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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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89. 新都市計画進捗(南部/後)

[4/2] 遅くなりましたが、誤字報告機能から指摘頂きました個所を修正反映致しました。いつもありがとうございます。

 



「そういえば―――この迷宮地(ダンジョン)では、倒した魔物の死体が残らないのですか?」

「あら、良く気がついたわね」


 冷たい紅茶を飲みながら映像を眺めていたエシュトアが、映し出されている戦闘後の景色を見て、そう言葉を漏らした。

 実際に探索している当人達はすぐに気付いていただろうけれど。視聴者の視点からだと、意外に気付きにくい部分かとも思っていたのだが。すぐに察した辺りは、流石の観察力といった所だろう。


「魔物の死体が残ると逐一解体しなければいけなくなるから、探索のテンポが悪くなるでしょう? この迷宮地は『レベル上げ』のために用意した施設だから、面倒を省くために倒した魔物の死体は自動的に回収されるようになっているのよ。

 死体が通路に残されたままだと、どうしても迷宮地の中がすぐに不衛生になってしまうという問題もあるしね。これは仕方の無い仕様だと思って欲しいわ」

「なるほど、言われてみればそうですね……。では、探索者は魔物の素材から収入を得ることは出来ないのですね」

「いいえ。回収した魔物は一旦国側(こちら)で預かるし、勝手に解体もさせて貰うけれど。その結果得られた素材は、探索が終わった後に窓口で手続きをすることで、ちゃんと受け取れるわよ? もちろん手間賃代わりとして、一部の素材を回収させて貰うぐらいはするけれどね」

「えっ、そうなのですか? では収入はちゃんと得られるのに、探索中は魔物素材に荷を圧迫されることも無いのですね。それは……凄く有難いかもしれません」

「魔物から得られる肉や皮革などの素材は市場に高い需要があるけれど、持ち運ぶと嵩張るものね。回収した魔物から獲れた肉は、ちゃんと鮮度を保ったまま国側で保管させて貰うから、探索を終えた後すぐに受け取りに来ても構わないし、後日に受け取りに来て貰っても大丈夫よ」


 『紅梅』の子達が展開できる結界の中に【回収結界】というものがあり、これは結界内で倒された魔物を自動的に『回収』し、そのまま『解体』まで行ってくれるという便利なものだ。

 解体で得られた素材は、結界内の指定の位置に集積される。これを『撫子』の従者が速やかに〈侍女の鞄〉の中へ収納することで、状態を維持するわけだ。


 迷宮地の中で『どの魔物』を『何匹』討伐したかなどの情報は、各パーティに随行させている『カメラ役』の使役獣が記録を取っている。

 探索終了後には、その記録を元に受付窓口から素材報酬が支払われる形だ。


「何と言うか……至れり尽くせりですね」

「便利に利用できるように国としては努力しているつもりだから。迷宮地に興味を持って、通ってくれる人が出て来てくれると嬉しいわ」


 無論、迷宮地に様々な便利仕様を設けているのは、それが『百合帝国』に充分な利益を齎すからだ。

 使役獣がドロップするアイテムの中でも、とりわけ『百合帝国』にとって有用性が高く、消費機会が多い素材などは。探索者への報酬として支払われることなく、手間賃という名目でそのまま国が接収する仕組みになっている。


 迷宮地(ダンジョン)という『誰でも安全にレベル上げが出来る場所』を用意することで、国にとって有用な素材を探索者に生産させる(・・・・・)ことが目的だ。

 つまり―――百合帝国が運営する『迷宮地(ダンジョン)』とは、『資源産出施設』を指す。

 もちろん、魔物の素材がより活発に流通するようになったり、ユリタニア市民のレベルが成長して仕事能率も上がることで、結果として国家経済が賑わえば良いという思惑もあるが。それはあくまでも、主目的の副産物でしかないわけだ。


