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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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66. 公国観光

 


     [3]



 ユリ達は聖都ファルラタの宮殿の一室から『転移魔法』を利用して、一気にシュレジア公国の都市内へと転移(ワープ)する。

 メンバーは百合帝国側がユリとマカロン、プリムラの3人。ニムン聖国側がアルトリウス教皇と、その護衛の聖騎士4人になる。

 残念ながら聖女であるエシュトアは、今回の公国訪問には同行しないようだ。


 利用する『転移ポイント』は覇竜ラドラグルフが登録したものなので、どういう場所に出るかは事前に判らなかったのだけれど。実際に転移してみると、いかにも都市の『大通り』らしい場所に出た。

 急に姿を現したユリ達の一行を見て、周囲の人達の何人かが、露骨に驚いた視線を向けてくるが。無論、その視線にわざわざ応えてあげる理由も無い。


「―――随分と賑わっているわね」


 シュレジア公国の首都、公都デルレーンの街並みを見回して、ユリはそう率直な感想を漏らした。

 大通りに溢れる人の数がとにかく多く、そして辺り一帯が何とも騒がしい。

 公都デルレーンには、それほど多くの人が住んでいるのだろうか。


「今日から4日間は建国祭ですから。この時期には周辺の都市や村落から、首都であるこの都市に人が集まって来るのです」

「ああ、そうなのね」


 アルトリウス教皇の言葉を受けて、ユリは得心する。

 祭りということであれば、この喧騒も理解できる気がした。言われてみれば確かに、行き交う人達にも少しだけ派手な衣装などで着飾っている人が多いようだ。

 大通りをよくよく見回してみると、肉串や装飾品などを販売する露店なども散見された。なるほど、この辺りもいかにも『祭り』らしい雰囲気かもしれない。


「公都デルレーンはやや縦に長い楕円形の都市でして、都市の北端に本日の夜会が行われる宮殿があります。あの少し離れた場所に見える、大きな建物ですね」

「あれが公国の宮殿……。なかなか立派な建物ね」


 公都の宮殿は少し小高い場所に建てられているらしく、都市のどこからでも建物の姿がよく見えるようだ。宮殿が見える方向が『北』だと判るので、都市内で迷うことも無いだろう。

 少し遠い場所から眺める宮殿の威容は、『桔梗』の皆が建ててくれたユリタニアの宮殿に較べれば遙かに見劣りするものではありながらも、それなりには豪奢な建物のように見えた。

 どうやら公国は、なかなか豊かな国家であるらしい。


「あの南側に見える建物は何かしら?」


 宮殿とは真逆の方向、つまり都市の南側にある建物を指差しながら、ユリはそう問いかける。

 宮殿より規模は小さいけれど、高さがあるので遠くからでもよく見える建物だ。尖塔が幾つも並んでいるように見える建物の外観が、昔テレビで見たことのある、欧州のとある世界遺産を彷彿とさせた。


「あちらが公都の大聖堂ですね。宮殿が都市の北端にあるのに対し、大聖堂は都市の南端にあります。

 さて―――申し訳ありませんが、私達は大聖堂に所用がありますので、ここからは別行動をさせて頂いても宜しいでしょうか」

「ええ、そういう話だったわね。では夕方頃に大聖堂へ、あなたを迎えに行くわ。それから私の転移魔法で、一緒に宮殿まで移動しましょう?」

「それは、こちらとしては有難いですが……」

「これだけ大通りに人が溢れていると、都市の南端から北端まで移動するのも大変でしょう。転移魔法なら関係無く一瞬で移動できるからね」


 もちろんアルトリウス教皇の立場なら、大聖堂に馬車ぐらいは用意して貰えるのだろうけれど。この人混みの中を通行するとなれば、馬車もあまり速度は出せない筈だ。

 それならばユリが大聖堂まで迎えに行く方が、移動の面倒が無くて良い。


「ありがとうございます、ユリ様に感謝を申し上げます」

「礼は聖国まで無事に送り届けた後、最後に1回言ってくれればいいわ」


 あまり何度も礼を言われるのは好きではない。

 感謝というものは、最後に一度示してくれればそれで充分だった。


 大通りを南側に向かって歩いて行く、ニムン聖国一行の姿を見送る。

 すぐに群衆の中に紛れて、教皇達の背中は見えなくなった。


「姫、これから如何なさいますか?」

「そうね……とりあえず宮殿前を『転移ポイント』として登録しておきたいから、まずは北側に行きましょう。適当に大通りの店を冷やかしながら、のんびり3人で歩きましょうか」

