表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/370

81. 化粧品

誤字報告機能からの指摘、いつも本当にありがとうございます。

暫くの間、夜になろうをチェックできない日が多くなりそうでして、誤字報告機能から指摘を頂戴しましても、反映が翌早朝に遅れることが多々あるかと存じます。

何卒ご容赦頂けましたら幸いです。

 


     [5]



 ユリタニア宮殿は、ユリタニアの都市内にある様々な建物の中でも、群を抜いて巨大な威容を持つ建物だ。

 『桔梗(ききょう)』の子達の技術の粋が集められたこの建物は、敷地や建物の面積だけでも相当な広さがあるのに加えて、地上10階に加えて地下も2階まであるなど、縦方向の規模も尋常ではない。


 何故これ程に巨大な建物が必要なのか―――と言うと、これは『館内に全員分の個室を用意しているから』という理由に尽きる。

 ギルド『百合帝国』の総勢は360名。ここから自分自身を除いた359名は、いずれもユリの愛する『嫁』であるため、誰1人として疎かにはできない。

 当然ひとりひとりに相応の広さがある個室が割り当てられており、これだけでユリタニア宮殿の地上7~10階部分を占めている。


 宮殿の1階部分には、国の政庁として必要な部屋が揃っている。

 一番場所を取っているのが『謁見の間』で、特にこの部屋だけは天井まで高く作られているため、2~3階の一部にまで食い込んでいる程だ。

 他にも、ユリが毎日利用している『執務室』がある他、他の子達がユリタニアや周辺村落に関する政務を行う部屋なども1階には存在している。


 では、地上部分の残り半分―――地上2~6階には何があるのかと言うと。ここには『従者』が生活するための部屋が用意されている。

 ユリ自身を含めた『百合帝国』の360名は全員が【従者召喚】というスキルを修得しており、このスキルを使うと自身に忠実な『従者』をそれぞれ1人から5人ずつ召喚することができる。

 使役獣を召喚しておくのとは違い【従者召喚】は魔力を消費しない。やろうと思えば百合帝国の全員が、従者をずっと召喚しっぱなしにすることも可能だ。

 なのでユリタニア宮殿の中には、その従者の子達が暮らせる空間も、予め用意されているわけだ。


 総勢360名の『百合帝国』は、全員が『従者』を召喚していると1500名を余裕で超える規模にもなる。

 具体的な人数はユリも計算したことが無いけれど―――多分、2000人までは行かないような気がする。

 他にも【騎獣召喚】スキルで召喚できる一部の魔物が人化能力を持っているし、『紅梅(こうばい)』の子達が自身の身体に宿している3柱の御霊を人形に宿して自律行動させるスキルを持っていたりするので、その辺で都合出来る頭数も全て含めるならば、おそらく2000人を超える規模にも達するだろう。


 その辺の事情から、ユリタニア宮殿の地上2~6階部分には数え切れないほどの居室が用意されている。

 各階層に300室ずつはあるだろうか。ひとつひとつの部屋はやや手狭になっているものの、全て個室なので生活するには充分な空間だ。

 現時点で従者を召喚しているのは『桔梗(ききょう)』の全員と『撫子(なでしこ)』と『竜胆(りんどう)』の一部ぐらいなので、まだ6階部分しか使用されてはいないけれど。今後百合帝国の国土が拡大され、管理すべき都市や村落の数も増大した場合には、いつか宮殿がフル稼働する日が来るかもしれない。


 ―――またユリタニア宮殿には、敷地内に2つの『別館』も備えている。

 1つは『迎賓館』で、これは国賓に利用して貰う為の宿泊施設だ。

 本館とは較べるまでもなく、小ぶりな建物なのだけれど。贅が尽くされた豪奢な別館で、それこそ王侯貴族を泊まらせても礼を失することなど有り得ないと自負できる程に、洗練された美の装いを持つ建物だ。


 そして、もう1つの別館が『生産棟』になる。

 こちらは文字通り『生産』を行うための施設で、事実上『竜胆(りんどう)』の部隊が占有利用している建物だ。

 『鍛冶場』や『木材加工場』、『調薬室』に『調理室』など、生産職ごとに必要な設備や器具を揃えた部屋が用意されている。天井は高いものの平屋であるため、建物の面積はそれなりに広大だ。


