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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

裏切りの勇者

作者: こ~りん

残酷な世界です。残酷な世界が苦手な方やハッピーエンドが読みたい方はブラウザバックを推奨します。

 人族と魔族が争う時代。大陸の北と南に分かれ、血で血を洗う戦争の時代。生まれつき強大な力を持つ代わりに数が少ない魔族と、大した力を持たないが数の多い人族。両種族の境界線は死体で埋まり、何年もお互いを殺し続けていた。


 発端は辺境の国の、これまた辺境の小さな町で起こった悲劇だ。

 ある日突然、町が焼かれたのだ。兵士と民の区別無く皆殺しにされ、魔族はこれを真なる自由のためにと戦争を宣言した。

 対して人族はと言うと、唐突に戦争を吹っ掛けられ困惑するばかりだった。それでも宣戦を布告されたのなら、国として対処しなければならない。辺境の国は魔族と戦争を開始した。


 そして幾月か経って、国が滅んだ。

 王族も、貴族も、民すらも虐殺され、大陸の地図が書き換えられるハメになった。魔族はなお戦争を継続し、国境を接する国々を滅ぼしていった。


 事態を重く見た教会は各国に呼びかけ、教会の聖騎士を中心として連合軍を編成し、破竹の勢いで進軍する魔族を迎撃せんと試みた。

 その結果、戦争は大陸全てを巻き込んで泥沼化した。国の戦いではなく、種の存続に関わる戦いに変わってしまったのだ。


 戦争が数年続き、膠着状態に陥ったある日、勇者が現れた。

 教会は、『これ以上の悲劇を食い止めるため、魔族という悪を討ち滅ぼすため、神々が加護を与えてくださったのだ』と声明を出し、聖なる武器を持った勇者達を前線に出すことで領土を取り返していった。

 勇者の素質がある者を徴兵し、訓練をさせ、教会は勇者こそが人族の希望だと声高らかに宣言したのだ。


 だが、一人の勇者が、これまでに倒れていった英雄の努力を台無しにした。

 特徴――黒髪に赤い瞳、頬に斬り傷と金色の星あり。背丈大凡一八〇。史上最強と謳われ、星を与えられておきながら人族を裏切った大罪人。名をフェリグナントテール荘のゼタ。

 たった一人で一個旅団相当の活躍をした者にのみ与えられる星が人族を裏切ったという事実は、再び大陸を泥沼に叩き落とす所業であった。


「――その役目、俺に任せてください。必ず奴をこの手で仕留めて見せます」


 勇者グリンはそう言って、聖剣を手に戦場へ旅立った。

 裏切り者のゼタは粗雑な剣で戦場に出た英雄を殺している。あらゆる手を使い、死者の尊厳を踏みにじる罠を仕掛け、人族を徹底的に殺す。

 剣だけで人々を殺し、戦えない者であろうと容赦なく殺すことから付いた忌名な“剣鬼”。


「ゼタ! なぜ殺す!? 戦場に出た者を殺すのはまだ分かる! だが、戦えない者を殺す必要は無いだろう!?」

「……偽善者か」

「勇者だ! 俺は人々の希望のため、巨悪を討つために戦っている! 正義のためだ! お前のように民草を殺める外道には分からないだろうが、魔族という悪を倒さなければ世界は平和にならないんだ!」