「異国デートですね、お姉さま!」

「ええ、そうね。欲しい物があれば言いなさい。私が何でも買ってあげるわよ?」

「わーい! お姉さま、大好きです!」

「知っているわ」


 右手をマカロンの左手と、左手をプリムラの右手と指を絡めて繋ぎながら、ユリ達一行は公都デルレーンの活気ある街並みを観光する。

 最初に3人が入ったのは、大通りにかなり大きな店を構える服飾店だ。

 この店だけでかなりの時間が潰せてしまうのでは―――とユリは期待していたのだけれど。期待とは裏腹に、3人は10分と滞在せずに店を後にした。


「お金を出して買うものじゃ無かったですね……」

「大通りの店にしては、随分と縫製のレベルが低いようで」


 店を出て数秒で、マカロンとプリムラの2人がそれぞれに愚痴を零す。

 既製服(レディメイド)が沢山並んでいるのは良かったが、全体的にユリタニアに店を構えている服飾店に較ると、一見しただけで粗悪な製品が目立つようだった。

 目抜き通りにある大店(おおだな)でこれでは、公都自体のレベルが知れたものだ。


「こうして他国の店を見てみると、ルベッタの店の実力が判るわね……」


 誰にともなく、ユリも溜息と一緒にそう言葉を漏らした。


 ユリが比較対象としたユリタニアの服飾店とは、つまりルベッタが会頭を務める『ロスティネ商会』が経営している店だ。

 何度か訪問したことがあるけれど、ユリタニアの服飾店に並んでいる既製服は、高価ではありながらも、どれも良い質の製品ばかりだったのを覚えている。

 あれに較べると、こちらの店の商品は見るに堪えない。

 もっとも、その割に商品の販売価格だけは、ルベッタの店と大差無いようだが。


 その後も飲食店と宝飾店に入ってみたけれど。どちらの店もユリ達にとっては、さして心を惹かれるものでも無かった。

 飲食店で出された肉料理は、ユリタニア市街の屋台で提供されるどの料理よりも遙かに劣る味をしていた。その割に値段は屋台のそれより倍以上もする。

 宝飾店は扱われている貴石自体は悪いものでは無かったけれど。こちらも値段が高いだけで製品に施されている技術自体は低く、金を出して購うようなものでは無いように見えた。


「公国は全体的に技術レベルが低いようですね」

「この国では職人組合(ギルド)があまり機能していないのかしら」


 所属する職人の腕を育てるのは『職人組合(ギルド)』の役割だが、特定の市場に対して強い影響力を有する職人組合は、腐敗しやすい組織でもある。

 一度でも組織が金儲けに腐心を始めれば、それを立て直すのは容易では無い。


 それからも数件の店に入ったが、どの店にも魅力的な商品は無かった。

 どの店にも長居しないものだから、都市の北端、つまり公都デルレーンの宮殿前にも予想以上に早く到着してしまう。


 宮殿の目の前をユリは『転移ポイント』のひとつに記録する。

 これでいつでも、この場所まで一瞬で転移(ワープ)することが可能になった。

 今度は都市の南側にある大聖堂へ向けて、再び大通りを折り返し歩く。


 道中で酒屋と鉱石店に入ったが、この2つは比較的当たりだった。

 やはり異国となると、自国では全く見かけない酒も豊富に置かれている。

 幾つかは試飲もさせて貰ったけれど、芋の風味が強く残っているアクアビットに似た酒などは、かなりユリの好みに合致する味をしていた。

 とりあえず10種類ほどの酒を2樽ずつ購入し、3人の〈インベントリ〉の中に分割して格納する。たぶん大容量収納スキルの〈侍女の鞄〉を持つ『撫子(なでしこ)』の子を連れてきていたなら、もっと大量に購入していたことだろう。


