77. 3柱聖国訪問
本日投稿分は多忙のため、短い上に一発書きです。申し訳ない。
推敲も一切やってません。帰宅後にやります……。
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その日の午後、ユリは転移魔法を行使してニムン聖国の首都ファルラタを訪ねることにした。
ユリ1人での訪問ではない。今日の護衛である『白百合』副隊長のラケシスが居るのはもちろんのこと、他にリュディナとアルカナの2人も今回の聖国訪問には同行する。
前回ちゃんと『転移ポイント』を記録しておいたので、ユリが転移魔法を使用すれば、即座にファルラタの宮殿前へと辿り着いた。
「―――ユリお姉さま!」
その宮殿入口の隅に座って待っていた少女が、転移してきたユリの姿を認めるなり、即座にぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってくる。
「エシュトア。待たせてしまったみたいね、ごめんなさい」
「とんでもないです! それにしても―――ほ、ホントにリュディナ様とアルカナ様もご一緒なのですね」
「ふふ、エシュトア。神託以外の場であなたとお話しするのは初めてですね」
優しく微笑みながら、リュディナがエシュトアにそう話しかける。
エシュトアはユリの聖女である以前に、リュディナの聖女でもある。神託で話す機会こそ多いらしいけれど、顔を付き合わせるのは確かに初めての経験だろう。
「どうせなら、私の聖女にもなってみますか?」
「か、勘弁して下さい。ハルパーさんに恨まれてしまいます」
アルカナの提案を受けて、エシュトアが慌てて辞退している。
どうやら『ハルパー』という人が、現在のアルカナの聖女であるらしい。
聖者や聖女は基本的に主神1柱ごとに1人だけが任命されるものらしいので、エシュトアが指名されたならハルパーは即座にその地位を失うことになる。確かに、場合によっては恨まれることもありそうだ。
エシュトアに先導されてファルラタの宮殿内を歩き、ユリ達の一行はいつも通り『迎賓室』らしき部屋に案内される。
エシュトアがドアを二度ノックすると、中から「どうぞ」と声が返される。
「ようこそお越し下さいました」
「健勝そうね、アルトリウス」
「お陰様で体調はすこぶる良好です。砂漠の民としては情けない限りですが、どうにも私は……体質的に、寒暖差が苦手なようでして。ユリ様が張って下さった結界の有難みを痛感する毎日ですよ」
砂漠は季節を問わず、昼は猛暑だが夜は極寒になる。その環境下で暮らしていながら『寒暖差が苦手』というのは、かなり致命的な弱点だろう。
【調温結界】が役に立っているようであれば、何よりだ。
「リュディナ様とアルカナ様も、よくお越し下さいました」
「アルトリウスの国を、一度直接見てみたかったですからね」
「聖国の屋台の食べ物にも興味があって来ました!」
どうやらアルカナは食べ物が目当てらしい。
ユリが『屋台露店キット』を100台提供したことにより、現在ファルラタでは俄に『飲食』系の屋台が増え始めている。土地が変われば料理の味付けは全く別物になるので、きっとこちらでも新鮮な体験ができることだろう。
「ユリ様。屋台の提供についてももちろん感謝しておりますが、聖国の各地に展開して頂きました結界についても、本当にありがとうございました」
今月に入ってからユリは聖国内の、とりわけ砂漠の中にある都市や村落を個別に訪問し、同行させた『紅梅』の子に【遮蔽結界】と【調温結界】の2つを展開させている。
これは以前アルトリウス教皇から要望されたことだ。砂漠では空を飛ぶ魔物が出現するため、住民に怪我人が出る機会が多くあるらしい。なので【遮蔽結界】を張って都市や村落の住民の安全を確保したわけだ。
結界は1つ張るのも2つ張るのも労力的には大差無いので、その際には【調温結界】も一緒に展開している。砂漠暮らしであっても暑さや寒さを無視できるなら、居住性は大いに改善されることだろう。
