70.何もかも満たされた世界で(最終話)
満月を確認し、子供の木の下に並ぶ。今日は並んでいる列が長かった。前回はもっと短かったのに。各都市に一本ずつ、挿し木で増やした子供の木が生えている。
「まだ先だね」
「ああ」
抱っこされたまま並んで、アイカは高い位置から周囲を見回した。キスをして子どもを受け取る夫婦と、がっくり肩を落として帰る夫婦。途中で気持ちが変わってしまい、子を授かれない事例があるらしい。
今キスしている夫婦は、ニコニコしながら木の幹を撫でて帰っていった。今日がお願いの日なんだな。私達と同じだ、アイカは微笑ましく見送った。キスをして赤子を受け取った夫婦は、すぐに木の下を譲ってくれる。
ようやく順番が来て、レイモンドはアイカを下ろした。見上げると首が痛くなるほど遠い夫へ、アイカは笑顔で手を伸ばす。ゆったり平伏して、レイモンドがアイカに頬を寄せた。抱きしめて口を重ねる。べろりと舐めて親愛を示すドラゴンと、受け入れて複数のキスを降らせるニンゲン。
満月の月光が降り注ぐ子供の木が、ざわりと葉を揺らした。次の子が無事に生まれてきますように。祈りを捧げて場を譲った。後ろの夫婦は、受け取りだったみたい。可愛い鳴き声が聞こえた。豚獣人かな?
次の満月が楽しみ。二人で並んで歩くが、すぐにレイモンドに抱き上げられた。早く帰ろうと言われ、娘マリを思い浮かべた。オレンジ達が面倒を見ているから平気だろうけど。頷いて帰宅し、鳴きながら駆け寄る娘を腕に抱いた。
以前あった大きな籠ベッドは撤去され、部屋をひとつベッドにした。扉を開ければ、すぐにベッドになっている。特注の家具として、後日、広める予定だった。子どもが転がり落ちる心配がないだけで、安心できるし。
クッションを利用して、レイモンドがごろんと丸くなる。その真ん中に、マリを抱いたアイカが潜り込んだ。すぐに猫達が駆け寄る。オレンジ、ブラン、ノアール、どの子もぺたりと身を添わせた。
翌朝、隣家のキリン獣人の子が駆け込む。
「ねえねえ、僕の弟が……っ」
「……アーサー、せめて挨拶くらいしろ」
むすっとしたドラゴンに叱られ、キリンの子は慌てる。皆で寄り添って眠る部屋に飛び込んだと知り、照れていた。彼の両親はカバとゾウだ。なぜか大型獣人の子に、小型獣人が生まれる確率は低いのだとか。間違えて踏まないようにするためかな? とアイカは考えている。
「ブレンダのシオン君を見に行こうよ」
「そうだな、今日は仕事もない」
実家扱いのブレンダ邸は、先々月、息子を迎えた。満月は月に一度だけ。シオン君と名付けられた子は、まさかのアルパカだった。最初、首の長い羊かと思ったけど。
マリと仲がいいので、よく一緒に遊ばせている。
「猫達も久しぶりに連れていこうかな」
「キャリーを出してこよう」
家事はもちろん、片付けも手を貸してくれるレイモンドは、どこに何が片付けられたか覚えている。手際よく取り出したキャリーを見て、猫達がさっと物陰に隠れた。
「あ、アーサー君。オレンジ捕まえて」
立っている者は他人でも使う。アイカに言われて、アーサーは頑張った。追いかけ回して、背中に飛び乗られたり遊ばれながら、オレンジを隅へ追い詰めた。
お礼を言って受け取り、キャリーに入れる。すでにブランとノアールが捕獲済みだった。
「アーサー君、これ……お礼ね」
ご両親や弟君と食べて。そう告げるまでもなく、アーサーは焼き菓子の袋を加えて走り去る。もちろん、ぺこりと頭を下げるのも忘れなかった。
「あの子、礼儀正しいよね」
「礼儀正しい子は、隣家のベッドルームに突入しないぞ」
「その辺は許してあげてよ」
笑いながら、キャリーにマリも入れた。まだ眠っていたマリは驚いたようだが、すぐにオレンジ達と毛繕いを始める。
レイモンドの首に専用の鞍をつけて、キャリーを固定した。専用の櫓から飛び移り、自分を固定する。準備が終わったアイカがぽんぽんと首すじを叩けば、ふわりと舞い上がった。
空を飛びながら、初めての飛行で感じた恐怖心を思い出す。今なら笑い話だな。この世界に来てよかった。可愛い子猫にも恵まれ、もう一人も予約済み。母親のようなブレンダと、父親にしては頼りないトムソン。最高の旦那さんであるレイモンド。
すべてが夢のようだわ。アイカは大きく胸に息を吸い込んだ。足元の景色があっという間に変わり、見慣れた屋根が見えた。
「ブレンダ!」
手を振って叫ぶ。洗濯物を干す手を止めたブレンダが、大きく振り返した。今日もいい一日になりそう!
翌月、まさかの熊獣人を授かったアイカは、ブレンダに「子熊の育て方」を尋ねに訪問するのだけれど……。今はまだ未来の話。
The END ……
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最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。もふもふ好きが高じて、獣人と生活したら楽しそう。どうせならもふもふ要素がたっぷりの、全身獣がいい。と暴走したお話です。
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【僕の大事な魔王様】
BLで、キスシーン程度まで(R18じゃありません)
何者かに召喚された幼ドラゴンは、殺されそうになり必死の抵抗
全力で叫んだ結果、異世界の魔王を召喚した_( _*´ ꒳ `*)_
俺様な魔王×純粋天然系ドラゴン
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