 また、鉱石店では辰砂(しんしゃ)をかなり安く買うことができた。

 中級レベルの薬や霊薬の材料としてよく必要になる素材なので、備蓄量を増やしておけば『竜胆(りんどう)』の子達が喜ぶだろう。


 それからも通りにある店を物色していると。ユリ達は唐突に、大通りに営業されるものとしては『異色』としか思えない店と遭遇した。


「お姉さま……」

「一等地に『奴隷店』を構えるとか、馬鹿なんじゃないのかしら」


 大きな店の入口には『セラゴー奴隷店』と書かれた看板が掲げられている。

 ……普通は『奴隷』って、もっとこっそり商うものでは無いのだろうか。少なくとも、わざわざ人通りの多い場所で営業する必要性が理解できないのだが。


「まあ、折角だから見ていこうかしら」

「……えっ。姫、この店に入られるのですか?」

「営業中なのよね? ならお金はあるから、見てみるのも良いでしょう」


 ユリが着ている『罪業のドレス』も、マカロンが身に付けている『小姫のバトルドレス』も、プリムラが装備中の『湖の魔女のローブ』も。どれも貴人の服として充分なだけの風格を持っている。

 なのでユリ達がセラゴー奴隷店の中へ入ると。上客だと判断したのか、すぐに店の支配人らしき人が出て来て、応対してくれた。


「本日はどのような奴隷をお捜しでしょうか?」

「出物があれば欲しいだけだから、高いほうから適当に見せて頂けるかしら」

「承知致しました」


 店の奥にある一室に案内されたユリ達は、そこで支配人が連れてきた10人程の奴隷を紹介される。

 全てが上半身裸の、男性の奴隷だった。いずれも鍛えられた肉体を持つ男性で、〈鑑定〉で()える情報によると、レベルは25~35程度のようだ。

 値段は20万~40万Beth(ベス)。ユリの〈インベントリ〉には全員を纏めて買えるだけの額が入っているけれど、正直全く興味は湧かなかった。


「女性のほうも見せて頂けるかしら」

「はい、少々お待ち下さい」


 男性の奴隷を退室させたあと、支配人が今度は女性の奴隷ばかりを10人連れてきてくれた。

 こちらは男性側の奴隷と違って全く鍛えられておらず、レベルは1~13程度。但しその分、どれも容姿には優れている女性ばかりだった。

 値段は8万~22万Beth。とりあえず先程の奴隷達に較べると安いようだ。


「女性の奴隷は、男性に較べると随分安いのね」

「はい。奴隷の多くは税金を工面するために、どこかの家庭や集落から売られた者達なのですが。男性は稼ぎ手として潰しが効きますから、奴隷として売られる機会自体がそれほど多くありませんので」

「なるほどね、勉強になるわ」


 肉体労働に従事させやすいという意味では、確かに男性のほうが稼ぎ手としては優秀だろう。供給が少ない男性の価格が高くなり、供給が多い分だけ女性の価格が安くなるというのは、理解できなくもない。


「ごめんなさいね、特に購入したい奴隷は無かったわ」

「……そうですか、残念ですが致し方ありません」


 心底残念そうに、支配人がそう告げる。

 落胆の色を隠しもしない支配人の方へ、ユリは〈インベントリ〉から取り出したひとつの革製の袋を差し出した。


「………!? お、お客様、こちらは?」


 受け取った支配人が、袋のあまりの重さに驚いてそう問いかける。

 ユリはただ、にこりと微笑むことで、その支配人の問いに応えた。

 革製の袋の中には大体20万Bethが入っている。金貨が詰まっているのだから、袋が見た目よりずっと重いのは当然のことだった。


「その袋は手間賃として貴方に差し上げるわ。最後に、この店で一番安い奴隷も見せて頂けるかしら。私、人間がどこまで安く売られる(・・・・・・・・・・)のか興味があるのよ」