「気にする必要は無いわ。約束通りの対価をちゃんと貰っているのだから」
「……あんなもので、対価になるとは思えないのですが」
「同盟国が細かいことを言わないの」
申し訳なさそうな表情を浮かべるアルトリウス教皇を、ユリは一蹴する。
結界の対価としてユリが受け取っているのは、ニムン聖国特産の茶葉だ。
教皇は『あんなもの』と腐すけれど。『神域』でリュディナが淹れてくれていたお茶が執務室でいつでも飲めるようになったことに、ユリは割と満足していた。
それに、結界を張った都市や村落の住人とは『絆』を結び、ユリが毎日行っている『放送』の視聴者に加えてもいる。
『放送』が信仰心を集めるために有効な手段であることは既に自明なので、ユリとしても決して見返りが無いわけではないのだ。
ユリが信仰心を集めれば、それだけリュディナへの恩返しになるのだから。
「ところで、今回はどうして皆様お揃いで聖国を訪問に?」
「理由のひとつは、以前エシュトアからリュディナとアルカナの2人をファルラタに招待したいという要望を貰っていたからね」
リュディナとアルカナを交えて、主神3柱で屋台を食べ歩く様子を『放送』したあと。エシュトアに渡していた『念話の腕輪』を通して、真っ先に要望されたことがそれだった。
聖国を訪問すること自体にはリュディナとアルカナも乗り気だったので、今回は折角の機会だから一緒に連れてきたのだ。
「もうひとつの理由は、私が何度も同じことを説明したくないからよ」
「説明……とは?」
「ええ。百合帝国では今月中に新しい都市を1つ建造する予定なのだけれど、そこには『迷宮地』も造る予定なの。それに関する説明を、リュディナと聖国とで2回に分けて説明したくなくてね」
全員を一箇所に集めてしまえば、説明は1回で済む。
なのでエシュトアからの要望にかこつけて、全員でこうして聖国へ訪問してきたというわけだ。
「ダンジョンですか……。高レベルの魔物が大量に生息する『魔物の巣』だという話を聞いたことがあります」
ユリの言葉を受けて、アルトリウス教皇がそう言葉を零す。
(……こちらの世界にもダンジョンは存在しているのね)
その呟きを聞いて、ユリはまずそう思った。
少なくともユリが知る限りでは、この世界ではまだ『ダンジョン』らしきものの話を聞いたことは無かったのだけれど。
存在しているのであれば―――正直、結構興味はある。
とはいえ、その辺の話を詳しく聞くのは、後に回して良いだろう。
「私が造る『迷宮地』は、多分アルトリウスの想像とは結構違うものになるでしょうけれどね。何しろ『人が絶対死なない』場所にする予定だから」
「……そんなことが可能なのですか?」
「私の部下に結界を張らせれば、問題無く可能よ」
「中には魔物を配置するのですか? どこかから捕獲を?」
「『迷宮地』の内部には私の使役獣を配置する。これでも私は大量の魔物を使役しているからね」
アルトリウス教皇の問いに答えてから、ユリは【使役獣召喚】の魔法を行使し、部屋の中に1体のゴブリンを召喚する。
その場に急に魔物が出現したことに、エシュトアもアルトリウス教皇も、かなり驚いていた様子だったけれど。ユリの支配下にある使役獣に戦闘の意志が無いことを察すると、すぐに警戒を解いてくれた。
「お姉さまは何でもお出来になるのですね……」
「何でもは出来ないわよ。私ができるのは『空間魔法』と『魔物の召喚や使役』に関することだけ。それ以外は全て、部下の力を借りなければ何も出来ないわ」
謙遜でも何でも無く、ユリは正直な気持ちからエシュトアの言葉にそう答える。
まあ、愛する子達が惜しみなく力を貸してくれるという意味では、ユリは『何でもできる』とも言えるのかもしれないけれど。
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お読み下さりありがとうございました。