「お姉さま、迷宮地には『宝箱』が落ちているのですか?」

「あら、発見されてしまったのね」


 映像には、アルトリウス一行が青色の宝箱を目前に、立ち止まっている姿が映し出されていた。

 宝箱のことは、どうせ迷宮地の運営が開始されれば、探索者の間での噂話として広まるだろうと思っていたから。別に今回の『放送』では、その存在を語るつもりは無かったのだけれど―――幸運にもアルトリウス一行が発見してしまった以上、解説役であるユリが視聴者へ説明しないわけにもいかない。


「エシュトアの言う通り、迷宮地では『宝箱』が発見できることがあるわ。宝箱の色を見れば中身が大体判るようになっていて、今回の『青宝箱』なら装備品以外のアイテムが幾つか入っているわ。特に生命霊薬(ライフポーション)がよく手に入るわよ」

生命霊薬(ライフポーション)……! 高級品ではないですか!」

「そうなの? だったら今後は、安くなるのではないかしら。迷宮地(ダンジョン)から沢山生産されるようになるでしょうからね」


 言うまでも無く、宝箱に封入する霊薬は『竜胆』が生産したものだ。より正確に言うなら『竜胆』の子の従者が〈大量生産〉したものになる。

 ユリ達にとってはさして価値も無いアイテムだが、市場からすれば大きな需要があることだろう。売ってお金に換えても良いし、もちろん探索者にとっては自分用として持ち歩くのにも良い筈だ。


「ふむふむ、やっぱり『青』以外の宝箱もあるのでしょうか?」

「ええ。『白』い宝箱からは装備品が、『金色』の宝箱からはお金が手に入るわ。あとは中身は開けてみるまで判らないけれど、価値が高いアイテムが入っていることが多い『赤』の宝箱というのもある。

 ―――但し『赤』の宝箱には、必ず何かの罠が仕掛けられているわ。危険を覚悟の上で開けるか、もしくは安全に開けるために〈盗賊〉や〈斥候〉、あるいは〈細工師〉などの職業(クラス)の人を同行させる必要があるでしょうね」

「わ、罠ですか。……開けると爆発したり、とかでしょうか?」

「そういうのも当然あるわね。危険を覚悟の上で宝箱を開けるのは自由だけれど、爆発の罠などが起動すれば中身が無事で済むとは限らない。結果的に結局痛い目を見るだけで終わるかもしれないわ」

「悲しいですね、それ……」


 ちょうど映像では、開封した青宝箱の中から、アルトリウス達が霊薬を4つ回収している姿が映し出されていた。

 中身が赤色の霊薬と、青色の霊薬がそれぞれ2本ずつだ。


 ちなみに前者が生命霊薬(ライフポーション)で、後者が魔力霊薬(マナポーション)になる。

 全員が治療魔法を使えるアルトリウスのパーティからすれば、特に後者は有用なアイテムになるだろう。


「お宝探しってなんだか、夢があって楽しそうですね。私も早く迷宮地に潜って、宝箱を探し回ってみたいかもしれません」

「あら、ではエシュトアに良いことを教えてあげる。実は宝箱は迷宮地の中でも、特に『行き止まり』に配置されることが多いから、そういう場所を積極的に巡って見ると良いかもしれないわ」

「わ、そうなのですか? では地図をちゃんと書かないといけませんね」

「そうね。宝箱を探すなら、その方が賢明でしょう」


 迷宮地の中に配置した魔物は無作為(ランダム)に動いたり立ち止まったりを繰り返すので、どうしても行動パターン上、行き止まりの場所に溜まりやすい傾向がある。

 倒された魔物は自動的に同階層のどこかで復活するようにしてあるけれど、逆に言えば倒されない限り、魔物は残り続けてしまう。これもまた探索者の往来が少ない場所―――つまり『行き止まり』に魔物溜まり(モンスターハウス)が形成されやすい原因になる。

