序章「大切な人」
――翌朝。
まだ他の村人が起きてないような早朝に、
俺は五月の待つ村の外れにある裏門へと向かう。
正門は四六時中門番が立っていて警備してあるが、
裏門には通じる道も無く、緊急時以外開く事がない為
基本的に誰も立っていない。
「あ。豪鬼!」
五月が俺を見つけると手を振ってそれ程大きくない声量で呼ぶ。
そうだ。俺達二人はこの裏門から外に出るのだ。
基本的に固く閉ざされている為開ける事は容易ではない。
しかし、俺達が目的としているのはこの門のすぐ隣にある塀だ。
こんな田舎だ。木や竹等で作られた塀に、
人一人通れる穴を作る事ぐらい容易い事だ。
まぁ1か月掛ったが……
ここは人気があまり無い為、作業をするにはうってつけだった。
「五月。通れるか」
「うん……思っていたより狭いね…」
俺達は塀の穴を潜りようやく外に出る事が出来た。
なぜ俺達はそこまでした外に出たいか?
村の中じゃ体験出来ない物を見て感じてみたいのさ。
「なんだかワクワクするね!」
五月は俺より前を歩きながらそう言う。
確かに村の外に出てみるというのは不思議な感じだ。
当然この先は安全が保障されない。熊などの獣が出てくる可能性がある。
だが、それも一つの体験だろう。
「ねぇ豪鬼!水の音がするよ!あっちに行ってみよ!」
元気にはしゃぐ五月の姿を見ていると、
外に出て良かったと思っている。
最初に外に出てみようと提案したのは俺だ。
その時は五月は嫌がっていた。
外は危険で危ない場所だと小さい頃から教えられてきたからだ。
でも今の姿を見ていると、そんな事が嘘のようだ。
世界は広い。村の中に入り浸っていたら息が詰まる。
外が危険?猛獣が出てきても俺が居れば問題ない。
俺は村一番強いからだ。
「わぁー!すっごーい!物凄い高さだ!」
俺と五月は滝が落ちる上流に辿り着いた。
夥しい量の水。この圧倒的な水量が一気に落ちる光景は圧巻だ。
「これは凄いな…村じゃ絶対に見れない光景だな」
すると五月は微笑んで
「ありがとね。連れてきてくれて」
五月はそう言うと俺の頬に唇を当てた。
勿論付き合っている者同士このような行為は当たり前だろう。
しかし、俺達にとっては初めての経験だった。
「!!!」
俺は思わず顔を赤らめ五月を見つめる。
「へっへー!びっくりした?」
我ながら俺の彼女だ。行動威力がある。俺よりも。
本来なら俺の方から行うべきなんだろうが、
俺は…恥ずかしいが女性に対してどう接すれば良いのか分からない…
力自慢なんてこんな時は何も役に立たない……
そんな状況を楽しんでいる俺がいる……たまらなくこの状況が心地いい……
ガサガサ!
近くの茂みから物音がする。
「熊か?五月。下がってろ」
五月を後ろに下がらせ俺は茂みに向かって腰に差していた木刀二本を手に持ち
構える。
ガサガサ……
ザッザッザ!
茂みの中からは三人の男が現れた。
見た事のない服装だ。
そういえば村から結構離れた所に来てしまったからな。
別の村の住人かなんかだろう。
俺が木刀を下すと
「なんだなんだ~?こんな山奥にガキが二人いるぜぇ~」
一人の男がそう言うと、他二人もヘラヘラと笑いながらこちらを見つめる。
「な、なんだお前達は」
俺は再び木刀を強く握りしめ構えると
「お!後ろにいるのは女か!?なかなか可愛いじゃねーか」
五月は怯える。
こいつらはまともじゃない。
このままだと危ない。俺は直感だがそう感じ取った。
「なんだガキ?俺らとやろうってのか?」
「いいぜぇ……って思うじゃん?」
!!!???
男が両手を広げ無防備な姿勢でそう言った瞬間
後ろにいた五月が男達が立っている場所にいたのだ。
「へっへっへ。遅いぞクソガキぃ…」
あの一瞬で他の男が五月をさらったのだ。
「お、おい!五月を返せ!」
俺は明らかに動揺し震えている。
こんなのは稽古で…村で経験した事が無い……
もし戦う事があるとすれば獣とかだと思ってた……
人…人が人を襲う?そんな事があるなんて……
「おいおいどうしたぁ?ガクガクってかぁ~っはっはっは!」
男達は震えて動けない俺の事をあざ笑う。
しかし、俺の体は動かなくなっている訳ではない。
こんな状況でも自然と力が入る。
<殺れ>
!?
何かが心の奥で叫んだように感じた。
この感覚……稽古の時にたまに湧き上がる意欲……
前々から気になっていたこの感じがこの状況で……
だが今はそんな事はどうでもいい。
俺は両足を交差し、両腕を前に出し二本の木刀を相手に向ける。
「はぁ~…」
大きく息を吐き……足に力を込めて……
ッザ!ヒューーー!
俺は一気に男との間合いを詰め二本の木刀を急所である
首めがけて飛んだ。
「あ~やだやだ。弱いって……」
男はやる気のない態度で右手を開いた状態で俺に向ける。
その瞬間
キーーーーーン!
鋭い光と共に俺は後ろに吹き飛ばされた。
なんだ?俺は何をされた?なぜ俺は男から遠ざかっている?
男に向けたはずの二本の木刀は粉々に砕かれ、俺自身も全身に
熱いものを感じながら意識が遠のく――
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次回「鬼が宿る」




