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婚約破棄大作戦

明日で本編は終わりになります。

「…まあ~…そうなるよなぁ…。…じゃ、これからどうするか話すか」

私が口を開く前に、私の顔を見たガルディウスは苦笑しながらあっさりとそう言った。


あの雨の日の数日後、ガルディウスとジル先生―フィルは私の部屋に訪問診療で訪れていた。

ジル先生はあの日からフィルになった。あの日、彼はこれまでのらりくらりとはぐらかしてきた自分の名前を明かしてくれた。フィリップ・デ・ジルベルスタイン。聞きなれない家名に首を傾げれば、彼は隣国の生まれなのだというので驚いた。

「ジルベルスタインさん?」と彼のイメージとはかけ離れたいかめしい家名を呼ぶと、その家名嫌いなんだ、舌を噛みそうでしょ。とおどけたが、あまり話したくなさそうだったので深く詮索はしなかった。きっといつか話してくれる時が来るだろうと思う。

フィルと呼んでもいい?寝転んだまま照れながら聞いた私に、目覚めてからずっと私の髪を梳いていた彼はいいよレティ、君の好きに呼んで。と甘やかにはにかんでキスをくれた。

その雨の日の秘め事についてはもちろん伏せるつもりだったが、ガルディウスには彼に投げられた問いの返事を含めて事情を説明しなければならない。それを思うと心が痛んだが、言わないままにしておくことはできないし、彼の誠実さに応えたいと思った。


「…まだ何も言ってないわ…」

申し訳ないやら照れくさいやらで自室にもかかわらず所在ない私はガルディウスに小さく抗議する。

「いや、もう十分。お前のその顔と、ここに来るまでのコイツの態度見てればよおく分かった」

「ぃたっ!」

横っ腹をガルディウスに叩かれたフィルはいたた、とお腹を押さえながら気まずげに首をかく。私が首を傾げるとガルディウスはアンリが促すソファーに座りながら「コイツ、道中ずーっと上の空。ああ、とか、へえ、とか適当な相槌ばっかで」と呆れたように言う。

「…仕方ないでしょう」

「…まあそりゃそうだな」

「…もっと、怒るかと思ってた」

「怒んねえよ。もともと俺が考えろって言ったんだし。それに、好きとか嫌いとかは頭で考えてどうにかなるもんでもないしな。

…よかったんじゃないか、ちゃんと自分の気持ちに気づけて。俺も、北に行く前に片付いて安心した」

「君はいつ、どこまで気づいてたの、ディー」

「レティがお前に気がありそうなのは作戦会議の時に気づいた」

「ええ?!」

「…お前さ、自分のこともわかんねえなら『賢人』返上してこい」

思わず目を見開いた私にガルディウスは呆れたように言った。感染症の一件が終わって以降、総統院ではその大げさな二つ名が密かに広まってしまっていた。

「ああ、それであの日…」

「そ」

ガルディウスとフィルは目を見合わせた。二人の中ではそれで通じるものがあったらしいが、私は何のことかわからず首を傾げてしまう。ガルディウスはそんな私には口の端を上げただけにとどめ、フィルに話しかける。

「お前がどう思ってんのかは分かんなかったけど、でもまあ十年近く一緒にいるんだし気があってもおかしくねえとは思ったよ。それに俺がレティに『考えろ』って言ったってわかったら、否応なくお前もちゃんと考えざるを得ないだろ」

ガルディウスの話に今度はフィルが目を真ん丸くしている。

「だからまあ覚悟はしてた。…あー、でもなあ~…。…人の可愛い婚約者かっさらっていきやがって。今日はお前が酔いつぶれるまで帰さないから覚悟しとけよ」

「…もしかして、飲みの約束、この話のために先の日程で約束したんですか?!」

「まあ確証はなかったけどな」

「…ディーって意外と賢かったんですね」

「…よし決めた。お前今日、スピリタス以外飲むの禁止」

「それ潰れるとかじゃなくて死ぬから…」

いつものようにフィルと軽口の応酬をするルディを見て、私はホッとしたような、ホッとしてはいけないような気持ちになる。

「ジル、もしレティ泣かしたら北からソッコーで帰ってきて、ぶっ殺してやるからな」

「あのねえ、僕が一体どれだけの間、君たちのためを思って耐え忍んできたと思うの。やっと自分のところに来てくれた可愛い子を、泣かすわけないでしょう」

私はフィルの言葉に赤面してしまい視線を逸らせたが、フィルはそんな私をニコニコと見つめ、ルディは困ったような、あきれたような顔をした。

「…で、だとすると婚約解消する必要があるわけだけど、このままだと大きな問題が一つある。このままだとお前ら、この国で大手振って歩けないだろ。少なくとも、総統院勤めは続けられない」

そうだ。この国では婚約は国王の承認のもと結ばれる神聖なものであるため、普通、めったなことでは解消はしない。どちらかが大罪を犯したなどの理由でない限り、婚約解消は国家という神聖なものを汚す行為とみなされる。

他に好きな人ができたので国を裏切ります、なんてことそもそも認められないし、言っただけでも爪弾きにされ、王都に居場所が無くなるのは目に見えていた。

「僕は別に、君たちが婚約したままでも構わないけど」

「お前ね…流石の俺も親友に惚れてる女を婚約者としては置いておけねえよ。まあ聞け、俺にいい作戦がある」

ルディがにやりとして、その作戦を語ってくれた。


「そんなこと、させられるわけないじゃないの!馬鹿ルディ!」

その馬鹿げた作戦を聞いた私は思わず立ち上がって激昂してしまった。きっと私の顔には青筋が浮かんでいると思うけれど、ガルディウスは笑ってこちらを見つめるばかりだ。

「…さすがに僕も呆れたよ。そんなことを、僕たちが君にさせると思ってるの」

「いいや、周りの非難を浴びずに今後お前らが過ごすためには、絶対にこの方法しかない。これでいかないのであれば、北方遠征をやめて俺がレティシアと結婚する」

「…ルディ…!」

「いいか二人とも、冷静に考えろ。人の噂も七十五日って言うだろ。俺は千日以上王都から離れるんだ。帰ってきたころにはみんな俺のことなんか忘れてる。それに、武功を立てれば騎士としての名誉は保たれるんだ。

さらに、この作戦ならばジルは婚約者に捨てられた可愛そうなレティを献身的に支えたヒーローになれるし、お前らの馴れ初めにケチ付ける奴もいないんだぜ。しかも口さがない貴族のヤツらも一網打尽にできるから意図しない噂が立つこともない。…良いことづくしだろ」

「…君は、本当にこれでいいと思っているの?」

「もちろん。レティに水を向けてからずっと、無い知恵絞って考えてたんだ。俺が心配してるのは段取りを忘れないかってそれだけ」

フィルがこちらを窺うような視線を向ける。

「頼むよ、ちょっとはかっこつけさせてくれ。お前たちには、俺が守るこの王都で絶対に幸せになってもらいたいんだ。あとまあ…親友へのはなむけでもある」

「…君にそこまで言われたら、なんの言葉も返せないよ。…ありがとう、ディー」フィルは嬉しいような悲しいような顔をするが、心は決まったようだった。私はそれでもなんとか彼を思いとどまらせようと言葉を探す。

「…でも、その作戦には国王様にもご協力いただく必要があるんじゃないの。そんな事できっこないわ」

チッチッチ。とキザに指を振って見せたルディは、ぐいっと自分のことを指さして今日一番の笑顔で言った。

「俺を誰だと思ってる?尊い血筋の侯爵家サマだぜ」

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ジル先生の本名がやっと明らかに。

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