「……救いようのない愚者め」

「何故分からない!? 魔族は罪の無い人々を殺しているんだぞ!」


 相手が“剣鬼”であろうと、グリンは対話の姿勢を崩さなかった。戦いの中で、必死に勇者としての責務を果たせと説得を試みる。


「くだらん」

「くだらなくなど無い! ……もしかして、脅されているのか!? それとも人質がいるのか!? 俺が必ず助けてやるから、お願いだから剣を納めて一緒に戦ってくれ!」

「……どちらにせよ、俺のやることは変わらない。お前を殺して、人族を殺す」


 勇者グリンは“剣鬼”ゼタの剣術に押され、それでも諦めずに戦い続けた。何回も、何回も、戦場で顔を合わせるたびに戦い、聖剣を手に勇気を振り絞った。


 しかし、“剣鬼”ゼタは元星持ちの勇者だけあってその実力は高く、一月が経った頃にはグリンの聖剣は奪われ、二度と戦えぬよう両腕を斬り落とされた。

 それからのグリンは誰も知らない。斬り落とされた腕を元通りにする奇跡は存在しないため、そのままにするしか無かったからだ。


 田舎に送り返されたのか、それとも次の勇者のための礎となったのか。

 どちらにせよ結末は変わらない。ゼタを打ち倒すため、新たな勇者が派遣されるだけだ。


 戦争は、裏切り者の所業によって混沌を極めている。


■□■□■


 昔、小さな頃。村での生活が世界の全てだった子どもは、このまま何も知らず平和に生きるのだと思っていた。

 魔族の領域と隣接していたため、多少の確執はあったが、人族の子どもには関係の無いことだった。

 俺はたまたま出会った少女に一目惚れし、違う種族でも共に生きていけるのだと熱弁したのを覚えている。


 魔族の少女は戸惑いながらも、荒唐無稽な俺の話を受け入れてくれた。俺はそれが嬉しくて、彼女と結婚するんだと息巻いていた。

 とうぜん、村の連中は反対ばかりしてきた。だが、一年も経てば自然とみんなが受け入れ、俺と少女は婚約者として認められた。


 俺にとっての地獄の始まりは、数年が経ち、齢が一〇を超えた頃だ。そのとき、俺は改めて彼女に告白し、彼女はそれを恥ずかしがりながらも受け入れてくれた。

 嬉しくてたまらなかった俺はそれを吹聴して回り、税を徴収するため訪れていた町の代官に知られてしまった。


 当たり前の話だが、人族と魔族は仲が悪い。教会に至っては、魔族を相容れない畜生などと表現する始末だ。だから、辺境の小さな村ならともかく、町の住民や権力者ともなれば魔族と関係があるだけで迫害することも珍しくない。

 俺はその代官にこっぴどく痛めつけられ、肋が折れる重傷を負った。運良く完治はしたが、俺に対する村の印象は冷たいものに変わってしまっていた。


 そして二ヶ月が経った頃、近くの町の領主が騎士を引き連れて問うた。『魔族と関わっているのは誰だ』と。村の連中は迷いなく俺を差し出した。俺の恋人の少女も縄で縛って、地面に転がされた。

 それを見た領主は、俺と少女を見下すと松明を取り出し、村に火を放った。何をしたのか理解できない内に騎士は村人を殺し、俺と少女は痣が残るほど痛めつけられた。


 村が焼け野原になったあとは領主の軍に連れられ、奴隷のように街中を引きずり回された。あろうことか、村での出来事を魔族のせいにし、身勝手にねつ造された理由を根拠に俺達は町の住人からむごたらしい差別を受けた。