 ちょっとサイコパス気味の口調を意識しながら、ユリはそう告げる。

 もちろん金を渡された以上、支配人に否やは無かった。


「お見苦しく、また匂いも悪くて大変恐縮ですが―――この10名が、当店の商品の中でもっとも安い奴隷となります」


 女性奴隷を退室させた後で支配人が連れてきたのは、今度も女性ばかりの10人の奴隷達だった。

 匂いが悪い、という支配人の言葉は謙遜でも何でも無い。10人の少女達が部屋に入って来た時点で、ユリ達の鼻には少し耐え難い悪臭が感じられた。


「………」


 表情にこそ出さないものの。目の前に連れて来られた10人の少女たちを見て、内心でユリは―――かなりの怒りを覚えていた。

 目の前に引き出された子達はどれも稚い少女ばかりで。清潔な服は与えられず、どの子達も襤褸(ぼろ)を身に纏っている。

 どの子も体つきは酷く痩せ細っており、満足な量の食事が与えられていないことは明白だった。肌が随分と黒ずみ、また悪臭も酷い辺りから察するに、身体を拭く程度の最低限の身嗜みさえ滅多に許されてはいないのだろう。


「価格はお客様から見まして、左側に居る者が最も高い6000Beth、右側に居る者が最も安い2500Bethになります」

「……随分と安いのね」

「不良在庫ですので」


 ユリタニアでは、屋台通りの清掃を担当している人達を『2500beth』の日給で雇っている。一番安い奴隷は、その人達の日給でも買えてしまうような額だ。

 彼女達を『不良在庫』と告げた、支配人の言葉は正直なものなのだろう。どの子も明らかに人間として扱われてはいない。

 だから襤褸(ぼろ)しか与えられず、こんなにも非道な扱いをされている。


 ―――同性愛者(ビアン)のユリからすれば、何とも耐え難く、怒りを覚える光景だった。

 ユリが最も愛しているのは、言うまでも無く『百合帝国』の皆だけれど。それ以前の問題として、ユリは自分と同じ女性でありさえすれば老若や容貌、性格を問わず、割と誰のことでも好きになる性分なのだ。

 まして幼い少女達をこんな風に扱う支配人には、もはや敵意しか湧かない。


「お客様さえ宜しければ、10人全てそのままお持ち帰り下さい」


 恭しく頭を下げながら、店主がそう告げる。

 そりゃ既に20万Bethも受け取っていれば、そういう対応にもなるだろう。


「ふむ……。ではもう3日、ここで預かっておいて貰えるかしら。建国祭の最終日に受け取りに来るから、それまでに彼女達を少しは身綺麗にしておいて頂戴」

「畏まりました」


 激しい怒りを心の内側に押さえ込みながら、10人の少女達を後日引き取る約束をして、ユリ達は退店する。

 支配人は嬉しそうに、店の前まで出てユリ達を見送ってくれた。

 処分に困っていた不良在庫が、纏めて20万Bethで売れたようなものだ。支配人からすれば、ユリは相当な上客に見えたのだろう。


「姫、どうなさるおつもりなのですか?」

「後日になるけれど、この都市の『奴隷』を全て攫う(・・)ことにするわ。『桔梗』からリゾート都市の建設案も出ているし、人的資源は幾らあっても良いでしょう」


 【空間把握】の魔法を行使して都市内の『奴隷』を全てマーキングし、強制召喚系の魔法で全員を誘拐する。〈絆鎖術師(エーテリンカー)〉であるユリになら可能なことだ。

 金を払ってやるつもりはない。むしろ今日渡した分も含めて、奴隷店にある金も全て根こそぎ奪ってしまうのが良いだろう。


 人でも金でも、全てを奪うことにユリは抵抗を覚えたりしない。

 だって―――ここは敵国(・・)。ユリに喧嘩を売ったシュレジア公国なのだから。

 この国の人や店に対し、ユリが良心的に振る舞う必要など何ひとつ無いのだ。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] また国の女性が増えるぅwww
[一言] ユリさん着火。
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