90. ソフィア・テオドール(前)
[4/2] 一発書きのためあまりにも読み辛い文章になっており、ちょっと酷い気がしましたので概ね全体を書き直しました。既に一度お読み下さいました方には大変申し訳ありません。
私は今作に関しては、その話中で書きたい描写をまず一通り書く→後から内容を整理する、という手順を踏んで各話を作っていることが多く、一発書きだと割とあれぐらい酷い文章になりがちかもしれません……。
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―――本日は『秋月37日』。
新都市の完成予定日をもう3日後に控えて、そろそろ秋の終わりを感じる今日。ユリは珍しく執務室の中でひとりきり、書類に目を通しながら過ごしていた。
普段はその日の『寵愛当番』になっている誰かが、1日中『護衛』兼『秘書』のような役回りをして引き受けてくれているお陰で、ユリの側には常に誰かが1人は付き従っているのだけれど。今日に限っては、本当にひとりきりだった。
理由は単純で、ユリが今日の『寵愛当番』の子に言って、機会を明日へ延期して貰ったからだ。
普段はユリの都合で『寵愛当番』を翌日に延期して貰った場合には、護衛役の子には当日と翌日の2日間付き添って貰うのだけれど。今日だけは「独りで過ごしたい時もあるのよ」と言って、それも断っている。
ユリがひとりきりになりたかった理由は―――いま目の前にある、書類に記されている内容に関連していた。
この書類は今朝になって、ユリタニアの都市内で『準市民』として暮らしている女性達の代表から届けられたものだ。
書類の頭には『シュレジア公国の公爵令嬢、ソフィア・テオドールについて』と題字されており、以降13枚の用紙に渡り『ソフィア・テオドール』という人物についての様々な情報が多面的に、かつ事細かに記されていた。
この報告書を作成した『ユリタニアの準市民』とはつまり、以前は『エルダード王国に所属する密偵』であった女性達のことだ。
『黒百合』の子達に調教され、王国への忠誠を完全に失ってしまった彼女達は。今はユリタニアの市井に暮らしていながらも、忠実なユリの僕となっている。
そんな彼女達に、ユリは昨日「ソフィア・テオドールに関する情報を書類に纏めて明日までに提出して欲しい」と要請していたのだ。
この異世界に『百合帝国』の国家が誕生するよりも以前―――つまり概ね去年までは、エルダード王国にとって『敵国』と言えば、それは即ちシュレジア公国を指すものに他ならなかった。
何しろエルダード王国は11年前に、シュレジア公国を相手に戦争を吹っ掛けて勝利を収め、国土の一部を割譲させたことがある。
当然ながら、当時『国土の割譲』とセットで『講和の締結』が行われたため、現在ではシュレジア公国とエルダード王国の2国は、もはや戦時関係にはない。
無いのだが―――領土を奪われたシュレジア公国が恨みを抱いていることは明白であり、仮初めの平和関係だと誰もが理解していた。
なので当時、エルダード王国はシュレジア公国のことを常に『仮想敵国』として警戒していた。
王国軍に所属する密偵達の大半をシュレジア公国内に潜入させて、軍備に関するものを筆頭に、食料の備蓄量、経済状況と貨幣価値、治安状態など―――あらゆる情報を抜き出していたのだ。
―――そうした経緯から、元王国密偵であり、現在はユリタニアの準市民として暮らしている女性達は、シュレジア公国について大変に知悉している。
ユリが『ソフィア・テオドール』に関する情報を一声求めただけで、全13枚に渡っての報告書が翌日に届く程なのだから、何とも頼もしいものだ。
報告書の中に纏められた『ソフィア・テオドール』に関する人物評を纏めると、概ね以下の通りになる。
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・幼いながらも頭脳明晰であり、『公国の才媛』と言えばソフィアのことを指す
・国務大臣や複数の内務官から強く請われ、公爵家の令嬢でありながらも20歳を迎えるより以前から、公国の内政執務、及び外政交渉の一部を担うようになる。
・大変に珍しい〔賢者〕の天職を有しており、多彩な『魔術』を行使することができる。自領の騎士と共に公国の周辺に生息する魔物の討伐を積極的に行っており、まだ幼い年齢の割にレベルも随分と成長している。