 地獄だった。死ねば楽になるのだと何度も思った。だけど、隣で同じようにいたぶられる少女を残して逝くことは出来なかった。


 そんな日々が続き、遂には教会に連行され、魔族を殺せば罪は精算されると宣って神官共は俺に短剣を握らせた。

 俺に、恋人を殺せと言ったのだ。

 ふざけるなと叫んでも、神官共は顔色を変えずに同じ事を言うだけ。


 後で聞いた話だが、俺と少女がいた町での出来事を知った魔族がその町を滅ぼしたのは、その時期だったらしい。

 当時の俺は何が何だか分からなかったが、教会の連中は俺にこう言った。


「もし君が私達の剣として魔族を殺し続けるのなら、彼女だけは助けてやろう」


 俺は彼女が助かるならと剣を執り、兵士として戦争に身を投じた。地獄がさらに深まるだけだった。

 他の連中は魔族を害獣か何かだとしか考えていないが、俺は違う。魔族が、種族が違うだけで同じ人間だと知っていながら、命乞いをする非戦闘員まで殺していった。


 泣いて、喚いて、謝りながら殺していった。すまないと、許してくれと泣き叫んで、それでも俺は魔族を殺した。大好きなあの少女を助けるために。


 数年が経ち、俺は兵士ではなく勇者となった。

 教会の偉いやつ曰く、俺は神に選ばれたのだという。その証拠として奴らは俺に聖剣を渡し、もっともっと魔族を殺して人族の領土を増やす礎となれと俺に強要した。

 俺はもう、何も考えられなかった。


 何も考えられなくて、それでも罪悪感から俺は魔族に謝罪し続けた。そして口とは裏腹に身体は効率的に魔族を殺していた。

 魔族からは悪魔と呼ばれ、人族からは勇者と呼ばれる、地獄すら生ぬるい日々だ。


 聖剣を数え切れないほどの血で汚し、何度も何度も戦場に出ては魔族を殺していた俺は、ある日同僚からあだ名を付けられた。

 俺と同じく聖剣を与えられた勇者だ。彼は俺を“剣鬼”と呼び、連合軍の中で自然とそのあだ名が広まっていった。蔑称のようなものだったと思う。だって、彼は明らかに俺を蔑むような顔で言っていたから。


 “剣鬼”と呼ばれるようになってからは怒濤の日々が続いた。

 まず、星を与えられた。

 星とは騎士に与えられる叙勲を勇者風にアレンジしたもので、この者は勇者の中でも格段に強いですよと人々にアピールするものでもあるという。


 俺に与えられた星は金色だった。大昔の人族が観測した金星というのがモデルらしい。他の星持ちは火星の緋、水星の蒼、木星の翠を与えられた。

 星を与えられてもやることは変わらなかった。謝って、殺す。殺して、謝る。

 ずっとずっと繰り返したきた地獄を、同じように繰り返すだけだ。


 だが、物事に絶対が無いように、クソみたいな日々にも終わりがあった。

 大きな戦いが終わり小康状態に移行した日、俺は酷使した聖剣の調整のために教会本部に戻っていた。そして、憂さ晴らしに散歩していた最中、偶然神官共の話を聞いてしまった。


「次の勇者候補はどうだ?」

「中々いいのが揃っている。あれだけ魔族への憎悪があれば、いい駒になるだろう。数も増えてきている。この調子でいけば人族も安泰だな」

「だが、聖剣の材料はどうする? どれだけ勇者候補を作っても、このままでは素材が足りなくなるぞ」

「それは問題無い。多少品質は落ちるが、一〇体ほど混ぜておけば聖剣の鋳造に使えるのは確認済みだ」

「そうか、それならいいんだ」


 俺を地獄に叩き込んだ神官共の話は、勇者と聖剣に関するものだった。どうやらまた勇者候補が増えたらしいが、勇者が何人増えようと俺には関係の無いことだ。

 だが、その場を離れようとした俺の耳に飛び込んできたのは、信じがたい話だった。


「――ところで、ゼタはどうだ? 上手く運用できているんだろうな?」

「ああ、アレはよく働いているよ。魔族の女に惚れ込んだ罪人にしては、ね」

「ははは、違いない。罪人はいくら働いても働き足りないからな」


 神官共は俺のことを話している。だが、重要なのはそれではない。


「それにしても、哀れで仕方ない。アレが惚れ込んだ女はとうの昔に、()()()()()()()()()()()()()()

「いやいや、むしろ感謝されるべきだろう? 男を誑かす見目だけはいい醜悪な存在を、人族のための兵器に作り替えたのだから。まあ、魔族という資源の使い方がなっていない子どもに、真理が理解できるはずもないがね」

「存在しない女に会わせてくれと頼み込んでくる様は滑稽だったな。まあ、知られないようにするのも骨が折れるのだが」


 …………訳が分からなかった。俺の愛した人は、既に聖剣の素材にされている? そもそも、素材とはなんだ? 資源? 存在しないと言ったか?

