59.捜査は意外な方向へ
隣家で匿ってもらうアイカは、そわそわと窓の外を見つめる。レイモンドは帰ったし、まだブレンダは戻らない。猫を探しに行きたいが、自分が狙われやすい自覚があるので迷った。
「仕方ないよ。ニンゲンは珍しいし、本物の猫はもっと珍しいんだから。今は我慢しとくれ。情報は流したから」
「ありがとうございます」
キャリーの中で、オレンジとノアールは毛繕いをし合っている。その様子に、アイカはふと違和感を覚えた。乱入者がいて強盗にブランが連れて行かれたら、オレンジが対抗するはず。弟分であるブランを守ろうとするよね。
首を傾げるアイカの前で、オレンジは平静そのものだ。何か勘違いしたかな? でも裏の窓が割れているのは事実だし。悩み始めたアイカをよそに、犬獣人の奥さんは近隣へ噂を流した。
白猫が行方不明になった。もしかしたら誘拐かもしれない、と。
この世界で誘拐は重罪だ。あっという間に噂が広がった。と同時に、白猫探しも始まる。色が目立つので、逃げ出したとしたら発見されるのも早いだろう。その意味で、ノアールやオレンジの方が探しにくい。
「アイカを預かってくれてありがとうよ、マーサ」
ブレンダが帰ってきた。警官らしき三人は、テキパキと捜査の情報を集め始める。まずは現場検証なのだろう。家に入って行った。種族は猫、イタチ、犬である。全員毛皮もふもふの二足歩行だった。
家を確認し、白猫が残っていないと確定させた。ここから行方不明事件として捜査が始まる。裏の窓は外から破られており、家の中に破片が落ちていた。間違いなく侵入者ありと判断できる。
「どんなもんだろね」
状況確認するブレンダに、猫獣人がうーんと唸った。警官はすべてお揃いの帽子をしている。これが区別する唯一の身分証だ。服装は自由で、犬獣人はそもそも着ていなかった。
「本物の猫のサイズって、わかります?」
イタチに聞かれ、キャリーの中のノアールとオレンジを見せる。サイズが違うので、この中間だと説明した。大きさ順だとオレンジ、ブラン、ノアールだ。
「可能性の段階ですが……本物の猫が自分から出ていったなんてこと」
「ええ?」
「いえ、足跡があるんですよ」
当然、慌てたブレンダもアイカも確認していない。警官付き添いの元、窓の外側へ向かった。割れたガラスは中に落ち、外には猫の足跡……。
「あれ? 猫の足跡しかない」
獣人なら大きさが違う。アイカと身長が近い猫獣人は珍しい方で、たいていはアイカより大きかった。リス獣人の店主だって、アイカより僅かに小さいだけ。つまり、ブランの足跡サイズはありえないのだ。
「犯人の足跡がないんだけど」
「ああ、それで鳥か昆虫の可能性があると思って」
鳥の獣人も存在する。彼らなら足跡を残さず飛び込めるが、それだと窓は小さすぎると説明された。まあ、そうだろう。ブレンダも納得する。
「となると、昆虫かねぇ」
「昆虫なら中に残ってそうだけど」
知能はあくまでも昆虫で、出入り口を探す知性はない。入った窓から出て行くのはおかしい。ここで躓いた。
「あの、もしかしてだけど……ブランが追い回した結果、その窓から出て行ったなんて……」
考えられるかも? 恐る恐る声を上げたアイカに、全員の視線が集中した。




