序章「山奥の村人」
序章の第一話です。
最初はのんびり……
ここは人里離れた山々。
周りには木。木。木。そして川。
川のせせらぎや鳥の鳴き声の他に、遠くの方から人らしき声が混じっている。
「っは!っは!」
山奥に小さな村があった。
入り口には門があり2人の大人が番をしている。
門をはじめ家等は全て木製で作られており、
いかにも田舎という感じだ。
先程の声のする方から物がぶつかるような音が聞こえる。
「ビシ!ビシ!」
村の端に幾つもの木が地面に刺さっている。
その木に向かって数人の若人が木の棒等を使い
木を殴っている。
どうやらここは稽古場のようだ。
「皆ー!お疲れ様ー!」
1人の女の子が飲み物と手拭を持ってきた。
この子は「前田 五月」
年齢は15歳。
元気で明るい性格で稽古をする者達からも好かれている。
「ねぇ。ごうき。貴方もそろそろ休憩にしたら?」
彼女がそう言うと、一際背の高い少年がこちらを向く。
「おお。五月。いつも悪いな。」
彼の名は「死童 豪鬼」
村の長の息子。
年齢は五月と同じ15歳。
豪鬼はこの村でもかなりの大柄な体格だ。
武器は2つの木刀を持つ二刀流。
彼の練習台になった木は数日でボロボロになってしまう。
「豪鬼って本当にムッキムキよねぇ。フフ。我が彼氏として立派立派!」
死童家と前田家とは昔から仲が良く、2人も産まれてからずっと一緒に生活をしている。
いわゆる幼馴染だ。
そして、今では恋人同士である。
「ブン!ブン!」
「バキ!」
豪鬼が勢いよく木刀を左右に振ると、稽古用の木が粉々に砕かれた。
「おー!これで犠牲になった稽古台200本達成!」
五月がパチパチと手を叩きながら喜んでいると
「ふー…しかし稽古ばかりしても戦う事なんてねーから意味がないんだよなぁ~…」
豪鬼は空を見上げながら気の抜けた声でそう言う。
世の中では様々な争いがあるが、
この村はとても平和でそれらとは無縁だ。
「まー平和って事は良い事じゃない。どうせやる事もないんだし精進精進!」
五月はそう言うと豪鬼の肩を数回叩く。
確かに平和なのは良い事だ。
俺だって争いごとは面倒だし、誰も死んでほしくはない。
でも…この疼きはなんだ…
「そろそろ帰るわ」
豪鬼は五月にそう告げると家に向かって歩き出す。
「あ!豪鬼!」
五月は走って豪鬼の元まで走ってくる。
そして豪鬼の耳元で小さな声で
「明日の約束忘れないでよ」
と、告げる。
「分かってるよ。じゃーな。」
豪鬼は五月に向かって小さく微笑みその場を後にする。
家に着いた豪鬼は、父親の元に向かう。
この村の長であり豪鬼の父親「死童 煉鬼」
年齢は43歳。
「おう。けーったか。」
煉鬼が胡坐をかいてこちらを睨む。
死童家の男は総じて顔つきが怖い。
「ただいま。あの…親父。少し、話があるんだけど」
豪鬼がそう言うと煉鬼が怒っている訳ではないが
鋭く睨み返す。
「なんだ?またあの部屋の中が見たいって言うんじゃねーだろうなぁ?」
豪鬼は、家の奥にある厳重に鍵をかけられた部屋の中に何があるのか気になっており、
何度か煉鬼に中を見せて欲しいとお願いした事がある。
しかし、煉鬼は頑なに見せはしなかった。
「違う違う。あの…実は明日、五月と遊ぶ事になったんだけど…」
豪鬼がそう告げると、
煉鬼はニヤニヤと笑いながら豪鬼を見る。
「なんでいなんでい。何かと思えばデートの報告かよ。お前にしちゃ~律儀じゃねぇーか」
デートの報告って言う事は間違いない。
ここまでは普通の流れだ…しかしこの村には特別なルールが存在する。
「そのデートコースなんだけど…この村を少し離れた川まで行こうかと…」
豪鬼がそう言うと、煉鬼の表情が変わり
鋭い目つきで豪鬼を睨みつけ大声で怒鳴る。
「馬鹿野郎!何度言えば分かる!この村からは一歩たりとも出るんじゃねぇー!」
そうだ。村の掟で村の外に出る事は固く禁じられている。
村の中にも川が流れて家畜や作物も実っており、
外に出なくても生活が可能だ。
「何度も言わせるんじゃねーよ。分かってるだろ。何で外に出てはいけないかぐらい」
煉鬼がそう言うと、豪鬼は下を向き
「ごめん…」
と、謝り自分の部屋に戻る。
「村の外には出てはいけない」
この掟が出来た理由は「外は危険」と言う事から決まったそうだ。
煉鬼が長を務める遥か昔からこの掟は根付いており、
村人達も今では何もおかしいと思わない。
だが、俺は違う。
俺はこの村の考えが理解出来ない。
この掟も。あの鍵のかかった部屋を見せてくれない事も。
そして……
稽古中に襲うこの血が騒ぐ感覚…
俺は…親父と…この村の人間と何かが違うのか?――
「――あの野郎……やはり……血か……」
最後まで読んでいただき有難うございます!
まだバトルすら始まっていませんが、
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次回「大切な人」