 頭を鈍器で打たれたような衝撃に、俺はその場で立ち尽くすしかなかった。ああ、それでも、理解できなかったら、俺はこんなに苦しまなかっただろう。

 考えて、考えて、堂々巡りする思考は一つの真実を導き出してしまったのだから。


 そう、俺の愛した少女は、この教会の連中に物として消費されたのだと――殺されたのだと理解してしまった。

 膝から崩れ落ち、俺は廊下の影で静かに泣いた。そしてもう一つ理解した。人族を守る価値は存在しないのだと。


「ゼタ!? 貴様何を――」


 調整中の聖剣を奪取し、俺は目に付く神官共を片っ端から殺した。偉そうなやつを優先的に殺し、施設の破壊をしつつ彼女の痕跡を探った。

 そして、それまで噂でしか知らなかった地下施設に踏み入り、さらに虐殺を重ねた。


 地下施設は地上とは違って、神官共の外道さを一切隠さずに晒していた。

 俺の目に飛び込んできた非人道的な施設。言葉にするのが憚られるような、冒涜され飾られる魔族の遺体。それが複数。

 その中には、決して色褪せることのなかった彼女の首も存在していた。


 首だけが……そこにあった。死してなお美しい少女の首は、俺を絶望させるのには十分すぎた。


「知られたからには生きて返すわけにはいかないな。騎士共よ、そいつを殺せ!」

「――彼女の身体はどこだ」

「何も知らなければ生かしておいたというのに……」

「答えろ。彼女の身体はどこだ」


 聖騎士と呼ばれる男が俺に剣撃を放ったが、戦場で無数の死を積み重ねてきた俺にとっては児戯のような攻撃だった。

 躱し、反撃で首を刎ねる。


「答えろ」

「わ、私を殺すつもりか!? 罪人の分際で――」

「もう一度聞く。彼女の身体はどこだ。答えないなら次は左腕だ」


 拷問の仕方も戦場で覚えた。片腕を斬られた程度で怯えた神官は、命乞いをするために早口で彼女の身体の使い道を答えた。


「あ、あれは魔族にしては惜しい身体だった! だから、まずはその身体をた、堪能し、使い物にならなくなった後に首を斬り落として加工した! 両腕は火星の槍に、脚は木星の弓に、胴体は水星の盾にそれぞれ加工してある! こ、答えたぞ! 答えたからこれ以上――」


 得られた回答は、思っていた数倍酷いものだった。

 それ以上外道の鳴き声を聞きたくなかった俺はそいつの首をかっさばき、そいつがそいつ自身の血で溺れ死ぬことを願った。


 彼女の首を丁寧に布で包んで鞄に仕舞った俺は、他の星持ちの勇者の武器を奪うことにした。加工されてしまった彼女の身体を取り返したかったからだ。


 星持ちと言っても、俺以外は王族の血筋だ。その縁で星を貰っただけに過ぎない。

 火星の緋は彼女の腕だった槍を乱暴に振り回していた。彼は俺にあだ名を付けた張本人だが、それ以上彼女の腕を傷つけて欲しくなかったから殺した。

 水星の蒼は彼女の胴体だった盾に隠れていた。彼女は勇者同士の殺し合いは不毛だと涙ながらに訴えていたが、痛みを恐れて隠れるだけのそいつに彼女を利用されたくなかったから殺した。

