどな、俺は初めからゼウスを許すも許さないもないのだし、神々の存在をそういう観点では見ていないよ、少し不自由に思えるだけさ」
「梳李!飲まぬか!」
「いいねえ!嫁も連れて行っていいか?心配させたからな」
「わしにも目の保養になるしのお」ゼウス
「エロじじいかよ!」
「ポセじゃないが、少し羨ましいのじゃよ」ゼウス
「あなた!聞こえているわよ!」ヘラ
「おお!ゼウスの奥さんも居たんだね」
「なにが羨ましいって!」ヘラ
「それよりもヘラは妃なのじゃから、先に梳李に挨拶をしてくれぬか」ゼウス
「お初にお目にかかります、先日のテューポーンの襲来の折は助けて頂きありがとうございました」ヘラ
「いえいえ、結局とどめはさせなかったし、返って迷惑をかけたかもしれません」
「そんなことはありませぬ、ゼウスとガイヤも和平の方向に向かっております」ヘラ
「そんな事ができるのかい?神々は決められた法則をやぶれないんじゃないのか?」
「それが…少し変化してきたのですよ」ヘラ
「よくわからんが…争うよりも仲良くする事の方が新しい発見があるさ、良かったじゃないか」
「我らもなんとか意思を持てないものかと考えているのじゃ」ゼウス
「できたらいいな!んじゃとりあえず夜な」
恒例の夜のお花見である、常に満開の桜では散る事の儚さは味わえないが、堂々と辺りをピンクに染める桜はやはりいつ見ても圧巻だ
ゼウスとヘラ、ポセとアンピ、俺と14人はふかふかの敷物の上で乾杯をした
「かー!うまい!うまいな!」
「ここで月を眺めて一杯やるのは最高じゃな、わしも神である事がちっぽけな事のように思えてくる」ゼウス
「次はヘカテーの海岸で一杯やるか、俺は子供の頃にはじめて海を見た時にさ、海が広い事に感動したんだよ、その時に人間ってなんて小さいのかと思ったんだよ」
「確かに海岸から海を眺めて、海に映る月と空の月のコラボレーションも良さそうじゃな」ゼウス
「兄上も姉上も是非ツキジにも来てください」アンピ
「ツキジと言うのは?」ヘラ
「梳李に作ってもらった海人族の街ですよ、漁業が盛んで塩も作っているのですよ」ポセ
「刺身といって生で魚を食べるのも、これがまた美味しいのですよ」アンピ
「楽しみねえ」ヘラ
「ヘラは魚は好きか?」
「はい!焼いて食べた事しかありませんが、その生の刺身という物には興味があります」ヘラ
「それならポセ、ひとっ走りツキジにいって、鯛と鮪と縞鯵と鰹を持って来てくれよ、すぐに捌いてここで食べよう」
「いいねえ」ヘッカ
「エンジェルは肉の方が良いか?」
「私も刺身は好きだよ、漆黒様と姉上も呼んでいい?」エンジェル
「そうだな、この前はお礼も言わないで寝ちゃったし、ちょうどいいよ」
「それなら梳李は支度ができるまでここでのんびりしてください」ヴィーナス
「そ、そうか…んじゃお言葉に甘えて」
「それは何をしているのじゃ?」ゼウス
「日本にある膝枕という行為だよ」
「ヘラよ、わしにもしてくれぬか」ゼウス
「いいもんじゃなあ、一段と月が美しく見えて心も安らぐわい」ゼウス
「ヘラはどうだい?」
「何年ぶりでしょうね、ゼウスの顔をゆっくり眺めたのは」ヘラ
「お前には苦労かけたな、次から次へと他の女神に手を出して…反省しているから許してくれ」ゼウス
「私も相手には色々といやがらせもしたしね、私も反省しなきゃね」ヘラ
「この星には痴話喧嘩を持ち込まないでくれよ!敵と見なして神殿ごと排除するぞ!」
「ほっほっほっ!そらかなわんな!」ゼウス