 今回、ユリはその生産棟の1室である『錬金室』を訪ねていた。

 ここは『竜胆』の副隊長を勤めており、また〈錬星術師〉の職業(クラス)を有している、ルピアの為の部屋だ。

 〈錬星術師〉は〈錬金術師〉系統の最上位職業であり、物質から『星の力』を引き出して利用することができる職業なのだけれど―――今はそこは重要ではない。

 部屋の隅に置かれたテーブルの上に並べられた、普通の『錬金術』で製作された4種類のアイテムこそが、今回のメインとなるものだった。


「ルピア、説明して貰えるかしら」


 早速ユリが促すと、ルピアが頷くことで応えた。


「はい。今ユリお嬢様の目の前にあるものが、ご下命を頂きましてから私が開発、及び製作を致しました『化粧品』の試作品になります。

 ユリお嬢様から見て左側2点が『化粧水』、その次が『乳液』、右端が『リップクリーム』になります。クリームと言ってもスティック形状にしておりますが」

「あら、『美容液』は作らなかったのね?」

「すみません、そちらは開発アプローチの方向性と手段が多すぎて、却ってまだ自分の中で納得の行く物が出来ておりません。今少し時間を頂けましたら」


 申し訳なさそうな表情をしながら、ルピアがそう言って頭を下げた。


 化粧水は『肌に潤いを与える』効果があり、乳液は『皮膚の水分蒸発を防ぐ』効果がある。この2つは使用目的が明瞭である分、ルピアにとっては作りやすいものだったのだろう。

 一方で美容液は、使用目的そのものが一概には定義できなかったりする。

 現代では化粧品の販売員が『肌に栄養を与えるもの』と説明することが多いが、これ自体は案外嘘であることも少なくない。確かに美容液に栄養自体は含まれているのだけれど、殆どの場合それは肌からは吸収されないからだ。

 大抵は『保湿』『美白』『シワ改善』『肝斑を防ぐ』『抗老化』といった効果が期待できる成分を、複数含んでいることが多い。なので美容液を具体的にどういう目的の商品にするかは、開発のさじ加減ひとつで幾らでも変えられてしまう。

 どんなものでも作れてしまうから、却って開発が難航しているわけだ。


「謝る事じゃないわよ。開発はルピアに一任したのだから、あなたの満足がいく物が出来た時に見せて貰えれば、それで充分嬉しいわ」

「ありがとうございます、ユリお嬢様。どうぞご期待下さい」

「それで、化粧水だけ試作品が2種類あるのはどうしてなのかしら?」

「はい。順に説明させて頂きますと、まず一番左側にあります物が『癒しの根』を主材料に用いて作成しました、最も基本的な化粧水となります。潤いを与えて肌荒れを防ぐと共に、多少の肌状態なら回復させます。少なくともニキビや吹き出物ぐらいでしたら、1日でほぼ完治させることができますね」

「………」


 そこまで効能が顕著だと、もうそれは効能的に化粧水と言うより『医薬品』なのではないだろうか―――とユリは内心で密かに思う。

 ちなみに、ルピアが挙げた『癒しの根』という素材は、魔物の『アルラウネ』を討伐した際に得られるドロップアイテムのことだ。

 名前の通り癒しの力を内包した素材なので、使用することで肌状態が顕著に回復する事実にも頷ける。


「左から2番目にある物は、それに『光線耐性』を追加したものです」

「光線耐性」

「はい。具体的には日焼けを防いだり、染みやそばかすが出来るのを防ぎます」

「ああ……紫外線を防ぐわけね、なるほど」


 急に耐性の話をするから、一体何事かと思ってしまった。

 どうやら、いわゆる『美白化粧水』のような物らしい。化粧水の一種には違いないのだけれど、日本では普通『医薬部外品』に含まれる扱いになる。


「ユリお嬢様が『何か1つは紫外線を防ぐものも開発して欲しい』と言っておられましたので、化粧水だけは2パターン用意してみました」

「手間を掛けたわね」

「いえ、とんでもありません」


 わざわざ紫外線対策になる製品を開発して貰ったのは、ニムン聖国の人に向けて販売することも視野に入れているからだ。

 聖国の首都ファルラタには【調温結界】を張っているけれど、この結界は名前の通り『結界内の気温を調整する効果』しか備えていない。湿度は低いまま改善されないし、砂漠特有の厳しい直射日光を和らげてくれるわけでも無いのだ。