 木星の翠は彼女の脚だった弓を下手な格好で構えていた。彼は考え直してくれと俺に何度も言ったが、戦場にすら出ていなかったやつに彼女を所有されたくなかったから殺した。


「――裏切り者め! 勇者殺しの大罪人を殺せぇ!」


 俺は、名実ともに大罪人となった。だが、人族の評価はもうどうでもよかった。頑張って彼女の残骸を集めきった俺は、重たい荷物を背負って人族の領域から離れる。

 死んだ人間は生き返らない。けれど、せめて埋葬してやりたかった。武器に加工され、面影すら無いとしても。


「勇者め。我々の土地に何の用だ」


 戦場で魔族を殺し続けた俺は、魔族からも認知されている。彼らの領域に入れば問答無用で殺されるであろうことも分かっていた。

 彼らが俺を殺さずに用件を問い質したのは、俺が一人では抱えきれない量の聖剣を運んでいたからだろう。


「……人族を滅ぼしたい。奴らは魔族の遺体を弄び、あまつさえ殺戮の道具として加工している。俺の愛した女性も、道具として処理されてしまった」

「…………お前の言葉は信用出来ん」

「なら行動で示す。勇者を、人族の戦士を殺す。それでも納得できないのなら、町人から村人に至る全ての人族を殺そう」


 それから俺は、魔族の戦士として戦場に参加した。怒濤の勢いで人族を駆逐し、魔族の領域を増やしていった。

 大陸に存在していた五つの国の内、二つを俺が滅ぼした。王族を、貴族を、民達を、これまで殺してきた魔族への贖罪のために殺した。

 数年が経過すると、俺に元に勇者が来るようになった。教会の差し金だ。

 最初にやって来たグリンはあまりにしつこかったため、両腕を斬り落として送り返してやった。教会の闇を見てそれでも考えが変わらないのなら殺すと脅して。


 だが、グリン以外にも勇者はいる。

 そしてどの勇者も必ずと言っていいほど、俺に勇者として魔族を殺せと宣う。


「何故だ! 仮にも勇者だろう!? 神々に認められておきながら、なぜ人族を殺せる!?」

「それが俺の役目だからだ。それ以外の理由は必要無い」


 殺してしまった者達への償いとして、俺は人族を殺し続ける。


「裏切り者め。魔族さえいなければ世界は平和なままだったのに!」

「魔族がいなくても変わらないと思うがな」

「黙れ!」


 きっと、人族だけの世界でも争い合うのだろう。

 欲に塗れた人間は、己のために他者を食い物にする。対象が魔族から人族に変わるだけで何も変わらない。


「――聖剣よ! 俺に悪を打ち倒す力を与えたまえ! ハァァァァァッ!」

「……何も知らないガキに、それを使う資格は無い」


 年齢は十代後半だろう。まだまだ先は長いというのに、勇者の素質があるせいで戦場に来ている。


「摘み取ってやろう。お前の命を」


 何度も襲撃を重ねることで盗み出した教会の秘術、それに魔族に伝わる儀式を組み合わせて再加工した彼女に願う。


「リア、君の力を貸してくれ」


 彼女は無言で答える。空中から飛び出て勇者の身体をズタズタに引き裂いた彼女は、歪な身体で俺に寄り添う。槍と盾と弓、そして切断された首から再生した彼女の姿は、ハーピィと呼ばれる魔物に酷似している。


 魔族は天に与えられた姿を尊ぶから、どんな死に方だとしても遺体を元の姿に再生させることに拘る。

 リアも生まれは魔族だ。身勝手に歪められようと出自は変わらない。


「こ、の……世界の敵め……」


 まだ息があった勇者は最期にそう言うと、呪い殺さんばかりの恨みを視線に込めて俺を見た。


「好きに言えばいい。俺は俺のやるべきことをやるだけだ」


 俺の名はゼタ。たった一人のために人族を滅ぼすことを決めた、裏切りの勇者だ。いつか彼女を元の姿に戻すその時まで、俺は人族を殺し続けるだろう。

 それが彼女の本意では無かったとしても、俺はこれ以外の道を見いだせないのだから。

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