「もどりました!鮪というのはこんなに大きいのですね!ご注文の品は確かに!」ポセ
「ポセもどうしたんだ?あの日以来少し言葉使いが…俺には畏まる必要はないぞ」
「テューポーンとの戦いの時の姿に胸を打たれたのです、仲間と言って頂けるのは大変に光栄なのですが、やはり身分は弁えようと思いまして」ポセ
「海の神様に身分を弁えると言われると俺が恐縮するわ!」
「ほっほっほっ!良いではないか!」ゼウス
「まあ細かい事はいいか!まぐろの解体ショーのはじまりだ!みんな前に来ていいぞ!」
「それでは皆様まな板の上をご覧下さい!まぐろの産地は数々あれど、この星で唯一最高の漁業の本場ツキジから取り寄せたまぐろにあいなりまする!この200kgのまぐろ…刺身にしても酢飯と合わせてお寿司にしても最高の美味にて、後ほど皆様にも味わって頂きます!」
奥様方の拍手と歓声が響く
作法やしきたりはよくわからないが、解体ショーだから少し口上でもと思い、適当に部位を説明しながら解体していった、奥様方は子供みたいな顔で瞳をきらきらと輝かせ、かぶりついて眺めていた
ゼウス達一族も嬉しそうに眺めていた
赤身と腹の中トロ、かまの大トロとたいとしまあじとの刺身の盛り合わせに、かつおのたたきをみんなに振る舞った。立食スタイルで横のテーブルにはお寿司を並べて、酒はそれぞれの好みに合わせて並べておいた
「これはなんと素晴らしい味ですね」ヘラ
「ヘラも気に入ったか?」
「この寿司も良いのお」ゼウス
「兄上!この醤油にわさびがたまらんでしょ!」ポセ
「こうやってみんなでわいわいと幸せな時間を過ごしているとさ、海の大きさを感じた時よりもさらに、こだわりを持つ自分がとても小さい存在だと実感しないか?」
「そうじゃな」ゼウス
「梳李様の言いたい事はよーくわかります」ヘラ
「敵が来れば防衛もする、時には討伐もやむを得ないと思う…だけど基本的には共存の道を探して欲しい。このセントラルもはじめは種族間に偏見も差別も強く根付いていた、それが今ではどうだい?全種族が夫婦になったり、共に協力して仕事でもなんでもするようになった。全知全能の力があるのなら、そういう風に心の中に平和の花を咲かせて欲しいんだよ」
「わかった…わしも梳李の意に添えるように努力しようじゃないか」ゼウス
「ヘラももう仲間だから…梳李様はやめような、梳李と気楽に言ってくれ」
「はい!梳李!アンピが惚れ込むのもわかります!」ヘラ
「なんじゃと?!」ポセ
「い、異性としてじゃないわよ」アンピ
「まあ異性としてだとしても、わしも梳李には心酔しているのだから、仕方のない事よの」ポセ
「私もゼウスの行動に対して、醜く嫉妬して相手を攻撃するよりも、女神らしく語らい温もりを持って今後行動するように心がけます」ヘラ
「ところで梳李!私の膝枕も待ってるんですけど!」アスコット
「まてまてまてまて!全員で並んで座られたら落ち着かねぇわ!」
「みんなの膝枕も俺は大好物だけど…今日だけはヴィーナスとフェアリーに花を持たせてやってくれ、テューポーンとの戦いはそれほど壮絶だったんだ、心配して待っていてくれたみんなも、共に戦ってくれていた事はわかっている、ダメかもしれないと思った時に全員の顔が俺の脳裏をよぎった、みんなが俺の無事を願って、祈ってくれている魂を感じた、ほんとうにありがとうな」
ひとりひとりを抱きしめる姿を見て、ゼウスは指をくわえてよだれをたらし、ヘラに耳を引っ張られていた
お前達のさっきの話が台無しなのだがな!
第101話に続く