・経年劣化しない特殊な銀の合金、『魔銀』を21歳で開発する。
・その才覚は政務と戦闘のみに留まらず商才にも及び、公国の主要都市にて魔銀製の装身具や調度品を扱う店舗を複数経営する『テオドール商会』の会頭でもある。
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(―――大変な麒麟児ではないの)
一通り目を通し終わったユリが、最初に抱いた感想がそれだった。
報告書内に記されたあらゆる情報が、いずれもソフィアを賞賛するものばかりで溢れており、ひとつとして彼女の才覚や人格を貶めるものはない。
それだけに―――ユリが心に抱いていた疑念が、とうとう確信へと変わった。
(ソフィア・テオドールは、誰かから能力吸収を受けている)
ユリは常にユリタニアの都市全体に掛けた【空間把握】の魔法を維持しており、都市内に存在する人物や物品に関する情報を確認することができる。
先日、公国からやってきた使者の一団。―――つまり、ソフィア・テオドールを代表とする公国の集団は、未だに全員がユリタニアの都市内に留まっているため、その情報ももちろん現在進行形で確認が可能なのだが。
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ソフィア・テオドール
人間/26歳・女性/性向:中立
〔賢者〕- Lv.22
生命力: 236 / 236
魔力: 171 / 171
[筋力] 102
[強靱] 87
[敏捷] 110
[知恵] 3
[魅力] 168
[加護] 170
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ソフィア・テオドールの能力値には、ひと目見ただけで判るほど際だって異常な箇所が1つある。―――[知恵]がたったの『3』しか無いことだ。
ユリはこの世界独自のシステム『天職』について、あまり詳しくはないけれど。それでも〔賢者〕という天職が、その持ち主の[知恵]の成長に大きく寄与するものであることぐらいは、何となく察しがつく。
まして、ソフィアの今までの活動経歴は明らかに天才のそれだ。彼女の[知恵]の数値は少なくとも『200』は、ユリ個人の憶測としては『250』程度はあってもおかしくないように思える。
なのに―――実際のソフィアの[知恵]は『3』しかない。
レベルが『22』もあるのに、この[知恵]の少なさは明らかに異常だ。
能力値が不当に低いのであれば、真っ先に疑うべきは弱体化の類だろうけれど。〈鑑定〉や【空間把握】を介して視る人物情報には、当人が現在受けている強化や弱体化の情報が、全て併記されるようになっている。
それが書かれていないのだから、ソフィアは現在強化や弱体化の類を一切受けていないことになる―――のだけれど。どう考えてもソフィアの異常な[知恵]の数値は、何かしらの影響を受けているとしか思えない。
ユリには強化でも弱体化でも無い方法で、他者の能力値1種を引き下げる効果に心当たりがあった。
それは、いわゆる『能力吸収』と呼ばれるもので、主にサキュバスやインキュバスのような特殊種族のみが行使できる、特別な能力だ。
能力吸収は他者の能力値1種類を自分に移し替えるという『永続効果』であり、『状態異常』や『弱体化』には含まれない。なのでユリの【空間把握】の魔法や〈鑑定〉スキルでは、それを正確に看破することはできないのだ。
(もし、これが私の知る能力吸収によるものなら―――)
繰り返すが、ユリは『天職』について詳しいわけではない。
だからソフィアが受けている効果が、ユリが知らない、この世界ならではのものであるとするなら。ユリの推測は全くの見当違いということになる。
けれど―――もしユリの推測通りであるならば。
ソフィアの[知恵]を限界ギリギリまで引き下げているのは、おそらくサキュバスの能力吸収によるものだろう。
それは即ち、サキュバスを【従者召喚】することが可能な―――『黒百合』に所属している、いずれかの子の犯行ということになる。
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お読み下さりありがとうございました。