 なのでユリは、肌を保水する『化粧水』や『乳液』に関しては、むしろ百合帝国の国土内でよりも、ニムン聖国でよく売れるのではないかと思っている。

 紫外線対策も兼ねた製品であれば尚更、砂漠の民には高い需要があるだろう。


「他の2つ、『乳液』と『リップクリーム』に関しましては、ユリ様が用意して下さいました羊毛の蝋―――確か『ラノリン』でしたね。それを用いることで、かなり簡単に作ることができました」

「そう。わざわざ聖国から輸入した甲斐があったわね」

「ラノリン自体に艶がありますので、殆ど手を加えなくとも化粧品として良い物に仕上がったかと思います。ただ、地下に収監している王国兵達に試用させてみました所、肌が赤くなり痒みが生じた者が1名おりました。商品として販売される場合には、一応留意された方が良いかもしれません」

「なるほど、気をつけることにするわ」


 ラノリンはアレルゲンとしてよく知られたものなので、人によっては肌に塗布することで、アレルギー症状を引き起こす場合がある。

 販売する相手には、予めパッチテストを行う方が賢明だろう。


「量産は問題無く可能かしら?」

「はい。生産レシピの難易度は、化粧水が『61』と『71』、乳液が『13』、リップクリームが『20』となります。いずれも生産の難易度を低く抑えることができましたので、〈大量生産〉に不都合はありません」


 生産職はどの系統でも〈大量生産〉というスキルを修得することができ、一度に大量のアイテムを生産することが可能となっている。

 但し〈大量生産〉が可能なのは難易度が低い生産レシピに限られており、自分のレベルよりも難易度が低いレシピなら一度に『50個』まで、自分のレベルの半分以下なら一度に『1000個』までのアイテムを生産できる。


 ルピアは【従者召喚】のスキルを使うと、自身と同じ〈錬星術師〉の職業(クラス)を持つレベル150の従者を5人召喚することができる。

 今回は最も難易度が高いレシピでも難易度が『71』に留まっているので、従者の子でも一度に『1000個』ずつ〈大量生産〉をさせることが可能なわけだ。

 これならば問題無く市場需要を満たせる量産ができるだろう。


「すぐに販売を開始なさるのでしょうか?」

「……実は、ちょっと悩んでいるのよね……」


 世の女性は美の追究に余念がない。それは世界が変わっても同じことだろう。

 やったことがある人には判るだろうが、保水を行っているかどうかで肌の状態というのは大きく様変わりする。『化粧水』と『乳液』の2つを毎日使うだけでも、効能を顕著に感じることができるのは間違いない。


 なのでこれらの化粧品を売りに出せば、口コミだけでも瞬く間に情報が広まり、すぐに飛ぶように売れるようになることだろう。

 確信があるだけに―――ユリは却って、躊躇いの気持ちを覚えてしまう。


「もうこれ以上の収入は、正直要らないのよねえ……」

「あはっ、この上なく贅沢な悩みですねえ」


 ひとりごちたユリの言葉を聞いて、ルピアが可笑しそうに笑ってみせる。


 現状でさえ、ロスティネ商会に卸している魔物素材の対価だけでも相当の収入があり、国庫にはかなりの金額が貯まってしまっているのだ。

 そこに化粧品という、莫大な『富』を生む商品まで扱い始めれば。今の倍どころでは無い大金が、国庫に転がり込んでくるのは目に見えている。

 金は市場で流通させてこそ価値があるものなので、国庫に死蔵していては害とはなっても益となることは無い。けれど、何も使い途が見当たらないのだ。


 新たな金脈を目の前にしながら、ユリは頭を悩ませるばかりだった。





 

-

お読み下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] ほらそこに、金を稼いだり、使ったりする事のプロがおるじゃろう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