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08.事情はわからないが無事だった

 匂いを辿るトムソンだが、ノアールを子猫だと思い込んでいた。というのも、本物の猫を見るのは初めてだ。獣人の猫と比べて明らかに小さいので、生まれて間もないのだろうと考えた。しかし走る狼の速度についてくる。


 本物の猫は凄いのぉ。感心するトムソンがぴたりと足を止めた。くんと鼻を動かし、左と右を確認する。匂いは左側が強い。ここでしばらく立ち止まったのか。雪の降る季節なら、足跡を追えたのだが。


 トムソンはちらりと黒猫の様子を窺った。まだ平気そうだが、念のため。


「背中に乗っていくか?」


 うにゃん。今のはどっちの返事だ? 嫌なのか、いいのか。判断できん。トムソンの悩みをよそに、ノアールはぴょんと背中に飛び乗った。どうやら乗せてもらうつもりのようだ。会話が出来ていたことにほっとする。


 そのままトムソンはまた走り出した。四つ足の速度なら、すぐに追いつくだろう。大きく体を躍動させる走りに、黒猫はぴたりと寄り添った。姿勢を低くして、風の抵抗を減らしている。その上、器用に背中にしがみついた。


 息が切れ始める頃、ようやく足を止める。鼻に届くブレンダの匂いは強くなり、同時に黒い影が目に映った。


「ブレンダ?」


 間違いない。トムソンの足が再び動き出す。到着した先で、ブレンダは地面に座っていた。彼女の膝枕を受けて休んでいるのは、毛皮のない人物だ。これが知らない匂いだった。ブレンダが報告したニンゲンだろう。


 トムソンが止まった途端、背中から黒猫が飛び降りる。器用にくるっと回って着地したノアールは、にゃーんと鳴きながら飼い主の胸によじ登った。あれは苦しそうじゃな。そんなトムソンの感想を裏付けるように、アイカが唸る。


「重い、ノアちゃん……死ぬ」


 そこはダメと言いながら、細い腕で黒猫の位置をずらした。と、ブレンダの後ろから白猫と三毛猫も現れる。匂いの薄いカーティスはどこへ行ったのか。


「トム爺さん、悪かったね。家で待つ予定だったんだけど、カーティスの坊やが悪さをしたのさ」


「なんとなく想像はついたよ。ところで、彼はどこに?」


「見当違いの方角へ走って行ったさ」


 ブレンダに言われ、先ほど分岐点で足を止めた理由を思い出す。右からカーティス、左からブレンダの匂いがした。当然、トムソンが優先するのは、ブレンダである。知らない匂いがしていた理由も、これで分かった。


 ニンゲンと本物の猫がいたのだ。この匂いは初めてなので、今後のために覚えておこう。くんくんと匂いを確認していると、目を開けたアイカと目が合う。固まったトムソンと違い、アイカは手を叩いて喜んだ。


「うわぁ、すごい大きな犬」


「犬ではなく狼だ」


 そこには深い溝がある。狼獣人と犬獣人の間には、認識の違いからくる嫌悪があった。狼にしたら、犬は眷属だが格下だ。しかし、犬は狼を古い人種と考え尊敬はしない。お陰で顔を合わせればケンカばかりだった。


 そんな事情を知る由もないアイカは「ふーん」と首を傾げた。どうやら仲が良くないようだ。狼と犬の見分け方を覚えておこう。その程度の認識で終わった。


「それで、何があったんだ?」


「帰ってから話そうかね。ほら、背中にお乗り」


「いや、歩けますって」


「足を挫いただろ」


 ブレンダがまるで我が子のように世話を焼く。その様子を微笑ましく思うより、羨ましいと感じたトムソンは、己の背中を示す。


「なら、わしの背に乗っていくか」


「猫だけお願いします」


 せっせと三匹の猫を乗せるアイカに、苦笑が漏れる。トムソンの上で猫達がくつろぎ始めたところで、アイカはブレンダに抱っこされた。


「さあ、家に帰ろうかねぇ」

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