 なので宝箱を餌に、探索者に『積極的に行き止まりを探索する理由』を与えて、魔物が溜まりすぎる前に解消させようというわけだ。


「うーん、本当に危なげが無いわね」

「そうですね。とても上手く戦っておられるように見えます」


 次にアルトリウス一行が対峙したのは、ゴブリン戦士4体の集団だった。

 もちろん人数差があるので、ゴブリンの1体が即座に撤退して、3対3の公平な戦闘が開始される。


 ゴブリン戦士はレベル21の魔物だが、レベルの割にはやや強めの敵になる。

 というのも、ゴブリン戦士は粗悪品とはいえ『武器』を携行しているためリーチが長く、武器の分の攻撃力も加算される為だ。


 それでもアネッサの盾捌きは実に巧みで、ゴブリン戦士2体を同時に相手にしながらも、1発さえその身に攻撃を受けることがない。

 これは彼女が普段から聖騎士として国に仕え、対人相手の訓練をよく行っているからだろう。彼女からすれば『人間と同じ攻撃手段』しか行ってこない分、むしろゴブリン戦士は他の魔物よりも対処しやすい相手なのだ。


 2体掛かりで盾役を全く落とせない以上、残る1体のゴブリン戦士がアルトリウスとサルムの2人に狩られ、数的優位が作られるのは時間の問題だ。

 事実、アルトリウスの剣に斬り伏せられて、ゴブリン戦士があっさり倒される。

 あとはいつもの流れで、残る2体も順に倒されていった。


「あっ、転移門がありますね」


 ゴブリン達が倒された先には、僅かな燐光を帯びた『光の門』が存在している。

 今朝ユリはニムン聖国と新都市とを繋ぐ『転移門』を設置しており、エシュトアはアルトリウス達と共に、それを利用して新都市まで訪問してきたのだ。

 利用したばかりなので、それが『転移門』であることが、一目見ただけで判ったのだろう。


「お姉さま、この転移門はどこへ繋がっているのでしょうか?」

「迷宮地の入口に繋がっているわ。帰還する時にしか使えない、一方通行の転移門になるから、これは『帰還門』と呼んだ方が良いかもしれないわね」

「なるほど。『帰還門』の位置も地図にメモしておくと、すぐに帰ることができますから便利そうですね」

「ええ。その為に設置しているのだから、是非利用して欲しいわ」


 但し迷宮地の構造は、10日毎に自動的に変化する仕組みになっているらしい。

 一体どういう設計をもとに建造を行えば、そんな迷宮地が作れるのか―――。つくづくユリには、『桔梗』の子達の建築能力が異常(チート)にしか思えないのだが。


 ……ともかく、そうした理由から。実は地図を作っても、10日も経てば確実に紙くずへ変わってしまうわけだけれど。

 10日も使えるのだから地図を作るのは有益と考えるか、10日しか意味が無いのだから地図を作るのを無駄と考えるかは、おそらく人それぞれだろう。


「猊下は『転移門』に―――いえ、『帰還門』に入ることに決めたみたいですね」

「どうやら『とりあえず入ってみよう』ということになったようね。これは帰還門のことを事前に説明しておかなかった、私のミスかしら。

 とはいえ、もう迷宮地の『試験探索』としても『放送』としても充分だろうし、頃合いとしては丁度良いかしら」

「そうですね、充分だと思います。ああ―――今からもう、この新都市が完成する日が楽しみです! 私、絶対に通っちゃいますからね」

「通うのは構わないけれど、本業の『聖女』業も疎かにしないようにね」


 エシュトアの言葉を受けて、ユリは思わず苦笑してしまう。


 性格的には穏やかだし、まさに『聖女』と呼ばれるのに相応しい誠実な人格者でもあるエシュトアだけれど。レベルが『64』と非常に高いことから、彼女がそれなりに戦闘狂(・・・)としての資質も持っていることは、想像に難くない。

 新都市が完成したあとに通ってくれる分には大歓迎だけれど。行きすぎて新都市の中へ『住む』ようにまでならないよう、一応注意しておいたほうが良さそうだ。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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[良い点] 更新乙い [一言] ギギギ、ギギギ こ、これはちょっとした運動じゃ……
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