゛いつも優しいヒトの話˝
キーンコーンカーンコーン…
『やっと終わったぁ』『帰りゲーセン行こうぜ!』『ねぇねぇ最近彼氏とはどこまで…』『マジかよやべぇなそれ』
まだ仄かに冷たい風と咲き始めた雑草の花、土の色を少し滲ませた久しぶりの雨がいよいよ春なんだとチクチク刺してくる。ガヤガヤと教室を出ていく面々はまるで僕の存在などないかのように、しかししっかりと掃除用具を僕に押し付けて去っていった。
この高校に入ってからすぐのことだ、漫画やドラマのようなモノではないがいかにも『悪いことを沢山してます』と自己紹介していると錯覚するタイプの不良達には、細く脆そうな僕はおもちゃにしか見えていないようだった。僕はいじめを受けている。
物を盗まれたり壊されたりという陰湿なもの、校舎周辺の死角では暴力、教室では暴言。毎日何かしらのいじめを受けた。世間では教師が頼りない、そもそもいじめに教師が加担しているなんて話もあるが、この学校の教師は比較的゛まとも˝なようで、僕が被害を訴えてしばらくは校内の死角になる場所やいじめが行われそうな場所に見回りを行うようになった。
そうなれば当然不良達は目立って僕に対して動けなくなり、その間は僕も静かに生活ができた。代わりにクラスの人間は少しずつ僕を居ないものとして扱うようになったが、いじめに対して傍観するだけの人間たちとは仲良くなりたくもない。
それに僕には必要ない、ただ一人あの子さえ居てくれれば。
タッタッタッタッタッ
聞こえてきた、いつも僕を迎えに来てくれる小走りが。僕にとって掛け替えのないただひとりの足音が。
「…あっ、浩平くんまた掃除押し付けられたの!?」
「あ、あぁ、いや、僕が掃除好きで代わってもらって…。」
「そんなわけないでしょ!?だって浩平くんのお部屋、いつもゲームとペットボトルでいっぱいだもん、まずは自分のお部屋をお掃除してからそういう嘘をいいなさい!」
「ちょっ、昔の話だろ!」
「もう、あたしも手伝うから、早く帰ろう?」
「あぁ…ごめんな、ありがとう。」
河野つぐみ、僕の幼馴染。誰にでも何にでも沢山の優しさを振りまくことができるヒト。そして僕は伊藤浩平、そんな優しく輝くただ一人に片思いをしてしまった無力な生き物だ。
やくです、毎度更新ペースの遅さを謝罪するためにこのスペースを使ってしまうことに罪悪感を抱いております。
本日より新しいお話を書いていきます、よろしくお願いします。