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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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71. 人攫いと孤児院

 


     [1]



 公国での夜会も終わり、本日は『秋月3日』。

 早いもので、ユリ達がこの異世界に来てから半年の月日が経ったことになる。

 まあ、早いも何も、実際にそれだけ1年が短いということなのだけれど。


 月が変わると同時に魔物が一斉に復活したため、例によって現在は百合帝国の皆による『駆逐』が活発化している。

 既に『職業(クラス)』のレベルは200に達している子でも、魔物を狩れば『天職』のレベルを上げることができるため、それが大いにやる気に結びついているようだ。

 また、百合帝国の国土が当初よりもかなり拡大していることや、同盟を結んでいるニムン聖国が魔物の討伐を歓迎していることもあり、今回からはかなり広範囲に渡って『駆逐』を行う予定になっている。

 その分、多種多様な魔物から得られた様々な食材が、屋台通りへ卸されることになるだろう。屋台の賑わいが衰える日は遠そうだ。


 月が変わったことで世界の気候も完全に『夏』から『秋』のものへと変化した。

 ―――のだけれど、ユリタニアの都市は【調温結界】で包まれているため、季節変化の影響は殆ど無かったりもする。

 一応、季節感を演出する目的で『紅梅(こうばい)』の子が結界の設定気温を気持ち下げたりしたらしいけれど。今も半袖で過ごしている人の方がずっと多いあたり、気にしている市民は少なそうだ。


「公国から(さら)ってきた、奴隷の人達の様子はどう?」

「今のところ、特に問題は生じておりません」


 いつも通り午前中を過ごしている執務室の中で、ユリがそう問いかけると。今日の『寵愛当番』であり護衛でもある『撫子(なでしこ)』のララバイが、即座に答えた。


 昨日、ユリは公国から2633名もの人達を大量に攫った。

 その内2529名は、公国の首都であるデルレーンで『奴隷』にされていた人達だ。労働力として酷使されている奴隷の人達を奪うことで、公国の経済に大打撃を与えるのが目的―――ということにしているが、言うまでも無く実行の動機はユリの自己満足によるものだ。

 奴隷制自体を悪と罵るつもりはないが、ユリの目の届く所で、自分以外の誰かが女性を虐げているのは気に入らない。

 ―――だから奪う。ユリにとってはそれだけのことだった。


 攫った手法は単純で、公国の首都デルレーンに掛けた【空間把握】の魔法はまだ維持されているので、それを利用して都市内の『奴隷』全員をマーキングし、強制召喚系の空間魔法を使って全てユリタニアへと転移させただけだ。

 なので奴隷商には追加で1bethたりとも支払ってはいない。

 むしろ奴隷全員を攫う際に、ついでに奴隷商の店舗内にあった金目の物も、全てマーキングして盗んでやった。多分あの日ユリが奴隷商に手渡した、20万bethも取り返せたことだろう。


 ちなみに残りの104名は、コンラート高司祭を始めとした、公国の大聖堂で働いていた人達だ。

 こちらは事前に合意を得た上で連れてきたので、厳密に言えば『攫った』と言うのは間違いかもしれない。

 公国の君主であるドラポンド公に、アルトリウス教皇から『破門』が言い渡されたため、彼らは最早公国の大聖堂に留まる理由を失った。

 なのでそれを良いことに、ユリが百合帝国へ勧誘したわけだ。


 百合帝国では新たに都市をひとつ建造する計画がある。

 ユリが【星堕とし(メテオ・ストライク)】の魔法で作ってしまった『湖』を利用して建造する、『リゾート都市』の計画だ。

 都市を造るとなれば当然、新しい都市には大聖堂のような宗教施設も建てることになるだろうから。今のうちに働いてくれる聖職者を確保できるのは、こちらとしても正直有難い。

 もちろん主神の1柱であるユリから直接誘われれば、コンラート高司祭を筆頭に104人全員の口から否やの言葉が出ることも無かった。


「孤児院の新造については、どうなっているのかしら?」

「昨日の夕方の時点で無事に完成しております。なので孤児院では昨晩のうちに、奴隷の中でも30歳に満たない488名の居住を開始させました」


 この世界では1年がたったの『160日』しかないせいか、一般的に『30歳』程度が成年の目安となっている。

 こちらの世界での『30歳』は、元日本人(ユリ)の感覚に直すと大体『14歳』程度になる。成年とするにはまだまだ若すぎる年齢のような気もするが、この世界ではそれが普通らしい。


 流石に成年もしていないような男女には、まだ働かせるわけにもいかない。そう考えたユリは昨日『桔梗』の子達に頼んで、ユリタニアの都市に『孤児院』として利用できる建物を取り急ぎ用意して貰っていた。

 800人ぐらいまでなら生活可能な、なかなか規模の大きな建物なのだけれど。それでも『桔梗』24人全員を稼働させれば、建てるのに1日も掛からない。

 正直、この世界で一番の異常(チート)っぷりを発揮しているのは、ユリよりも『桔梗』の子達では無いかと思う。


 孤児院の運営に関しては、当面はコンラート高司祭を始めとした、公国大聖堂に勤めていた人達に任せることで話がついている。

 リゾート都市の建造が完了するのは、まだ先の話になるだろうから。それまでの間だけでも、人柄が信頼できる聖職者に孤児院の運営と子供達を任せられると、こちらとしても安心できるのだ。


 本来であれば子供は親元に帰すのが筋だろうけれど―――。公国で奴隷商とした会話の内容を思い出すに、奴隷となった子供はそもそも、親自らの手によって奴隷商に売られているように思える。

 となれば、親元に帰しても粗雑な扱いをされるか、もしくはまた売られるだけでしか無いだろう。そう考えたユリは彼らを孤児院に入れ、国で扶養する方が適切だと判断したわけだ。


「30歳以上の人達については?」

「成年が済んでいる奴隷の2041名はユリタニアの市民として迎え、集合住宅の一室を与えました。またユリ様からの指示通り、今月から4ヶ月間は生活費を支給する手筈になっております」


 成年済の奴隷については、普通にユリタニアの市民として迎える。ユリタニアの都市をニルデアよりも一回り大きめに造っていたお陰で、数千人を移住させるのに充分なだけの建物がまだ余っていたのは幸いだった。

 もちろん今後の彼らが『奴隷』として扱われることはない。彼らが幾らの値段で奴隷商に売られていようと、それは百合帝国では関係の無い話だ。

 彼らがユリタニアの都市内で職を見つけ、普通にユリタニア市民として生活し、幸せを謳歌してくれることをユリは望んでいる。―――理不尽な不幸に遭った経験を持つ彼らには、報われる未来があっても良い筈だから。


「2000人分の仕事が、ユリタニアにあれば良いのだけれど」

「ユリタニアの景気状態は良好ですから、特に問題は無いでしょう。とりわけ男性奴隷の人達は身体も鍛えられていますので、人足として需要が幾らでもあります。女性についても、1年もあればまず仕事は見つかるかと」


 奴隷だった人達には4ヶ月間、つまり向こう1年の間は生活費が支給される。来年以降はユリタニア市民から多少の税を取るつもりでいるけれど、これについても生活費が支給されている間は免除となる。

 この4ヶ月の間に、彼ら全員がユリタニアで職を見つけてくれるのが理想だ。

 ララバイは大丈夫だと安易に太鼓判を捺すけれど。ユリからすれば2000人分もの求人など、そうそう生まれなさそうに思える。


(まあ最悪、職が見つからなければ『迷宮地(ダンジョン)』で稼いで貰えば良いかしら)


 百合帝国には『迷宮地(ダンジョン)』の建造予定もある。

 命を落とすリスク無しに魔物を狩れる場所にするつもりだし、流石に1年後までには完成もしていると思うので、もし職を見つけられない人が出て来た場合には、最後の受け皿として機能するかもしれない。

 命は落とさなくとも、痛みを負うリスクはある。なので『迷宮地』はそれなりにお金を稼ぎ易い場所にするつもりだ。

 リュディナの話では、今後この世界に『職業(クラス)』が実装される予定らしいし。レベル上げを兼ねられる『迷宮地』は、勤労先としてもそう悪くない筈だ。


 ―――そんなことをユリが思っていると。

 コンコン、と執務室のドアが2度、優しくノックされた。


「失礼致します、ユリ様」


 ドアの外に向けて「どうぞ」とユリが声を掛けると。入って来たのは『睡蓮(すいれん)』の副隊長を務めるコラールだった。


「どうしたの、コラール」

「ユリ様。先程私のほうに癒神リュディナ様から神託がありまして、できれば少しユリ様と話がしたいそうですが」

「あら……。リュディナから呼び出しとは、珍しいわね」


 ユリは大体3~4日に1度のペースで『神域』の庭園を訪れている。

 なので、呼ばれなくとも数日後にはまたリュディナと会うわけだけれど。それを承知の上で、わざわざ神託を介してユリを呼ぶと言うことは、その数日を待たずに何かユリに言いたいことがあるのだろう。


「判ったわ。コラール、伝えてくれてありがとう」

「いえ、お役に立てましたなら何よりです」


 ユリの言葉に応えて、コラールが部屋から退室する。

 執務机の椅子に腰掛けながら、ふむ、とユリは思案を巡らせた。


(……何か、私が公国でしたことが気に入らなかったのかしら)


 奴隷を大量に攫った件か、それとも公国に『大雪』を降らせた件か。

 叱られる可能性が高いとすれば、やはり後者の方だろうか。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] そらまあ公国にも八神の信者は一杯いたでしょうしね。神さんとしては、そりゃね。君主は教会から破門、街は大雪に包まれて労働力たる奴隷は突然消えうせて・・・ あれ?神様大繁盛じゃね?
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